【2024年1月・4月施行】
商標法・意匠法改正のポイントとは?
改正の背景や内容について分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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2023年6月に「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が成立・公布され、2024年4月(意匠法の「新規性喪失の例外規定の要件緩和」に関する規定は2024年1月)に施行されます。
このうち、商標法の改正では、主に、
・コンセント制度の導入
・他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和
といった改正が行われ、
また、意匠法の改正では、主に、
・新規性喪失の例外規定の要件緩和
といった改正が行われています。この記事では、2023年公布の商標法・意匠法改正のポイントを分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年6月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 改正不競法…2023年6⽉公布の「不正競争防止法等の⼀部を改正する法律」による改正後の不正競争防止法
- 不競法…2023年6⽉公布の「不正競争防止法等の⼀部を改正する法律」による改正前の不正競争防止法
目次
【2023年公布】商標法・意匠法等の改正の全体像
2023年6月7日に、「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が成立し、不競法を中心に、商標法、意匠法、特許法、実用新案法等の一部が改正されました。
本記事では、このうち商標法と意匠法の改正を中心に、改正の背景やその内容について解説していきます。
改正の背景・概要|3つのポイント
まず、今回の商標法や意匠法等の改正の全体像を見ていきます。今回の商標法や意匠法等の改正は、以下の3つを柱として行われました。
① デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
② コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
③ 国際的な事業展開に関する制度整備
このうち、本記事で解説する商標法と意匠法の改正は、①と②に関連しています(本記事では、主に①について解説をします)。
公布日・施行日
「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第51号)は2023年6月14日に公布され、2024年4月1日(意匠法の「新規性喪失の例外規定の要件緩和」に関する規定は2024年1月1日)に施行されます。
以下では、今回の商標法・意匠法の改正のポイントについて見ていきます。
商標法改正のポイント
コンセント制度の導入
今回の商標法の改正では、いわゆるコンセント制度と呼ばれる制度が導入されました。まず、コンセント制度が導入された背景、改正の概要について見ていきます。
改正の背景
商標法では、以下の商標について、商標登録を受けることができない商標として規定しています。
商標法4条1項11号
当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第6条第1項(第68条第1項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
商標権の効力は、同一・類似の指定商品・役務について、同一・類似の商標を使用する行為に及びます(商標法25条・37条1号)。商標法4条1項11号は、先行登録商標に抵触する商標についてその登録を拒絶するいわば当然の規定といえるものです。本規定の趣旨は、
①先行登録商標の権利者の保護
②商品・役務の出所混同の防止
にあるといわれています。
一方、米国・欧州等の諸外国では、他人の先行登録商標に抵触する商標が出願された場合でも、先行登録商標の権利者の同意があれば両商標の併存登録を認める制度(コンセント制度)が導入されています。
このように日本法にコンセント制度がないことにより、グローバルなコンセント(併存合意)契約の締結が困難になっている等の課題が指摘されていました。
そこで、今回の商標法改正により、企業のニーズや国際的な制度調和の観点を踏まえ、日本でもコンセント制度が導入されることとなりました。
改正内容
それでは、今回の商標法改正により日本で導入されたコンセント制度の内容を見ていきましょう。今回の商標法改正により新設された規定は以下のとおりです(下記の改正商標法4条4項のほか、改正商標法8条1項ただし書・同条2項ただし書・同条5項ただし書等、同趣旨の規定が新設されています)。
改正商標法4条4項
第1項第11号に該当する商標であっても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。
改正商標法4条4項では、商標法4条1項11号に該当する商標も、
(ⅰ) 先行登録商標の権利者の承諾を得ていること
(ⅱ) 先行登録商標との間で出所混同のおそれがないこと
の2点を要件に、商標登録を受けることができることとされました。
前述のとおり、商標法4条1項11号の趣旨は、①先行登録商標の権利者の保護と、②商品・役務の出所混同の防止にあるところ、(ⅰ)先行登録商標の権利者の承諾を要件とすることにより①の趣旨を、(ⅱ)先行登録商標との間で出所混同のおそれがないことを要件とすることにより②の趣旨を、それぞれ担保しているといえます。
また、①②の趣旨の担保の徹底のために、改正商標法4条4項に基づき商標登録がされた場合、一方の商標権者は、他方の商標権者に混同防止表示を付すよう請求することができるとされているとともに(改正商標法24条の4第1号)、一方の商標権者が不正競争の目的で出所混同を生じさせるような商標の使用をしたときは、何人も商標登録の取消審判の請求が可能とされているなど(改正商標法52条の2)、諸制度が整備されています。
不競法改正との関係
なお、コンセント制度導入により併存することとなった2つの商標のうち、一方が周知性や著名性(不競法2条1項1号・2号)を獲得した場合、形式的には、周知性等を獲得した商標権者によるもう一方の商標権者等に対する不競法に基づく差止請求等が認められる可能性がありますが、このような結果はコンセント制度の円滑な利用を阻害するものといえます。
そこで、不競法改正により、コンセント制度導入の結果、併存することとなった一方の商標権者による他方の商標権者等に対する不競法2条1項1号・2号を理由とする差止請求等は認められないこととされました(改正不競法19条1項3号)。詳しくは、「不正競争防止法改正のポイントとは」をご参照ください。
他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和
次に、今回の商標法の改正では、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和する改正が行われました。改正の背景、改正の概要について見ていきます。
改正の背景
商標法では、以下の商標について、商標登録を受けることができない商標として規定していました。
商標法4条1項8号
他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
本規定の趣旨は、他人の人格的利益の保護にあるとされています。
もっとも、特に「他人の氏名」を含む商標について、他人の承諾を得ない限り、商標登録をすることができない点については、創業者やデザイナー等の氏名をブランド名に使いたい場合に商標登録の障壁になっているとの課題が指摘されていました。
なお、解釈論として、「他人の氏名」について、知名度のある「他人の氏名」に限定するといったことも考えられなくはありませんが、裁判例や特許庁の審査・審判実務では、「他人の氏名」に該当するかは文言どおり解釈されており、解釈による課題の解決は難しいところでした。
また、米国、欧州等の諸外国では、他人の氏名を含む商標について、知名度を要件とする制度が設けられていたところ、国際的な制度調和の観点からも商標法4条1項8号の改正が求められていました。
そこで、今回の商標法改正により、企業のニーズ等を踏まえ、他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和されることとなりました。
改正内容
それでは、今回の改正の内容を見ていきましょう。今回の商標法改正により商標法4条1項8号は以下のとおり改正されました。
改正商標法4条1項8号
他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないもの
今までは「他人の氏名」であれば特に知名度等のない方の氏名を含む場合であっても商標登録をすることができなかったところ、今回の改正により、「他人の氏名」であっても、商標の使用をする商品・役務の分野で需要者に広く認識されていない氏名であれば、これを含む商標も商標登録をすることができることとなりました。
併せて、「他人の氏名」を含む商標であって、政令で定める要件に該当しないものは商標登録をすることができないことも規定されました。
商標制度小委員会では、第三者による悪意の出願等の濫用的な出願への対応についても議論されており、このような議論が政令に反映されると想像されますが、いずれにしても、今後制定される政令の内容にも十分留意が必要です。
商標制度小委員会では、今回の商標法の改正により、
① 商標に含まれる他人の氏名が一定の知名度を有する場合は、人格的利益の侵害の蓋然性が高いため、出願人側の事情を問わず、出願が拒絶される
② 商標に含まれる他人の氏名が一定の知名度を有しない場合は、出願人側の事情を考慮することで、他人の人格的利益が侵害されるような濫用的な出願は拒絶される
こととなると整理しています。このように氏名の知名度を考慮することにはなるものの、知名度のない方についても、(政令も含めて)その人格的利益を保護する制度設計とすることで、前述の本規定の趣旨を担保することになると考えられます。
意匠法改正のポイント
新規性喪失の例外規定の要件緩和
次に、意匠法の改正のポイントについて見ていきましょう。意匠法では、新規性喪失の例外規定の要件が緩和されました。
改正の背景
意匠登録を受けるためには、新規性が認められることが必要です(意匠法3条1項)。もっとも、意匠法では、新規性喪失の例外規定が定められており、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性が喪失された場合でも、
① 新規性を喪失した日から1年以内に意匠登録出願がされている
② 意匠登録出願と同時に意匠法4条2項の適用を受けようとする旨を記載した書面が提出されている
③ 出願日から30日以内に新規性を喪失した意匠が意匠法4条2項の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(例外適用証明書)が提出されている
の3点を満たす場合は、新規性が喪失しなかったものとみなされます(意匠法4条2項・3項)。
このような新規性喪失の例外規定については、特に上記③に関連して、出願日から30日以内に全ての公開意匠を網羅した例外適用証明書を作成することは、出願人の大きな負担になっていると指摘がされていました。
そこで、今回の意匠法改正により、企業のニーズ等を踏まえ、新規性喪失の例外規定の要件が緩和されることとなりました。
改正内容
それでは、今回の改正の内容を見ていきましょう。今回の意匠法改正により意匠法4条3項が以下のとおり改正されました。
改正意匠法4条3項
前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第3条第1項第1号又は第2号に該当するに至った意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(以下この条及び第60条の7において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない。ただし、同一又は類似の意匠について第3条第1項第1号又は第2号に該当するに至る起因となった意匠登録を受ける権利を有する者の2以上の行為があったときは、その証明書の提出は、当該2以上の行為のうち、最先の日に行われたものの1の行為についてすれば足りる。
改正前は全ての公開意匠を網羅した例外適用証明書を作成することが必要でしたが、今回の改正により、全ての公開意匠ではなく最先(最初)の公開意匠についての証明書を提出することで、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるようになります。
これにより、出願人の負担が軽減されるとともに、最先の公開意匠が証明書に掲載されることで第三者の予見可能性にも配慮がされているといえます。
その他の改正点
その他、今回の商標法・意匠法等の改正では、「改正の背景・概要|3つのポイント」記載の3つの柱のうち、主に「② コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備」の観点から、
① 送達制度の見直し(改正工業所有権に関する手続等の特例に関する法律5条等)
② 書面手続のデジタル化(意匠法15条・60条の10〔改正特許法43条〕・改正商標法13条〔改正特許法43条〕)
③ 裁定制度の閲覧制限の導入(改正意匠法63条)
などの改正が行われています。
事業者から見た改正のポイント
最後に今回の改正を踏まえて、事業者の視点からのポイントをまとめたいと思います。
まず、商標法の改正については、コンセント制度の導入、他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和ともに、今までは商標登録をすることができなかった商標について、商標登録の可能性を高める改正といえます。今回の改正により、事業者のブランド名選択の幅が広がりましたので、今後は、事業者においてより自由で独創的なブランド戦略を展開していくことが期待されます。
次に、意匠法の改正については、新規性喪失の例外規定の要件緩和により、新規性を喪失した場合でも救済される余地が広がったといえます。このため、事業者においては、今回の改正の内容を十分把握したうえ、万が一の場合には、有効に新規性喪失の例外規定を活用することが求められます。
一方、新規性喪失の例外規定は、例えば、第三者も類似する意匠を公開していた場合はその活用が困難になるなど、確実に活用できることが保障されている制度ではありません。このため、事業者においては、まずは意匠の公開前に意匠登録出願をすることを原則的な対応とし、万が一の場合に新規性喪失の例外規定を効果的に活用するといった対応が望ましいと考えられます。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 知財担当者が押さえておきたい法令まとめ |
参考文献
産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会「商標を活用したブランド戦略展開に向けた商標制度の見直しについて」(2023年3月10日)
産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会「新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直しについて」(2023年3月10日)