契約義務に違反してしまったら?発生時のリスクと未然に防ぐための方法を解説!

この記事のまとめ

この記事では、契約義務に違反してしまった場合のリスク、契約義務に違反しないために気を付けること、などを解説します。

※この記事は、2021年7月27日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

契約義務に違反してしまったら?

基本的な対応の方針

契約上の義務に違反してしまった場合、相手方からいきなり訴訟を提起などされない限り、示談(話し合い)で解決を目指すことになります。

そもそも契約上の義務は、相手方としてはどうしても守ってほしいからこそ、契約に盛り込んでいるものが多いです。

また、契約書を作成していない場合などは、「どちらに責任があるのか」につき曖昧な部分が残ることがある一方、契約書を作成してる場合は、契約義務に違反したことは明確です(契約義務に違反したのかどうか、に疑義がある場合はそれが争点となります。)。
したがって契約違反は、同じ程度の損害が発生しているとしても、違反した側にとっては、契約書作成に至っていない場合のビジネス上のトラブルと比べて、深刻なものと捉える必要があります
話し合いで解決できない場合、違反された側が以下のような措置を取る可能性があります。

✅契約を終わらせる(解除)。
✅支払期限になっていないものを含めて、支払いを請求する(期限の利益の喪失)。
✅損害賠償を請求する。
✅差止請求をする(差止請求権)。
etc …

上記の契約解除、期限の利益喪失、損害賠償の請求などは多くの場合、契約に記載があるものです。

トラブルになったときに、これらの条項をしっかり理解していることは、適切な対応の前提になります。

また契約に記載がない内容についても民法上の規定が適用される場合があるので、この点に関する知識も必要です。
以下、違反された側が取りうる手段について、個別に解説していきます。

契約の解除

具体例

株式会社Aは、株式会社Bと継続的な売買契約を締結していた。
Aが買主、Bが売主である。
Aの業績悪化により、AはBに対して代金の支払いを遅延するようになった。遅延が何度も続き、Bが改善を促しても改善されなかったため、BはAに対して催告の書面を送った上で、売買契約の解除通知書を送付した。

民法における「契約の解除」の規定

(解除権の行使)
第540条
1 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は、撤回することができない。

(催告による解除)
第541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

(催告によらない解除)
第542条
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
(1)債務の全部の履行が不能であるとき。
(2)債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(3)債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
(4)契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
(5)前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
(1)債務の一部の履行が不能であるとき。
(2)債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

民法 e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

契約書での条項例とその読み方

記載例

(解除)
1 甲又は乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当した場合には、何らの催告を要しないで直ちに本契約等の全部又は一部を解除することができる。ただし、当該事由が解除を行う当事者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、当該事由により解除をすることはできない。
(1) 本契約等のいずれかの条項に違反し、その違反が軽微であるときを除き相当期間を定めて催告をしたにもかかわらず、相当期間内に、違反が是正しないとき
(2) 本契約に関し、相手方による重大な違反又は背信行為があった
(3) 差押え、仮差押え、仮処分、強制執行、競売、滞納処分の申立、その他公権力の処分を受けたとき
(4) 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始その他法的倒産手続の申立を受け、若しくはこれらの申立を行ったとき、又は私的整理の開始があったとき
(5) 支払停止、支払不能に陥ったとき、又は自ら振出しもしくは裏書した手形・小切手が一度でも不渡りとなったとき
(6) 信用の失墜又はその資産の重大な変動等により、甲乙間の信頼関係が損なわれ、本契約の継続が困難であると認める事態が発生したとき
(7) 事業を譲渡し、事業を廃止し、合併し、又は解散したとき
(8) 監督官庁から事業停止処分、又は事業免許若しくは事業登録の取消処分を受けたとき
(9) その他本契約等を継続し難い重大な事由が生じたとき
2 前項に定める解除は、相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。

第2項の、「解除は、相手方に対する損害賠償の請求を妨げない。」とは、解除をした場合、同時に損害賠償の請求をすることも禁止されていない、ということです。

民法上も、解除事由が定められていますが(民法542条など)、民法に定められていない事由により解除したい場合は、契約に定める必要があります。

契約の解除条項には、「契約違反」だけではなくて、以下のような事由を解除事由として定めることが考えられます。

解除事由の例

✅契約違反

✅会社が別の会社に買われた(事業譲渡、会社分割、合併など)

✅会社の経営状態、信用状態の悪化(破産手続開始、差押えなど)

✅事業に必要な登録、免許などを失った(事業免許の取消処分、事業登録の取消処分)

どのように行使されるのか

契約の解除は、意思表示によって行われます(民法540条1項)。民法上は、一定の場合を除き、相当の期間を定めた履行の催告を行い、その期間内に履行がないときに、解除をすることができます(民法541条)。

契約で、無催告解除ができる(催告なしにいきなり解除することができる)と定めることもあります。

契約違反をしてしまった場合、相手方から解除通知書が送られてきて、解除の意思表示をされる可能性があります。

ただし、実際には、いきなり解除の意思表示を行うことは多くはなく、まずは催告がなされ、つまり「一定期間内に履行をしないと解除する」旨が書面などで通知され、履行が可能か否か、などについて話し合いとなることも多いです。

支払の請求(期限の利益の喪失)

具体例

株式会社Aは、B銀行から融資を受けていた(金銭消費貸借を締結していた)。
ところが、Aは業績の悪化によりC銀行に対する貸付金の返還を怠ったことにより、Cから、担保としていたAの所有する不動産の差押えを受けてしまった。
そこで、Bは期限の利益の喪失があったとして、残額の貸付金を全額返還するようにAに請求した。

民法における「期限の利益の喪失」の規定

(期限の利益及びその放棄)
第136条
1 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

(期限の利益の喪失)
第137条
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
(1)債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
(2)債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
(3)債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

民法 e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

契約書での条項例とその読み方

記載例

(期限の利益喪失)
1 本契約の当事者は、本契約又は個別契約の全部又は一部に違反した場合、相手方の書面による通知によって相手方に対して負担する一切の債務(ただし、本契約上の債務に限定されず、かつ金銭債務に限定されない。)につき期限の利益を失い、直ちに相手方に対して全ての債務を弁済しなければならない。
2 本契約の当事者は、次の各号のいずれかに該当する場合、相手方に対して負担する一切の債務(ただし、本契約上の債務に限定されず、かつ金銭債務に限定されない。)につき当然に期限の利益を失い、直ちに相手方に対して全ての債務を弁済しなければならない。
⑴その責に帰すべき事由により非該当者に損害を与えたとき。
⑵代表者が刑事上の訴追を受けたとき、又はその所在が不明になったとき。
⑶監督官庁により事業停止処分、又は事業免許若しくは事業登録の取消処分を受けたとき。
⑷手形又は小切手が不渡となったとき、その他支払停止又は支払不能状態に至ったとき。
⑸破産手続、特別清算手続、会社更生手続又は民事再生手続、その他法的倒産手続(本契約締結後に制定されたものを含む。)開始の申立があったとき、私的整理の開始があったとき、又はそれらのおそれがあるとき。
⑹差押、仮差押、仮処分、競売、租税滞納処分、その他公権力の処分を受けたとき、又はそれらのおそれがあるとき。ただし、本契約等の履行に重大な影響を与えない軽微なものは除く。
⑺資本減少、事業の全部若しくは重要な一部の譲渡、廃止若しくは変更、会社分割、又は合併によらずに解散(法令に基づく解散を含む。)したとき。
⑻法令に違反したとき、又は違反するおそれがある行為を行ったとき。
⑼その他前各号に準ずる事由が発生したとき。

「期限の利益」とは、期限があることによって、債務者(義務を負う当事者)が受ける利益をいいます。例えば、支払期日が定められている場合、この期日までは代金の支払いを請求されない利益、も「期限の利益」といえます。

債務者、例えば代金を支払う義務を負う当事者について、信用状態が悪化した場合に、相手方としては、支払期日にかかわらず、直ちに代金を支払ってほしいと考えます。

そこで、契約に「期限の利益の喪失」条項を定め、当事者に信用状態の悪化などの事由が生じた場合には、債務者は期限の利益を喪失して、直ちに債務を履行する、例えば代金を支払わなければならないと定めることがあります。

「期限の利益の喪失」事由は、解除事由と同じような事由が定められることが多く、契約の中で、解除事由を定めた部分を準用する形で「期限の利益の喪失」事由が定められることもあります。

損害賠償の請求

具体例

食品の卸売業を営む株式会社Aは、食品メーカーである株式会社Bと継続的な売買契約を締結していた。
Aが買主、Bが売主である。
Bの社内のミスにより、納品期日に目的物である食品が納品されないことが複数回発生し、結局、当該食品は廃棄処分となってしまった。
AとBは話し合いを行い、BがAに対して廃棄処分となった分の代金を返還し、更に損害賠償として金銭を支払うことで合意した。

民法における「損害賠償の請求」の規定

(債務不履行による損害賠償)
第415条
1 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
(1)債務の履行が不能であるとき。
(2)債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(3)債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

(損害賠償の範囲)
第416条
1 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

民法 e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

契約書での条項例とその読み方

記載例

(損害賠償)
本契約に違反した当事者は、当該違反に起因又は関連して相手方が被った損害(弁護士費用、逸失利益を含む間接損害、特別損害を含むがこれらに限られない。)を賠償するものとする。

記載例

(損害賠償)
本契約に違反した当事者は、当該違反に起因又は関連して相手方が被った損害を賠償するものとする。

記載例

(損害賠償)
故意又は重過失によって本契約に違反した当事者は、当該違反に起因又は関連して相手方が被った直接かつ通常の損害(弁護士費用、逸失利益を除く。)を賠償するものとする。なお、特別損害についてはその予見可能性にかかわらず損害賠償責任を負わないものとする。

契約で損害賠償について定めなくても、民法に基づく、債務不履行による損害賠償を請求できます(民法415条)。

ただし、民法で定められている損害賠償の範囲を変更する、損害賠償額の上限を定める、などのために契約で損害賠償条項を定めることが考えられます。

民法上、債務不履行により請求できる損害賠償の範囲は、債務不履行により「通常生ずべき損害」(通常損害)及び、「当事者がその事情を予見すべき」であった「特別の事情により生じた損害」(特別損害)です(民法416条)。

どのように行使されるのか

契約違反により、一方当事者に損害が発生した場合、いきなり損害賠償の請求を求めて訴訟を提起する、といったことは少なく、まずは話し合いで解決することが多いです。

当事者間で話し合いを行い、話し合いがまとまれば示談契約(和解)を締結することになります。

話し合いが決裂すると、訴訟に移行することになりますが、この場合でも、判決まではいかずに裁判上の和解が成立することも多いです。

契約不履行の3類型まとめ

契約違反を意味する「債務不履行」には、「履行遅滞」「不完全履行」「履行不能」の3種類があります。

履行遅滞

「履行遅滞」とは、契約上の義務(=債務)を履行すべき時期までに履行しないことを意味します(民法412条)。たとえば、借金を返済期限までに返さないケースなどが、履行遅滞の典型例です。

民法上、履行遅滞の責任は以下の時期から発生します。

  •  債務の履行について確定期限があるとき
    →期限の到来した時(民法412条1項)
  •  債務の履行について不確定期限があるとき
    →期限の到来した後に履行の請求を受けた時、又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時(民法412条2項)
  •  債務の履行について期限を定めなかったとき
    →履行の請求を受けた時(民法412条3項)

履行遅滞が発生した場合、債権者は債務者に対して、相当の期間を定めて履行の催告を行い、期間内に履行がなければ契約を解除できます(民法541条)。また、履行遅滞によって被った損害の賠償を請求することもできます(民法415条)。

不完全履行

「不完全履行」とは、契約上の義務が一応履行されたものの、契約の定めに従った完全な履行ではないことを意味します。たとえば売買契約において、引き渡された物が契約で定めた数量に不足している場合、契約に定めた品質よりも劣っている場合、契約に定めた目的物とは種類が異なる場合などが不完全履行に該当します。

不完全履行の場合、債権者は債務者に対して、完全な債務を履行するように請求できます。特に物の引渡しを目的とする債務については、以下の方法による「契約不適合責任」の追及が認められています(民法562条、559条)。

  •  履行の追完請求(民法562条)
    →目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しによる履行の追完を請求できます。
  •  代金減額請求(民法563条)
    →催告期間内に履行の追完が行われない場合や、履行の追完が不可能な場合などには、不適合の程度に応じた代金の減額を請求できます。
  •  損害賠償請求(民法564条、415条1項)
    →不適合によって被った損害の賠償を請求できます。
  •  契約の解除(民法564条、541条、542条)
    →催告期間内に履行の追完が行われない場合や、履行の追完が不可能な場合などであって、かつ不適合が軽微でないときは、契約を解除できます。

履行不能

「履行不能」とは、契約上の義務を履行することができない状態を意味します(民法412条の2)。たとえば、中古車の売買契約を締結したにもかかわらず、目的物の中古車が焼失してしまった場合などが履行不能に該当します。

履行不能の場合、債権者は債務者に対して、債務の履行を請求することができません(民法412条の2第1項)。

その代わりに、履行不能について債務者の帰責性がある場合には、債権者は債務者に対して損害賠償を請求できます(民法415条1項)。なお、債務者の帰責性がない場合は損害賠償を請求できず(同条ただし書)、危険負担の問題となります(民法536条)。

また、債務の全部が履行不能である場合には、債権者には催告を要することなく契約を解除することが認められています(民法542条1項1号)。また、債務の一部が履行不能であるケースでも、残存する部分のみでは契約目的が達成できない場合には、同様に無催告解除が認められます(同条3号)。

契約に違反しないためにどうすればよいのか?

契約審査・交渉段階

危険な条項を発見し、受け入れないように交渉する。

まず何よりも、契約審査の段階でリスクが高い条項を見過ごさないことが重要です。
その意味では日々の契約審査を高い水準で行うことが、契約違反のリスクを減らす最大の対策ともいえます。

また、契約交渉の段階において、自社の不利益が大きい条項、自社にとってリスクが大きい条項については、「弊社の実務運用ではこの条項は受け入れられません。」などという形で、遵守できない可能性があることを伝えて、当該条項を受け入れないように交渉することが、事後のトラブルを減らすために有用です。

例えば、サブスクリプション型クラウドソフトウェアの提供会社が、当該ソフトウェアを大手顧客への導入に際し、遵守が難しい報告義務や再委託の禁止などの条件を要求された場合にどのように交渉すればよいでしょうか。

このような事例は、大手顧客が従来取引してきたシステムインテグレーションに関する取引方針をそのまま適用することから発生している可能性があります。
一方で、システムインテグレーションの予算感と、クラウドサービスの予算感は大きく異なりますので、クラウドソフトウェアの提供会社はその点を説明しながら、できること、できないことを丁寧に説明して合意を得ることが考えられます。

危険な条項について、現場と対応をすり合わせる。

契約の条項のリスクの大きさは、会社の規模、事業内容、管理体制の洗練の度合いなどにより大きく異なります。

ときに遵守が難しく、高度な管理体制が求められるものに禁止事項があります。悪意なく禁止事項に抵触してしまった、といった事態があり得るため、当該条項を受け入れることが可能であるか現場とすり合わせを行う必要があります。

また、条項を受け入れざるを得ないときは、当該条項により禁止されていることを関係者に周知徹底する必要があります。

禁止事項を定めたものとしては、例えば、以下のような条項があります。

  • 競業避止
  • 再委託の禁止
  • 地位の譲渡禁止

契約の相手方に対して過大な権利を認めることが、結果的に他の顧客への契約義務の違反に繋がる可能性もあります。

例えば、相手方の自社に対する監査権を認めた場合、相手方の監査により、他の顧客に対する守秘義務などに違反するリスクが生じます。

そのため、相手方に強い権利を付与することには慎重になるべきでしょう。最もよいのは、そのような条項を最初から交渉して外すことですが、それが難しい場合、監査権者を限定する、監査の範囲を限定する、など権利を制限する条項を入れることを提案することが考えられます。また、締結後の運用レベルでの対応も必要です。

具体的には、相手方の監査が行われる前に監査の方法について十分に確認し、要望を伝える、自社内で監査があった場合の対応について事前に現場の責任者と打合せを行っておき、不要な情報が開示されないように注意する、といった運用が考えられます。

また、契約上生じた成果物について、相手方に権利が帰属すると定めてある条項にも注意が必要です。自社が創作、開発した成果物について相手方に帰属すると定めてある場合、自社にとって大きな不利益となってしまいます。

相手方が創作、開発した成果物については、相手方に帰属すると定めた場合でも、自社がその成果物を使いたいときは、使用許諾などについて明確に定めておく必要があります。

契約上生じる成果物を自社がどのように利用するのか、などについて現場と十分にすり合わせを行っておくことが求められます。

契約管理段階

危険な契約を定期的に監査する。

契約締結後も、リスクの高い条項などが含まれる危険な契約については、年次といった区切りで監査することが望ましいです。

具体的には、当該危険な契約が、実際に収益をはじめとして、どのような事業価値を生み出しているのか、現場の負担と比較して、その利益が大きいと言えるのかを、定期的に振り返ることが望ましいです。

また、契約に含まれる条項を自社、および相手方が遵守しているのか、状況を改めて確認することが望ましいです。
特に、自動更新条項が定められている契約については、更新のタイミングと合わせて、契約の収益性や契約の遵守状況を担当者に確認します。
上記の監査を行う前提として、契約を締結するタイミングで、担当者とすり合わせるだけではなく、Excelなどのマスターに台帳として登録し、特に危険なものは全社で共有できるようにするべきです。更新条件を登録し、関数で次回の更新期限を計算できるようにするのが望ましいです。

危険な契約の変更、終了を検討する。

年次の監査などで契約の遵守状況などを確認するタイミングで、締結済みの契約の契約条件の変更(再交渉の余地)や、契約の更新の是非についても、ゼロベースで議論することが望ましいです。

例えば、取引実績がない状況でやむを得ず一度受け入れた条件も、一定の関係性と実績ができた場合に再交渉を求める、といったことが考えられます(たとえば調達契約で、厳しい支払条件の緩和を要求する、など)。

契約を「終わらせる」上で、分かりやすい区切りは自動更新契約の更新終了ですが、それ以外にも、相手方が解除事由に該当した場合や、中途解約が可能な場合は期間中の解除、解約などもありえます。

契約の解除、解約について現場部門の担当者に選択肢を提示することで、契約違反のリスクと、契約遵守のコストを縮小することができます。

契約審査におけるリーガルテックの活用

まずは、「何よりも、契約審査の段階でリスクが高い条項を見過ごさないことが重要」と述べましたが、契約審査の数が多い法務部などでは、これを徹底することが難しい場合もあります。

そこで、契約審査にリーガルテックを活用することも一案です。

AI契約審査プラットフォーム「LegalForce」では、AIが契約書のリスクの高い条項を瞬時に洗い出します。また同時に、人間が気付きにくい、「契約書には含まれないものの、自社に有利な条項」を提案します。

さらに、リスクの高い条項に対して、それに対する修正方針や修正文例の提案も行います。

契約管理におけるリーガルテックの活用

危険な契約の監査、見直しなど、契約管理の重要性についても述べましたが、過去の膨大な量の契約を管理することは、人手では非常に負担が大きい作業となります。

そこで、契約管理にもリーガルテックの活用が考えられます

AI契約書管理システム「LegalForceキャビネ」は、締結済みの契約書を保管し、契約リスクを管理するツールです。

締結済みの契約書を放り込むだけで、全文をテキストデータ化し、AIが管理台帳を自動で生成します。

これにより、社内の各部署における紙と電子の契約書情報を「LegalForceキャビネ」に集約して管理することができます。

AIが自動でデータベースを生成してくれるため、管理者は必要な情報に瞬時にアクセスすることができ、適切かつスムーズな契約管理のための強力なツールとなります。

適切な管理が行われていれば、適切な契約の監査、見直しも可能となります。「LegalForceキャビネ」には、契約の更新期限、終了日を自動で通知する機能も搭載されているため、契約の見直しのタイミングを逃すことも少なくなります。

この記事のまとめ

・契約義務に違反してしまった場合には、相手方から、契約の解除、損害賠償の請求をされたり、期限の利益を喪失して期限の到来していないものを含めて支払いを請求されることがある。

・契約に違反しないためには、契約審査・交渉段階においては、危険な条項を発見して、危険な条項を受け入れることが可能か現場と十分なすり合わせを行うことが大切。

・契約に違反しないためには、契約管理段階においては、危険な契約を定期的に監査し、契約の変更、終了などを検討することが大切。

・契約審査・交渉、および契約管理において、リーガルテックを活用することが考えられる。

参考文献

阿部・井窪・片山法律事務所「契約書作成の実務と書式」有斐閣

中田裕康「契約法」有斐閣

喜多村勝徳「契約の法務 第2版」勁草書房