約款とは?
契約書や規約との違い、
改正民法における定型約款のルール
などを分かりやすく解説!

この記事のまとめ

約款とは、事業者(会社)が顧客などの不特定数の者と同じ契約をする際に用いる、定型的な契約条項です。定型的な契約条項を定めておくと、不特定多数の顧客と大量に契約する際、個々に契約内容を定める労力を削減できます。

2020年4月施行の改正民法により、「定型約款」に関するルールが新設されました。事業者が約款を作成する際には、民法の定型約款に関するルールを踏まえる必要があります。

今回は約款について、契約書との違いや関係性、民法における定型約款のルール、約款作成時に事業者が注意すべきポイントなどを解説します。

ヒー

「約款」って何て読むんですか?

ムートン

「やっかん」です。

※この記事は、2022年6月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

約款とは?意味を解説

約款とは、事業者が不特定多数の者と同じ契約をする際に用いる、定型的な契約条項です。通常の契約締結とは異なり、原則として契約内容の交渉はできず、約款の提示を受ける側は、あらかじめ用意された約款に同意するかどうかを選ぶことしかできません。

なお、事業者が一方的に定めた約款に、相手方が同意するしかない契約のことを「附合契約」と言います。

ヒー

約款による契約は、約款の提示を受ける側が圧倒的に不利ですよね。法的に許されていいんですか?

ムートン

確かに、契約交渉ができないという点では不利ですね。ただ、事業者が、多数の者と取引をする際に、個別に契約書を作成・締結していてはビジネスが回りません。そこで、約款による契約が法的にも認められているんです。

ヒー

では、約款の提示を受ける側は「不合理な内容だ」と思っても、一方的に鵜呑みにするしかないんでしょうか…?

ムートン

もちろん、そういった問題点を解消するため、約款が不合理なものとならないよう、各法令で規制が設けられていますよ。

詳しくは「民法の「定型約款」とは」で解説しますが、約款のうち、民法上の要件を満たしたものを「定型約款」と言います。図にすると、以下のようなイメージです。

<約款と定型約款の関係>

約款と契約書・規約の違い

約款と比較されることの多い書面として、「契約書」「規約」が挙げられます。

契約書と約款は、いずれも契約内容を記載した書面であり、事業者・利用者の双方を法的に拘束する点で同様です。ただし、契約書が契約そのものであるのに対して、約款はあくまで契約の一部であり、約款とは別に契約書や同意書が作成されるという違いがあります。

これに対して「規約」という名称は、サービスの利用規約など契約書と同様の扱いをされるものから、法人の内部規則などに至るまで幅広く用いられています。約款と同じ性質の規約もあれば、約款とは全く性質が異なる規約もあり、ケースバイケースです。

約款が作成される場合の具体例

約款は、事業者が不特定多数の利用者に向けてサービスを提供する際に作成されることが多いです。よく見られる約款の例としては、以下のものが挙げられます。

  • ウェブサービスの利用規約
  • スポーツ施設の利用規約
  • 保険約款
  • 電気供給約款
  • ガス供給約款
  • 運送約款
  • 金融機関の約款
  • 工事請負契約約款
    など

事業者が約款を作成するメリット

事業者が約款を作成するメリットとしては、以下の2点が挙げられます。

  1. 全ての利用者を同じルールで管理できる
  2. 事業者が一方的に契約条件を変更できる場合がある

全ての利用者を同じルールで管理できる

一般的に、契約は各取引相手と個別に締結するものです。しかし、自社のサービスが不特定多数を相手にするものの場合、個々の顧客ごとに内容を変え契約締結をすることは難しいというのが実情です。

そこで、不特定多数の利用者にサービスを提供する事業者としては、約款を作成し、全ての利用者を同じルールで管理することで、サービス提供の迅速化・効率化に繋がります。

事業者が一方的に契約条件を変更できる場合がある

契約書の場合、原則として、契約内容を変更する際は、双方の同意が必要です。

しかし、自社が作成した約款が民法上の「定型約款」に該当する場合、民法が定めた手続に従うことで、事業者が一方的に契約条件を変更できることがあります。

無条件で変更が認められるわけではありませんが、仮に変更が認められれば、契約したタイミングにかかわらず同じルールで利用者を管理できるため、事業者にとってとても便利です。そのため、民法上の定型約款のルールに従って、約款を作成することが望ましいと考えられます。

民法改正による約款の変更点

定型約款とは、約款の中でも、2020年4月1日施行の改正民法で新設された、「定型約款」に関する要件を満たしたものを指します。(要件の詳細は「定型約款に当たるための要件」にて後述します。)

事業者が作成する約款は、民法上の定型約款に該当するケースが多いと考えられます。

民法改正で定型約款の規定が設けられた理由

民法の定型約款の規定は、不特定多数の者を相手に取引を行う事業者が契約の締結・管理を円滑に行うことができるように、従来の契約実務を明文化したものです。

大量の取引をすばやく取り扱うためには、全ての者に対して同じ条件を定めることが合理的であるため、民法で規定される以前から、約款による取引が行われてきました。その一方で、利用者は約款の内容をよく確認せずに契約を締結するケースも多いことから、利用者保護を図る必要性もありました。

そこで、2020年4月施行の改正民法により、定型約款に関するルールが整備され、利用者保護を念頭に置きつつも約款の利用を法的に認めました。

定型約款に当たるための要件

民法上の定型約款とは、以下の要件を満たした約款のことを言います。

  1. 「定型取引」において使用されること
  2. 特定の者(事業者)により準備されたものであること
    (民法548条の2第1項)

「定型取引」とは、以下の2つの要件を満たす取引です。

定型取引の要件

✅ 特定の者が、不特定多数の者を対象として行う取引であること
→消費者向け・事業者向けを問わず、同じサービスを不特定多数の利用者に提供するケースや、同じような取引を反復継続して不特定多数の相手方と行うケースなどが想定されています。

✅ 定型約款を利用すること(=取引内容の全部又は一部が画一的であること)が、双方の当事者にとって合理的であること
→「合理的である」というのは、例えば以下のようなメリットがある場合を想定しています。
サービスを提供する側|定型約款を利用することで、迅速かつ効率的なサービス提供が可能となる
サービスを利用する側|定型約款の利用によって、サービス提供のコストが下がり、安価でサービスを利用できるようになる

一般に、不特定多数の者を相手方とする取引について、事業者が約款を準備した場合、その約款は民法上の定型約款に該当するケースが多いと考えられます。

定型約款のみなし合意

事業者が準備した定型約款は、以下のいずれかの手続きをとることにより、利用者との契約内容の一部となります(民法548条の2第1項各号)。これを「みなし合意」といいます。

✅ 双方が、定型約款を契約の内容とする旨の合意をすること
→事業者・利用者相互の合意によって、定型約款を契約内容とすることを決めるパターンです。相対交渉が発生する取引についての適用が想定されています。
✅ 定型約款を準備した者(定型約款準備者)が、あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示すること
→事業者が申込みページなどに利用規約を掲示し、申込みがあった時点で利用規約に同意したものとみなすパターンです。不特定多数の消費者向けのサービスが主に想定されています。

ただし定型約款の条項のうち、下記①②を両方満たすものについては、みなし合意の対象外となります(同条2項)。これは、消費者契約法10条に定められる不当条項規制と同様に、事業者による一般消費者の搾取を防ぐために設けられた規制です。

①相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であること
②定型取引の態様・実情・取引上の社会通念に照らして、信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの

事業者が定型約款の内容を変更する場合、民法の規定に従い、以下の手続を取ることが必要です。

  1. 事業者が一方的に変更できる場合かどうかを確認する
  2. 効力発生時期を定める
  3. 変更内容・効力発生時期を利用者に周知する

①事業者が一方的に変更できる場合かどうかを確認する

以下のいずれかに該当する場合には、定型約款準備者は定型約款を変更することにより、相手方の同意なく契約内容を変更できます(民法548条の4第1項)。

✅ 内容の変更が、相手方にとって利益となるとき
→変更内容が利用者にとって有利である場合は、定型約款の変更による契約変更が一律に認められます。
✅ 内容の変更が契約の目的に反せず、かつ以下の事情に照らして合理的なものであるとき
・変更の必要性(変更する必要はあるか)
・変更後の内容の相当性(変更後の内容は理にかなっているか)
・定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無
・その他の変更に係る事情
→変更内容が相手方にとって不利又は中立的なものである場合、上記の各事情を総合的に考慮した上で、内容変更の可否が判断されます。

事業者が定型約款を変更する際には、変更内容が上記のいずれかに該当していることを確認しなければなりません。特に、相手方にとって不利な定型約款の変更を行う際には、相手方との間でトラブルになる可能性があるので注意が必要です。

②効力発生時期を定める

定型約款の変更を行う場合、効力発生時期(いつから変更後の内容が適用されるか)を定めることが必須とされています(民法548条の4第2項)。変更の決定から効力発生時期までの期間については、変更内容に応じて適切な期間を確保することが大切です。

相手方に有利な内容の変更であれば、周知をもって直ちに効力が発生するものとしても、大きな問題は生じないでしょう。

これに対して、相手方に不利又は中立的な内容の変更である場合、後述するように、変更内容等を適切な方法によって周知しなければ効力を生じません。したがって、周知のために十分な期間を確保する必要があります。

軽微な変更内容であれば、1~2週間程度の周知期間を確保すれば足りると考えられます。これに対して、サービスの本質に関係する重大な変更の場合は、1~2か月程度の周知期間を確保することが望ましいでしょう。

③変更内容・効力発生時期を利用者に周知する

定型約款準備者が、定型約款の変更によって契約内容を変更しようとする場合、インターネットなどの適切な方法により、以下の事項を周知する必要があります(民法548条の4第2項)。

  • 定型約款を変更する旨
  • 変更後の定型約款の内容
  • 変更の効力発生時期

上記事項の周知を怠った場合、相手方に有利な変更であれば効力が生じますが、相手方に不利又は中立的な変更である場合は効力が生じないので注意が必要です(同条3項)。

定型約款の変更手続き

事業者が準備した定型約款を、利用者との契約内容の一部とするためには、以下のいずれかの手続を取ることが必要です(民法548条の2第1項各号)。

✅ 双方が、定型約款を契約の内容とする旨の合意をすること
→事業者・利用者相互の合意によって、定型約款を契約内容とすることを決めるパターンです。相対交渉が発生する取引についての適用が想定されています。
✅ 定型約款を準備した者(定型約款準備者)が、あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示すること
→事業者が申込みページなどに利用規約を掲示し、申込みがあった時点で利用規約に同意したものとみなすパターンです。不特定多数の消費者向けのサービスが主に想定されています。

上記いずれかの手続が行われた上で契約が締結された場合、定型約款の各条項は、当事者を法的に拘束する契約内容の一部となります。

ただし、民法又は消費者契約法の規定に基づき、定型約款の一部の条項が無効となってしまうことがあるので要注意です。どのような条項が無効となるかについては、後述します。

定型約款の表示義務 

定型約款準備者が定型取引を行う際、契約締結前又は契約締結後、一定の期間内に相手方から請求があった場合には、定型約款の内容を示さなければなりません(民法548条の3第1項)。

なお、定型約款の内容の表示は1回でよく、既に定型約款を記載した書面又はデータを提供していれば、さらなる表示を行うことは不要です。

契約締結前に定型約款の内容の表示を請求された際、正当な事由なく拒否すると、定型約款が契約内容に含まれなくなってしまうので注意しましょう(同条2項)。

約款を作成する際の注意点

約款に規定すべき具体的な事項は、事業者が想定している取引の内容によって異なるため、取引ごとに個別の検討が必要です。

ただし、全ての約款に共通する注意事項として、以下の2点には最低限留意しておきましょう。

  • 民法・消費者契約法に基づく条項の無効に注意する
  • 約款の変更手続を明確に定める

民法・消費者契約法に基づく条項の無効に注意する

約款に以下の内容の条項が含まれている場合、民法又は消費者契約法により、当該条項が無効となってしまいます。

約款の条項が無効になると、トラブルが発生した際、事業者にとって予期せぬ結果を招きかねません。約款を作成する際には、以下のいずれかに該当する条項が含まれていないかをよく確認しましょう。

事業者・消費者を相手方とする取引共通

✅ 相手方の権利を制限する条項・義務を重くする条項であって、信義則に反して利用者の利益を一方的に害するもの(民法548条の2第2項、消費者契約法10条)

消費者を相手方とする取引のみ

✅ 事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項
事業者に責任の有無(損害賠償責任を負うかどうか。以下同じ)を決定する権限を付与する条項
(消費者契約法8条1項1号、3号)

✅ 故意又は重大な過失による事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項
事業者に責任の限度を決定する権限を付与する条項
(同項2号、4号)

✅ 利用者の解除権(契約を解除する権利)を放棄させる条項
事業者に、利用者が解除権をもつかどうか(解除権の有無)を決定する権限を付与する条項
(消費者契約法8条の2)

✅ 利用者が後見開始・保佐開始・補助開始の審判を受けたことのみを理由として、事業者に解除権を付与する条項(消費者契約法8条の3。ただし、利用者が事業者に対して物品・権利・サービス等を提供する場合を除く)

✅ 利用者が支払う損害賠償の額を予定した条項・違約金を定める条項のうち、事業者に生ずべき平均的な損害額を超える部分(消費者契約法9条1号)

✅ 利用者が支払う遅延損害金を定める条項のうち、未払額に対して年14.6%を超える部分(同条2号)

約款の変更手続を明確に定める

約款の変更手続を定める条項は、画一的な取引条件を定めるという約款の本質に関係するため、全ての条項の中でも重要度が高いものと言えます。

そのため、約款を作成する際には、変更手続のフローを明確に定めておきましょう。特に、相手方に不利な内容の約款変更を行う際には、約款の中で変更手続が具体的かつ適切に定められているかどうかが、契約変更の有効性を判断する際の重要な考慮要素となります。

2020年4月の改正民法施行以降、新設された定型約款の規定に対応する改定が行われていない約款もよく見られます。自社で使用している約款の見直しが済んでいない場合には、早めに改定作業へ着手してください。

この記事のまとめ

約款の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

消費者庁「第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)」

潮見佳男著『民法(債権関係)改正法の概要』きんざい、2017年

滝川宜信著『リーダーを目指す人のための実践企業法務入門〔全訂版〕』民事法研究会、2018年

喜多村勝德著『契約の法務 第2版 [勁草法律実務シリーズ]』勁草書房、2019年

独立行政法人中小企業基盤整備機構「民法改正による新制度(第1回)- 定型約款」