手当とは?
主な種類・支払い方法・残業代との関係・
課税対象・同一労働同一賃金などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「手当」とは、使用者が労働者に対して支給する賃金(給与)のうち、基本給以外のものを指すのが一般的です。労働基準法によって支給が義務付けられた手当(時間外手当・休日手当・深夜手当・宿日直手当・休業手当)のほか、企業の制度に基づいて支給される各種手当があります。
手当も基本給と同じく「賃金」であるため、労働基準法のルールが適用されます。具体的には、「賃金支払いの5原則」に従って手当を支払わなければなりません。
その一方で、残業代計算や課税との関係での取り扱いは、手当の種類によって異なります。賃金管理に当たっては、手当の種類に応じて正しく取り扱わなければなりません。
手当は、基本給と同様に「同一労働同一賃金」の対象です。正社員と非正規社員の間で、手当について不合理な待遇差を設けることは認められない点にご注意ください。
この記事では手当について、主な種類や支払い方法、残業代計算・課税・同一労働同一賃金に関する取り扱いなどを解説します。
※この記事は、2024年1月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- パートタイム・有期雇用労働法…短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
目次
手当とは
「手当」とは、使用者が労働者に対して支給する賃金(給与)のうち、基本給以外のものを指すのが一般的です。
手当の代表例は、いわゆる「残業代」です。労働基準法に基づいて支給される時間外手当・休日手当・深夜手当が、残業代に当たります。
また、残業代のように法律上支給が義務付けられている手当のほか、労働者の福利厚生などを目的として、企業が独自に設けている手当もあります。
主な手当の種類
手当には、労働基準法によって支給が義務付けられた手当のほか、企業の制度に基づいて支給される各種手当があります。企業においてよく見られる手当の種類を紹介します。
労働基準法によって支給が義務付けられる手当
労働基準法に基づき、使用者は労働者に対して、以下の手当の支給が義務付けられています。
- 労働基準法によって支給が義務付けられる手当
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① 時間外手当(労働基準法37条1項)
法定労働時間(原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間)を超えて働いた労働者に対しては、時間外手当を支払う必要があります。② 休日手当(同法37条1項)
法定休日(=労働基準法によって付与が義務付けられた休日)に働いた労働者に対しては、休日手当を支払う必要があります。③ 深夜手当(同法37条4項)
午後10時から午前5時までの間に働いた労働者に対しては、深夜手当を支払う必要があります。④ 宿日直手当(同法41条3号、昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号)
監視または断続的労働に従事する労働者であって、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用しないことについて、労働基準監督署長の許可を受けたものが、宿直または日直の勤務を行う場合は、許可条件に従った宿日直手当を支払う必要があります。⑤ 休業手当(同法26条)
使用者の責に帰すべき事由によって休業させた労働者に対しては、休業手当を支払う必要があります。
これらの手当を支給しないことは労働基準法違反であり、違反した企業は行政指導や刑事罰の対象になり得るので注意が必要です。
企業の制度に基づいて支給される手当
企業が独自に設けた制度に基づいて支給される手当としては、以下の例が挙げられます。
① 職務手当
特定の職務や仕事内容に伴い、責任や負担がかかる労働者に報いる目的で支給する手当です。
② 職能手当
労働者の職務遂行能力に応じて支給する手当です。
③ 役職手当
労働者の職位や業務上の役割に応じて支給する手当です。
④ 資格手当
何らかの資格を有している労働者に対して、その努力や能力に報いるために支給する手当です。
⑤ 地域手当
大都市圏など物価の高い地域に勤務する労働者に対して、支出負担の差を埋める目的で支給する手当です。
⑥ 食事手当
労働者の食費に充てるために支給する手当です。
⑦ 危険手当
危険な業務に従事する労働者に対して支給する手当です。
⑧ 家族手当
家族を扶養している労働者に対して、その経済的負担を軽減するために支給する手当です。
⑨ 通勤手当
労働者の通勤に要する交通費に充てるために支給する手当です。
⑩ 精勤手当
一定期間において欠勤がなく、または欠勤が少ない労働者に対して支給する手当です。
⑪ 勤続手当
労働者の勤続年数に応じて、長年の貢献に報いる目的で支給する手当です。
⑫ 能率手当
一定期間における労働者の作業量や出来高などに応じて支給する手当です。
⑬ 別居手当(単身赴任手当)
業務上の都合により、家族と離れて暮らす労働者に対して支給する手当です。
⑭ 子女教育手当
労働者の子どもの教育費を補助する目的で支給する手当です。
⑮ 住宅手当
労働者が住む住宅の賃借料(家賃)や住宅ローンの一部費用を補助する目的で支給する手当です。
⑯ 退職手当
退職する労働者に対して支給する手当です。「退職金」とも呼ばれます。
これらの手当は企業が独自に設けるものですが、労働契約の内容に従ったものである限りは、労働者に対して支給する義務があります。
契約上支給が義務付けられた手当を支給しなかった場合は、未払賃金として労働者から支払い請求を受けるおそれがあるのでご注意ください。
手当の支払いに関するルール|賃金支払いの5原則
各種手当は基本給と同様に、労働基準法上の「賃金」に該当します(同法11条)。
したがって、手当の支払いについても、賃金の支払いに関する以下の5原則が適用されます(同法24条)。使用者は労働者に対して、これらの5原則を遵守して手当を支払わなければなりません。
- 賃金支払いの5原則
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① 通貨払いの原則
賃金は原則として、円通貨で支払わなければなりません。ただし、銀行振込やデジタルマネーによる支払いなどの例外が認められています。② 直接払いの原則
賃金は仲介者を介さず、労働者本人に直接支払わなければなりません。③ 全額払いの原則
法令または労使協定に基づく控除を除き、賃金は全額を支払わなければなりません。弁償代などを勝手に天引きすることは違法です。④ 毎月払いの原則
賃金は毎月1回以上支払わなければなりません。⑤ 一定期日払いの原則
賃金は一定の期日を定めて支払わなければなりません。
残業代の計算に関する手当の取り扱い
残業代(時間外手当・休日手当・深夜手当)は、以下の式によって計算します。
残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間数
「基礎賃金」とは、原則として1カ月の総賃金を意味します。したがって、手当についても基礎賃金に含まれるのが原則ですが、一部の手当については基礎賃金から算入しないものとされています。
残業代の基礎に含まれない手当
以下の手当については、残業代の基礎賃金に算入しません(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条)。
- 残業代の基礎賃金に算入しない手当
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・時間外手当
・休日手当
・深夜手当
・家族手当(扶養人数に応じて支払うものに限る)
・通勤手当(通勤距離等に応じて支払うものに限る)
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当(住宅に要する費用に応じて支払うものに限る)
・臨時に支払われた賃金
・1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
残業代の基礎に含まれる手当
上記以外の手当については、残業代の基礎賃金に算入します。
例えば以下の手当は、基礎賃金に含めた上で残業代を計算しなければなりません。
- 残業代の基礎賃金に算入する手当の例
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・職務手当
・職能手当
・役職手当
・資格手当
・地域手当
・食事手当
・危険手当
・精勤手当
・勤続手当
・能率手当
手当に対する課税の有無
使用者が労働者に対して支給する手当は、原則として課税の対象となりますが、例外的に非課税とされている手当もあります。
手当は原則として課税の対象
労働者が使用者から受け取る手当は、原則として基本給と同様に、給与所得として課税されます。
企業側としては、各種手当の金額を含めた賃金の総支給額を基に、源泉所得税を計算した上で控除しなければなりません。また、年末調整を行う際、および労働者が居住する自治体に給与支払報告書を提出する際にも、給与の支払金額には各種手当の金額を含める必要があります。
例外的に非課税となる手当
ただし例外的に、以下の手当については非課税とされています。
- 非課税となる手当
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① 通勤手当
通勤の方法および通勤距離に応じて、一定の金額に達するまでの通勤手当は非課税とされています。
参考:国税庁ウェブサイト「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」② 宿日直手当
一部の例外を除き、宿直または日直1回当たり4,000円までの宿日直手当は非課税とされています。
参考:国税庁ウェブサイト「法第28条《給与所得》関係 (宿日直料)28-1」③ 出張手当
出張のために通常必要と認められる範囲の交通費や宿泊費につき、それに対応して支給される出張手当は非課税とされています。
非課税の手当については、毎月徴収する源泉所得税や年末調整の計算、および給与支払報告書の作成時において、給与の支払金額に含めないようにしましょう。
同一労働同一賃金に関する手当の取り扱い
企業が労働者に対して手当を支給する際には、正社員と非正規社員の間で不合理な差を設けないように注意しなければなりません。不合理な待遇差別を設けると、「同一労働同一賃金」違反により、非正規社員から差額の支払いを請求されるおそれがあるので注意が必要です。
同一労働同一賃金とは
「同一労働同一賃金」とは、通常の労働者(=正社員)と短時間労働者または有期雇用労働者(=非正規社員)の間で、不合理な待遇差を設けてはならないとするルールです。
事業主は以下の事情のうち、待遇の性質や目的に照らして適切と認められるものを考慮した上で、不合理な待遇の相違を設けてはなりません(パートタイム・有期雇用労働法8条)。
- 業務の内容、および業務に伴う責任の程度(=職務の内容)
- 職務の内容および配置の変更の範囲
- その他の事情
また、正社員と同等の職務の内容および配置の変更が見込まれる非正規社員については、非正規社員であることを理由として待遇差別を行うことが禁止されています(同法9条)。
仕事の内容や責任の程度、異動の範囲などに応じて、正社員と非正規社員の間に合理的な待遇差を設けることは問題ありません。
その一方で、ほとんど正社員のような働き方をしているにもかかわらず、非正規社員だからというだけで正社員よりも低い待遇しか与えない場合には、同一労働同一賃金違反である可能性が高いです。
手当も同一労働同一賃金の対象|不合理な待遇差は禁止
同一労働同一賃金の対象とされているのは、「基本給、賞与その他の待遇」です。手当も「待遇」の一種なので、同一労働同一賃金が適用されます。
したがって、正社員と非正規社員の間で、手当について不合理な待遇差を設けることは、同一労働同一賃金違反に当たります。
例えば、同等の働きをしている正社員と非正規社員の間で、正社員にだけ手当を支給し、非正規社員には支給しない場合には、同一労働同一賃金違反である可能性が高いです。
同一労働同一賃金に違反し、手当について非正規社員を差別的に取り扱った場合は、本来得られるはずだった手当の支払いを請求されるおそれがあります。
仕事の内容や責任の程度、異動の範囲などについて正社員と非正規社員を比較した上で、非正規社員にも適正な手当を支給するように努めましょう。
手当を減額・廃止するときの注意点
基本給に比べて、手当は簡単に減額または廃止できるというイメージを持たれがちです。しかし、企業はいつでも一方的に手当を減額・廃止できるわけではありません。
労働契約や就業規則において減額・廃止の定めがないにもかかわらず、企業が一方的に手当を減額・廃止することは、労働契約の変更に当たります。労働契約の変更は、原則として労働者と使用者の合意によらなければなりません(労働契約法8条)。
就業規則を変更したとしても、労働条件を労働者の不利益に変更することは原則としてできません(同法9条)。
例外的に、就業規則の変更による労働条件の不利益変更が認められることもありますが、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ変更が合理的であることが必要となります(同条10条)。
企業側の都合によって手当を減額・廃止する際には、できる限り労働者の書面による同意を得ることが望ましいです。同意を得ることが難しい場合には、手当の減額・廃止を適法に行い得るかどうかを慎重に検討しましょう。
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