時効とは?
目的・種類・取得時効と消滅時効の完成要件・
時効完成を阻止する方法などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

時効」とは、長い間続いた事実状態に、法律関係(権利・義務)を合わせるための制度です。民事上の時効には、取得時効消滅時効の2種類があります。

取得時効は、物を10年間または20年間占有し続けることによって完成します。取得時効が完成すると、占有者がその物の所有権を取得します。

消滅時効は、権利の種類に応じて設定された時効期間が経過することで完成します。消滅時効が完成すると、債務者は債務の履行義務を免れます。

時効完成の効果を享受するためには、相手方に対して完成した時効を援用しなければなりません。時効の援用は内容証明郵便などのほか、訴訟手続きの中でも行うことができます。

時効完成を阻止したい場合には、時効の完成猶予または更新の効力を生じさせる手続きをとることが必要です。一例として、内容証明郵便の送付や訴訟の提起などが挙げられます。

この記事では、時効について、目的・種類・完成要件・時効完成を阻止する方法などを分かりやすく解説します。

ヒー

取引先から1年前の案件の請求書が届きました、なんでも送り漏れだったとか…。経理が対応していますけれど、これってもう時効だったりしませんか?

ムートン

請求漏れは先方のミスですが、さすがに1年では時効にはなりませんね。どんな場合に時効と主張できるのか、確認していきましょう。

※この記事は、2023年6月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

時効とは

時効とは、ある出来事から一定期間が経過したことを主な法律要件とし、長い間続いた事実状態が法律上の根拠の有無に関わらず、その事実状態に合わせるための制度、または適合するように権利・法律関係を変動させるための制度です。

民事上の時効である「取得時効」と「消滅時効」、刑事上の時効である「公訴時効」と「刑の時効」があります。

民事上の時効

民事上の時効には、「取得時効」と「消滅時効」の2種類があります。

① 取得時効
物を継続的に一定期間占有したことを条件として、その物の所有権を取得できる制度です。

② 消滅時効
一定期間行使されなかった権利を消滅させる制度です。

刑事上の時効

刑事上の時効には、「公訴時効」と「刑の時効」の2種類があります。

① 公訴時効
犯罪が行われてから一定期間が経過すると、検察官が被疑者を起訴できなくなる制度です。

② 刑の時効
刑事裁判で確定した刑が一定期間執行されない場合に、その刑が失効する制度です。

本記事では、民事上の時効に絞って解説します。

民事上の時効制度の目的

民事上の時効制度には、以下の3つの目的があると解されています。

① 永続した事実状態の尊重
占有や権利不行使などの事実状態が長期間継続している場合、その事実状態を前提として取引が行われるケースが多いことに鑑み、法律上の権利義務を事実状態に合わせるべきという価値判断に基づいています。

② 証拠の散逸による不利益の防止
事実状態が継続したまま長期間が経過すると、法律関係の立証に必要な証拠が散逸してしまう可能性があることに鑑み、証拠の散逸による不利益を救済するために時効が認められている側面があります。

③ 権利の上に眠る者を保護しない
法的な権利があるからといって、何らの措置もとらずに法律関係と矛盾した事実状態を放置していた場合は、権利を失っても仕方がないという価値判断があります。

次の項目から、取得時効と消滅時効の各制度について解説します。

取得時効とは

取得時効」とは、物を継続的に一定期間占有したことを条件として、その物の所有権を取得できる制度です。

ヒー

占有所有ってどう違うんでしたっけ?

ムートン

ざっくりいうと、
占有は「使っているだけ」、
所有権は「自分のものとして使ったり、処分したりできる」状態です。
例えば、傘を借りると占有状態となり、使うのはよくても勝手に捨てたりしてはいけませんね。一方で、自分の傘として所有権を有していれば、その傘を貸したり、売ったりするのも自由です。

取得時効の完成要件

取得時効が完成するのは、以下の要件を全て満たした場合です(20年間の時効取得を主張する場合、④は不要)。

取得時効の完成要件

① 所有の意思をもって占有を開始したこと
権利の性質から客観的に判断して、所有者として占有を開始したことが必要です。所有の意思の有無は、占有権原の内容および占有に関する具体的な事情によって判断されます。
(例)
・賃貸借に基づいて占有を開始した賃借人には、所有の意思が認められない(他主占有権原)
・占有者が土地の固定資産税を支払っていない場合、所有の意思が認められない方向に働く(他主占有事情)

② 平穏に占有を開始したこと
暴力的に占有を奪った場合には、時効取得が認められません。
(例)
・土地所有者を脅迫して追い出した占有者は、その土地を時効取得できない

③ 公然と占有を開始したこと
所有者に対して占有を隠匿している場合には、時効取得が認められません。
(例)
・本当は土地を無権原で占有しているのに、所有者から質問された際に「占有していない」とウソをつき続けていた場合は、その土地を時効取得できない

④ (10年間の時効を主張する場合)占有開始時に善意無過失であったこと
10年間の時効を主張する場合は、占有開始時に無権原であることを知らず、かつ知らなかったことについて過失がないことが必要です。

⑤ 時効期間を通じて占有が継続したこと
占有開始から10年間または20年間、その物の占有を継続したことが必要です。

取得時効の完成要件の立証責任

取得時効の完成要件については、時効取得を主張する側と主張される側の間で、以下のとおり立証責任が分配されています。

① 所有の意思をもって占有を開始したこと
② 平穏に占有を開始したこと
③ 公然と占有を開始したこと
④-1 占有開始時に善意であったこと
→いずれも法律上推定されるため(民法186条1項)、時効取得を主張される側に立証責任があります。すなわち、時効取得を主張される側が推定を覆す事実を立証しなければ、上記の要件は満たされたと判断されます。

④-2 占有開始時に無過失であったこと
時効取得を主張する側に立証責任があります。すなわち、時効取得を主張する側が無過失であることを立証しなければ、時効取得が認められません。

⑤ 時効期間を通じて占有が継続したこと
→10年または20年の占有の始期と終期において占有していた事実については、時効取得を主張する側に立証責任があります。
一方、始期・終期における占有の事実が立証されれば、その間の期間の占有については、時効取得を主張される側に立証責任が転換されます(民法186条2項)。したがって、時効取得を主張される側が占有の途絶を立証できなければ、時効期間を通じて占有が継続したものと認められます。

取得時効が完成した場合の効力

取得時効が完成した後、占有者は時効を援用すれば、占有した物の所有権を取得します。その反面、所有者は物の所有権を失うことになります。

自己の所有物の時効取得について

時効取得は、自分の所有物についても認められると解されています(最高裁昭和42年7月21日判決)。

所有権に基づいて物を占有しているとしても、何らかの事情(登記を経由していない、証拠書類が散逸しているなど)によって所有権の取得原因事実の立証が困難な場合があります。
その場合、もし取得時効の完成要件が満たされていれば、時効を援用することにより、所有権の取得原因事実を立証しなくても、その物の所有権を確保可能です。

消滅時効とは

消滅時効」とは、一定期間行使されなかった権利消滅させる制度です。

2020年民法改正による消滅時効に関する変更点

2020年4月1日に施行された改正民法では、幅広い事項にわたって旧来のルールが変更されました。消滅時効についても、民法改正により大幅な変更が行われています

具体的には、短期消滅時効と商事消滅時効が廃止され、債権一般について統一的な時効期間が適用されるようになりました。
また、改正前の民法では「権利を行使できる時から10年」の経過が必要とされていた債権の消滅時効が、「権利を行使できることを知った時から5年」が経過した場合にも完成することが定められました。

現行民法(改正後民法)のルールは、2020年4月1日以降に生じた債権に適用されます。一方、2020年3月31日以前に生じた債権については、改正前民法のルールが引き続き適用される点にご注意ください。

消滅時効の時効期間

現行民法では、権利の種類によって、消滅時効期間が以下のとおり定められています。

消滅時効の時効期間

① 債権(原則)
以下のいずれか早く経過する期間(民法166条1項)
(a) 権利を行使できることを知った時から5年
(b) 権利を行使できる時から10年※
※人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権については20年(民法167条)

② 債権または所有権以外の財産権
・権利を行使できる時から20年(民法166条2項)
※所有権は時効消滅しない

③ 定期金債権
以下のいずれか早く経過する期間(民法168条1項)
(a) 各債権を行使できることを知った時から10年
(b) 各債権を行使できる時から20年

④ 判決で確定した権利
・10年より短い時効期間の定めがあるものについては、10年(民法169条)
※10年以上の場合は、その期間

⑤ 不法行為に基づく損害賠償請求権
以下のいずれか早く経過する期間(民法724条)
(a) 被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年
(b) 不法行為の時から20年

なお、民法以外の法律によって異なる時効期間が定められている場合は、その定めに従います。

(例)
・労働者の残業代請求権
→行使できる時から3年(労働基準法115条、附則143条3項)

・保険金請求権
→行使できる時から3年(保険法95条1項)

など

消滅時効が完成した場合の効力

消滅時効が完成した場合、債務者は時効を援用すれば、債権者に対する債務の履行義務を免れます。

時効の援用とは

時効完成の利益を享受するためには、時効の「援用」を行う必要があります。当事者が時効を援用しない場合、裁判所は時効の効果を前提に裁判をすることができません(民法145条)。
時効の援用とは、時効完成の利益を享受する旨の意思表示です。時効を援用するかどうかは、利益を受ける人の判断に委ねられています。

時効を援用する方法は特に制限されておらず、裁判手続きにおいて主張する方法のほか、口頭書面による援用も認められています。裁判外で時効を援用したことの証拠を残したい場合は、内容証明郵便を利用するのがよいでしょう。

ムートン

時効は何もしなくても認められるものではなく、自ら主張しないと認められない、ということですね。

時効の援用権の喪失は要注意

債務の消滅時効が完成した後に、債務者が債権者に対して当該債務を承認した場合には、時効完成の事実を知らなかったとしても、その後に消滅時効を援用することは許されないと解されています(最高裁昭和41年4月20日判決)。これを「時効援用権の喪失」といいます。

時効援用権の喪失が認められているのは、時効完成後の債務の承認が、時効による債務消滅の主張と相容れない行為だからです。
債務の承認を受けた債権者は、債務者がもはや時効を援用しないと考えるであろうことを踏まえて、信義則上時効援用権が喪失するものと解されています。

時効援用権が喪失すると、債務者は時効完成後であっても債務を履行しなければならず、大きな不利益を被ってしまいます。
長期間履行していない債務を履行しようとする場合には、あらかじめ消滅時効が完成していないかどうかを確認しましょう。

時効の完成を阻止する方法

時効完成を阻止するためには、時効の完成猶予(停止)または更新(中断)の効果が生じる措置を講じましょう。

時効の完成猶予(停止)

時効の「完成猶予」とは、時効の完成を一時的に猶予することをいいます。2020年4月施行の改正民法による変更前は、時効の「停止」と呼ばれていました。

時効の完成猶予(停止)の効果が認められている事由は、以下のとおりです。

時効の完成猶予事由(2020年4月以降に生じた債権に適用)

①裁判上の請求等の事由(民法147条1項)
・裁判上の請求
・支払督促
・裁判上の和解
・民事調停、家事調停
・破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加

猶予期間:その事由が終了するまで(確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合は、その終了の時から6カ月を経過するまで)

② 強制執行等の事由(民法148条1項)
・強制執行
・担保権の実行
・留置権による競売、法律の規定による換価のための競売
・財産開示手続
・第三者からの情報取得手続

猶予期間:その事由が終了するまで(申立ての取り下げまたは法律の規定に従わないことによる取り消しによってその事由が終了した場合は、その終了の時から6カ月を経過するまで)

③ 仮差押え、仮処分(民法149条)
猶予期間:その事由が終了したときから6カ月を経過するまで

④ 内容証明郵便などによる履行の催告(民法150条1項)
猶予期間:催告の時から6カ月を経過するまで
※再度の催告は時効の完成猶予の効力を有しない(同条2項)

⑤ 書面または電磁的記録による協議の合意(民法151条1項)
猶予期間:以下のいずれか早い時まで
(a) 合意時から1年を経過した時
(b) 合意において協議期間(1年未満に限る)を定めたときは、その期間を経過した時
(c) 当事者の一方から相手方に対して協議続行拒絶通知が書面でされたときは、通知時から6カ月を経過した時
※再度の協議の合意による猶予も可(ただし通算5年まで、同条2項)

⑥ 天災その他避けることのできない事変のため、①または②に係る手続きができないとき(民法161条)
猶予期間:その障害が消滅したときから3カ月を経過するまで

時効の停止事由(2020年3月以前に生じた債権に適用)

① 内容証明郵便などによる履行の催告
猶予期間:催告の時から6カ月を経過するまで
※再度の催告は時効の完成猶予の効力を有しない

② 天災その他避けることのできない事変のため、時効を中断できないとき
猶予期間:その障害が消滅したときから2週間

時効の更新(中断)

時効の「更新」とは、時効期間をリセットしてゼロからカウントし直すことをいいます。2020年4月施行の改正民法による変更前は、時効の「中断」と呼ばれていました。

時効の更新(中断)の効果が認められている事由は、以下のとおりです。

時効の更新事由(2020年4月以降に生じた債権に適用)

① 裁判上の請求等の事由がある場合において、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したこと(民法147条2項)
・裁判上の請求
・支払督促
・裁判上の和解
・民事調停、家事調停
・破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加

② 強制執行等の事由がある場合において、その事由が終了したこと(民法148条2項)
・強制執行
・担保権の実行
・留置権による競売、法律の規定による換価のための競売
・財産開示手続
・第三者からの情報取得手続

③ 権利の承認(民法152条1項)

時効の中断事由(2020年3月以前に生じた債権に適用)

① 裁判上の請求

② 差押え、仮差押え、仮処分

③ 債務の承認

ムートン

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