【2020年4月施行】商標法改正とは?改正点を解説!(新旧対照表つき)
- この記事のまとめ
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改正商標法(2020年4月1日施行)のポイント
「特許法等の一部を改正する法律」(2019年5月17日公布)では、
次の3点について、商標法が改正されました。1.公益著名商標に係る通常使用権の許諾制限の撤廃(2019年5月27日施行)
2.損害賠償算定方法の見直し(2020年4月1日施行)
3.国際商標登録出願手続きに係る手続き補正書の提出期間の見直し(2020年4月1日施行)この記事では、「国際商標登録出願手続きに係る手続き補正書の提出期間の見直し」について解説します。 改正ポイントは、1つです。ポイントを分かりやすく解説します。
ポイント1│国際商標出願の補正期間について、「拒絶理由通知後、原則3ヶ月以内」から「拒絶理由通知後、事件が審査、審判、又は再審に継続している間」に延長される。
「損害賠償算定方法の見直し」(2020年4月1日施行)は、意匠法だけでなく、 特許法・実用新案法・商標法でも改正されています。改正内容は、特許法の改正内容とほぼ同じです。 改正内容の詳細については、こちらの記事でご確認ください。
※この記事は、2021年4月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・商標法…2020年4月施行後の商標法(昭和34年法律第127号)
・旧商標法……2020年4月施行前の商標法(昭和34年法律第127号)
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目次
2020年4月施行の改正商標法とは?
改正の目的
今回の改正は、国際商標登録の出願手続きの補正書の提出期間を見直すものとなっています。 ここでいう国際商標登録とは、 WIPO国際事務局(世界的な商標を保護する機関)に対して、 日本の商標が登録されることをいいます。 特許庁の解説書 によると、国際商標登録出願手続きに係る手続き補正書の提出期間を見直した目的について、次のような記述があります。
特許庁における審査の迅速化を図り、かつ出願人の利便性を向上させるためには、国際商標登録出願制度…〔省略〕…を改善する必要が生じている
特許庁「令和元年法律改正(令和元年法律第3号)解説書」
国際商標登録の出願件数は、年々増加傾向にあり、迅速な審理を行うニーズが高まっています。
今回の改正は、そのようなニーズに対応するために、より便利な手続きに改善するために行われました。
とくに、補正の手続きにおいて、その課題が叫ばれていました。
補正とは、商標を登録出願した後に、その内容を変更するための手続きです。
国際商標登録出願をした後に、補正を行うためには、大きく2つの方法があります。
- 国際商標登録出願後の補正の方法
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① WIPO国際事務局にて処理する方法
② 日本国内にて処理する方法
①WIPO国際事務局にて処理する方法は、処理が遅滞し、日本国内で権利化するのに時間がかかっていました。 他方で、②日本国内にて処理する方法は、旧法では、補正できる期間が短いため、 必ずしも十分な補正ができないという問題ありました。
今後、迅速に審理を行うために、②日本国内にて処理する方法をとった場合に、補正できる期間を延長する必要が生じていたのです。
公布日・施行日
改正の根拠となる法令名は、「特許法等の一部を改正する法律」(令和元年5月17日法律第3号)です。 この法令によって、商標法だけでなく、特許法・実用新案法・意匠法も改正がなされました。
施行日は、改正点によって、異なりますので注意しなければなりません。
商標法の「損賠賠償の算定方法の見直し」と「国際商標登録出願手続きに係る手続き補正書の提出期間の見直し」の公布日と施行日は、次のとおりです。
- 公布日・施行日
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・公布日│2019年5月17日
・施行日│2020年4月1日
その他の改正点の施行日は、それぞれ次のとおりです。
改正される法令 | 改正点 | 施行日 |
---|---|---|
商標法 | ・公益著名商標に係る通常使用権の許諾制限の撤廃 | 2019年5月27日 |
特許法 | ・損害賠償算定方法の見直し | 2020年4月1日 |
実用新案法 | ||
意匠法 | ||
商標法 | ||
意匠法 | ・保護対象の拡充 ・組物の意匠の拡充 ・関連意匠制度の見直し ・意匠権の存続期間の延長 ・間接侵害の拡充 | |
商標法 | ・国際商標登録出願手続きに係る手続き補正書の提出期間の見直し | |
特許法 | ・査証制度の創設 | 2020年10月1日 |
意匠法 | ・意匠登録出願手続の簡素化 ・手続救済規定の整備 | 2021年1月1日 |
表をご覧いただければわかる通り、「損害賠償算定方法の見直し」は、特許法・実用新案法・意匠法・商標法でも改正されているものです。
改正内容は、同じく改正された特許法と同じものとなっています。
詳細はこちらの記事をご覧ください。
商標法改正の概要
今回改正されたのは、旧商標法68条の28となります。
国際商標出願の補正期間は、旧商標法では「拒絶理由通知後、原則3ヶ月以内」に限定されていました(旧商標法68条の28)。 改正により、「拒絶理由通知後、事件が審査、審判、又は再審に継続している間」に延長されることになりました(商標法68条の28)。
改正された商標法68条の28とは?
商標法68条の28は、 商標法68条の9第1項の特例として、 国際商標登録出願について、国内出願と異なるルールを定めたもの です。
WIPO国際事務局に対して日本の商標登録(国際商標登録)の出願がなされたときは、国際登録の日にされた商標登録出願とみなされます(商標法68条の9第1項)。 すなわち、国際商標登録は、基本的には、日本国内の出願と同じように扱われるのです。 なお、「国際登録の日」については、「標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書」(議定書)に定められています。
ところが補正手続きについては、 日本国内とは異なる手続きとして、商標法68条の28に特例が定められています。
(領域指定による商標登録出願)
第68条の9 日本国を指定する領域指定は、議定書第3条(4)に規定する国際登録の日(以下「国際登録の日」という。)にされた商標登録出願とみなす。ただし、事後指定の場合は、議定書第3条の3(2)の規定により国際登録に係る事後指定が議定書第2条(1)に規定する国際事務局の登録簿(以下「国際登録簿」という。)に記録された日(以下「事後指定の日」という。)にされた商標登録出願とみなす。(手続の補正の特例)
商標法 – e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第68条の28 国際商標登録出願については、第15条の2(第55条の2第1項(第60条の2第2項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)又は第15条の3(第55条の2第1項(第60条の2第2項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。)の規定による通知を受けた後は、事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限り、願書に記載した指定商品又は指定役務について補正をすることができる。
2.国際商標登録出願については、第68条の9第2項の規定により商標の詳細な説明とみなされた事項を除き、第68条の40の規定は、適用しない。
【解説つき】改正前と改正後の商標法の条文を新旧対照表で比較
〈サンプル〉
実務への影響
国際商標出願において、出願後も、柔軟に補正できるようになりましたが、契約レビュー業務においては、大きな影響はないものと考えられます。 もっとも、相手方と共同で商標出願を行うことを定める契約においては、いずれが補正手続を行うのかといった事務手続き上の責任分担を定めることが有益です。 たとえば、契約に次のように定めることが考えられます。
- 記載例
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(出願手続き及び費用)
1.以下の手続については、甲が行うものとする。ただし、乙は、これらの手続において必要な合理的な協力を甲に対して行うものとする。
⑴本商標の出願(以下「本出願」という。)
⑵前号に付随する手続(出願審査請求及び拒絶理由通知、商標異議の申立てに対する応答を行うことを含むがこれに限られない。)
⑶本商標権の維持保全の手続(出願人名義変更、住所変更の手続を行い又は無効審判請求等に対する対応を行うことを含むがこれに限られない。)
2. 甲は、前項各号の手続を行う場合には、乙に対し、当該手続の経過についてその都度遅滞なく通知しなければならないものとし、前項第2号又は第3号の手続を行う場合には、対応の方法・内容について、事前に乙と協議を行わなければならないものとする。