退職時に40日以上有給消化することはできる?
税・社会保険料の扱いも分かりやすく解説!
| 無料で資料をダウンロード ✅ 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 > ✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント > |
- この記事のまとめ
-
退職時に40日以上など長期にわたり有給休暇を消化することは、法的に問題はありません。しかし、対応を誤るとトラブルのもととなるため、企業は法律に則った扱いが重要です。
・年5日の有給休暇取得義務の履行状況によっては、退職時に実質的に保有する休暇日数が最大40日ではなく35日となるケースがあります。
・退職時に有給休暇を消化させる際は、退職日と最終出勤日を確かめ引き継ぎを確実に行うよう指示します。
・有給休暇の消化中でも給料や一部の手当の支払いは続き、税や社会保険料の徴収も基本的に継続します。賞与については、賞与支給日に注意が必要です。本記事では、退職時の有給休暇の消化について解説します。
※この記事は、2025年10月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
実質的な消化可能日数は40日ではなく「35日」になることも
退職者が有給休暇の残日数をすべて消化することは、法令違反にあたりません。労働基準法39条5項に「有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」とあり、かつ後述する企業の時季変更権の行使も不可能なためです。
つまり、有給休暇の残日数が40日であれば、理論上、退職者はそれら全てを消化することが可能です。ただし、実際は退職時の有給休暇の最大消化可能日数は、40日ではなく「35日」になるケースもあります。詳しく解説します。
有給休暇は年5日以上の取得義務がある
年次有給休暇については、2019年4月に年5日の取得義務化が定められました。これは、年間10日以上の年次有給休暇が付与された労働者に対し、付与した日(基準日)から1年以内に年5日の有給休暇を確実に取得させることを企業に義務付けるものです。
労働者が自発的に取得した日数が5日に達しないと見込まれる場合、基準日から1年以内に時季を指定して不足分の休暇を取得させなければなりません。
有給休暇は、毎年度最大20日が付与され、翌年まで繰り越して使うことができます。理論上は繰り越し分と新たな付与分を合わせると最大40日保有可能です。
ただし、有給休暇を消化する順序は、繰り越し分から使うか、新規付与分から使うのか、就業規則等によって定めればよく、法律上定めはありません。そのため、最大保有日数に次のような違いが現れることがあります。
| 就業規則の記載内容 | 就業規則に「繰り越し分(前年度付与分)から消化する」とある場合 | 就業規則に「当年度付与分から消化する」とある場合 |
| 繰越分の休暇日数 | ・前々年度繰越分:20日(5日を会社の時季指定により取得した以外に未取得の場合) ・前年度付与分:20日 | ・前々年度繰越分:20日 ・前年度付与分:20日(5日を会社の時季指定により取得した以外は未取得の場合) |
| 時効により消滅する休暇日数 | 前々年度の繰越分:20日-5日=15日 | 前々年度繰越分:20日 |
| 繰り越せる日数 | 20日 | 20日-5日=15日 |
| 保有できる休暇日数 | 40日 | 35日 |
上記表の内、「就業規則に『当年度付与分から消化する』とある場合」は、保有できる有給休暇の最大日数が35日になります。
なお、労働基準法で定められた基準を超える年次有給休暇の付与も可能であり、その場合は40日を超える保有日数になるケースもあります。
有給消化は労働者の権利のひとつ
有給休暇の消化自体は、労働者の権利のひとつです。そのため、会社は基本的に従業員の有給休暇の申請を拒めません。退職を控える従業員であれば、業務の繁忙を理由に取得日を変更させる「時季変更権」も行使できず、申請を受け入れざるを得ないのです。
有給休暇の消化を拒否したり、実質的に有休消化を妨げるように時季変更権を使用したりすることは、法令違反に該当する可能性があります(詳細後述)。労働者の権利を最大限尊重し、有給休暇の消化を会社側から促すのが望ましいです。
退職者の有給休暇の取り扱い
退職者からの有給休暇申請は基本的に拒めません。特段の理由もなく消化させずに買い取ることを前提とする制度運用も認められません。
退職者の有給休暇の取り扱いにおける注意点を解説します。
会社の「時季変更権」は認められない
退職前の有給休暇の消化にあたって、時季変更権の利用は認められません。時季変更権とは、申請された日に休暇を与えると事業の正常な運営に支障が出る場合に、会社が取得日を別の日に変更できる権利を指します。
退職予定者は退職日をもって雇用契約が終了します。休暇取得日を後ろにずらすことは不可能なため、会社が時季変更権を行使する余地がないと解釈されます。
退職予定者から有給消化の申請があった場合は、受け入れると同時に、迅速に引き継ぎ体制を整えるとよいです。
有給休暇の買い取りは原則認められない
会社が消化できない分の有給休暇を買い取ることは、原則認められません。ただし、退職時にどうしても消化できなかった場合で、会社・労働者双方の合意があった場合に限り、買い取りが可能なケースがあります。
基本的に有給休暇は消化させる必要があります。買い取りを目的として有給休暇の取得を拒否することはできないため、注意してください。
退職時の有給消化の手順
退職時の有給休暇の消化手順は、以下のとおりです。
- 有給残日数と取得可能日数を確認する
- 退職日と最終出勤日を確定させる
- 後任や部署で引き継ぎをするよう伝える
- 社会保険の手続きをする
休暇の残日数をもとに、退職日・最終出勤日を決定し、引き継ぎを進めさせます。トラブルにならないよう、従業員の意思を尊重しながら進めるとよいです。
有給残日数と取得可能日数を確認する
従業員から退職の申し出があった場合、まずは従業員の有給休暇の残日数・取得できる日数を確かめます。勤怠管理システムなどから、当年度の付与日数と当年度に繰り越した日数を確認し「何日間有給休暇を取得できるのか」をチェックします。
有給休暇の日数は従業員も把握しているものです。会社で算出した日数が従業員の把握する日数と齟齬がないよう、正しい日数を従業員に伝えてください。
退職日と最終出勤日を確定させる
有給残日数が確定したら、次に「退職日」と「最終出勤日」を確定します。退職日は会社に在籍する最終日で、基本的には従業員の退職届に書かれている日にちです。
一方、最終出勤日は最後に業務をする日を指し、この日をもって有給休暇に入る日となります。そのため、最終出勤日は、退職日から有給休暇の残日数分遡った日にちになる場合があります。
有給休暇の残日数が多ければ、その分休暇期間が長くなるため、引き継ぎ期間を考慮すると「退職希望日の1〜3カ月前」に退職の旨を伝えてもらうのが理想です。就業規則などで、退職の申出期限を定めておくとよいです。
後任や部署で引き継ぎをするよう伝える
退職日・最終出勤日が確定したら、退職者に部署全体や後任の従業員への引き継ぎを指示します。業務が滞らないよう、業務の一覧やマニュアル、資料の保管場所などを後任に引き継がせます。
有給休暇の消化は労働者の権利ですが、引き継ぎなど、最終出勤日まで責任を持って仕事をしてもらう必要があります。引き継ぎのスケジュールや引継書類は上司が都度確認し、スムーズに後任が業務にあたれる環境をつくるのが重要です。
社会保険の手続きをする
有給休暇を消化し、従業員が退職する際、会社は健康保険や厚生年金保険の資格喪失手続きを行います。この手続きは退職日(資格喪失日)から5日以内に行う必要があります。従業員は、転職する場合は新たな会社の健康保険に、再就職の予定がない場合などは国民健康保険に加入します。
また、厚生年金保険についても、再就職の予定がないのであれば、国民年金へ加入するための手続きをする必要があります。このほか、雇用保険についても脱退手続きが必要です。
健康保険の切り替えに必要な会社手続きが遅れると、医療費負担が高額になるなどのリスクがあります。遅れのないように手続きを済ませてください。
有給消化中の給与や社会保険の取り扱い
有給休暇の消化中も給与や社会保険料が発生します。未払い・未納となるとトラブルになるため、取り扱いについて正しく理解するのが重要です。有給休暇消化中の給料・賞与・社会保険料・税金・手当の5つの取り扱いを解説します。
有給消化中の給料の扱い
有給休暇は労働基準法で保障された「賃金が支払われる休暇」であり、所定労働時間労働した場合の通常の賃金で計算するケースが一般的ですが、平均賃金(賃金締切日以前3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った1日あたりの賃金額)や健康保険法に基づく標準報酬日額によって計算する方法もあります。標準報酬日額によって計算するのであれば、前提として労使協定の締結が必要です。また、休暇中の従業員の賃金の払い忘れにも、注意が必要です。
従業員としては、有給休暇の消化中も収入が途絶えないため、安心して休養や転職活動に臨めます。
有給消化中の賞与の扱い
有給休暇の消化中に賞与を支払うかどうかは、退職日によって変わります。賞与は、就業規則で「賞与支給日に在籍している従業員に支払う」と規定しているのが一般的です。
従業員の退職日が賞与支給日の直前・直後になる場合には、従業員からの希望を踏まえつつ、就業規則に沿って適切に退職日を設定することが望ましいです。
一方、賞与の支給回避を目的として、退職日を一方的に早めることを強要するといった行為は、退職の強要とみなされる場合があります。
有給消化中の社会保険の扱い
有給休暇の消化中であっても、社会保険料は徴収し続けます。ただし、退職日によっては徴収しなくても良い場合があります。
社会保険料は、資格喪失日(退職日の翌日)が属する月の前月分まで納付義務が発生します。退職日が月末の場合は給与から天引きされますが、それよりも前の場合は退職した月の保険料は発生しません。
有給消化中の所得税・住民税の扱い
有給休暇の消化中も、従業員は税金を納付し続けます。所得税は通常どおり源泉徴収しますが、住民税は退職時期によって徴収の仕方が変わります。
住民税は前年の所得に基づいて例年6月頃に課税額が決まり、会社が毎月の給与から天引きするものです。そのため、6月1日から12月31日の間に退職する場合、最後の給与からはその月分の住民税を天引きし、残りの期間の税額(翌年5月分まで)については、従業員本人が納付書等で納付する「普通徴収」に切り替わります。ただし、従業員からの申し出があれば、最後の給与や退職金から残額を一括徴収することも可能です。
一方、1月から4月末に退職する場合は、原則として5月分までの住民税を最後の給与からまとめて天引きし、5月に退職する際は5月分の住民税が5月の給与から天引きされます。
有給消化中の手当の扱い
有給消化期間中、給料は通常どおり支払いますが、手当は支給しないケースがあります。
例えば、役職手当や資格手当のように、個人のスキルや職位に対して毎月固定で支払われる手当は、有給消化中も在籍している限りは通常どおり支給します。一方で、通勤手当のように、一定の金額がかかるものに対して実費を補填する性質の手当は、支給しないケースが一般的です。
就業規則に休暇中の手当の支払いについて明記しておくと、従業員も混乱せず、会社としても根拠を持って手当を支払えます。就業規則に規定があるか、あらためて確かめておきましょう。
退職者の有給消化におけるポイント
退職者の有給休暇の消化は、会社・従業員双方の権利主張や意思がぶつかり、トラブルになる可能性があります。退職者の有給休暇の消化に関するポイントを解説します。
拒否すると労働トラブルになる可能性が高い
会社が退職予定者の有給休暇取得を拒否すると、労働トラブルが起き、企業に大きなリスクが及びます。
退職を控えた従業員からの休暇申請を拒否すると、労働基準法に違反します。有給休暇の利用は労働者の正当な権利であるためです。訴訟となった場合、法令違反を犯した会社は当然不利になります。
有給休暇は拒否せず、引き継ぎ業務や残務は最終出勤日までに確実に処理するよう退職者に指示することが重要です。
仕事の引き継ぎ体制を整える
退職者が有給休暇を消化できるよう、引き継ぎ体制は万全にしておくとよいです。退職者へ早期に引き継ぎ関連の事務を進めるよう指示するほか、後任者の決定や引き継ぎスケジュールの設定、担当業務の見直しといった調整が必要です。
引き継ぎがうまくいかないと、業務がストップしてしまい、業績や企業の生産性にも影響を及ぼします。退職者が休暇に入るまでに上司と連携を取りながら、後任がスムーズに仕事を始められるように体制を整えるのが望ましいです。
有給消化中の兼業・副業の扱いを確認する
有給休暇の消化中に、従業員が兼業・副業をしていないか、確かめておく必要があります。有給消化期間中であっても、退職日が来るまでは現在の会社との雇用契約が続いており、従業員は在職している限り就業規則等に従う必要があります。
もし会社の就業規則に「副業・兼業の禁止規定」や、会社の利益を損なう行為を禁じる「競業避止義務」が記載されているにもかかわらず無断で他社や競合企業で就労している場合は、従業員に対し厳重注意や懲戒処分を検討することも考えられます。
就業規則に副業や兼業に関する規定の有無を確かめ、従業員から退職の旨を共有された際に、副業・兼業について確認しておくとよいです。
| 無料で資料をダウンロード ✅ 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 > ✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント > |
監修者












