【2022年1月施行】著作権法改正とは?
放送番組のインターネット同時配信等に係る
権利処理の円滑化を分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

2022年1月1日より、放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化を内容とする改正著作権法が施行されました。

今回の改正により、一定の要件を満たせば、著作権者の許諾を得ることなく放送番組のインターネット同時配信等ができるようになりました。今後はますます放送番組のインターネット同時配信等が盛んになり、利用者の利便性向上が期待されます。

この記事では、放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化について、著作権法改正の内容を詳しく解説します。

ヒー

見逃し配信に追っかけ配信など、最近はTV番組もインターネットで見られるようになってきていますね。これに著作権法が関係しているのですか?

ムートン

例えば、TV番組でインタビューを受けた人や、使われているBGMにも著作権が発生しており、個別に許諾が必要となります。今回はこの点に関する改正がありました、内容を確認していきましょう。

※この記事は、2023年2月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・改正著作権法…著作権法の一部を改正する法律(令和3年法律第52号)のうち、2022年1月1日に施行される部分による改正後の著作権法
・著作権法…著作権法の一部を改正する法律(令和3年法律第52号)のうち、2022年1月1日に施行される部分による改正前の著作権法

【2022年1月施行】著作権法改正とは|放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化

2022年1月1日より施行された改正著作権法には、放送番組のインターネットによる同時配信等について、権利処理を円滑化するためルール変更が盛り込まれました

放送番組のインターネットによる同時配信等を行うためには、放送とは別に著作権者の個別承諾を得ることが必要とされていました。このルールによって権利処理のハードルが高くなり、放送番組のインターネット同時配信等が難しくなっていると指摘されていました。

今回の著作権法改正により、放送番組のインターネット同時配信等に関する権利処理手続きが簡略化されました。その結果、放送番組のインターネット同時配信等が積極的に行われ、幅広い視聴者が放送番組を楽しめるようになることが期待されます。

改正著作権法の公布日・施行日

改正の根拠となる法令名は、著作権法の一部を改正する法律です。公布日と、放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化に係る改正の施行日は、それぞれ以下のとおりです。

公布日・施行日

公布日|2021年6月2日
施行日|2022年1月1日

インターネット同時配信等に関する従来の制度の問題点

放送番組のインターネット同時配信等については、著作権法に基づく権利制限規定が不十分であり、円滑な同時配信等を阻害しているとの問題点が指摘されていました。まずは著作権法における旧ルールについて、概要と問題点を解説します。

「放送同時配信等」とは

放送番組のインターネット同時配信等は、改正著作権法2条1項9号の7において「放送同時配信等」と定義されています。この定義は今回の著作権法改正によって新設されたものであり、従来の著作権法には存在しませんでした。

改正著作権法において「放送同時配信等」に当たるのは、以下の要件をすべて満たす自動公衆送信です。

①放送番組または有線放送番組の自動公衆送信であること

②放送番組の放送または有線放送番組の有線放送が行われた日から、原則1週間以内に行われるものであること(1週間を超える間隔で放送される連続ドラマなどについて例外あり)

③放送番組または有線放送番組の内容を変更しないで行われるものであること(やむを得ない事情により変更される場合を除く)

④文部科学省令所定の複製防止・抑止措置が講じられていること

⑤著作権者・出版権者・著作隣接権者の利益を不当に害するおそれがないこと

⑥広く国民が容易に視聴することが困難なものとして、文化庁長官が総務大臣と協議して定めるものに当たらないこと

⑦特定入力型自動公衆送信でないこと

一例として、放送(または有線放送)した番組のリアルタイム配信ディレイ配信1週間以内のアーカイブ配信などが「放送同時配信等」に該当します

ヒー

「見逃し配信は放送後1週間!」って、こんな理由があるのですね。

ムートン

概ねですが、リアルタイム~1週間以内までは、「放送同時配信等」として同じルールが適用されるということになります。

「放送」では事前許諾不要の場合でも、放送同時配信等は事前許諾が必須だった

従来、学校教育番組の放送・時事問題に関する論説の転載等・政治上の演説等の利用については、著作権者の許諾なく著作物等を放送(有線放送)することが認められていました(著作権法34条・39条・40条)。
しかし従来の著作権法では、上記の放送(有線放送)については許諾不要とされていても、インターネット同時配信等については個別事前許諾が必須とされていました

また、レコード(音源)やレコード実演(音源に収録された歌唱や演奏)については、市販されている商業用レコードを用いる限り、放送(有線放送)についての事前許諾不要でした(ただし報酬の支払いが必要。著作権法95条1項・97条1項)。
その一方で、インターネット同時配信等については事前許諾必須とされていました

放送同時配信等について事前許諾が必須であることの弊害

放送(有線放送)については著作権者の事前許諾が不要となる場合でも、インターネット同時配信等については事前許諾必須とされていた従来の著作権法下においては、以下の弊害が指摘されていました。

× 著作権者から円滑に許諾が得られない
× 明確な許諾を得られず「フタかぶせ」が横行
× 放送で使ったレコードが同時配信では使えない
× 再放送する放送番組の同時配信ができない
× 補償金の裁定制度も活用できない

著作権者から円滑に許諾が得られない

学校教育番組の放送・時事問題に関する論説の転載・政治上の演説など、公益性の高い目的を有する場合であっても、著作権者が著作物の利用を快く許可してくれるとは限りません

もし許諾を得られなければ、放送(有線放送)はできてもインターネット同時配信等はできず、視聴者層が限られてしまう結果となります。

明確な許諾を得られず「フタかぶせ」が横行

放送(有線放送)番組には一般に、多様かつ大量の著作物等が利用されています。インターネット同時配信等を行うまでの限られた時間内において、すべての著作物等の権利者からインターネット同時配信等についての許諾を得ることは困難です。

仮に権利者がインターネット同時配信等を行って構わないと考えていても、時間や労力の問題で明確な許諾が得られず、インターネット同時配信等の時期を迎えてしまうことも多いです。

その場合、放送では流されていた著作物の映像にフタかぶせ」(静止画に切り替える処理など)が行われ、視聴者の利便性を損なってしまうことがありました。

放送で使ったレコードが同時配信では使えない

レコード・レコード実演について、放送(有線放送)の事前許諾が不要となる場合でも、インターネット同時配信等については個別許諾が必要でした。

著作権等管理事業者(JASRACなど)による集中管理が行われている場合には、比較的円滑に許諾を得ることができますが、そうでない場合に同時配信等の許諾を得ることは困難なケースが多いです。
そのため、放送では流せたレコード・レコード実演が同時配信等では流せず、視聴者の利便性を損なってしまうことがありました。

再放送する放送番組の同時配信ができない

映像実演(俳優の演技など)については、放送・インターネット同時配信等のいずれについても実演家の許諾が必要とされています。しかし放送については、初回放送の許諾を得た場合には、契約に別段の定めがない限り、再放送については許諾を不要とする特例が設けられていました(著作権法94条)。

これに対してインターネット同時配信等については、上記の特例が設けられていないため、すべての実演家から許諾を得なければ再放送を行うことができませんでした。その結果、再放送の場が放送に限定され、インターネットを通じた再放送視聴は困難な状況でした。

補償金の裁定制度も活用できない

公表された著作物につき、著作権者から放送の許諾が得られない場合には、文化庁長官の裁定を受けた上で通常使用料相当額の補償金を支払えば、許諾がなくとも著作物を放送することが認められていました(著作権法68条)。

その一方で、インターネット同時配信等については裁定制度(補償金制度)の対象外とされていたため、著作権者から個別に許諾を得る必要がありました。そのため、裁定制度(補償金制度)を利用して著作物を流した放送番組については、インターネット同時配信等が事実上不可能でした。

著作権法改正による変更点

今回の著作権法改正では、従来の著作権法における問題点を解消するため、放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理について以下の変更が行われました。

① 権利制限規定拡充
② 許諾推定規定創設
③ レコード・レコード実演利用円滑化
④ 映像実演利用円滑化
協議不調の場合の裁定制度拡充

改正点①|権利制限規定の拡充

改正著作権法では、以下の権利制限規定放送同時配信等にも適用されるようになりました。

① 学校教育番組の放送等(同法34条1項)
② 非営利・無料または通常の家庭用受信機を用いて行う公の伝達等(同法38条3項)
③ 時事問題に関する論説の転載等(同法39条1項)
④ 国会等での演説等の利用(同法40条2項)
⑤ 放送事業者等による一時的固定(同法44条)
⑥ 放送のための実演の固定(同法93条)
※②は「見逃し配信」では対象外。

上記の各権利制限規定拡充により、放送番組のインターネット同時配信等が幅広く認められ、いっそう広範囲の視聴者に放送番組を届けられるようになりました。

改正点②|許諾推定規定の創設

改正著作権法では、放送時配信等を業として行う放送事業者に対して、著作権者が放送または有線放送を許諾した場合、別段の意思表示がない限り、放送同時配信等についても許諾したものと推定する規定が新設されました(同法63条5項)。

許諾推定規定創設により、放送(有線放送)と放送同時配信等につき、権利処理が事実上ワンストップ化されました。その結果、放送同時配信等における「フタかぶせ」を行う必要がなくなり、インターネットを通じた視聴者にも完全な形で放送番組を届けられるケースが増えました。

改正点③|レコード・レコード実演の利用円滑化

改正著作権法では、著作権等管理事業者(JASRACなど)による集中管理が行われていないレコード・レコード実演などにつき、通常使用料相当額の補償金を支払えば、著作権者の許諾なく放送同時配信等で利用できるようになりました(同法94条の3・96条の3)。

その結果、集中管理が行われていないレコード・レコード実演を放送同時配信等でカットする必要がなくなり、インターネットを通じて視聴する際にも、放送番組同様の音楽を楽しめるようになりました。

改正点④|映像実演の利用円滑化

放送番組の再放送の同時配信についても、権利処理を円滑化するための改正が行われています。

具体的には、集中管理等が行われておらず、実演家による許諾が円滑に得られないと認められる映像実演につき、通常使用料相当額の補償金を支払えば、著作権者の許諾なく放送同時配信等による再放送で利用できるようになりました(改正著作権法94条)。

同改正により、放送に限らず放送同時配信等においても、放送番組の再放送が行いやすくなりました。視聴者にとっての利便性が向上するとともに、放送事業者としてもオンデマンドの配信コンテンツを充実させ、さらなる利用者の獲得につなげられるメリットがあります。

改正点⑤|協議不調の場合の裁定制度の拡充

改正著作権法では、著作権者との協議が不調に終わった場合における裁定制度(補償金制度)の適用範囲が、放送同時配信等にも拡大されました(同法68条)。さらに、著作隣接権の対象となっている実演・レコードについても、新たに裁定制度(補償金制度)の適用対象とされました(同法103条)。

裁定制度(補償金制度)の拡充により、著作権者に許諾を拒否された場合でも、放送番組と同等のコンテンツを放送同時配信等にて提供できるようになりました。
他の改正点と併せて、インターネットを通じた視聴者の利便性の向上、および放送事業者によるオンデマンド配信等の充実などに寄与することが期待されます。

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参考文献

文化庁ウェブサイト「令和3年通常国会 著作権法改正について」