解雇規制の緩和とは?
プラス・マイナスの影響や
今後の対応を分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

解雇規制の緩和について、企業はさまざまな対応が必要です。

・解雇規制の緩和は、金銭解決制度の導入人材の流動化を促す目的で導入が検討されています。
・解雇規制の緩和により、転職や雇用創出が盛んになる可能性がありますが、安易な解雇の横行が懸念されています。
・解雇規制の緩和にむけて、企業は労働環境や人事評価制度の整備、リスキリング支援制度の導入などが求められます。

本記事では、解雇規制の緩和について解説します。

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解雇規制の緩和がニュースで話題ですが、労働市場や企業にはどういった影響があるのでしょうか。

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解雇規制の緩和によって、プラスの影響もマイナスの影響もあります。それぞれをよく理解して対策を立てましょう。

※この記事は、2025 年7月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

解雇規制とは

解雇規制とは、企業が従業員を解雇する際に遵守すべき法律や判例による制限のことです。労働者を保護する観点で設けられており、企業が解雇を言い渡す際は厳しい制限をクリアしなければなりません。

法的な解雇規制の定義や解雇の種類などを解説します。

労働契約法16条で定められた解雇規制(解雇権濫用の法理)

企業が従業員を解雇する際の根拠法規が、労働契約法16条に定められた「解雇権濫用の法理」です。この条文では、解雇には「客観的に合理的な理由」が存在し、かつその解雇が「社会通念上相当」であると認められない限り、企業が持つ解雇権の濫用とみなされ「無効」となることを規定しています。

企業側は、解雇の正当性を証明する責任を負っており、能力不足や軽微な規律違反だけでは解雇要件を満たせない場合があります。たとえ労働基準法に基づき解雇予告手当を支払ったとしても、この法理の要件をクリアできなければ、解雇は無効です。

解雇の種類は3つ(普通解雇・懲戒解雇・整理解雇)

解雇の種類は、以下の3つに分かれます。

  • 普通解雇:社員の能力不足や勤務態度の不良を理由とした解雇
  • 懲戒解雇:横領や業務命令違反など企業の秩序を著しく乱したことを理由とした解雇
  • 整理解雇:企業の経営不振など経営上の問題を理由とした解雇

普通解雇では、企業側は改善のための指導や教育を繰り返し行なった記録、配置転換など解雇を回避するための努力を尽くしたことを客観的に示す必要があります。

懲戒解雇では就業規則に懲戒事由の明確な規定があることや、本人に弁明の機会を与えることなどが求められます。

整理解雇については、労働者本人に責任がないため、後述のより一層厳しい要件を満たさなければなりません。解雇する理由や事案に応じて、適切な対応を取ることが大切です。

整理解雇の4要件(要素)

企業の経営不振などを理由とする「整理解雇」は、労働者に帰責性がありません。そのため、特に厳しい基準をクリアすることが求められます。

整理解雇は判例上、以下の4つの要件(要素)を総合的に勘案し、その妥当性が判断されます。

  1. 人員削減の必要性:人員整理が必要とされる客観的な理由があること
  2. 解雇回避努力義務の履行:解雇以外のあらゆる手段を尽くしていること
  3. 被解雇者選定の合理性:解雇対象者の人選基準が客観的で合理的なものであること
  4. 手続きの妥当性:整理解雇の必要性や内容について従業員に十分な説明を行い、誠実な協議を尽くしたこと

人員削減の必要性については、経営指標など客観的なデータをもとに、人員削減をしなければ企業の維持が困難な状況を証明する必要があります。解雇回避努力義務としては、希望退職者の募集、役員報酬のカット、新規採用の停止などをしてきたかどうかがポイントです。

被解雇者選定の合理性は、勤続年数や勤務成績などから解雇者を選定しているかどうか、恣意的な判断が介在していないかを証明する必要があります。手続きの妥当性については、協議の記録などを用意しておくと妥当性を証明しやすいです。

解雇規制緩和のなかで議論される金銭解決制度

2024年9月に実施された自由民主党の総裁選挙において「解雇規制の緩和」が大きな論点となりました。その中で「解雇の金銭解決制度」が議論されています。同制度の概要や導入が検討される理由、企業や労働者への影響を解説します。

解雇の金銭解決制度とは

解雇の金銭解決制度とは、裁判などで解雇無効と認められた際に、使用者が労働者へ一定の解決金を支払うことで雇用契約を終了させることを認めるものです。

英国やドイツなどの諸外国で制度化されていますが、日本では法制化されていません。

制度の導入が検討される背景

制度の導入が検討される理由としては、労働トラブルの長期化を防ぎ、企業の経営上のリスク低減や労働者の早期再就職が期待できることが挙げられます。訴訟になると解決までに時間がかかるため、復職を望まない労働者や、信頼関係が崩れた労働者の再雇用が難しい企業にとっては、解雇規制は紛争の長期化を招いていました。制度を導入することで、企業は柔軟な経営や適切な人材配置が可能になります。

企業や労働者への影響

企業には前述のように経営に柔軟性が生まれますが、一方で労働者にとっては「リストラや退職勧奨の手段として悪用される恐れがある」「不当解雇が正当化されかねない」などのリスクもあります。

このように企業視点、労働者視点で意見が分かれるため議論が紛糾し、日本においては法制化に至っていない、というのが現状です。

解雇規制緩和のポジティブな影響

解雇規制を緩和することで生まれるポジティブな影響は、以下の3つです。

  • 日本企業の国際競争力向上
  • 企業の生産性向上と競争力の強化
  • 採用ハードルの低下による雇用の創出
  • 転職機会の増加

解雇規制の緩和により、企業の競争力や新たな雇用の創出などが期待されます。それぞれの影響を解説します。

日本企業の国際競争力向上

解雇規制の緩和が仮に実施されたとなれば、日本経済全体の生産性向上を目的とした人材の流動化」の促進が期待できます

現在の厳しい解雇規制は、企業の柔軟な事業再編を困難にし、成長分野への挑戦をためらわせる要因となっています。DXやGXといった成長分野へ経営資源をシフトさせたい場合でも、余剰人員の整理が難しいため、企業は新規採用に慎重になってしまうのです。

また、労働者も安定した大企業からリスクのある成長企業への転職をためらう傾向が強まります。

こうした規制が緩和され人材の流動性が高まれば、産業の新陳代謝が促進され、日本の国際競争力が向上する可能性があります。

企業の生産性向上と競争力の強化

解雇規制が緩和されれば、企業の生産性向上競争力の強化につながる可能性があります。

規制緩和により、経営が困難な事業からの撤退した際の人員整理、著しくパフォーマンスが低い従業員への対応が柔軟になるためです。そのため、企業は限られた人材や資金を、成長分野の事業へ効果的に配分できるのです。よって、企業全体として新たな挑戦やイノベーションの活性化が期待できます。

金銭解決制度が導入されれば、労使間の紛争が長期化するリスクを低減でき、経営の予測可能性が高まります。規制緩和は、コストの削減だけでなく、持続的な成長戦略の実現にもつながるのです。

採用ハードルの低下による雇用の創出

解雇の柔軟性が高まれば、採用のハードルが下がり、雇用が生まれやすくなります

現行の制度では「一度正社員として採用すると、簡単には解雇できない」と感じてしまい、企業が新規採用を身構えてしまいます。規制が緩和されると、金銭によって解決できるという選択肢が生まれれば、企業は「まずは採用して能力や適性を見極めよう」と、積極的な採用判断をしやすくなります。

これにより、まだ実績がないものの高いポテンシャルのある人材や、異なる業種からのキャリアチェンジを目指す人材など、これまで採用の対象から外れがちだった層にも、正社員としての雇用の門戸が広がる可能性があるのです。結果的に、必要な人材の確保にもつながっていきます。

転職機会の増加

解雇規制の緩和によって、転職がしやすくなります。労働市場全体の流動性が高まるため、労働者にとっては自身のスキルや経験をより高く評価してくれる企業へと移る機会が増え、主体的なキャリアアップを実現できるのです。

規制緩和で企業の採用ハードルも下がるため、組織再編が活発になり、多様なポジションでの中途採用ニーズが増加します。従来の終身雇用モデルだけでなく、市場全体の価値を基準とした、より自由で多様なキャリア形成が可能です。

解雇規制緩和のネガティブな影響

解雇規制の緩和による影響は、プラスなものばかりではありません。以下のようにネガティブに捉えられる影響もあります。

  • 雇用の安定性の損失
  • 優秀な人材の流出
  • 安易な解雇の横行

マイナスな影響を理解しておけば、対策も立てやすくなります。それぞれの影響を解説します。

雇用の安定性の損失

解雇規制の緩和には、雇用が不安定になるリスクがあります。企業が以前よりも容易に人員整理を行えるようになるためです。その結果、労働者の地位は不安定になり、生活設計が困難になる場合があります。

例えば、一時的な業績悪化を理由に、これまでなら配置転換などで雇用が維持されていた中高年の従業員が、整理解雇の対象となる可能性も考えられます。

企業には、生産性向上を追求するあまり、従業員の生活基盤を軽視しないよう、慎重な制度運用と手厚い再就職支援などが求められます。

優秀な人材の流出

雇用の流動性が高まれば、優秀な人材の流出を招く可能性があります。

市場価値の高い人材ほど、転職市場での選択肢も豊富です。より安定した雇用を保証する大企業や、より高い報酬を提示する外資系・スタートアップへ移るハードルが低くなることになるのです。

人材流出が盛んになれば、労働者の会社への帰属意識が低下し、企業の生産性やイノベーションにも影響を及ぼします。企業には、優秀な人材が流出しないような工夫が求められます。

安易な解雇の横行

解雇規制の緩和や金銭解決制度の導入は、安易な解雇や退職の強要が横行する可能性があります。例えば金銭解決制度の導入によって、「お金さえ払えば辞めさせられる」といった認識が企業側に広がりかねません。

経営者の個人的な感情や業務上の対立があった場合においても金銭による解決で解雇されてしまっては、労働者の権利が侵害されかねません。また、解決金を支払うと約束して退職を迫り、労働者が精神的に追い詰められるケースも想定されます。このような背景から、解雇規制の緩和においては慎重論が根強くあります。いずれにせよ企業には、法務知識のアップデートに加え、コンプライアンスの遵守がより一層求められていきます。

解雇規制緩和に向けた企業の対応

解雇規制の緩和に備え、企業は以下のような対応をして備えていく必要があります。

  • 労働環境の整備
  • 従業員の評価制度の整備
  • リスキリング支援の導入

早期から整備・導入を進めておくと、実際に解雇規制がはじまったときにもスムーズな対応が可能です。それぞれの対応について解説します。

労働環境の整備

解雇の判断が客観的かつ公正に行われたことを法的に証明できるよう、労働環境の整備が重要となります。

規制が緩和されても「解雇権濫用の法理」がなくなるわけではありません。解雇の正当性を立証する責任は、引き続き企業側にあります。そのため、手続きの透明性や客観的な証拠が、紛争リスクを回避するためには重要です。

まずは、就業規則の解雇事由をより具体的に例示し、労働契約書で職務内容を明確に定義するのがポイントです。これにより「職務不適格」などの判断基準が具体化されます。

また、定期的な面談でのフィードバックや、問題行動に対する指導内容を必ず書面で記録し、本人と共有する文化を組織に根付かせるのも大切です。こうしたことを徹底し、従業員に「この会社は公正なルールで運営されている」という安心感を与えれば、労働トラブルのリスクは少なくなります。

従業員の評価制度の整備

従業員の評価制度を整備しておくのも、規制緩和がはじまったときに向けて重要な準備です。

企業が解雇する人を決める際は、客観的なデータとして従業員の評価が大きく影響します。根拠となる評価制度が評価者の主観に依存していたり、基準が曖昧だったりすれば、解雇は無効と判断されるリスクがあります。不公平な評価制度になっていると、優秀な人材の流出につながることも考えられます。

評価制度を整備する際は、職種に応じたKPI(重要業績評価指標)の達成度など、客観的な指標に基づいた評価制度を導入するのが大切です。

また、評価結果を従業員へ伝える際は、評価とあわせて具体的なフィードバックと次期に向けた改善のアクションプランも伝えると、従業員のモチベーションアップにもなります。

組織全体の生産性を向上させるためにも、評価制度を今一度見直してください。

リスキリング支援の導入

人材の流動化に備えて、企業は従業員のリスキリング(学び直し)を積極的に支援する体制を整えておくとよいです。

事業構造の変化に伴い、既存のスキルが陳腐化するスピードは加速しています。社内で新たなスキルを習得する機会が提供できれば、事業転換による人材の配置換えが可能になり「解雇回避努力義務」を果たすことにもなります。加えて、従業員のキャリア自律を支援する姿勢は、成長意欲の高い人材にとって大きな魅力となり、人材の定着効果も期待できます。

整備の具体例は、以下のとおりです。

  • 資格取得費用の補助制度の拡充
  • 全社的なオンライン学習プラットフォームの導入
  • 専門スキルを学ぶための外部研修への派遣
  • 社内へのキャリア相談窓口の設置

リスキリング支援は、従業員と企業双方において重要な投資となります。転職が盛んな時代にあわせた支援制度を整えておくとよいです。

ムートン

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参考文献

厚生労働省「「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」報告書 概要」

監修者

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遠藤良介 社会保険労務士(愛知社労士会所属)
Reメンバー労務オフィス
労務相談、社会保険・労働保険手続き、社内規定類作成、ライフプランニング相談ほか