IT重説とは?
メリット・要件・注意点・
スムーズに実施するためのポイントなどを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「IT重説」とは、テレビ会議などのITを活用してオンラインで行う重要事項説明です。
「重要事項説明」とは、宅地または建物の売買等やその媒介に当たり、宅地建物取引業者が相手方(顧客)に対して行うべき説明です。宅地建物取引業法35条によって義務付けられています。
従来は対面での実施が求められていましたが、2017年にIT重説が導入され、2021年3月30日より本格運用が開始されました。IT重説の活用により、顧客の負担軽減をはじめとするさまざまなメリットが期待されます。その一方で、機材トラブルが発生するリスクもあるので、宅地建物取引業者においてあらかじめ対策を講じておかなければなりません。
また、対面での重要事項説明に比べると、IT重説では顧客に対して説明が伝わりにくい部分があります。宅地建物取引業者においては、説明の仕方や資料を工夫するなどの対応が求められます。
この記事ではIT重説について、メリット・要件・注意点・スムーズに実施するためのポイントなどを解説します。
※この記事は、2024年3月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 法…宅地建物取引業法
- 令…宅地建物取引業法施行令
- 規則…宅地建物取引業法施行規則
目次
IT重説とは
「IT重説」とは、テレビ会議などのITを活用してオンラインで行う重要事項説明です。
重説(重要事項説明)とは
「重要事項説明」とは、宅地または建物の売買等やその媒介に当たり、宅地建物取引業者が相手方(顧客)に対して行うべき説明です。宅地建物取引業法35条によって義務付けられています。
従来は対面で重要事項説明を行うことが求められていましたが、2017年にIT重説が導入され、2021年3月30日より本格運用が開始されました。
IT重説が導入された背景
IT重説の導入は、ITを利用して不動産取引の利便性を向上させることを目的としています。
2013年6月14日に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」を受けて、同年12月に「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン」が作成されました。
同プランの中で、不動産取引における重要事項説明の対面原則が見直しの対象となり、有識者会議においてIT重説の導入に関する検討が行われました。
その後、個人・法人間の不動産売買および不動産賃貸借を対象にIT重説の社会実験が行われ、2017年に導入、2021年3月30日より本格運用が開始されました。
IT重説=オンラインで実施する重要事項説明
IT重説は、オンラインで実施する重要事項説明です。
宅地建物取引業者は、不動産の購入や賃借を希望する顧客に対して、重要事項説明書その他の説明資料を事前に送付します。
そして契約締結に先立ち、宅地建物取引士と顧客をテレビ会議などで繋ぎ、オンラインで重要事項説明を行います。
IT重説によって説明すべき重要事項
宅地建物取引業者による重要事項説明は、宅地または建物の売買・交換・賃借の相手方に対して、以下の事項を記載した書面を交付して行います(法35条1項)。IT重説においても、重要事項説明書に沿って以下の事項を説明する必要があります。
① 当該宅地・建物の上に存する登記された権利に関する以下の事項
(a) 権利の種類、内容
(b) 登記名義人または登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人の場合は名称)
② 都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限で、契約内容の別に応じて令3条で定めるものに関する事項の概要
③ 当該契約が建物の貸借の契約以外のものであるときは、私道に関する負担に関する事項
④ 飲用水・電気・ガスの供給ならびに排水のための施設の整備の状況(これらの施設が整備されていない場合は、その整備の見通しおよびその整備についての特別の負担に関する事項)
⑤ 宅地の造成または建築に関する工事の完了前であるときは、完了時における以下の事項
(a) 宅地の場合は、造成工事完了時における接道の構造と幅員
(b) 建物の場合は、建築工事完了時における建物の主要構造部、内装および外装の構造または仕上げ、ならびに設備の設置および構造
⑥ 建物が区分所有権の目的であるときは、以下の事項
(a) 当該建物を所有するための一棟の建物の敷地に関する権利の種類、内容
(b) 規約に以下の事項に関する定めがあるときは、その内容
・共用部分
・専有部分の用途その他の利用の制限
・一棟の建物またはその敷地の一部を、特定の者にのみ使用を許す旨
・修繕積立金、管理費用その他の建物の所有者が負担しなければならない費用を、特定の者にのみ減免する旨
・一棟の建物の計画的な維持修繕のための費用の積立てを行う旨(既に積み立てられている額も記載する)
(c) 建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額
(d) 一棟の建物および敷地の管理を委託しているときは、受託者の氏名および住所(法人の場合は商号・名称と主たる事務所の所在地)
(e) 一棟の建物の維持修繕の実施状況が記録されているときは、その内容
⑦ 既存の建物であるときは、次に掲げる事項
(a) 建物状況調査を実施しているかどうか、および実施している場合はその結果の概要
(b) 設計図書、点検記録等の保存状況
⑧ 代金・交換差金・借賃以外に授受される金銭の額、および当該金銭の授受の目的
⑨ 契約の解除に関する事項
⑩ 損害賠償額の予定または違約金に関する事項
⑪ 手付金等を受領しようとする場合における保全措置の概要
⑫ 支払金または預り金を受領しようとする場合において、保証措置等の保全措置を講ずるかどうか、及び講ずる場合はその措置の概要
⑬ 代金または交換差金に関する金銭の貸借のあっせんの内容、および当該あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置
⑭ 契約不適合責任(瑕疵担保責任)に関して保証保険契約の締結等の措置を講ずるかどうか、及び講ずる場合はその措置の概要
⑮ その他、宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護の必要性および契約内容の別を勘案して、規則16条の4の3で定める事項
IT重説のメリット
IT重説には、不動産取引を行う消費者にとっての利便性を向上させるメリットがあります。
IT重説の主なメリットは、以下のとおりです。
- IT重説のメリット
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① 遠方の顧客の負担(移動・費用等)が減少する
② 重要事項説明の日程調整の幅が広がる
③ 顧客がリラックスした環境で重要事項説明を受けられる
④ 来店が難しい場合でも、契約者本人に対して重要事項説明ができる
遠方の顧客の負担(移動・費用等)が減少する
従来の重要事項説明は対面で行う必要があったため、顧客が宅地建物取引業者の事務所などへ来店しなければなりませんでした。遠方の顧客にとっては、移動時間や費用などが大きな負担となってしまいます。
IT重説が認められたことにより、遠方の顧客は在宅で重要事項説明を受けられるようになり、移動時間や費用の負担を抑えることが可能となりました。
重要事項説明の日程調整の幅が広がる
宅地建物取引業者の事務所などで重要事項説明を行う場合、移動時間を含めてまとまった時間を確保しなければなりません。仕事などが忙しい方は、日程調整に苦労することが多いです。
IT重説は、対面での重要事項説明に比べて移動時間を節約できるため、従来よりも日程調整を柔軟に行うことができます。
顧客がリラックスした環境で重要事項説明を受けられる
自宅などのリラックスした環境で顧客が需要事項説明を受けられる点も、IT重説のメリットの一つです。
また、事前に送付された重要事項説明書を読み込んで、疑問点等に関する質問を準備できるため、重要事項説明の理解が深まることも期待されます。
来店が難しい場合でも、契約者本人に対して重要事項説明ができる
ケガや感染症などの影響により、顧客が宅地建物取引業者の事務所へ来店することが難しいケースもあります。従来は対面での重要事項説明が必須とされていたため、このような場合には代理人が事務所を訪問する必要がありました。
IT重説を利用すれば、事務所への来店が困難な顧客に対しても、オンラインで直接重要事項説明を行い、より確実に説明の内容を伝えることができます。
IT重説を実施する際に満たすべき要件
IT重説を実施する際には、以下の要件を満たさなければなりません。
- IT重説を実施する際に満たすべき要件
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① 双方向でやりとりできるIT環境を整えること|カメラ・マイクはオンに
② 重要事項説明書等を事前に送付すること
③ 説明を始める前に、顧客側の状況を確認すること
④ 宅地建物取引士証を示し、顧客が視認できたことを確認すること
双方向でやりとりできるIT環境を整えること|カメラ・マイクはオンに
IT重説の実施に当たっては、映像と音声を通じて双方向でやりとりできるIT環境を整えなければなりません。カメラとマイクは、いずれもオンにしておく必要があります。
映像面では、少なくとも顧客の側において、宅地建物取引士証を視認できるだけの大きさ・拡大機能・解像度等を備えたディスプレイを準備しなければなりません。宅地建物取引業者の側でも、宅地建物取引士証や資料を鮮明に投影できる機器を準備する必要があります。
資料を画面上で示す場合には、その内容を容易に確認できるような大きさ・解像度のディスプレイを用意すべきです。顧客がスマートフォンなどの小さい画面で重要事項説明を受ける場合は、画面上に資料を示すのではなく、事前に資料を送付することが望ましいでしょう。
マイクや音響機器については、通常の性能を備えていれば問題ありません。ただし、設定の問題で音声が出ないトラブルも生じ得るので、事前に設定を確認しておきましょう。
重要事項説明書等を事前に送付すること
IT重説に先立ち、宅地建物取引業者は顧客に対して、重要事項説明書を事前に送付する必要があります。顧客が重要事項説明書の内容を確認できるように、事前送付からIT重説の実施までには一定の期間を確保することが望ましいでしょう。
なお重要事項説明書は、宅地建物取引士が記名・押印した書面にて交付する必要があります。PDFファイルなど、電子ファイルでの送信は認められません。
説明を始める前に、顧客側の状況を確認すること
IT重説を開始する前に、宅地建物取引士は、
✅ 顧客が重要事項説明書等を確認しながら説明を受けられる状態にあること
✅ IT環境が整っていること
を確認する必要があります。
具体的には、以下の事項を顧客に質問するなどして確認すべきです。
- 映像が互いに明瞭に視認できること(例:表情が判別できるかどうか)
- 映像が互いに動画として視認できること(例:静止画の状態が続くなどの不具合がないか)
- 音声が互いに明瞭に聞き取れ、内容が判別できること(例:言葉の意味が判別できるかどうか)
宅地建物取引士証を示し、顧客が視認できたことを確認すること
IT重説の際には、宅地建物取引士が顧客に対し、画面上で宅地建物取引士証を示す必要があります。
IT重説における宅地建物取引士証の確認は、以下の流れで行います。
(a) 宅地建物取引士が顧客に対して、取引士証を示す。
(b) 宅地建物取引士が顧客に対して、自分の顔と取引士証の写真が同一人物であることを確認するよう求める。顧客は同一人物であると確認した旨を宅地建物取引士に伝える。
(c) 宅地建物取引士が顧客に対して、取引士証に記載されている取引士名と登録番号を声に出して読み上げるよう求める。顧客は取引士名と登録番号を読み上げ、確認ができた旨を伝える。
(d) 最後に宅地建物取引士が顧客に対して、取引士証を確認した旨を答えるよう求め、顧客は確認した旨を回答する。
IT重説を実施する際の注意点
宅地建物取引士がIT重説を実施する際には、顧客とのトラブルを防ぐため、以下の各点に注意しましょう。
- IT重説を実施する際の注意点
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① 顧客側の意向を確認し、記録に残す
② IT重説の途中でトラブルが発生した場合の対応
③ IT重説を実施する場合でも、事前に内覧を勧める
顧客側の意向を確認し、記録に残す
不動産取引における重要事項説明は、対面とIT重説の両方を選択可能です。選択に当たっては、顧客の意向を確認する必要があります。
重要事項説明に関するトラブルを避けるためには、その実施方法に関する顧客の意向・選択を確認し、記録に残しておきましょう。
IT重説の途中でトラブルが発生した場合の対応
何らかの事情により映像の視認や音声の聞き取りに支障・トラブルが生じた場合は、IT重説を中断し、支障を解消する必要があります。
どうしてもトラブルを解消できない場合には、残りの重要事項説明を対面で実施することも可能です。
IT重説を実施する場合でも、事前に内覧を勧める
IT重説が行われる物件については、買主や賃借人が事前の内覧を一切しないケースが少なくありません。
しかし、購入後や賃借後に初めて物件を確認すると、想像していた様子と異なるなどの理由でトラブルが発生するリスクが高くなります。IT重説を実施する場合でも、宅地建物取引業者は顧客に対し、できる限り内覧をするよう勧めるべきでしょう。
スムーズにIT重説を実施するためのポイント
宅地建物取引業者がスムーズにIT重説を実施するためには、顧客にとって分かりやすいように、説明の仕方や資料などを工夫することが大切です。
対面の場合と比べて、画面上での説明はうまく資料が読み取れないなどのトラブルが生じるケースがよくあります。このようなIT重説の特徴を踏まえつつ、分かりやすい説明を心がけましょう。
また、実際にIT重説を行う宅地建物取引士に対して、定期的に研修を実施することも効果的です。
実施手順や説明の仕方などについて、研修を通じて事前にインプットしておけば、IT重説をスムーズに行うことができ、顧客とのトラブルのリスクを抑えられます。
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