「準用」とは?
意味・「適用」との違い・法律における使用例・
契約書レビュー時の注意点などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「準用」とは、ある事項に関する法律・契約等の規定を、別の類似した事項に対し、必要な修正を加えた上で適用することをいいます。「適用」は本来のルールをそのまま適用しますが、「準用」の場合は必要な修正が加えられる点が異なります。
「準用」を用いることのメリットは、同じようなルールを繰り返し定める必要がなくなる点です。その反面、本来のルールにどのような修正を加えるべきかについて解釈の余地が生まれ、条文の内容が不明確になりやすい難点があります。
契約書では、条文の内容を明確化する必要性が高いため、「準用」を積極的に用いるべきではありません。複数の場合分けについて、適用されるルールの大部分が共通しているケースであれば「準用」を用いてもよいですが、条文の内容に不明確な部分が残らないかを慎重に確認しましょう。
この記事では「準用」について、適用との違い・法律における使用例・契約書レビュー時の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年12月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
「準用」とは
「準用」とは、ある事項に関する法律・契約等の規定を、別の類似した事項に対し、必要な修正を加えた上で適用することをいいます。
法律や契約では、類似した事項に関するルールを別々の条文で定めるケースがよくあります。その際には、
① 最初に登場する事項に関する規定で詳細なルールを定めた上で、
② 後から登場する事項については、そのルールを「準用」する
といった形がとられることがあります。
「準用」と「適用」の違い
法律や契約のルールを、そのルールが本来想定する事項に当てはめることは「適用」と呼ばれます。これに対して「準用」は、本来想定する事項ではないものの、それと類似した事項にルールを当てはめるものです。
「適用」は本来のルールをそのまま適用しますが、「準用」の場合は、本来想定する事項と対象事項の間の相違に応じて、必要な修正が加わる場合がある点が異なります。
「準用」のメリット・デメリット
「準用」を用いることのメリットは、同じようなルールを繰り返し定める必要がなくなる点です。その反面、本来のルールにどのような修正を加えるべきかについて解釈の余地が生まれ、条文の内容が不明確になりやすい難点があります。
「準用」のメリット
法律や契約において、すでに登場した条文を準用すれば、同じようなルールを繰り返し定める必要がなくなります。その結果、以下のようなメリットを得ることができます。
- 条文の分量が減り、読みやすくなります。
- 準用元の事項と準用先の事項で、おおむね同等のルールが適用されることが明確になります(双方の条文を逐一比較する必要がないため、分かりやすくなります)。
「準用」のデメリット
ただし、すでに登場した条文を準用する場合は、本来想定する事項と対象事項の間の相違に応じて、必要な修正を加えるべきケースがあります。どのような修正を加えるかについては、事項間の相違を具体的に分析して決める必要がありますが、その解釈について当事者間で違いが生じることも想定されます。
法律の条文であれば、立法趣旨・学問的研究・判例などを通じて、統一的な解釈が確立されるケースも多いです。その場合は、条文解釈について不明確な点は解消されます。
これに対して契約の条文は、当事者間における取引の内容に応じて個別に解釈すべきものであり、統一的な解釈は存在しないのが通常です。したがって、契約の条文を「準用」すると、契約解釈に関して不明確な部分が生じるおそれがある点に注意しなければなりません。
民法における「準用」の使用例・条文例
民法では、条文が他の規定について準用されている箇所があります。その一例として、以下の5つを紹介します。
① 占有の中止等による取得時効の中断(民法162条~165条)
② 契約の解除と同時履行(民法546条、533条)
③ 有償契約における売買の規定の準用(民法559条)
④ 賃貸借における使用貸借の規定の準用(民法616条、622条)
⑤ 準委任における委任の規定の準用(民法656条)
占有の中止等による取得時効の中断
民法
(所有権の取得時効)
第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。(所有権以外の財産権の取得時効)
第163条 所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する。(占有の中止等による取得時効の中断)
第164条 第162条の規定による時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有を奪われたときは、中断する。第165条 前条の規定は、第163条の場合について準用する。
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民法162条から165条では、所有権その他の財産権の取得時効と、取得時効が中断するケースについて定めています。
民法163条では「前条(=民法162条)の区別に従い」として、所有権以外の財産権の取得時効も、所有権の取得時効と同様に10年または20年で完成する旨を定めています。これは実質的な準用といえるでしょう。
なお、所有権については「占有」が基準とされていますが、所有権以外の財産権については「権利の行使」が基準となります。
また民法165条では、民法164条の規定を民法163条の場合に「準用する」と記載されています。
これは、所有権以外の財産権の取得時効も所有権の取得時効と同様に、占有(権利の行使)の中止等(民法164条)によって中断するという意味です。
契約の解除と同時履行
民法
(同時履行の抗弁)
第533条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。(解除の効果)
第545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。(契約の解除と同時履行)
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第546条 第533条の規定は、前条の場合について準用する。
民法545条では、契約の解除権を行使した場合において、各当事者が原状回復義務を負う旨を定めています。
民法546条では、民法533条(=同時履行の抗弁)の規定を民法545条の場合(=契約の解除権を行使した場合)について準用するとしています。
これは、契約解除に伴う原状回復義務が同時履行の関係に立ち、相手方が原状回復義務を履行するまで、自分の原状回復義務の履行を拒めるという意味です。
有償契約における売買の規定の準用
民法
第2章 契約
第3節 売買
第555条~第558条 略(有償契約への準用)
第559条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。第560条~第585条 略
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民法559条では、第2章第3節(売買)の規定を、売買以外の有償契約について準用する旨を定めています。
第2章第3節では、売買に関して以下の規定が定められています。
- 売買(555条)
- 売買の一方の予約(556条)
- 手付(557条)
- 売買契約に関する費用(558条)
- 権利移転の対抗要件に係る売主の義務(560条)
- 他人の権利の売買における売主の義務(561条)
- 契約不適合責任(562条~567条)
- 競売における担保責任等(568条)
- 債権の売主の担保責任(569条)
- 抵当権等がある場合の買主による費用の償還請求(570条)
- 担保責任を負わない旨の特約(572条)
- 代金の支払い(573条~578条)
- 買戻し(579条~585条)
請負契約などの有償契約においては、その性質上可能な限り、上記の売買に関する規定が準用されます。ただし、例えば売買契約の内容自体を定める民法555条は、他の種類の有償契約には当てはまらないので準用されません。
賃貸借における使用貸借の規定の準用
民法
(借主による使用及び収益)
第594条 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
2、3 略(期間満了等による使用貸借の終了)
第597条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。
2、3 略(借主による収去等)
第599条 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
3 略(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)
第600条 契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
2 前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。(賃借人による使用及び収益)
第616条 第594条第1項の規定は、賃貸借について準用する。(使用貸借の規定の準用)
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第622条 第597条第1項、第599条第1項及び第2項並びに第600条の規定は、賃貸借について準用する。
民法616条および622条では、賃貸借について使用貸借に関する各種規定を準用する旨が定められています。
賃貸借と使用貸借は、有償か無償かが異なるものの、物を貸し借りする点では同じです。したがって、賃貸借と使用貸借では共通のルールを適用すべきケースが多いため、使用貸借に関するさまざまな条文が賃貸借について準用されています。
準委任における委任の規定の準用
民法
第2章 契約
第10節 委任
第643条~第655条 略(準委任)
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第656条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。
民法656条では、委任の規定を準委任について準用する旨を定めています。
委任は法律行為の受委託、準委任は法律行為でない事務の受委託を内容とする契約です。対象事項が異なるものの、何らかの事項を委託および受託する契約である点は共通しているため、委任の規定が全面的に準委任について準用されています。
「準用」に関する契約書レビュー時の注意点
契約書では、「準用」を積極的に用いるべきではありません。条文を別の規定に準用すると、契約内容が不明確になるおそれがあるためです。
契約書において準用を行うのは、複数の場合分けについて、適用されるルールの大部分が共通しているケースに限定すべきでしょう。ただし契約書をレビューする際に、条文の意味に不明確な部分がないことを確認すべきです。
例えば国土交通省が公表している「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」17条4項では、法定検査不合格時の再検査について、法定検査の手順に関する規定を準用する旨を定めています。
民間建設工事標準請負契約約款(乙) (法定検査) 第17条 前条の規定にかかわらず、受注者は、法定検査(建築基準法(昭和25年法律第201号)第7条から第7条の4までに規定する検査その他設計図書に定める法令上必要とされる関係機関による検査のうち、発注者が申請者となっているものをいう。以下同じ。)に先立つ適切な時期に、工事の内容が設計図書のとおりに実施されていることを確認して、発注者に対し、検査(発注者が立会いを監理者に委託した場合は、監理者の立会いのもとに行う検査)を求める。 2 前項の検査に合格しないときは、受注者は、工期内又は発注者(発注者がこの項の業務を監理者に委託した場合は、監理者)の指定する期間内に、修補し、又は改造して発注者に対し、検査(発注者が立会いを監理者に委託した場合は、監理者の立会いのもとに行う検査)を求める。 3 発注者は、受注者及び監理者立会いのもと、法定検査を受ける。この場合において、受注者は、必要な協力をする。 4 法定検査に合格しないときは、受注者は、修補、改造その他必要な処置を行い、その後については、前3項の規定を準用する。 5、6 略 参考:国土交通省「民間建設工事標準請負契約約款(乙)」17条 |
初回の法定検査と2回目以降の再検査が同様の要領で行われるのであれば、契約解釈について不明確な点はないため、17条1項から3項の規定を再検査について準用することは適切と考えられます。
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