所有権とは?
内容・取得方法・侵害時にできる請求など
民法上のルールを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「所有権」とは、対象物(動産・土地・建物など)を全面的に支配する権利です。
所有者は、その所有物を自由に使用・収益・処分できます。
所有権は、売買・贈与・交換・相続などのほか、取得時効の完成によって取得する場合があります。また、所有者がいないまたは分からない物については、先占(=所有の意思をもって一番に占有すること)などによって所有権を取得できます。所有権を侵害された場合は、侵害者に対して、所有権に基づく返還請求・妨害排除請求・妨害予防請求ができます。また、所有物が滅失や売却等によって失われてしまった場合は、不法行為に基づく損害賠償請求や、不当利得返還請求が可能です。
複数の人が物を所有する「共有」の場合は、共有物の変更・管理等について所有者間における意思決定手続きが必要です。
「建物区分所有」(分譲マンションなど)については、区分所有法にルールが定められています。この記事では所有権について、内容・取得方法・侵害時にできる請求などを解説します。
※この記事は、2023年8月31日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
所有権とは
「所有権」とは、対象物を全面的に支配する権利です。動産・土地・建物など、あらゆる物は所有権の対象となります。
所有権の内容
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物を使用・収益・処分できます(民法206条)。
例えば建物の所有者は、
- その建物に自分が住む(=使用)
- 他の人に貸して賃料を受け取る(=収益)
- 売却する(=処分)
など、さまざまな方法で建物を活用できます。これが所有権の効果です。
土地の上空・地下に対する所有権
土地の所有権については、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶとされています(民法207条)。つまり土地の所有者は、土地そのものだけでなく、その土地の上空や地下についても併せて使用・収益・処分ができます。
ただし土地の上空や地下の所有権は、無限に及ぶわけではなく、社会通念上相当な範囲内に限られます。
所有権は時効消滅しない
人に対する権利である「債権」は、一定の期間が経過すると時効により消滅します。例えば貸したお金を返してもらえる権利(=貸金返還請求権)は、5年間行使しなければ時効消滅してしまいます。
これに対して所有権には、消滅時効が存在しません(民法166条2項参照)。したがって、所有者がその所有物をどのように活用していても(あるいは活用していなくても)、時効完成によって所有権が消滅することはありません。
ただし、所有者以外の者が「取得時効」の要件を満たした場合には、従来の所有者は所有権を失ってしまうことがあります(後述)。
相隣関係によって所有権が制限される場合がある
土地の所有者は、その土地を自由に使用・収益・処分できるのが原則です。ただし、土地は他人の土地と隣接しているのが通常であるため、隣地所有者間で権利を調整する必要があります。
そこで、民法では「相隣関係」に関するルールを定め、土地の所有権に対して一定の制約を課しています(民法209条以下)。具体的には、以下のルールが定められています。
- 相隣関係に関するルール
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・一定の目的のための隣地の使用(民法209条)
・公道に至るための他の土地の通行権(囲繞地通行権)(民法210条~213条)
・他の土地へのライフライン設備の設置・使用権(民法213条の2・213条の3)
・水流に関する規制(民法214条~222条)
・境界標の設置、保存(民法223条・224条・229条)
・囲障(塀・柵など)の設置、保存(民法225条~229条)
・障壁(民法229条~232条)
・竹木の枝の切除、根の切り取り(民法233条)
・境界線付近の建築等に関する規制(民法234条~238条)
所有権の取得方法
所有権が取得される方法のパターンを解説します。
すでに所有者がいる物|売買・贈与・交換・相続など
すでに所有者がいる物については、原則として所有者から譲り受けることによって所有権を取得します(承継取得)。
所有者から所有権を譲り受ける方法としては、以下の例が挙げられます。
① 売買
所有者に対して代金を支払うのと引き換えに、所有権を譲り受けます。
② 贈与
所有者から無償で所有権を譲り受けます。
③ 交換
所有者に対して、自分が所有している別の物を譲り渡すのと引き換えに、所有権を譲り受けます。
④ 相続
所有者が亡くなった際に、相続人が所有権を譲り受けます。
時効完成による原始取得について
すでに所有者がいる物について、例外的に所有者から譲り受けることなく、所有権を取得できるのが「取得時効」が完成した場合です。
取得時効は、物を10年間または20年間占有し続けることによって完成します。取得時効が完成すると、占有者がその物の所有権を原始取得します。
「原始取得」とは、新たに成立した権利を取得することです。つまり、取得時効の完成によって取得される所有権は、前所有者から譲り受けたものではなく、新たに発生したものと位置づけられています。
取得時効の要件などの詳細については、以下の記事を併せてご参照ください。
所有者がいない物・分からない物|原始取得
所有者がいない物、または所有者が誰だか分からない物については、以下のいずれかの方法によって所有権を原始取得できます。
① 無主物先占(民法239条)
所有者のない動産は、一番先に所有の意思をもって占有した者が、その所有権を取得します。ただし、不動産については無主物先占による所有権の取得が認められず、所有者のない不動産は国庫に帰属します。
② 遺失物の拾得(民法240条)
遺失物(落とし物)は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後、3カ月以内にその所有者が判明しないときは、拾得者がその所有権を取得します。
③ 埋蔵物の発見(民法241条)
埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後、6カ月以内にその所有者が判明しないときは、発見者がその所有権を取得します。ただし、他人が所有する土地などから発見された埋蔵物については、発見者と土地などの所有者が等しい割合で、埋蔵物の所有権を取得します。
①に関連して、「所有者不明土地問題」に関する法改正については、以下の記事を併せてご参照ください。
複数の物の「添付」|付合・混和・加工
複数の物がくっついて一つになることを「添付」といいます。
1つの物について、所有権を取得できるのは原則として1人だけです(=一物一権主義)。そのため、複数の物が添付した際には、添付した物の所有者のうち1人だけが全部の所有権を取得し、他の所有者は所有権を失います。
民法では添付のパターンとして、「付合」「混和」「加工」の3つを定めています。
① 付合(民法242条~244条)
所有者を異にする物が互いに結合して、損傷せずに分離できなくなること、または分離に可分の費用を要する状態になることをいいます。付合物の所有者は、以下の要領で決まります。
(a) 動産が不動産に従として付合した場合
→不動産の所有者が付合物の所有権を取得します。
(b) 動産同士が付合した場合
→主たる動産の所有者が付合物の所有権を取得します。ただし、付合した動産について主従を区別できないときは、各動産の所有者が付合物を共有します。
② 混和(民法245条)
液体同士が混ざり合うなど、所有者を異にする物が混ざって識別できなくなることをいいます。混和物の所有権の帰属は、付合に関する規定に準じて判断されます。
③ 加工(民法246条)
動産に工作を加えることをいいます。
加工物の所有権は、材料の所有者に帰属するのが原則です。ただし、工作によって生じた付加価値が材料の価格を著しく超えるときは、加工者が加工物の所有権を取得します。
実際には、請負契約などの合意により所有権が定められることが一般的です。
なお、付合・混和・加工によって所有権を失った者は、所有権を取得した者に対して、不当利得に基づき償金を請求できます(民法248条)。
共有について
複数の者が1つの物を共同で所有することを「共有」といいます。
民法では、共有者間の利害を調整するためにさまざまなルールを設けています。以下に挙げるのは、共有に関するルールの一例です。
① 共有持分割合
② 共有物の使用・変更・管理
③ 共有物分割請求
共有持分割合
共有持分割合とは、共有者が共有物に対して有する権利(所有権)の割合です。
民法上、各共有者の持分は相等しいものと推定されます(民法250条)。ただし実際には、合意により共有持分割合を定めるのが一般的です。
共有物の使用・変更・管理
共有物の使用・変更・管理については、以下のルールが定められています。
① 共有物の使用(民法249条)
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができます。自己の持分を超えて共有物を使用したときは、他の共有者に対して超過分の対価を償還しなければなりません。
各共有者は、善良な管理者の注意をもって共有物を使用する義務を負います。
② 共有物の変更(民法251条)
共有物の変更(処分など)を行う際には、原則として他の共有者全員の同意が必要です。ただし、共有者またはその所在が不明の場合は、裁判所に共有物変更の裁判を請求できます。
③ 共有物の管理(民法252条)
共有物の管理(賃貸など)を行う際には、原則として過半数の持分を有する共有者の同意が必要です。ただし、保存行為については各共有者が単独で行うことができます。
共有物分割請求
各共有者は、原則としていつでも共有物の分割を請求できます(民法256条)。ただし契約により、5年以内に限って共有物の分割を禁止することが可能です。
共有物の分割は、まず共有者間の協議を通じて行います。協議がまとまらなければ、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起できます(民法258条)。
建物区分所有について
建物は一つの「物」であるため、1個の所有権のみが成立するのが原則です。
しかし、実際にはマンションやオフィスビルのように、1つの建物内に独立した住居・店舗・事務所などが設けられるケースがよくあります。このような場合には、独立部分ごとに所有権を認める方が便利です。
そこで「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法)では、このような建物に関する所有権の特則などを定めています。
区分所有建物は「専有部分」と「共用部分」に分かれ、それぞれの専有部分について区分所有権を設定することができます。また、区分所有建物の敷地については、専有部分の各所有者に敷地利用権が認められます。
所有権を侵害された場合にできる請求
所有権を侵害された場合には、侵害者に対して以下の請求ができます。
① 物権的請求
・返還請求
・妨害排除請求
・妨害予防請求
② 損害賠償請求・不当利得返還請求
物権的請求
所有権などの物権が侵害された状態において、その侵害の排除を請求できる権利を「物権的請求権」といいます。
物権的請求権としては、以下の3つの権利が認められています。
① 返還請求(権)
② 妨害排除請求(権)
③ 妨害予防請求(権)
返還請求
所有権に基づく返還請求は、所有者が占有を他人に奪われているときに認められます。例えば、自分が所有している時計を、他人が勝手に持ち出して保管している場合などです。
所有権に基づく返還請求を受けた者は、その物の占有をやめ、所有者に対して引き渡さなければなりません。
妨害排除請求
所有権に基づく妨害排除請求は、所有者がその物の占有を失っていないものの、何らかの方法によって所有権の行使を妨害されているときに認められます。例えば、所有する土地上に他人が無権原で自動車を置いている場合や、無効な抵当権登記を抹消していない場合などです。
所有権に基づく妨害排除請求を受けた者は、所有権の妨害状態を解消する必要があります。
妨害予防請求
所有権に基づく妨害予防請求は、所有権侵害のおそれがある場合に認められます。例えば、隣地所有者が境界線近くの土地を深く掘り下げたため、自分の土地が崩れる危険が生じた場合などです。
所有権に基づく妨害予防請求を受けた者は、所有権侵害が発生しないように予防措置を講じる必要があります。
損害賠償請求・不当利得返還請求
所有権侵害によって損害を被った場合は、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)や、不当利得返還請求(民法703条・704条)が認められます。
不法行為に基づく損害賠償請求と不当利得返還請求は、いずれか一方を選んで、または両方を同時に行うことができます。ただし、両方の要件を満たす場合であっても、同じ損害について重複して支払いを受けることはできません。
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