派遣法の「3年ルール」とは?
改正の経緯・判断方法・期間延長・対応
などについて分かりやすく解説!

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弁護士法人中央総合法律事務所東京事務所弁護士
東京大学法科大学院修了。2022年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。金融機関を中心とした紛争対応や、金融規制、人事労務や不動産取引等の各種相談案件等を取り扱う。
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この記事のまとめ

派遣法では、労働者派遣の派遣可能期間の上限が3年と定められており、これを派遣法の「3年ルールと呼ぶことがあります。

しかし、一言で派遣可能期間の制限といっても、その類型は「事業所単位」と「個人単位」に分けられ、またそれぞれによって設けられている例外が異なるなど、複雑な規制となっています。

この記事では、派遣法の派遣可能期間の基本的な考え方や、実務上留意すべき事項について、分かりやすく解説します。

ヒー

人事担当者から、「そろそろ3年になる派遣社員がいるけど、3カ月くらい別の部署に行ってもらえば、続けてもらっていいんだっけ?」と相談がありました。これってOKしていいんでしょうか?

ムートン

法務担当者として、「OK/NG」だけを答えるポイントではなさそうです。労働者派遣の派遣可能期間について、詳しく確認していきましょう。

※この記事は、2023年4月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名等を次のように記載しています。

  • 派遣法…労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
  • 派遣法施行規則…労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則
  • 育児・介護休業法…育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
  • 業務取扱要領…労働者派遣事業関係業務取扱要領(令和5年4月1日以降)
  • 派遣先指針…派遣先が講ずべき措置に関する指針

派遣可能期間の上限は原則3年

派遣法は、派遣可能期間について①「事業所単位」の期間制限②「個人単位」の期間制限の2つを設け、これらの場合に3年を超えて労働者派遣の役務の提供を受けることを制限しています。

ルールの趣旨・改正の経緯|2015年改正に注目

派遣可能期間制限の趣旨は、派遣労働者を常用労働者と代替(正社員から派遣社員への置き換えなど)させないこと、いわゆる「常用代替防止」と、派遣就業への望まない固定化を防止することにあります。

2015年改正前

派遣法制定当初は、労働者派遣を行うことのできる業務を一部の専門職に限定することにより、常用代替防止を図っていました(ポジティブ・リスト方式)。
その後、1999年派遣法改正により、派遣対象業務が原則として自由化され(ネガティブ・リスト方式)、新たに自由化された業務(いわゆる「26業務」以外の業務)については、派遣可能期間(同一の場所・同一の業務ごとに1年)を設けることによって、常用代替防止を図ることとなりました。

2015年改正後

そして、2015年派遣法改正では、1999年改正によって新たに自由化された業務か否かによって区分する方法を廃し、無期雇用派遣労働者など一定の派遣労働者に関する労働者派遣を期間制限の対象外とし、その他の派遣労働者については、以下で述べる2つの規制を設けることとしました。

2種類の期間制限

派遣可能期間の制限は、以下の2つがあります。

① 「事業所単位」の期間制限(派遣法40条の2)
派遣先は、同一の事業所等ごとの業務について、3年を超えて派遣労働者を受け入れることができない。

② 「個人単位」の期間制限(派遣法40条の3)
派遣先は、事業所等における同一の組織単位において、3年を超えて同一の派遣労働者を受け入れることができない。

①「事業所単位」の期間制限とは

派遣先は、同一の事業所その他派遣就業の場所ごとにおいて、3年を超えて労働者派遣を受け入れることができません(派遣法40条の2)。派遣元事業主も、この規制に抵触する労働者派遣を行うことはできません(派遣法35条の2)。

「事業所」の範囲

事業所」とは、雇用保険法などの雇用関係法令における概念と同様であり、出張所等、規模が小さく事業所というほどの独立性がないものは、直近上位の組織に包括して全体を一つの事業所として取り扱うとされています(業務取扱要領第7・5(3)ハ)。

また、「その他派遣就業の場所」とは、事業を行っていない者が派遣先となる場合に当該労働者派遣の役務の提供を受ける場所を指し、例えば個人宅が派遣先になる場合は当該家庭(居宅)を指すとされます(同上)。

これらの判断は、

工場、事務所、店舗等、場所的に他の事業所その他の場所から独立していること、経営の単位として人事、経理、指導監督、労働の態様等においてある程度の独立性を有すること、一定期間継続し、施設としての持続性を有すること等の観点から実態に即して判断する

とされています(業務取扱要領第7・5(3)ロ)。

「3年」の派遣可能期間の考え方|抵触日に要注意

事業所単位」の期間制限では、期間制限の対象となる派遣労働にかかる派遣労働者を受け入れたときから開始するとされています。
後述のとおり、無期雇用派遣労働者に係る労働者派遣等は、期間制限の対象とならないため(派遣法40条の2第1項各号)、例えば無期雇用派遣労働者を受け入れていたとしても、3年の算定期間はスタートしないこととなります。

また後述のとおり、派遣先は派遣可能期間制限に抵触する最初の日を派遣元事業主に対して通知する義務を負うため(派遣法26条4号)、労働者派遣を受ける場合には派遣可能期間の抵触日を正確に管理することが必要です。

「事業所単位」の制限におけるクーリング期間

派遣法は3年間を超えて、継続して、同一の事業所において労働者派遣を受けることを禁止していますが(派遣法40条の2第1項・2項)、この「継続して」の解釈は以下のとおりとされています。

「派遣先は、労働者派遣の役務の提供を受けていた当該派遣先の事業所等ごとの業務について、新たに労働者派遣の役務の提供を受ける場合には、当該新たな労働者派遣の開始と当該新たな労働者派遣の役務の受け入れの直前に受け入れていた労働者派遣の終了との間の期間が3月を超えない場合には、当該派遣先は、当該新たな労働者派遣の役務の受入れの直前に受け入れていた労働者派遣から継続して労働者派遣の役務の提供を受けているものとみなすこと」

派遣先指針第2・14(3)

このように、新たな派遣受け入れの開始と最後の派遣受け入れの終了の間が3カ月を超えていない場合は、両労働者派遣の受け入れは継続しているものとみなされます。

これを反対解釈すると、新たな派遣受け入れの開始と最後の派遣受け入れの終了の間が3カ月を超えている(3カ月+1日)場合、労働者派遣の受け入れが継続しているものとはみなされず、最後に受け入れていた労働者派遣の期間は、通算の対象となりません(これを「クーリング」といいます)。

派遣可能期間の延長

事業所単位」の派遣可能期間については、派遣先が、

① 期間制限の対象となる労働者派遣が開始された日から、期間制限の抵触日の1カ月前の日までの間(意見聴取期間)に
② 当該事業所に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合(過半数労働組合)の、ない場合には労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)の意見を聴く

ことにより、3年以内に限り、延長することができます(派遣法40条の2第3項・4項)。

意見聴取の手続き

派遣先は、意見聴取の際に、

① 派遣可能期間を延長しようとする事業所等
② 延長しようとする期間

を掲げる書面によって、過半数労働組合等に対し、通知する必要があります(派遣法施行規則33条の3第1項)。

なお、意見聴取の対象となる過半数代表者は、いかなる労働者であってもよいわけではなく、

① 労働基準法41条2号に規定する監督または管理の地位にあるものではないこと
② 派遣可能期間の延長に係る意見を聴取される者を選出する目的であることを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であって、派遣先の意向に基づき選出されたものでないこと

が必要となります(派遣法施行規則33条の3第2項各号)。

異議に対する説明義務

意見聴取に対し、過半数労働組合等から、派遣可能期間の延長について、反対や延長する期間を短くすべきといった異議を述べられることがあります。
この場合、派遣先は、期間制限の抵触日の前日までに、当該過半数労働組合等に対して、

① 延長しようとする期間およびその理由
② 当該異議(常用代替に関する意見に限る)への対応に関する方針

説明しなければなりません(派遣法40条の2第5項、派遣法施行規則33条の4第1項)。

意見聴取・説明義務違反の取り扱い

派遣法40条の2第4項は、派遣可能期間を延長する場合には過半数労働組合や過半数代表者より意見を聴取しなければならないとしていることから、この意見聴取が行われていない場合、派遣可能期間が延長されていないことになります。

したがって、意見聴取を行わず、引き続き当該労働者派遣を受けた場合には、派遣可能期間を超えて労働者派遣を受けていることになり、派遣法40条の2第1項違反となるため、後述する労働契約申込みみなし制度の適用対象となります(派遣法40条の6第1項3号)。

他方、意見聴取に対して異議が述べられた場合の説明義務違反については、期間制限違反を生じさせるものではないとされます。

②「個人単位」の期間制限とは

「事業所単位」の派遣可能期間が延長された場合でも、派遣先は、派遣先の事業所その他就業の場所における組織単位ごとの業務について、3年を超える期間継続して同一の派遣労働者にかかる労働者派遣の役務の提供を受けてはならないとされています(派遣法40条の3)。

派遣労働者個々人について、同一の組織単位への派遣可能期間を制限するため、個人単位」の期間制限といわれます。

「組織単位」の考え方

組織単位については、「個人単位」の期間制限の目的が、派遣労働者がその組織単位の業務に長期にわたり従事することで派遣就業に望まずに固定化されることを防止することであることに留意しつつ判断することになるとされています(派遣先指針第2・14(2)、業務取扱要領第7・6(3))。

具体的には、

✅ 課、グループ等の業務としての類似性や関連性がある組織

であり、かつ、

✅ その組織の長が業務の配分や労務管理上の指揮監督権限を有するもの

であって、

✅ 派遣先における組織の最小単位よりも一般的に大きな単位を想定

しており、名称にとらわれることなく実態により判断すべきとされています(同上)。

派遣可能期間を延長することはできない

個人単位」の期間制限では、「事業所単位」の期間制限と異なり、派遣可能期間を延長する制度は存在しません
したがって、派遣可能期間の上限である3年を超えて、同一の派遣労働者を同一の組織単位にて労働者派遣の役務の提供を受けた場合、直ちに派遣法違反となります。

「個人単位」の制限におけるクーリング期間

個人単位」の期間制限でも、「事業所単位」の期間制限の場合と同様、新たな労働者派遣の受け入れとその直前の労働者派遣の受け入れの間の期間が3カ月を超えていれば、継続しているものとみなされず、当該労働者に関する労働者派遣は通算されません(業務取扱要領第7・6(4)イ(イ)参照)。

ムートン

最初の例でいうと、「個人単位」の期間制限(3年)を超えた場合、3カ月と1日を別の組織単位で派遣契約を締結すれば、後日また元の部署で契約できるといえます。ただ、それほど必要な人材なら直接雇用に切り替えることを検討するほうが派遣法の趣旨には合うでしょう。

ルールのメリット・デメリット

メリット

派遣先としては、期間制限に抵触した場合に、別の派遣労働者を受け入れて再教育することは手間であることから、当該派遣労働者を正社員または有期雇用社員として直接雇用することが考えられます。
したがって、派遣労働者からすれば、派遣先から直接雇用の機会を得る可能性がある点で、メリットがあります。

デメリット

他方、派遣労働者は、派遣可能期間を超えて就業することはできません。
そのため、期間制限に抵触する派遣労働者は、派遣先から直接雇用される場合を除き、別の会社か他の組織単位にて就業する必要があります。
したがって、派遣労働者からすれば、再度別の環境にて業務に慣れる必要があり、また上記のとおり派遣先からしても、再教育の手間が生じることになります。

ルールが適用されない労働者

以下に該当するような者や業務を対象とする労働者派遣の場合は、上記の派遣可能期間制限の規制を受けません(派遣法40条の2第1項各号・40条の3、業務取扱要領第7・5(3)イ)。

派遣可能期間制限の例外

① 無期雇用派遣労働者
② 60歳以上の者
③ 事業の開始、転換、拡大、縮小または廃止のための業務であって、一定の期間内に完了することが予定されているもの(「有期プロジェクト業務」)
④ 派遣労働者の従事する業務が1カ月に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の労働者の1カ月の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、月10日以下である業務(「日数限定業務」)
⑤ 産前産後休業および育児休業等をする場合における当該労働者の業務
⑥ 介護休業等をする場合における当該労働者の業務

ルールが適用される場合の対応方法

事業所単位」の期間制限に反する場合、上記のとおり過半数労働組合または過半数代表者の意見を聞くことによって延長をすることができるため、まずこの手続きに則って延長をすることができます。

他方、「事業所単位」の期間制限を延長しても、「個人単位」の期間制限が問題となります。
この点、派遣法では派遣先での正社員化が推進されているように(派遣法40条の5第1項、業務取扱要領第7・9)、派遣先は期間制限に抵触する派遣労働者を、正社員として雇用することにより就業を継続させることが考えられます。また、正社員ではなく有期雇用労働者として直接雇用することも可能です。

さらに、別の組織単位で当該派遣労働者にかかる労働者派遣の受け入れが引き続き行われることは、「同一の組織単位」には当たらないため、許容されます。
したがって、例えば特定の派遣労働者について営業課での受け入れが3年を超える場合には、人事課にて引き続き派遣労働者として受け入れることが許容されます。

派遣先の通知義務

派遣先は、新たに労働者派遣を受ける場合において、その労働者が期間制限の対象でない限り、労働者派遣契約を締結するに当たり、派遣元事業主に対し、当該労働者派遣の開始の日以後、「事業所単位」の期間制限に抵触することとなる最初の日(抵触日通知しなければなりません(派遣法26条4項)。

同様に、「事業所単位」の派遣可能期間を延長した場合にも、派遣先は派遣元事業主に対し、期間制限違反となる最初の日(抵触日)を通知しなければなりません(派遣法40条の2第7項)。

違反した場合の制度・罰則

期間制限に違反した場合、派遣先は、

労働契約申込みみなし制度の対象
行政上の措置(指導、助言、勧告および公表)の対象

となり得ます。

また、派遣元事業主は、

行政上の措置(許可の取り消し等)の対象
罰金の対象

となるおそれがあります。

①労働契約申込みみなし制度

派遣法は、派遣先について、派遣可能期間を超えて労働者派遣の役務の提供を受けた場合には、善意・無過失の場合を除き、当該派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなすと規定しています(派遣法40条の6第1項3号・4号)。

したがって、この申込みに対して当該派遣労働者が承諾をすると、派遣先と当該派遣労働者との間に労働契約が成立することになります。

②行政上の措置

派遣先が、派遣可能期間を超えて労働者派遣の役務の提供を受けた場合や、過半数組合に対する説明義務を果たさなかった場合等には、指導助言勧告および公表の対象となり得ます(派遣法49条の2)。

また、派遣元事業主は、派遣可能期間を超えて労働者派遣を行った場合、許可の取り消し(派遣法14条1項2号)、事業の停止命令(同2項)、改善命令(派遣法49条1項)の対象となります。

③罰則

派遣可能期間を超えて労働者派遣を行った場合、派遣元事業主は、30万円以下罰金の対象となります(派遣法61条3号)。

ムートン

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参考文献

厚生労働省職業安定局「労働者派遣事業関係業務取扱要領(令和4年10月1日以降)」

派遣先が講ずべき措置に関する指針

鎌田耕一=諏訪康雄編著『労働者派遣法[第2版]』三省堂、2022年

水町勇一郎著『詳解 労働法[第2版]』東京大学出版会、2021年

労働新聞社編『労働者派遣法の実務解説[改訂第6版]』労働新聞社、2022年