共同出願契約とは?
基本を解説!

この記事のまとめ

共同出願契約の基本を解説!!

この記事では、共同研究の成果として発明が得られた場合などに締結する、共同出願契約の基本を分かりやすく解説します。

(※この記事は、2020年11月9日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

共同出願契約とは?

共同出願契約とは、複数の者の間で共同研究開発が行われ、その研究に基づき発明が生じた場合などに、 その発明等を知的財産権として登録するための出願手続き・権利の取り決めなどを定める契約です。

主たる内容としては、共有持分の比率、特許出願に関する手続事項などを定めますが、当事者の属性によって違いが出てくる場合があります。

例えば、企業と大学の共同出願の場合には、企業が研究費を拠出しているケースや、大学が特許を実施することが 想定されないケースもあり、企業の持分比率を高くすることがあります。

ヒー

共同出願契約ってどんなときに結ぶのですか?

ムートン

共同研究の結果得られた発明について、共同出願するときに締結することになります。

共同出願契約と関連する法律

共同出願契約は、発明等を知的財産権として登録するための出願・権利に関して当事者間で定める契約ですので、特許法などの知的財産権法が関連してきます。

共同出願契約の条項

ヒー

実際に共同出願契約を作成したり、レビューする際には、どのような点に気を付ければいいのでしょうか?

ムートン

ここからは、共同出願契約の各条項について、文例を見ながら解説していきます。

共同出願契約を締結する場合に、契約書に定めるべきポイントを解説します。

出願の対象

出願にあたってはその対象となる発明を特定する必要があります。

共同出願契約の締結は原則特許出願前となることから、発明を発明名称で特定することになります。

また、特許出願の段階において発明名称が変更されることもあることから、 当事者それぞれの整理番号(又はそれに代わる番号)を記載することも考えられます。

さらに、発明の概要や、発明者を記載するのが望ましいです。

記載例

(本発明)
甲及び乙は、本契約に基づいて共同出願する本発明を下記の通り特定することに合意する。
発明の名称 :●(仮称)
甲の整理番号:●
乙の整理番号:●
発明の概要 :●
発明者   :甲 ●
       乙 ●

権利の持分比率

後々持分比率をめぐるトラブルとなることを防ぐためにも、特許を受ける権利及びこれに基づく特許権などの 共有持分比率を定めることが重要です。

記載例

(権利の帰属・持分)
甲及び乙は、本発明についての特許を受ける権利及びこれに基づき取得する特許権を共有し、その持分を甲●%、乙●%と定める。

特許出願手続

共同出願契約では、特許出願に関する手続事項を定めることになります。

特に、特許出願に関する手続が迅速にすすむように、特許出願を主体的に行う当事者を定めることが重要です。

特許出願の手続を主体的に行う当事者になることによって、自分が望む方向の権利範囲を取得することがより一層可能になる、などのメリットがある反面、手続にミスがあったた場合は他の当事者に対して、責任を負う可能性があるので注意が必要です。

また、その他の当事者が特許出願手続にどの程度関与するのか、重要な事項については通知・協議・承諾等のプロセスを決めることも重要です。

記載例

(出願等の手続及び費用)
1 以下の手続については、甲が行う。ただし、乙は、これらの手続において必要な合理的な協力を甲に対して行う。
(1)本発明の特許出願(以下「本出願」という。)
(2)前号に付随する手続(出願審査請求及び拒絶理由通知、特許異議の申立てに対する応答を行うことを含むがこれに限られない。)
(3)本特許権の維持保全の手続(出願人名義変更、住所変更の手続を行い又は無効審判請求等に対する対応を行うことを含むがこれに限られない。)
2 甲は、前項各号の手続を行う場合には、乙に対し、当該手続の経過についてその都度遅滞なく通知しなければならないものとし、前項第2号又は第3号の手続を行う場合には、対応の方法・内容について、事前に乙と協議を行わなければならない。
3 乙は、乙が特許庁又は裁判所等の関係機関から受領した手続関係書類を受領し、又はこれらの機関に提出したものがある場合には、速やかにその写しを甲又は甲の指定する代理人に送付する。
4  第1項に定める手続に不備があった場合でも、甲及び乙は、故意又はこれと同視しうる重過失による場合を除いて、相手方に対し何らの責任を負わない。

特許費用

共同出願契約においては、手続の際の費用を誰が負担するかについて規定する必要があります。
一方当事者の資力が乏しい場合、他方当事者が全額負担する、又は多くを負担する場合もありますが、 公平の観点から持分比率に応じて費用を負担することが一般的です。

記載例

(特許費用)
特許出願手続の費用(弁護士及び弁理士費用を含む。)の負担は、第●条(権利の帰属・持分)に定める持分比率に応じて負担する。

外国出願

ある発明をした場合に、外国においても特許権の取得を目指すことがあります。

海外へ特許出願する場合には、主として以下の2つの方法のいずれかが採用されることが多いです。

第1の方法は、日本で出願した特許出願を基礎としてパリ条約上の優先権を主張し、日本での出願日から12ヶ月以内に、 外国の特許庁に特許出願を直接行うというものです。なお、この場合には現地の特許庁に現地の言語の出願書類を提出する必要があります。

第2の方法は、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願です。特許協力条約に基く国際出願を、日本国特許庁に日本語で提出することによって、 PCT加盟国であるすべての国への出願と同じ効果が生じます。

共同出願契約においては、外国出願を行う場合の協議条項を定めておくのが望ましいです。

記載例

(外国出願)
本発明について、外国において特許権その他の産業財産権を出願する場合には、その取扱いについて、甲及び乙が協議のうえ決定する。

持分の譲渡

相手方当事者が勝手にその持分を第三者に譲渡できるとした場合、意図しない第三者と権利を共有する危険があります。したがって、 第三者への持分譲渡を禁止することが望ましいです。

なお、特許法上、特許権が共有であるときは、各共有者は、他の共有者の同意がなければ、 その持分を譲渡することができません(特許法73条1項)。

記載例

(持分の譲渡の禁止)
甲及び乙は、相手方の同意なき限り、 本発明についての特許を受ける権利及びこれに基づき取得する特許権の持分に関し、譲渡・質権設定をすることはできない。

権利の維持・保全

特許について、第三者から無効審判などを提起されて紛争となることが想定されます。このような場合に備えて、 特許権等を維持・保全するために、対応に当たる担当者を定めることや、当事者間で協力する旨を定めることが一般的です。

また、その手続の費用に関しては、持分比率に応じて費用を負担することが一般的です。

記載例

(特許権等の維持・保全)
1 甲及び乙は、共同での出願等に係る本知的財産権の取得及び維持に関し、第三者から審判、訴訟等を提起された場合には、 本知的財産権の取得、維持のため相互に協力する。
2  前項に要する費用は、第●条に定める持分比率に応じて負担する。

持分の放棄

共有に属する知的財産権について、放棄した者の持分については、他の共有者に帰属すると解されています(民法255条の類推適用)。

自分が知らない内に相手方が共有持分を放棄する事態を防ぐためにも、相手方の同意のない共有持分の放棄を禁止することが望ましいです。

記載例

(放棄の禁止)
甲及び乙は、相手方の同意なき限り、本発明に基づいて得られる特許権の自己の持分を放棄することができない。

特許発明の実施

特許権が共有となる場合は、各共有者は他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施することができます(特許法73条2項)。
これを確認的に記載することが考えられます。

記載例

(実施)
甲及び乙は、それぞれ本発明及び本発明に基づいて得られる特許権を自由に実施することができる。 なお、実施に際しての対価支払の要否及び条件については、甲乙別途協議して定めるものとする。

第三者に対する実施の許諾

特許権が共有となる場合、各共有者は、他の共有者の同意を得ない限り、その特許権について実施権を第三者に許諾することができません(特許法73条3項)。

第三者への実施許諾を予定している場合は、第三者へ実施許諾する際の手続きを定めておくのが望ましいです。

具体的には、文例のように、「第三者に実施を許諾したい当事者は、一方当事者に対し、その旨を通知し、 一定期間以内に異議が出なかった場合や合理的な理由による異議が出なかった場合には、実施許諾について承諾したものとみなす」 などと定めることが考えられます。

記載例

(第三者に対する実施許諾等)
1 甲及び乙は、本特許権について、第三者へ専用実施権の設定又は通常実施権(独占的通常実施権を含む。以下同様。) の許諾を行う場合には30日以前に、相手方に対して書面による通知を行わなければならない。
2 前項の通知を受領した当事者は、当該通知の受領後10日以内に、当該専用実施権の設定又は通常実施権の許諾について 合理的な理由を提示して異議を述べることができる。この場合、甲及び乙は当該専用実施権の設定又は通常実施権の許諾について協議して決定する。
3 第1項の通知を受領した当事者が前項の期間内に異議を述べなかった場合、又は、当該異議が合理的な理由を欠く場合、 当該当事者は当該専用実施権の設定又は通常実施権の許諾について同意したものとみなす。

改良発明

共同出願の対象となっている発明を利用した新たな発明(改良発明)が生じることがあります。 そのような場合に備えて、改良発明の取扱いを定めておくのが望ましいです。

当事者としては、相手方が改良発明をした場合には、それを把握しておく必要があることから、 「改良発明をした場合には、相手方に通知する」と定めるのが一般的です。

また、改良発明の帰属については、その改良発明は当該改良発明を行った当事者に帰属すると定めることが一般的です。
その場合、開発した改良発明について、発明した当事者に独占されてしまうと不利益が大きいことから、 「実施を希望する当事者は、合理的な許諾料を支払い、発明した当事者から実施許諾を受けることができる」などと定めることが考えられます。

記載例

(改良発明)
1 甲及び乙は、本発明に基づいて改良発明を発明した場合は、相手方に対して、当該発明を速やかに通知する。
2  前項の改良発明に関する一切の知的財産権は、当該改良発明を行った当事者に帰属する。
3 甲及び乙は、第1項の改良発明を行った当事者に通知を行うことによって、当該改良発明を実施することができる。 当該実施に伴って、甲又は乙は、当該改良発明を行った当事者に対して、当業界において通常の料率その他相手方が事業を遂行する上で 合理的であると認められる実施許諾料を支払わなければならない。

優先権主張・分割出願

「国内優先権の主張」と「分割出願の手続き」については、特許を受ける権利の共有者全員が共同で手続きをしなければなりません(特許法14条、41条1項)。
このことを確認的に定めるのが安全です。

記載例

(優先権主張・分割出願)
甲及び乙は、本発明について、本特許出願を先の出願とする国内優先権を主張して出願する場合、及び、 本特許出願を原出願として分割出願する場合その他本特許出願に基づく出願を行う場合には、その取扱いについて協議し、 相手方の同意を得なければならない。

発明者からの承継

特許を受ける権利は、原則として、発明を完成させた者(発明者)に原始的に帰属します(特許法29条1項)。

ただし、使用者は、契約・職務発明規程などに定めがあれば、従業員が職務上行った発明(職務発明)について特許を受ける権利を原始的に使用者等に帰属させることも可能です(特許法29条3項)。 

また、職務発明については、使用者は、契約・職務発明規程などにおいて、その特許を受ける権利を使用者などに承継させることができます。

会社による特許出願が可能となるように、 当該従業員から、本発明の特許を受ける権利の譲渡を受けるか、又はその権利が原始的に会社に帰属させるように契約で義務付けることが重要です。

記載例

(職務発明の取扱い)
甲及び乙は、契約又は就業規則等の社内規程により、職務として本発明を発明した従業者から、本発明の特許を受ける権利の譲渡を受け、 又は同権利が原始的に使用者に帰属することにより、本発明の特許出願が可能となるようにしなければならない。

発明者への補償

特許法では、職務発明について、「従業者が使用者に特許を受ける権利を取得させたときは、 従業者は相当の対価を受ける権利を取得する」と定められています(特許法35条4項)。 そのため、企業・大学などは、発明者である従業員や研究員から特許を受ける権利を取得したときは、 彼らに相当の対価を支払わなければなりません。

この発明者への補償が確実に行われるように、契約で「特許を受ける権利を発明者から取得したときは、 発明者に補償をする」と確認的に定めるのが望ましいです。

記載例

(発明者への補償)
職務として本発明を発明した従業者から、本発明の特許を受ける権利の譲渡等を受けたことについての対価、 補償及び報奨金については、当該従業者が所属する当事者がこれを負担する。

特許共同出願契約書のひな形

共同出願契約のひな形については、以下のひな形が参考になります。

・独立行政法人工業所有権情報・研修館 「知っておきたい特許契約の基礎知識」

まとめ

共同出願契約の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

独立行政法人工業所有権情報・研修館「知っておきたい特許契約の基礎知識」

鮫島正洋「技術法務のススメ」(日本加除出版)