商標権とは?
効力・有効期間・メリット・取得方法・
侵害された場合の対処法などを解説!
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- この記事のまとめ
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「商標権」とは、事業者が使用するマークなどについて、独占的・排他的な仕様を認める権利です。
商標権を取得すると、他社による自社商標の模倣を防ぐことができます。また、ライセンス料収入を得られる可能性がある点や、商標のブランドイメージを高めることができる点も、商標権を取得するメリットです。
商標権を取得するには、特許庁に対して出願を行う必要があります。
特許庁による審査は、商標登録の拒絶理由が存在しないかどうかの観点から行われます。スムーズに商標登録を受けられるように、事前にしっかり準備を整えて出願しましょう。
商標権の侵害を受けた際には、差止請求・税関での輸入差止申立て・損害賠償請求・不当利得返還請求・信用回復措置請求・刑事告訴など、さまざまな救済手段が用意されています。状況に応じて、適切な手段により侵害行為に対処しましょう。
この記事では商標権について、効力・有効期間・メリット・出願手続き・侵害された場合の対処法などを解説します。
※この記事は、2023年7月5日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
商標権とは
「商標権」とは、事業者が使用するマークなどについて、独占的・排他的な仕様を認める権利です。
商標権の対象となる「商標」とは
商標権の対象となるのは「商標」です。商標とは、以下の3つの要件を満たすものをいいます(商標法2条1項)。
- 商標の要件
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① 人の知覚によって認識できるものであること
② 以下のいずれかに該当すること
(a) 文字
(b) 図形
(c) 記号
(d) 立体的形状
(e) 色彩
(f) (a)~(e)の結合
(g) 音③ 以下のいずれかに該当すること
(a) 業として商品を生産・証明・譲渡する者が、その商品について使用をするもの
(b) 業として役務を提供・証明する者が、その役務について使用をするもの((a)に当たるものを除く)
商標権の効力|専用権と禁止権
商標権には、「専用権」と「禁止権」という2つの効力が認められています。
専用権とは
「専用権」とは、指定商品または指定役務について、登録商標を独占的に使用する権利です(商標法25条)。
「指定商品」および「指定役務」とは、商標登録の際に指定された商品または役務(サービス)のカテゴリーをいいます。
指定商品または指定役務について、登録商標と同一の商標を使用する行為は、原則として商標権侵害に該当します(ただし、一部例外あり。商標法26条参照)。
禁止権とは
「禁止権」とは、登録商標と類似した商標の使用や、指定商品または指定役務と類似した商品・役務についての登録商標等の使用を排除する権利です(商標法37条)。
専用権によっては保護されない使用行為であっても、他人の商品・サービスが商標権者のものであると誤認されることを防ぐため、紛らわしい方法による商標の使用が禁止権によって制限されます。
具体的には、以下の3つのいずれかに該当する商標の使用を、商標権者の承諾を得ずに行うと、商標権(禁止権)の侵害とみなされます。
① 指定商品または指定役務について、登録商標に類似する商標を使用する行為
② 指定商品または指定役務に類似する商品または役務について、登録商標を使用する行為
③ 指定商品または指定役務に類似する商品または役務について、登録商標に類似する商標を使用する行為
商標権の有効期間
商標権の有効期間(存続期間)は、設定の登録の日から10年とされています(商標法19条1項)。
有効期間が満了するごとに、商標権は更新できます。更新後の有効期間は、更新前と同じく10年です。
商標権を取得するメリット
自社の商品・サービスの名称やロゴなどについて商標権を取得することには、主に以下のメリットがあります。
① 他社による商標の模倣防止・差別化
② ライセンス料収入の獲得
③ 登録商標のアピールによるブランドイメージの向上
他社による商標の模倣防止・差別化
商標権を取得すると、指定商品・指定役務についての登録商標の使用や、それに類似した紛らわしい商標の使用を制限できます。
その結果、他社による登録商標の模倣を防げるので、名称やロゴなどの観点から自社の商品・サービスの独自性をアピールすることができます。登録商標によって他社商品との差別化に成功すれば、ユーザーに自社の商品・サービスを手に取ってもらえる機会が増えるでしょう。
ライセンス料収入の獲得
商標権者は、登録商標の使用を第三者に許諾して、ライセンス収入を得ることも可能です。
特に、登録商標が社会的に広く認知されている場合は、その登録商標を使いたいと考える他企業が多く存在するため、高額のライセンス料収入を得られる可能性があります。商標権者が実際に稼働しなくても収益が発生する点も、登録商標をライセンスすることの大きなメリットです。
登録商標の使用を第三者に許諾する際には、「商標使用許諾契約(商標ライセンス契約)」を締結します。
商標使用許諾契約(商標ライセンス契約)の詳細については、以下の記事を併せてご参照ください。
登録商標のアピールによるブランドイメージの向上
自社の商品・サービスの名称やロゴなどについて商標登録を受けることは、それ自体が名称・ロゴのブランドイメージを向上させる可能性があります。
特に一般消費者に対しては、名称やロゴが登録商標であることを表示するだけで、「オリジナリティがある」「きちんとした手続きを踏んでいる」など、商品・サービスについて好意的な印象を与える面があると考えられます。
商標権を取得する方法
商標権を取得するに当たっては、特許庁に対する出願を行わなければなりません。
商標登録出願の手続きは、以下の流れで行います。
① 事前調査|同一・類似の商標がないことを確認
② 商標登録の出願
③ 特許庁による審査|拒絶理由の有無をチェック
④ 特許庁による査定|拒絶査定または登録査定
⑤ 登録料の納付・設定登録
事前調査|同一・類似の商標がないことを確認
すでに登録されている商標との関係では、その専用権または禁止権を侵害し得る商標については、商標権の登録を受けることができません(商標法4条1項11号)。
したがって、自社商品やサービスの名称やロゴなどについて商標登録の出願をする際には、すでに同一または類似の商標が登録されていないかを調査する必要があります。
登録済みの商標は、独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供しているデータベース「J-PlatPat」で確認できます。できる限り網羅的に登録済み商標の調査を行いましょう。
商標登録の出願
商標登録の出願を行う際には、特許庁長官に対して商標登録願(願書)を提出します。
独立行政法人工業所有権情報・研修館のウェブサイトには、商標登録願(願書)の様式と書き方ガイドが掲載されています。
また、電子的に商標登録願(願書)を作成できる「電子出願ソフトサポートサイト」も公開されています。電子出願をすると、書類の電子化手数料が不要となるほか、審査期間が短縮される点が大きなメリットです。
特許庁による審査|拒絶理由の有無をチェック
特許庁の審査官は、登録出願された商標について、商標登録の拒絶理由がないかどうかを審査します(商標法15条)。
- 商標登録の主な拒絶理由
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① 自己と他人の商品・役務を区別することができないもの(商標法3条)
(a) 商品または役務の普通名称のみを表示する商標
(b) 商品または役務について慣用されている商標
(c) 単に商品の産地、販売地、品質等または役務の提供の場所、質等のみを表示する商標
(d) ありふれた氏または名称のみを表示する商標
(e) 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
(f) その他何人かの業務に係る商品または役務であるかを認識することができない商標※上記(c)~(e)に該当する商標のうち、使用された結果として需要者が何人かの業務に係る商品または役務であることを認識することができるものについては、商標登録を受けることができます(同条2項)。
② 公共の機関の標章と紛らわしいなど、公益性に反するもの(商標法4条1項1号~7号・9号・16号・18号)
(a) 国旗・菊花紋章・勲章または外国の国旗と同一・類似の商標
(b) 外国・国際機関の紋章・商標等のうち経済産業大臣が指定するもの、赤十字の名称・マークと同一・類似の商標等
(c) 国・地方公共団体等を表示する著名な標章と同一・類似の商標
(d) 公の秩序・善良な風俗を害するおそれがある商標
(e) 商品の品質・サービスを誤認させるおそれのある商標
(f) 博覧会の賞と同一・類似の商標
(g) 商品・商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標③ 他者の登録商標または周知・著名商標等と紛らわしいもの(商標法4条1項8号・10号~12号・14号・15号・17号・19号)
(a) 他人の氏名・名称、著名な芸名・略称等を含む商標
(b) 他人の広く認識されている商標(周知商標)と同一・類似の商標であって、同一・類似の商品・役務に使用するもの
(c) 他人の登録商標と同一・類似の商標であって、指定商品・指定役務と同一・類似のもの
(d) 他人の商品・役務と混同を生ずるおそれのある商標
(e) 他人の周知商標と同一・類似であって、不正の目的により使用する商標
(f) 他人の登録防護標章と同一の商標
(g) 種苗法で登録された品種の名称と同一・類似の商標
(h) 真正な産地を表示しないぶどう酒・蒸留酒の産地の表示を含む商標
特許庁による査定|拒絶査定または登録査定
拒絶理由が発見されれば、審査官は出願人に対してその理由を通知し、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えます(商標法15条の2)。意見書が提出されると、審査官はその内容を踏まえて、最終的に拒絶理由が解消されないと判断した場合は、拒絶査定を行います(商標法15条)。
一方、拒絶理由がないと審査官が判断すれば、商標登録をすべき旨の査定(登録査定)を行います。また、出願日から1年6カ月以内に商標登録の拒絶理由が発見されなかった場合も、登録査定が行われます(商標法16条、商標法施行令3条)。
登録料の納付・設定登録
登録査定の送達があった日から30日以内に、納付すべき登録料※が納付されたときは、商標権の設定の登録が行われます(商標法18条2項)。
※登録料:区分数×3万2900円。ただし分納の場合は、区分数×1万7200円(前期・後期)。
設定登録以降、出願人は商標権者として、商標権の行使が可能となります(同条1項)。
商標権の侵害に当たる行為|直接侵害と間接侵害
商標権の侵害に当たる行為は、「直接侵害」と「間接侵害」の2つに分類されます。
商標権の直接侵害に当たる行為
商標権の「直接侵害」とは、商標権者の専用権または禁止権を侵害する商標の使用行為です(商標法25条・37条1項1号)。
具体的には、商標権者の承諾を得ずにする以下の行為が、直接侵害に該当します。
① 指定商品または指定役務について、登録商標を使用する行為
② 指定商品または指定役務について、登録商標に類似する商標を使用する行為
③ 指定商品または指定役務に類似する商品または役務について、登録商標を使用する行為
④ 指定商品または指定役務に類似する商品または役務について、登録商標に類似する商標を使用する行為
ただし、需要者(消費者など)が特定の事業者の商品・役務であることを認識できる態様により使用されていない商標については、商標権侵害は成立しません(「商標的使用」の要件。商標法26条1項)。
商標権の間接侵害に当たる行為
商標権者の専用権または禁止権を直接侵害する段階に至っていなくても、それにつながる準備行為については、商標権侵害とみなされます(商標法37条2号~8号)。これを「間接侵害」といいます。
商標権の間接侵害に当たるのは、以下の行為です。
① 直接侵害に当たる商標を付した商品に関する以下の行為
・譲渡、引渡し、輸出のための所持(同条2号)
② 直接侵害に当たる商標を付した役務につき、その提供を受ける者の利用に供する物に関する以下の行為
・提供するための所持、輸入(同条3号)
・提供させるための譲渡、引渡しまたはそのための所持、輸入(同条4号)
③ 直接侵害に当たる商標を表示する物に関する以下の行為
・商標を使用するための所持(同条5号)
・商標を使用させるための譲渡、引渡しまたはそのための所持、輸入(同条6号)
・商標を使用し、または使用させるための製造、輸入(同条7号)
④ 直接侵害に当たる商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物に関する以下の行為
・製造、譲渡、引渡し、輸入(同条8号)
商標権侵害を受けた場合の対処法
商標権者は、自己の商標権を他人に侵害された場合、以下の方法によって対処しましょう。
① 差止請求
② 税関での輸入差止申立て
③ 損害賠償請求・不当利得返還請求
④ 信用回復措置請求
⑤ 刑事告訴
各対処法の詳細については、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。
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