商標権を取得するための要件とは?
審査で確認される登録要件を
分かりやすく解説!

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インハウスハブ東京法律事務所弁理士
大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了 2007~17年 特許庁審査第四部にて、情報処理(情報セキュリティ)、インターフェース分野の特許審査に従事。2017年弁理士登録。特許事務所勤務を経て2020年4月より現職。2019~22年 特許庁審判部における法律相談などの業務を弁護士とともに携わる。専門分野は、ソフトウェア、ビジネスモデル、セキュリティ、AI、UIなど。
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知財担当者が押さえておきたい法令のまとめ
この記事のまとめ

商標制度は、自社が提供する商品・サービスを、他社と区別するために使用されるロゴやマーク(商標)を登録し、保護する仕組みです。
商標権を取得するためには、特許庁へ商標出願(申請)をし、審査を経て、商標登録を受けることが必要です。

この記事では、商標権を取得するための要件について分かりやすく解説します。

ヒー

新しいサービスのロゴができました! これから使う予定ですが、商標権はどうやったら取ることができますか? ロゴを使用し始めてからでないとダメですか?

ムートン

商標は使用前でも出願できますよ。何にその商標を使用するのか、事前に幅広く考えて出願の準備をしましょう。

※この記事は、2023年4月11日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

商標制度の概要

商標制度は、自社が提供する商品・サービスを、他社と区別するために使用されるロゴやマーク(商標)を登録し、保護する仕組みです。

商標の保護により、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図ることを通じて、産業の発達に寄与し、あわせて需要者(消費者)の利益を保護しています(商標法1条)。

商標権を取得するためには、特許庁へ商標出願(申請)をして商標登録を受けることが必要ですが、出願すれば何でも登録されるわけではありません。商標法では、商標権を取得するための要件が定められています。

商標法の保護対象

商標法では、「商標」を保護します。

商標」とは、

「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」であって、
① 「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」
② 「業としてサービス(役務)を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの」

と定義され(商標法2条1項)、文字、図形、記号、立体的形状など、さまざまな種類があります。

商標の種類
文字商標
文字のみからなる商標

図形商標
図形だけで構成する商標

記号商標
のれんや紋章、文字を図案化した記号などで構成される商標
立体商標
立体的形状で構成する商標

結合商標
文字・図形・記号・立体的形状の2つ以上を組み合わせた商標
動き商標
文字や図形等が時間の経過に従って変化する商標

ホログラム商標
文字や図形等がホログラフィー等の方法により変化する商標
色彩のみからなる商標
単色または複数の色彩の組み合わせのみからなる商標

音商標
音楽・音声・自然音等からなる商標
位置商標
図形等を商品等に付す位置が特定される商標
引用元|特許庁「2022年度知的財産権制度入門テキスト第2章 第4節 商標制度の概要」

なお、商標を出願(申請)する際は、商標だけでなく、「○○という商品に○○という商標を使用します」といったかたちで、その商標をどのような商品・サービスに使うかも指定します(商標法6条1項)。そのように指定された商品・サービスは、「指定商品」、「指定役務」といいます。

ムートン

このように、商標権は、文字・図形等のマーク(商標)と、その商標を使用する商品・サービス(指定商品・役務)との組み合わせで権利範囲が定まります。

商標権を取得するための要件

「商標」が保護されるための主な登録要件について説明します。

自己の業務に係る商品・役務(サービス)について使用をする商標であること(商標法3条1項柱書)

「自己の業務」について

出願人本人の業務に係る商品・役務について使用するものである必要があります。「他人」に使用させるために登録を受けることはできません。

「使用をする商標」について

現在使用している商標に限らず、将来使用しようとしている商標も登録を受けることができます。したがって、将来の業務のために、新しい商標についてあらかじめ商標登録を受けておくことも可能です。

ただし、出願人が商標を使用できない蓋然性が高いものや、商標の使用の意思を有するか合理的な疑義があるものについては、本要件を満たしません。

✅ 商標を使用できない蓋然性が高いものの例
指定役務に係る業務が、国家資格が必要なサービスであって、出願人の名称等から、当該サービスを行い得る法人であることや、国家資格を有する個人であることが確認できない場合

✅ 商標を使用できない合理的な疑義があるものの例
個人(自然人)が総合小売等役務(百貨店や総合スーパーのような、さまざまな商品を一括して取り扱う小売サービス)を指定している場合

参考元|「商標審査基準第1二2(2)・(3)」

識別力があること(商標法3条1項各号)

識別力」とは、需要者に、誰かの業務に係る商品・役務(サービス)であることを認識させる力のことです。
識別力がないものは商標としての機能を果たさず、保護に値しないため、登録を受けることはできません。商標法では、識別力がない商標について次のように規定されています。

普通名称(商標法3条1項1号)

普通名称とは、取引者において、その商品等の一般的な名称であると認識されるに至った名称をいいます。

(例)
・商品「電子計算機」について、商標「コンピュータ」
・商品「スマートフォン」について、商標「スマホ」

しかし、例えば、商品「ケーキ」について、商標「コンピュータ」のように、一般的な名称であっても、異なる商品等について用いられている場合は本号に該当しません。

慣用商標(商標法3条1項2号)

慣用商標とは、同業者間において、一般的に使用されるに至った結果、自己の商品等と他人の商品等とを識別することができなくなった商標をいいます。

(例)
・商品「清酒」について、商標「正宗」
・役務「婚礼の執行」について、商標「赤色および白色の組み合わせの色彩」
・商品「焼き芋」について、商標「石焼き芋の売り声」

記述的商標(商標法3条1項3号)

記述的商標とは、商品等の一定の状態を記述する内容の商標のことで、その商品の産地、販売地、品質、その他の特徴等、または役務の提供場所、質等のみを表示するものです。

(例)
・商品「和菓子」について、商標「東京」(商品の産地・販売地)
・役務「飲食物の提供」について、商標「東京銀座」(役務の提供場所)
・役務「焼き肉の提供」について、音商標「『ジュ―』という肉が焼ける音」(役務の提供にあたり通常発する音)

ありふれた氏または名称(商標法3条1項4号)

ありふれた氏または名称とは、原則として、同種の氏または名称が多数存在するものをいいます。

(例)
・「山田」
・「高木商会」
・「鈴屋」

なお、本規定には、「その商品・その役務」という要件はなく、どのような商品・役務に使用しても「ありふれた氏または名称」であれば本号に該当します。

極めて簡単かつありふれた商標(商標法3条1項5号)

その構成が極めて簡単なものは、登録を受けることができません。

(例)
・「あ」(仮名文字1字)
・「AB」(ローマ字2字)
・「〇」(一般的に用いられる図形)

なお、「ありふれた氏または名称」(商標法3条1項4号)と同様に、本規定にも、「その商品・その役務」という要件はなく、どのような商品・役務に使用しても「極めて簡単かつありふれた商標」であれば本号に該当します。

その他識別力のない商標(商標法3条1項6号)

上述した商標法3条1項1号~5号までに該当しないものであっても、需要者が誰かの業務に係る商標等であることを認識できない商標は、登録を受けることができません。

(例)
・役務「アルコール飲料を主とする飲食物の提供」について、商標「さくら」、「愛」、「純」、「ゆき」、「ひまわり」、「蘭」(店名として多数使用されている)
・商品「子供靴」について「歩くたびに鳴る『ピヨピヨ』という音」(商品の魅力を向上させるにすぎない音)

使用によって識別力が発生した場合(商標法3条2項)

記述的商標(商標法3条1項3号)、ありふれた氏または名称(同項4号)、極めて簡単かつありふれた商標(同項5号)に該当する商標であっても、使用された結果、誰かの出所表示として、その商品等の需要者の間で全国的に認識されるに至ったものについては、商標登録を受けることができます(同条2項)。

(使用による識別力が認められた例)
✅ コカ・コーラの瓶(登録番号第5225619号)
✅ ヤクルト容器(登録番号第5384525号)

公共の機関の標章と紛らわしいなど公益性に反するものでないこと(商標法4条1項1号~7号・9号・16号・18号)

公益的に使用されている標識と紛らわしい商標需要者の利益を害するおそれのある商標は登録を受けることができません。

類型
国旗、菊花紋章等(1号)
菊花紋章  アメリカ合衆国の国旗
国の紋章、記章等、赤十字等の標章または名称(2号~5号)国際原子力機関    赤十字
国、地方公共団体、公益事業等の著名な標章(6号)
東京都交通局の標章
公序善良を害するおそれがある商標(7号)音商標が国歌を想起させる場合
博覧会の賞と同一または類似の商標(9号)政府または地方公共団体が開設する博覧会の賞
商品の品質等の誤認を生じさせるおそれのある商標(16号)商品「ビール」について、商標「〇〇ウイスキー」
商品等が当然に備える特徴のみからなる商標(18号)パラボラアンテナの形状のみ
(衛星放送を受信する機能を確保するための不可欠な立体的形状)
参考元|特許庁「2022年度知的財産権制度入門テキスト第2章 第4節 商標制度の概要」

他人の登録商標または周知・著名商標等と紛らわしいものでないこと(商標法4条1項8号・10号~15号・17号・19号)

他人の使用する商標他人の氏名・名称等と紛らわしい商標は登録を受けることはできません。どのようなものが紛らわしい商標であるかは以下のように規定されています。

他人の肖像・氏名・著名な芸名等を含む商標(商標法4条1項8号)

自己以外の現存する者で、自然人や法人等の肖像・氏名・著名な芸名等を含む商標は、登録を受けることができません。

(例)
× 国家元首の写真やイラスト
× 著名な芸能人の芸名
× スポーツ選手の名前

他人の周知商標と同一・類似の商標(商標法4条1項10号)

周知商標とは、世間に広く知られている商標で、全国的に認識されているだけでなく、ある一地方で広く認識されている商標も含みます。
周知商標と同一・類似の商標で、同一・類似の商品・役務に使用する商標は、登録を受けることができません。

他人の登録商標と同一・類似の商標(商標法4条1項11号)

既に登録済みの他人の商標と同一・類似の商標で、同一・類似の商品・役務に使用する商標は、登録を受けることができません。

他人の登録防護標章と同一の商標(商標法4条1項12号)

他人の登録防護商標と同一の商標で、その防護標章登録に係る指定商品・役務について使用する商標は、登録を受けることができません。

登録品種の名称と同一・類似の商標(商標法4条1項14号)

種苗法18条1項の規定により品種登録を受けた品種の名称と同一・類似の商標で、その品種の種苗と同一・類似の商品・役務に使用する商標は、登録を受けることができません。
品種登録を受けた品種の名称を特定人が独占するのを防止する規定です。

顧客が、商品の生産者・販売者等を混同するおそれがある商標(商標法4条1項15号)

顧客が、他人の商品・役務と混同を生じるおそれのある商標は、登録を受けることができません。

例えば、他人の著名な商標と同一または類似の商標を、当該他人が扱う商品とは類似していない商品に使用した場合に、その商品が著名な商標の所有者、あるいはその所有者と経済的・組織的に何らかの関係がある者によって製造・販売されたかのような印象を与えるときなどが本号に該当します。

(例)

特許庁「2022年度知的財産権制度入門テキスト第2章 第4節 商標制度の概要」

ぶどう酒・蒸留酒の産地を表示する商標(商標法4条1項17号)

ぶどう酒・蒸留酒の産地を表示する商標で、当該産地以外を産地とするぶどう酒・蒸留酒に使用する商標は、登録を受けることができません。

他人の著名商標を不正の目的で使用する商標(商標法4条1項19号)

他人の商品・役務を表示するものとして日本国内・外国で著名な商標を不正の目的で使用する商標は、登録を受けることができません。

例えば、外国でよく知られている他人の商標と同一・類似の商標が日本で登録されていない事情を利用して、商標を買い取らせるために先取り的に出願する場合が該当します。

その他の要件

先願(商標法8条)

同一・類似の商品・役務に使用する同一・類似の商標について、2以上の出願が競合した場合、最先の出願人のみが、登録を受けることができます(商標法8条1項)。

なお、同日に2以上の出願が競合した場合、出願人の間の協議により定めた出願人のみが登録を受けることができます(同条2項)。協議が不成立であった場合は、特許庁長官が行う公正な方法によるくじ引きで決定した出願人が登録を受けることができます(同条5項)。

ムートン

実際に同日になることはまずありませんが、商標は「先に作った・使った」者ではなく、「先に出願した」者に認められるという点は覚えておきましょう。

商標の記載等の明確性の要件(商標法5条5項)

立体商標や、動き商標色彩のみからなる商標音商標等の新しいタイプの商標について商標登録を受けようとするときは、願書に商標の詳細な説明」を記載し、または所定の物件を添付する必要があります(商標法5条4項)。
この記載および物件は、商標を特定するものでなければならないという明確性要件が規定されています(商標法5条5項)。

一商標一出願(商標法6条1項・2項)

一つの商標登録出願では、一つの商標しか出願できません(商標法6条1項)。したがって、複数の商標を同時に出願したい場合は、商標ごとに別々に出願を行わなければなりません。

なお、一つの出願で、複数の商品・役務を指定することができますが、政令に定められた区分に従う必要があります(商標法6条2項)。

ムートン

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参考文献

特許庁「2022年度知的財産権制度入門テキスト」

特許庁ウェブサイト「商標審査基準」

特許庁「商標審査の進め方」

小野昌延=三山峻司著「新・商標法概説[第3版]」青林書院、2021年