リスキリングとは?
メリット・デメリットや導入の手順、
支援制度を分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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リスキリングとは、新しい業務や役割に対応するために、業務上で必要な新しい知識やスキルを学ぶことです。
・リスキリングは、DXやAIの進化に応じて、個人がスキルを更新することで市場価値を高めるものであり、企業にとっては競争力の維持・強化の手段となります。
・企業がリスキリングを制度として導入した場合のメリットは、人手不足解消・エンゲージメント向上・自律型人材の育成・イノベーション創出が挙げられます。
・政府・公的機関の補助金や助成金を活用すれば、費用対効果を高めやすくなります。本記事では、リスキリングについて、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025年9月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
リスキリングとは
リスキリングとは、新しい業務や役割に対応するために、必要な知識やスキルを学ぶことです。
経済産業省では、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。
DXやAIの進化で求められるスキルが変化する現代において、企業が戦略的に取り組む人材育成制度として位置付けられることも少なくありません。
政府はDX推進や構造的な賃上げを目指し、人への投資として5年間で1兆円規模の支援を表明しています。
リスキリングとリカレント教育・生涯学習・アンラーニングの違い
ここでは、リスキリングと以下の混同されがちな関連用語との違いを、目的や主体の観点から解説します。
- リカレント教育
- 生涯学習
- アンラーニング
リカレント教育との違い
リスキリングとリカレント教育の主な違いは、誰が学びを主導するかです。
リスキリングは、従業員個人だけでなく企業が学びを主導するケースがあります。企業が戦略に制度や施策として導入し、従業員に必要なスキルを習得させる枠組みを提供することが一般的な形の一つです。
一方、リカレント教育は個人が自らの判断で学ぶことを示す概念です。個人の任意のタイミングで、一度仕事を離れて大学などで学び直し、知見を仕事に活かします。
企業のDX人材育成を目的に制度としてリスキリングを導入するケースもあれば、従業員の自発的な学びを支援する形でリカレント教育を活用するケースもあります。
生涯学習との違い
リスキリングと生涯学習の違いは、目的と範囲にあります。
リスキリングの目的は、労働者が仕事に必要なスキルを再構築して変化に適応することです。範囲は職業能力に限定され、主体は個人または企業となります。企業が従業員の育成を促す場合も、個人が自律的にスキルを習得する場合も含みます。
一方、生涯学習は、人生を豊かにして自己実現を図ることが目的です。対象は仕事に限らず、趣味や教養など幅広い学びに及びます。主体は主に個人であり、リスキリングのように職業に特化した学びとは異なります。
アンラーニングとの違い
リスキリングは、新しい知識やスキルを獲得して、変化する環境に適応するプロセスです。一方、アンラーニングは、既存の知識や固定観念を見直し、変化に適応するために不要なものを手放すプロセスです。
両者は対立せず、アンラーニングはリスキリングの土台となります。例えば、従来の業務慣行への固執を捨てることで、デジタルツールを扱うスキルの習得や新たな業務アプローチがスムーズに進みます。
企業がリスキリング制度を導入するメリット
企業がリスキリング制度を導入するメリットは、以下のとおりです。
- 人手不足の改善
- 従業員エンゲージメントの向上
- 自律型人材の育成
- イノベーションの創出
以下では、各メリットをそれぞれ解説します。
人手不足の改善
リスキリング制度の導入は、採用コストを抑えつつ、社内で必要な人材を安定的に確保する手段の一つです。
労働市場で不足しているスキルを既存従業員の内部育成で行うことにより、外部採用に依存せず必要な人材を確保できます。また、自社の事業内容や文化を理解している従業員は、教育コストを抑えて育成が可能なため、即戦力として活躍が期待できます。
さらに、経験者採用で生じやすい企業文化との不整合を防ぎ、離職を抑えることも可能です。
このような要素が重なることで、必要な人員を安定的に確保し、人手不足の改善に寄与します。
従業員エンゲージメントの向上
リスキリング制度の導入は、会社が従業員一人ひとりのキャリアを大切にしているというメッセージとなり、エンゲージメントと定着率を向上させます。
例えば、40代の管理職に生成AIの活用法を学ぶ機会を与えることは、スキルの陳腐化に対する不安を和らげる手段の一つです。スキルを磨ける環境が整うことにより、自らの成長を実感しやすくなり、新しい技術や業務への挑戦に踏み出す意欲が高まります。
リスキリングは単なるスキル習得に留まらず、従業員の満足度を高める投資として機能します。
エンゲージメントについては、以下の記事でも解説しているため、あわせてご覧ください。
自律型人材の育成
リスキリング制度は、知識習得だけでなく、実際の業務や課題に応用することを重視したスキル習得手法です。
リスキリング制度を通じて、従業員に「自ら学び、課題を発見し、解決する」という経験を積ませることで、指示待ちではない自律型人材の育成が可能です。
具体的なプログラムとしては、eラーニングでの知識習得に加え、企業課題に基づく実践機会を組み合わせる構成が挙げられます。
例えば、コールセンター担当者がデータ分析を学び、実際の問い合わせ傾向を分析して改善案を提案するといった経験が、学びと実践のサイクルを生み出し、成功体験を通じて従業員の自信を高めます。
イノベーションの創出
企業のリスキリング制度の導入は、イノベーション創出の原動力です。
例えば、現場の業務知識を持つ従業員がデータ分析やデザイン思考などの新たなスキルを学ぶことで、既存の知見と掛け合わされ、画期的な業務改善や新規事業のアイデアが生まれます。
さらに、リスキリングの具体的な手法の一つに「越境学習」があります。越境学習とは、通常の職場を離れて外部の環境に身を置き、新しい視点や知見を得る学び方です。代表的な例として、他社への出向や社外プロジェクトへの参加などが挙げられます。越境学習を通じて得られる外部の知見が組織にもたらされることで、新たな視点が生まれ、価値創造を加速させます。
リスキリング制度のデメリット・注意点
リスキリング制度には、多くのメリットがある一方で、デメリットもあります。リスキリング制度の導入前に知っておきたいポイントは、以下のとおりです。
- 導入の負担が大きい
- 従業員のモチベーション維持が難しい
- 導入・運用のコストが発生する
以下では、3つのデメリット・注意点を紹介します。
導入の負担が大きい
リスキリング制度の導入は、計画策定から実行まで企業に大きな負担が伴います。
効果的な制度にするには、経営戦略と連動したスキル定義や、現場の課題と結びついたカリキュラム設計が必要で、人事部門だけで進めるのは困難です。
制度の形骸化を防ぐには、経営層や事業部門も巻き込んだ推進体制を築くことが重要です。
従業員のモチベーション維持が難しい
リスキリング制度を運用するうえでの課題は、従業員のモチベーション維持です。組織としてリスキリングが重要と考えていても、従業員それぞれに学習の目的やキャリアパスが明確に伝わっていないと意欲は低下します。
対策として、公的支援の活用が有効です。厚生労働省は無料のキャリア相談や、訓練費・賃金を補助する人材開発支援助成金を提供しています。公的支援を利用することで、企業は従業員の学習を継続的に支援しやすくなり、安心して学べる環境が整い、結果として従業員のモチベーション維持につながります。
社内でできる対策としては、習得スキルを人事評価や昇進と連動させる制度設計が重要です。また、上司が部下の学習を支援し、組織全体で後押しする文化の醸成も欠かせません。
導入・運用のコストが発生する
リスキリング制度を運用する場合、研修受講料や学習システムの利用料などの直接コストに加え、従業員の学習時間分の人件費などの間接コストも発生します。多くの場合、リスキリングは業務時間内に実施されるため、学習時間に充てられる時間もコストとして考慮する必要があります。
例えば、50人の従業員が週2時間学習する場合、毎週100時間分の学習時間が発生します。学習時間を時給2,000円相当の労働時間として換算すると、人件費として週20万円のコストに相当します。
導入コストを投資として経営層に承認してもらうには、費用対効果(ROI)を事前に試算し、効果を具体的に示すことが重要です。
リスキリング制度を導入するためのステップ
リスキリング制度を単なる研修イベントで終わらせず、成果に直結させるための具体的な5つのステップは、以下のとおりです。
- 事業戦略を固める
- 教育プログラムを決める
- 従業員に取り組んでもらう
- リスキリングの効果測定を行う
- リスキリングで習得したスキルを実践で活用する
以下では、各手順を詳しく解説します。
1. 事業戦略を固める
リスキリングの第一歩は、事業戦略から逆算して「どのようなスキルを持つ人材が必要か」を定義することです。
まず、自社の経営戦略と現状のスキル保有状況を比較し、スキルギャップを可視化します。その上で、経済産業省が策定したデジタルスキル標準(DSS)を参考に、優先的に習得すべき具体的なスキル要件をスキルマップとして定義します。
最初の工程は、その後の研修プログラム設計や効果測定の土台となるため、最も重要です。
2. 教育プログラムを決める
リスキリングの教育プログラムは、経営戦略に基づいて定義された必要スキルと、従業員の現状スキルとのギャップを埋めるために設計します。知識のインプットだけでなく、実践的なアウトプットを組み合わせることが重要です。
例えば、外部の教育サービスや専門機関を活用するのが効果的です。eラーニングや外部講師の研修、ベンダー提供の教材などを取り入れれば、自社リソースだけでは難しい部分を補えます。
外部サービスを上手に組み合わせれば、効率的かつ実践的な学習機会を提供でき、従業員のスキル定着と現場での活用を後押しします。
3. 従業員に取り組んでもらう
従業員のリスキリングを成功させるには、個人の頑張りに依存せず、組織的な支援体制の構築が必要です。従業員にとって最大の障壁は、日常業務が忙しく学習のための時間を確保できないことが挙げられます。解決策としては、業務時間内に学習時間を確保する制度を設けるのが効果的です。
また、従業員のモチベーション維持には、直属の上司の関与が影響します。管理職の目標に部下のリスキリング支援を組み込み、1on1での進捗確認や実践機会の提供を行うことで、学習を業務として位置づけ、自発的な学びを促進できます。
4. リスキリングの効果測定を行う
リスキリングの費用対効果を明確にするには、多角的な効果測定が必要です。そのためには、評価の視点を整理できるフレームワークを活用すると効果的です。
代表例がカークパトリックモデルです。1959年にドナルド・カークパトリックが提唱した研修効果測定手法で、反応・学習・行動・結果の4段階で評価します。アメリカでは政府や企業など幅広い分野で利用され、日本でも注目が高まっています。
「受講完了率」だけでなく、学習後の行動変容や、生産性向上・コスト削減などの事業貢献度までをKPIとして設定し、測定することが重要です。計画段階から最終的な事業貢献までを見据えた評価指標を設計すれば、施策の継続や改善につながる客観的なデータを提示できます。
5. リスキリングで習得したスキルを実践で活用する
リスキリングで習得したスキルを定着させるには、学びと実践を意図的に結びつける仕組みが不可欠です。研修のやりっぱなしを防ぐには、学習直後にスキルを試す小さな成功体験を積ませるサイクルの設計が必要です。
例えば、学習後に上司との1on1で具体的な実践タスクを設定し、成果を評価制度に反映させます。
また、先行学習者が後輩を指導するメンター制度や、成功事例を共有するナレッジ共有会も有効です。学習の出口となる「実践の場」をあらかじめ用意することが、学びを組織の力に変えるポイントです。
リスキリングで使える政府・公的機関の支援制度
リスキリングで使える政府・公的機関の支援制度は、以下のようなものがあります。
- DXリスキリング助成金
- 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)
- ものづくり補助金
- IT導入補助金
補助金・助成金を活用することは、費用対効果の高いリスキリングを実現しやすくなります。以下では、各支援制度について詳しく解説します。
DXリスキリング助成金|公益財団法人東京しごと財団
DXリスキリング助成金は、東京都内の中小企業が従業員にDX関連研修を受けさせる際の経費の一部を助成する制度です。産業競争力の強化を目的とし、AIやデータサイエンスなどの専門研修から、全社的なITリテラシー向上研修まで幅広く対象となります。
助成率は経費の4分の3で、1人1研修あたり最大75,000円、1社あたり年間最大100万円です。申請は研修開始の1カ月前までに行う必要があり、令和7年度の受付は令和8年2月28日までです。
Webマーケティング担当者にデータ分析講座を受講させるなど、DX人材育成に直結するため、都内の中小企業にとっては最初に検討したい制度の一つです。
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)|厚生労働省
厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は、企業のリスキリングを直接支援する制度です。新規事業やDX化などに伴う人材育成を対象に、訓練経費や期間中の賃金の一部が助成されます。
令和7年度から助成内容が拡充され、中小企業の場合、経費の75%(大企業は60%)、賃金として1人1時間あたり1,000円(大企業は500円)が助成対象です。なお、制度は令和4年~8年度の期間限定の助成金として創設されており、令和8年度末までの時限措置とされています。
事業戦略に基づく人材育成を計画する企業にとって、最初に検討すべき制度といえます。
ものづくり補助金|全国中小企業団体中央会
ものづくり補助金は、革新的な製品開発や生産性向上のための設備投資を支援する制度です。
従業員のリスキリング費用自体は直接の補助対象ではありませんが、補助事業の実施に必要不可欠な専門家による技術指導費用については「専門家経費」として認められる場合があります。
ただし、あくまで設備投資に伴う指導であり、汎用的なスキルアップ研修とは区別されるため、詳細は公募要領の確認と専門家への相談が必要です。
IT導入補助金|独立行政法人中小企業基盤整備機構
IT導入補助金は、中小企業が生産性向上のためにITツールを導入する際の経費を補助する制度です。ソフトウェア本体だけでなく、導入時のコンサルティングや導入設定・マニュアル作成・導入研修などの付帯サービスも補助対象となる点が特徴です。
ツールの操作方法や活用方法を学ぶこともリスキリングの一環であり、IT導入補助金は支援策として活用できます。例えば、eラーニングシステムや学習プラットフォームを導入する際、ツール利用料や導入研修費を補助の対象とすることで、学習環境を整備できます。
さらに、会計ソフトや勤怠管理システムなどを導入する際に、ソフトウェア費用とベンダーが実施する活用セミナー費用を合わせて申請できます。
インボイス制度対応やバックオフィス業務の効率化に最適で、申請はIT導入支援事業者と連携して進める必要があります。
リスキリング制度を成功させるポイント
導入したリスキリング制度を形骸化させず、着実に成果へと繋げるために不可欠な3つのポイントは、以下のとおりです。
- 自社に必要なスキルを分析する
- 実務で活用する機会を設ける
- 定期的にスキルチェックを行う
以下では、3つのポイントを具体的に解説します。
自社に必要なスキルを分析する
リスキリングを成功させるには、流行に流されず、自社の事業戦略に基づいて「本当に必要なスキル」を特定することです。研修の実施自体が目的ではなく、あくまで事業の成長がゴールです。
まず、「3年後の事業目標達成には、現場でどのスキルが不足しているか」という課題から逆算して、必要なスキルを定義します。
例えば、DX推進を掲げている場合でも、全社員に一律でAI研修を受けさせる必要があるとは限りません。自社の課題や部門ごとの業務内容に応じて対象者や研修内容を絞り込むのも手段の一つです。
「問い合わせ工数を20%削減する」と具体的な課題を設定し、解決に必要な「チャットボット運用スキル」を特定して対象者を絞ることが、効果的なリスキリングにつながります。
実務で活用する機会を設ける
学習効果を最大化し、投資を成果に変えるため、研修プログラムの中に「学んだスキルを実務で活用する機会」を意図的に設計し、組み込むことが重要です。実践の機会がなければ、スキルは定着しません。
そのため、企業側は現環境で学んだスキルを十分に活かせない場合には、異動制度を含めた措置を整えたり、上司との面談で具体的な実践タスクを設定したりするなど、学びっぱなしにさせない工夫が必要です。学習の出口となる実践の場を計画段階から用意することが、スキル定着と意欲向上につながります。
定期的にスキルチェックを行う
リスキリングの効果測定には、厚生労働省の「職業能力評価基準」などを活用した客観的で定期的なスキルチェックが必要です。
評価は研修直後だけで終わらせず、定点観測でスキルの定着や行動の変化を継続的に捉えます。具体的には、テストや資格取得、上長による評価を組み合わせると、多角的に成長を可視化でき、施策の投資対効果を示す根拠にもなります。
さらに、評価結果を処遇にどう結びつけるかも重要です。ジョブ・カードなどを活用しながら、中長期的な視点で慎重に運用することが成功のポイントとなります。
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参考文献
厚生労働省「リスキリングを通じたキャリアアップ⽀援事業について」
公益財団法人 東京しごと財団「令和7年度 DXリスキリング助成金」
ものづくり・商業・サービス補助金事務局(全国中小企業団体中央会)「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金【補助事業の手引き】」
中小企業庁「サービス等生産性向上IT導入支援事業『IT導入補助金2025』の概要」
監修者












