仲裁条項とは?
定めるメリット・例文・レビュー時の
注意点などを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「仲裁条項」とは、契約に関する紛争が発生した場合に、その解決を当事者が選任した第三者(仲裁機関)の判断に委ねることを合意する条項です。
紛争に発展した場合、通常は裁判(訴訟)で最終的な解決を図ります。しかし、ビジネス上、以下のようなメリットがあることから、あえて当事者間で合意した第三者に委ねる方法(仲裁)で紛争解決を図ることがあります。
【仲裁による紛争解決を図るメリット】
・信頼できない裁判所(賄賂が横行している国の裁判所など)による判断を回避できる
・審理が非公開となり、秘密を保持しやすい
・裁判よりも紛争の早期解決が見込める
・相互に強制執行が認められやすい契約書に仲裁条項を定める場合、自国や相手国の裁判手続きと比較した上で、本当に仲裁を選択すべきかどうかを検討することが大切です。また、仲裁機関の手続きに沿っていることを確認した上で、実際に仲裁へ発展した場合の相談先も確保しておきましょう。
今回は仲裁条項について、定めるメリット・例文・レビュー時の注意点などを分かりやすく解説します。
※この記事は、2022年11月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
仲裁条項とは
「仲裁条項」とは、契約に関する紛争が発生した場合に、その解決を当事者が選任した第三者(仲裁機関)の判断に委ねることを合意する条項です。
国際取引における紛争解決の方法|仲裁or裁判
国際取引に関する紛争を解決する法的手続きは、仲裁と裁判(訴訟)の2つに大別されます。
✅ 仲裁
→当事者が選任した第三者が、紛争解決に関する判断を行う手続きです。裁判所ではなく、各国に設けられた仲裁機関などを通じて行います。
✅ 裁判(訴訟)
→通常の法律トラブルと同様に、裁判所の判断(判決)によって紛争解決を図る手続きです。各国の裁判所で行います。
仲裁条項は、契約トラブルを解決するための手続きとして、裁判ではなく仲裁を選択する条項と位置付けられます。
なお、国際取引ではなく、日本国内で完結する取引であっても、専門性の高い分野に関する契約(例えば知財など)では、仲裁条項を定め、仲裁による解決を図る場合があります。
仲裁条項を定めるメリット・意義
仲裁条項を定めることには、主に以下のメリットがあります。
✅信頼できない裁判所による判断を回避できる
✅公開の場での審理を回避できる
✅仲裁には上訴がないため、早期解決が期待できる
✅仲裁判断は強制執行が認められやすい
信頼できない裁判所による判断を回避できる
国際取引の契約に関する紛争解決については、各国の裁判所の判断が信用できるとは限りません。
・裁判官が相手国の商慣習に詳しくない
・そもそも司法制度が整っていない
・陪審制(※)で結果が予測しにくい
※一定の法令知識をもった裁判官ではなく、一般市民の中から選ばれた者(陪審員)が、判決を決める制度
など、さまざまな事情によって裁判所を信用できない場合があります。
こうした場合には、信用できない裁判所による判断を回避するため、仲裁条項を設けてあらかじめ信用できる仲裁機関を指名するのがよいでしょう。
公開の場での審理を回避できる
裁判所で行われる訴訟手続きは、原則として公開法廷で行われるため、誰でも傍聴できます。これに対して仲裁手続きは、非公開で行われるのが原則です。
特に、世間に公開したくない営業秘密などが争点となる場合、公開法廷で審理が行われてしまうことは、当事者双方にとって望ましくありません。
仲裁には上訴がないため、早期解決が期待できる
裁判所で行われる訴訟の場合、当事者の手続き保障を図るため、上訴が認められるのが一般的です。
例えば日本の裁判所では「三審制」が採用されており、2回まで上訴が認められています。
これに対して、仲裁は一審のみで終了し、上訴が認められないのが原則です。そのため、複数回の審理によって手続きが長引くことなく、紛争の早期解決が期待できます。
仲裁判断は強制執行が認められやすい
外国裁判所の判決に基づく強制執行を認めるか否かは、各国・地域の法制度によってまちまちです。
- 強制執行とは
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強制執行とは、相手方が判決どおりの対応をしてくれなかった場合などに、裁判所が強制的に実現する手続きです。
例えば、「損害賠償金として〇〇円払え」と判決が出たにもかかわらず、相手方がお金を支払ってくれなかった場合には、強制執行をすることで、金銭の回収を実現できます。
場合によっては、訴訟で勝訴判決を得ても強制執行が認められず、費用と労力が無駄になってしまうケースもあります。
これに対して、仲裁判断の承認・強制執行については条約が存在し、多くの国が批准しています。そのため、外国裁判所の判決よりも、仲裁判断のほうが強制執行を認められやすく、相互執行を確保しやすいのです。
仲裁条項の例文
国際取引に関する契約で定められる、仲裁条項の例文を紹介します。
仲裁の種類としては、「機関仲裁」「アド・ホック仲裁」の2パターンあります。(それぞれの意味は「仲裁の種類|機関仲裁orアド・ホック仲裁」にて後述します)
- 機関仲裁の場合
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第○条(仲裁の合意)
1. この契約からまたはこの契約に関連して生ずることがある全ての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会が行う仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京(日本)とする。
2. 仲裁人の数は○人とする。
3. 仲裁手続きは日本語で行われるものとする。
- アド・ホック仲裁の場合
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第○条(仲裁の合意)
1. この契約からまたはこの契約に関連して生ずることがある全ての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京(日本)とする。
2. 仲裁人の数は○人とする。
3. 仲裁手続きは日本語で行われるものとする。
仲裁条項に定めるべき事項・書き方
上記の例文に沿って、仲裁条項に定めるべき事項と書き方について解説します。
仲裁条項に定めるべき事項は、以下のとおりです。
✅ 仲裁の種類|機関仲裁orアド・ホック仲裁
✅ 仲裁機関or準拠ルールの指定
✅ 仲裁を行う場所
✅ 仲裁判断が当事者を拘束する旨
✅ 仲裁人の数・仲裁言語
仲裁の種類|機関仲裁orアド・ホック仲裁
仲裁手続きは、「機関仲裁」と「アド・ホック仲裁」の2種類に分類されます。
機関仲裁は、仲裁機関を通じて行う仲裁です。例えば、日本では、「一般社団法人日本商事仲裁協会(JCAA)」などが代表的です。
これに対してアド・ホック仲裁は、仲裁機関ではなく、当事者間で独自に合意した者を選任して行う仲裁です。
機関仲裁には多額の手数料がかかりますが、仲裁機関の整備された紛争解決制度を利用できるメリットがあります。これに対してアド・ホック仲裁は、費用を節約できるメリットがあるものの、誰を仲裁者とするのかなどについての合意に難航するケースが多いです。
仲裁機関or準拠ルールの指定
機関仲裁の場合は、仲裁条項において仲裁機関を指定します。これに対してアド・ホック仲裁の場合は、仲裁者を指定せずに、仲裁において準拠すべきルールのみを定めるのが一般的です。
- 機関仲裁の場合における仲裁機関の指定
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この契約からまたはこの契約に関連して生ずることがある全ての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会が行う仲裁により最終的に解決されるものとする。
- アド・ホック仲裁の場合における準拠ルールの指定
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この契約からまたはこの契約に関連して生ずることがある全ての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。
仲裁を行う場所
仲裁を行う場所(仲裁地)は、単にアクセスの利便性の観点だけでなく、その国・地域の法に準拠して仲裁が行われる点で重要な意味を持ちます。
基本的には、当事者がそれぞれ自国での仲裁開催を望むのが一般的です。当事者間で仲裁地に関する意見がまとまらない場合には、第三国(シンガポールや香港など)が仲裁地として選択されるケースもあります。
- 仲裁地の指定
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仲裁地は東京(日本)とする。
仲裁判断が当事者を拘束する旨
仲裁判断が当事者を拘束する旨を明記しておくことは、2つの理由から非常に重要です。
1つ目の理由は、「紛争解決を仲裁判断に委ねる」という合意を、契約の内容に含めておく必要があるためです。契約書に仲裁判断の拘束力を明記することで、上記の合意が契約の一部となります。
2つ目の理由は、訴訟を提起する権利を相互に放棄する必要があるためです。仲裁判断が最終的な紛争解決であることを明記すれば、訴訟を提起しても訴えの利益が否定されます。
- 仲裁判断が当事者を拘束する旨の記載
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この契約からまたはこの契約に関連して生ずることがある全ての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会が行う仲裁により最終的に解決されるものとする。
仲裁人の数・仲裁言語
上記の各事項に加えて、仲裁手続きについてより具体的かつ詳細な規定を置く場合もあります。例えば、仲裁人の数や仲裁言語について定めるケースが多いです。
- 仲裁人の数・仲裁言語の指定
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仲裁人の数は○人とする。
仲裁手続きは日本語で行われるものとする。
それ以外に、仲裁人の国籍・資格・経験などについて定めるケースもあります。
仲裁条項をレビューする際の注意点
仲裁条項をレビューする場合、以下の各点を意識して確認を行いましょう。
✅ 裁判と仲裁を比較した上で選択する
✅ 仲裁手続きの内容を適切に定める
✅ 実際に仲裁へ発展した場合の相談先を確保する
裁判と仲裁を比較した上で選択する
契約では、仲裁条項に代えて、「合意管轄条項」を定める選択肢もあります。
- 合意管轄条項とは
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合意管轄条項とは、契約上の紛争が生じた場合どの裁判所が管轄を有するかを定める規定をいいます。
管轄裁判所の決め方は、大きく2つあります。
①専属的合意
ある地の裁判所を、対象となる紛争の専属的な管轄裁判所とする合意をいいます。当該合意により、対象となる紛争については、当該裁判所でしか訴訟を提起することができなくなります。②付加的合意
法律上管轄が認められる裁判所に加えて、その他の地の裁判所にも対象となる紛争について管轄を認める合意をいいます。※ただし、実務では①専属的合意を行うのが一般的です。
前述のとおり、仲裁手続きにはさまざまなメリットが存在し、国際取引の契約においては、仲裁のほうが望ましい場面もあります。
しかし、専属的合意により、自国の裁判所のみを管轄裁判所にできる場合には、仲裁ではなく裁判所での訴訟を選択したほうがよいかもしれません。なじみのある裁判制度によって審理が行われますし、自国弁護士のサポートも容易に受けられるからです。
裁判と仲裁は互いに異なる特徴を持つため、どちらを選択すべきかについてはケースバイケースといえます。相手方の属性(国籍など)や契約交渉の状況などを踏まえて、裁判(訴訟)と仲裁のいずれかを選択しましょう。
仲裁手続きの内容を適切に定める
一口に「仲裁」といっても、その手続きの内容はさまざまであり、法律で厳密にルールが決まっている裁判とは異なり、仲裁は法制度の枠組みを離れた紛争解決手続きになります。
そのため、
・仲裁者を誰にするか
・仲裁を行う場所はどこにするか
・仲裁における言語は何にするか
といった細かな点を、当事者同士できちんと合意することが非常に重要となります。
特にポイントとなるのが、仲裁言語と仲裁人の構成です。
仲裁言語については、自国の言語とするのがもっとも望ましいです。しかし、相手方も自国の言語を希望するでしょうから、どちらか一方の国の言語を仲裁言語とするのは難しい面があります。そのため、国際公用語である英語が採用されるケースが多いです。
仲裁人の構成は、公正な判断がなされるよう、当事者双方が納得・確信できるかたちを目指すべきです。
例えば、仲裁人の国籍がどちらか一方の国に偏るのは不適切で、バランスの取れた国籍構成とすべきでしょう。また、取引の内容が複雑な場合には、商慣習への理解が深い人が選任されるように、仲裁人の資格要件や経験要件を設けることが考えられます。
いずれにしても、契約において想定される取引の内容に応じて、仲裁手続きの詳細を適切に定めることが大切です。
実際に仲裁へ発展した場合の相談先を確保する
契約トラブルが実際に仲裁へ持ち込まれた場合、当事者である企業が自社だけで対応することはほぼ不可能です。
仲裁手続きへの対応は、企業法務系の大手法律事務所や、その出身者である弁護士などが主に取り扱っています。万が一契約トラブルが発生した場合に備えて、相談先を確保しておきましょう。
また、仲裁地が海外の場合には、現地弁護士の協力も必要になります。自社にて現地弁護士を用意できない場合は、仲裁対応を国内の弁護士へ依頼する際、現地弁護士を紹介してもらうように頼みましょう。
この記事のまとめ
仲裁条項の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!
参考文献
国際司法学会ウェブサイト「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」