心裡留保とは?
具体例・有効性・効果などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

心裡留保」とは、民法において意思表示する者(表意者)が、自己の真意と表示行為の食い違いを自覚した上で行う意思表示であり、冗談などが該当します。

また単独虚偽表示と呼ばれることもあり、錯誤・虚偽表示と同じように、意思の不存在や意思の欠缺(けんけつ)の一種です。
例えば、買うつもりがない物について「これを買います」と言うことは心裡留保に当たります。

心裡留保に当たる意思表示は原則として有効ですが、相手方が心裡留保であることを知り、または知ることができたときは無効となります。ただし、心裡留保による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗できません。

心裡留保は、意思表示に瑕疵があった場合の取り扱いに関するルールです。心裡留保のほかにも、意思表示の瑕疵について、民法では虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫が定められています。

この記事では心裡留保について、該当する意思表示の具体例・法的有効性・関連する論点や、意思表示に関するその他のルールなどを解説します。

ヒー

冗談で言ったことを、相手が冗談だと思っていなかったら有効になってしまうということでしょうか。

ムートン

原則はそうですね。ただ、例外的に無効となる場合もあります。どんな場合に有効になり、無効になるのか。この記事で勉強しましょう。

※この記事は、2023年6月4日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

心裡留保とは

心裡留保」とは、真意とは異なる内容の意思表示であって、本人がそれを自覚しているものをいいます。例えば、買うつもりがない物について「これを買います」と言うことは心裡留保に当たります。

心裡留保と虚偽表示の違い

心裡留保と同じく真意ではない意思表示として、民法では「虚偽表示」が定められています(民法94条)。

虚偽表示とは、相手方と通謀してした真意ではない意思表示です。単独による意思表示である心裡留保に対して、虚偽表示は2人の者が意思を通じて行う点が異なります。

後述するように、心裡留保に当たる意思表示は当事者間において原則有効ですが、虚偽表示による意思表示は、当事者間において常に無効となります(民法94条1項)。虚偽表示の場合、当事者はいずれも真意でないため、意思表示を有効とする必要がないからです。

ただし心裡留保と同様に、虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません(同条2項)。

心裡留保と錯誤の違い

心裡留保と同じく、真意とは異なる内容の意思表示であるのが「錯誤」です

ただし、心裡留保は真意と表示の違いを本人が自覚しているのに対して、錯誤はその違いに本人が気づいていないものを指します。簡単に言えば、意図的に冗談を言うのが心裡留保、勘違いしているのが錯誤です

後述するように、心裡留保に当たる意思表示は原則として有効である一方で、錯誤に当たる意思表示は取り消すことができます。

心裡留保に当たる意思表示の契約は有効か?

心裡留保に当たる意思表示は、原則として有効です。ただし、相手方が心裡留保であることを知ることができたときは、例外的に無効となります。

心裡留保の当事者間の関係

心裡留保に当たる意思表示は、原則として有効とされています(民法93条1項本文)。

例えば、土地Xの所有者Aが、本当は売るつもりがないのに、Bに対して「土地Xを1000万円で売ってあげるよ」と言ったとします。これは心裡留保に当たる売買契約の申込みです。

これに対して、BがAに「土地Xを買います」と伝えたとします。これは売買契約の申込みに対する承諾に当たります。

したがって、申込みと承諾が合致したので、この時点で売買契約は成立します。
真意では売るつもりがなかったにもかかわらず、AはBに対して、土地Xの所有権を移転しなければなりません。

心裡留保に当たる意思表示が原則有効とされているのは、相手方の信頼を保護するためです

意思表示が心裡留保であるかどうかについては、それを受けた相手方は把握できない場合があります。冗談で言っていることが明らかであればよいですが、本気なのかそうでないのか分からないケースや、本気のようなトーンで伝えられるケースもあり得るからです。

ムートン

契約を締結するか否かを検討する際に、相手方の意思表示が心裡留保かどうかを確認する必要があるとすれば、それは取引における無駄なコストとなります。 このような確認コストの発生を避け、取引上の信頼を保護して円滑な取引を促進するため、心裡留保に当たる意思表示は原則有効とされています。

ただし例外的に、相手方が表意者の真意ではないこと(=心裡留保であること)を知り、または知ることができたときは、その意思表示が無効となります(民法93条1項但し書き)。

例えば、AがBに対して「土地Xを売る」という心裡留保の申込みをしたケースにおいて、Bが心裡留保であることを知っていたとします。この場合、心裡留保に当たる売買契約の申込みは無効なので、Bが承諾しても売買契約は成立しません。

前述のとおり、心裡留保に当たる意思表示が原則有効とされているのは、相手方の信頼を保護するためです。
心裡留保であることを相手方が知り、または知ることができたケース(=相手方が悪意・有過失のケース)では、相手方の信頼を保護する必要がありません。この場合は表意者の真意を重視して、心裡留保に当たる意思表示は無効とされています。

ヒー

相手方が「悪意」であった時とは、どのような状況でしょうか。

ムートン

法律用語としての「悪意」は、「事情を知っていること」という意味です。逆に、「善意」は、「事情を知らないこと」です。日常的に使う「善意」「悪意」とは意味が違うので注意しましょう。

心裡留保と第三者の関係

相手方が悪意または有過失であることにより、心裡留保に当たる意思表示が無効になった場合でも、その無効は善意の第三者に対抗できません(民法93条2項)。

例えば、AがBに対して「土地Xを売る」と言い、Bが承諾したケースを考えます。

BがAに対して土地Xの所有権移転を求めた際、AはBに心裡留保を知ることができた過失があると主張し、訴訟でAの主張が認められたとします。この場合、AB間ではAの心裡留保に当たる申込みが無効となるため、売買契約は成立しません。

しかし、仮にBが第三者であるCとの間で、BがCに土地Xを売却する売買契約を締結したとします。
この場合、Aの意思表示が心裡留保であることをCが知らなかった(=善意)とすれば、AはAB間の売買契約の無効をCに対抗できません。したがって、Aは土地Xの所有権を失い、Cが土地Xの所有権を取得する結果となります

善意の第三者に対して心裡留保の無効を対抗できないとされているのは、第三者の取引上の信頼を保護するためです。
心裡留保を含めた意思表示の瑕疵に関する民法のルールは、真の権利者と取引上の信頼のどちらを保護するかにつき、当事者の主観的態様を踏まえたバランスを考慮した上で定められています。

心裡留保の具体例

心裡留保に該当する意思表示の具体例を紹介します。

(例)
「このネックレスをあげるよ」(本当はあげるつもりがない)
「この土地を1000万円で売ってあげるよ」(本当は売るつもりがない)
「500万円貸してあげるよ」(本当は貸すつもりがない)
など

心裡留保の立証責任

心裡留保は原則として有効で、相手方が心裡留保につき悪意または有過失であった場合に限り無効となります。

相手方の悪意または有過失については、心裡留保による意思表示の無効を主張する者(=表意者)に立証責任があります。
例えば、AがBに対して「土地Xを売る」と心裡留保に当たる売買契約の申込みをした場合、Aがその申込みの無効を主張するためには、Bの悪意または有過失を立証しなければなりません。

代理権の濫用に関する心裡留保の類推適用|最高裁判例を紹介

心裡留保については、代理権の濫用について心裡留保の規定を類推適用した有名な最高裁判例があります。

同最高裁判例の事案は、製菓原料店X社の従業員Aが、自分や身内の利益を図る目的をもってその権限を悪用し、X社の名義でY社と取引をしたというものです。形式的にはAの代理権の範囲内の行為であるものの、その目的が不当であり、典型的な代理権の濫用に当たります。

最高裁は、代理人が自己または第三者の利益を図るため権限内の行為をしたとき(=代理権の濫用に当たるとき)は、相手方が代理人の意図を知り、または知り得た場合に限り、民法93条但し書きの規定を類推して本人への効果帰属を認めないとした原判決の判示を支持しました。

本事案に即して言えば、従業員AがX社の意思とは異なる表示をし、そのことについてX社の構成員であるAが自覚的である点が心裡留保に類似しているため、最高裁は心裡留保の規定を類推適用すべきと判断したものと考えられます。
ただし学説上、上記判示は結論として支持されていたものの、その理由については異論が数多く提示されていました(一例として、同最高裁判決大隅裁判官の意見)。

ヒー

類推適用とは何でしょうか。

ムートン

ざっくり言うと、直接適用できる規定がない場合に、事情や利害関係が似ている状況の 規定を適用することです。規定の適用範囲を少し広げて解決を図る法技術の一つですね。

そこで、2020年4月1日に施行された改正民法において、代理権の濫用に関する取り扱いが明文化され、立法的に解決されるに至りました(民法107条)。

現行民法では、上記最高裁判例の結論を維持しつつ、代理権の濫用は無権代理と位置づけられました。代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合、相手方がその目的を知り、または知ることができたときは、当該行為は無権代理に当たるため、その効果は本人に帰属しません。

意思表示の瑕疵に関する心裡留保以外のルール

心裡留保以外に、民法では意思表示の瑕疵について以下の規定が設けられています。

  • 虚偽表示
  • 錯誤
  • 詐欺
  • 強迫

心裡留保と同様に、上記の各規定においては、表意者・相手方・第三者の間でどのように利益調整を図るかがポイントです。各規定の概要を解説します。

虚偽表示

虚偽表示」とは、相手方と通謀してした真意ではない意思表示です

例えば、Xが所有する不動産の差押えを免れるために、Yと通謀して不動産の登記名義を一時的にYへ移転するようなケースが典型的な虚偽表示に当たります。

表意者と相手方との関係においては、虚偽表示に当たる意思表示は無効とされています(民法94条1項)。いずれの当事者にとっても真意ではなく、法律行為を有効とする必要性がないためです。

その一方で、虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗できません(同条2項)。虚偽表示の外観を信頼して取引をした第三者を保護する必要があるからです。

例えば、XとYが通謀して、X所有不動産の登記名義をYに移転したケースにおいて、YがZに不動産を売却したとします。
この場合、Zが売買契約の締結当時、XY間の虚偽表示を知らなかった(=善意)ときは、XはZに対して虚偽表示による無効を対抗できません。したがって、Zが確定的に不動産の所有権を取得する反面、Xは不動産の所有権を失います。

錯誤

錯誤」とは、表意者の真意とは異なる意思表示であって、表意者がその齟齬を自覚していないものをいいます

A不動産を買うつもりで、「B不動産を買います」と言い間違えてしまった場合などが錯誤の典型例です。

また、法律行為の基礎となる事情についての認識(動機)が真実に反する場合も錯誤に当たります。例えば、都心にある不動産だと思って「A不動産を買います」と言ったものの、実際にはA不動産は田舎にあったという場合は動機の錯誤です。

錯誤に当たる意思表示は、錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであるときに限り、取消しができます(民法95条1項)。また、動機の錯誤については上記に加えて、その動機が相手方に表示されていたことが錯誤取消しの要件となります(同条2項)。

ただし、意思表示の相手方を保護する観点から、錯誤が表意者の重大な過失による場合は、以下の場合を除いて錯誤取消しが認められません(同条3項)。

①相手方が表意者の錯誤を知り、または重大な過失によって知らなかったとき
②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき

さらに、意思表示の錯誤取消しは、善意かつ過失がない第三者に対抗できません(同条4項)。
例えば、XがYに対して土地Lを売却し、YがZに対して土地Lを売却した後、XY間の売買契約がXの錯誤により取り消されたとします。この場合、ZがXの錯誤について善意無過失であれば、XはZに錯誤取消しを対抗できず、Zが土地Lの所有権を取得します。

詐欺

詐欺」とは、人を騙して錯誤に陥らせる行為です。例えば、YがXに対して、絵画を偽物と知りながら本物と偽って購入を勧誘する行為は詐欺に当たります。

詐欺による意思表示は、取消しができます(民法96条1項)。ただし、詐欺をしたのが第三者である場合には、相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができたときに限って意思表示の取消しが認められます(同条2項)。

また、詐欺による意思表示の取消しは、善意かつ過失がない第三者に対抗できません(同条3項)。

強迫

強迫」とは、人を畏怖させて意思表示をさせる行為です。例えば、YがXに対して、「買わなければ家族に危害を加える」などと脅して高価な壺を買わせる行為が強迫に当たります。

強迫による意思表示は、取消しができます(民法96条1項)
詐欺とは異なり、強迫による取消しについては、相手方や第三者の保護規定が設けられていません。強迫を受けた表意者を保護する必要性は、詐欺のケースよりも大きいと考えられるためです。

ムートン

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意思表示の瑕疵についてのまとめ

民法において定められた意思表示の瑕疵に関するルール(心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫)について、当事者間および第三者との関係での取扱いの違いをまとめました。

当事者間第三者との関係
心裡留保原則として有効
※相手方が表意者の真意ではないことを知り、または知ることができたときは無効
善意の第三者には無効を対抗できない
虚偽表示無効善意の第三者には無効を対抗できない
錯誤原則として取り消すことができる
※動機の錯誤については、相手方に動機が表示されていたことが必要
※錯誤が表意者の重大な過失による場合は、一部の例外を除いて取り消すことができない
善意無過失の第三者には取消しを対抗できない
詐欺原則として取り消すことができる
※詐欺をしたのが第三者である場合には、相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができたときに限って取り消すことができる
善意無過失の第三者には取消しを対抗できない
強迫取り消すことができる取消しを対抗できる(第三者の主観を問わない)

この記事のまとめ

「心裡留保」とは、本人が自覚的に行う真意ではない意思表示で、冗談などが該当します。

心裡留保に当たる意思表示は原則として有効ですが、相手方が心裡留保であることを知り、または知ることができたときは無効です。また、心裡留保による無効は善意の第三者に対抗できません。

民法では心裡留保以外にも、意思表示が無効となる虚偽表示や、意思表示を取り消すことができる錯誤・詐欺・強迫が定められています。それぞれの要件を正しく理解しておきましょう。

契約の締結について、意思表示の無効や取消しに関するトラブルを防ぐためには、契約書をきちんと作成することが大切です。予定している取引の内容を反映しつつ、自社にとって不当に不利益な条項が含まれていないかどうか確認し、適切な内容の契約書を作成・締結しましょう。