無効・取消しとは?
法令用語としての意味・効力・違いや
法律上のルールなどを分かりやすく解説!
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※この記事は、2023年11月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 特定商取引法…特定商取引に関する法律
目次
「無効」とは
法令用語としての「無効」とは、ある法律行為(契約など)について、その法律行為の効力が最初から発生しないことをいいます。無効である法律行為は、当事者に対して効力を生じません。
無効を主張できる者・期間
法律行為の無効は、その当事者に限らず、原則として誰でも主張できます。また、無効主張の期間についても、原則として制限がありません。
無効である法律行為の効力・取り扱い
無効である法律行為は、当事者に対して効力を生じません。
第三者に対しても、無効な法律行為は原則として効力がありません(=絶対効)。ただし例外的に、心裡留保や虚偽表示による無効については、第三者に対抗できない場合があります(後述)。
また、無効な法律行為は追認しても無効のままです。当事者が無効であることを知って法律行為を追認した場合には、新たな法律行為をしたものとみなされます(民法119条)。
無効な法律行為に基づいて相手方から受けた給付(金銭の支払い・物の引渡しなど)は、相手方に返還しなければなりません(=原状回復義務。民法121条の2第1項)。
ただし、無効な無償行為(贈与など)によって受けた給付については、給付を受けた当時にその行為が無効であることを知らなかったときは、現に利益を受けている限度で返還すれば足ります(同条2項)。
また、法律行為の当時に意思能力がなかった者も、現に利益を受けている限度で給付を返還すれば足ります(同条3項)。
「取消し」とは
「取消し」とは、いったん発生した法律行為の効力を、当初に遡って消滅させることをいいます。取り消された法律行為の効力は、その当時に遡って無効となります。
取消しができる者・方法・期間
法律行為を取り消すことができるのは、原則としてその法律行為をした当事者とその代理人・承継人(相続人など)、およびその法律行為について同意をすることができる者(保佐人・補助人)のみです(民法120条)。無関係の第三者が法律行為を取り消すことはできません。
法律行為の取消しは、相手方に対する意思表示によって行います(民法123条)。内容証明郵便などで取消通知書を送付するのが一般的です。
取消権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効により消滅します(民法126条)。
① 追認をすることができる時から5年
② 法律行為の時から20年
時効期間が経過した後、相手方が時効を援用すると、時効期間中に時効の完成猶予または更新が生じていない限り、取消権を行使することはできません。
取り消された法律行為の効力・取り扱い
取り消された法律行為は、初めから無効であったものとみなされます(=遡及効。民法121条)。
取消しの遡及効により、法律行為がなされた当時から取消しが行われた時点に至るまで、その法律行為に基づいて行われた給付には法律上の根拠がなくなります。したがって、取り消された法律行為に基づいて相手方から受けた給付は、相手方に対して返還しなければなりません(=原状回復義務。民法121条の2第1項)。
ただし、無効な無償行為(贈与など)によって受けた給付については、給付を受けた当時にその行為が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、現に利益を受けている限度で返還すれば足ります(同条2項)。
また、法律行為の時に制限行為能力者(未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人)であった者も、現に利益を受けている限度で給付を返還すれば足ります(同条3項)。
取消権者は、取り消すことができる法律行為を追認することもできます。追認された法律行為は確定的に有効となり、それ以降は取り消すことができません(民法122条)。
追認の意思表示も、取消しと同様に相手方に対する意思表示によって行います(民法123条)。
なお、取り消すことができる法律行為について以下の事実があったときは、原則として追認をしたものとみなされます。ただし、取消権者が異議をとどめたときは、例外的に追認の効力が生じません(民法125条)。
① 全部または一部の履行
② 履行の請求
③ 更改
④ 担保の供与
⑤ 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部または一部の譲渡
⑥ 強制執行
法律行為が取り消された場合、取消権者と第三者の権利が競合することがあります。
(例)
AがBに売却した不動産をBがCに売却した後、Aが不動産売買契約を取り消した場合には、AとCの権利が競合する。
法律行為の取消し後に第三者が権利を取得した場合には、取消権者と第三者のうち、先に対抗要件(登記など)を経由した方が保護されます。
これに対して、法律行為の取消し前に第三者が権利を取得した場合には、取消しに関する個別の規定に従い、取消権者と第三者のうちどちらが保護されるかが決まります(後述)。
無効と取消しの違い
これまで解説した内容を踏まえて、無効と取消しの違いをまとめました。
無効 | 取消し | |
---|---|---|
主張できる人 | 誰でも | 取消権者のみ ※法律行為をした人、その代理人・承継人、同意をすることができる者 |
意思表示の要否 | 不要 | 相手方に対する意思表示が必要 |
追認の可否 | 不可(新たな法律行為をしたものとみなされる) | 可 |
当事者間における効力 | 最初から無効 | 最初に遡って無効 |
第三者との関係における効力 | 原則として無効 ※心裡留保・虚偽表示などの例外あり | ① 取消し後に第三者が権利を取得した場合 (a) 第三者が先に登記を経由した場合 →有効 (b) 取消権者が先に登記を経由した場合 →無効 ② 取消し前に第三者が権利を取得した場合 →取消しに関する個別の規定に従う |
期間制限(時効) | なし | 以下のいずれかの期間が経過すると時効消滅する ① 追認をすることができる時から5年 ② 法律行為の時から20年 |
なお、法律行為が無効であるとともに取り消すこともできる場合は、無効と取消しのどちらを主張することも可能です(=二重効)。
法律行為が無効となる場合の例
法律行為が無効になる場合としては、以下の例が挙げられます。
- 無効の例
-
① 意思能力がなかった場合
② 公序良俗に反する場合
③ 意思表示が心裡留保に当たる場合
④ 意思表示が虚偽表示に当たる場合
⑤ 法律行為に付された条件が不適切である場合
⑥ 契約条項が法律の強行規定に違反する場合
意思能力がなかった場合
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効です(民法3条の2)。
意思能力とは、自分自身の行為の結果を判断し得る精神状態・精神能力をいいます。認知症などによって判断能力が大幅に低下した場合は、意思能力がないと判断されることがあります。
意思能力がない人が法律行為をするためには、成年後見人や任意後見人の代理によらなければなりません。
公序良俗に反する場合
公の秩序または善良の風俗(=公序良俗)に反する法律行為は無効です(民法90条)。
- 公序良俗に反する契約の例
-
・利息制限法の上限を大幅に超えた高金利による金銭消費貸借契約
・愛人契約
・不当に差別的な内容を含む雇用契約
・強制労働を内容とする雇用契約
・反社会的行為を内容とする契約
など
意思表示が心裡留保に当たる場合
「心裡留保」とは、真意とは異なる内容の意思表示であって、本人がそれを自覚しているものをいいます。例えば、買うつもりがない物を「買います」と言うことは心裡留保に当たります。
心裡留保に当たる意思表示は、原則として有効です。ただし、その意思表示が表意者の真意ではないことを相手方が知り、または知ることができたときは無効となります(民法93条1項)。
なお、心裡留保による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません(同条2項)。
意思表示が虚偽表示に当たる場合
「虚偽表示」とは、相手方と通謀して(示し合わせて)した真意ではない意思表示です。例えば、不動産の差押えを免れるために、他人と通謀して不動産の登記名義を一時的に移転するようなケースは虚偽表示に当たります。
虚偽表示に当たる意思表示は無効です(民法94条1項)。
ただし、虚偽表示による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません(同条2項)。
法律行為に付された条件が不適切である場合
法律行為に付された条件が以下のいずれかに当たるときは、その法律行為が無効となります。
① 既成条件(民法131条)
・解除条件が、法律行為の時に既に成就していた場合
・停止条件が成就しないことが、法律行為の時に既に確定していた場合
② 不法条件(民法132条)
・不法な条件
・不法な行為をしないことを内容とする条件
③ 不能条件(民法133条)
・不能の(=成就することがない)停止条件
④ 随意条件(134条)
・単に債務者の意思のみに係る停止条件
契約条項が法律の強行規定に違反する場合
法律の強行規定に違反する契約条項は無効です(民法91条)。強行規定違反の条項が契約の本質的要素を占める場合は、契約全体が無効となることもあります。
- 法律の強行規定に違反するため無効である契約条項の例
-
① 消費者契約法違反
・事業者の損害賠償責任を免除する条項等
・消費者の解除権を放棄させる条項等
・事業者に対し、後見開始の審判等による解除権を付与する条項
・消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等
・消費者の利益を一方的に害する条項② 借地借家法違反
・借地権の存続期間を30年未満とする条項
・借地契約の更新を認めない条項
・建物買取請求権を認めない条項
・建物賃貸借契約の更新を認めない条項
など
法律行為を取り消すことができる場合の例
法律行為を取り消すことができる場合としては、以下の例が挙げられます。
- 取消しの例
-
① 制限行為能力者が法律行為をした場合
② 法律行為の要素について錯誤があった場合
※2020年民法改正で無効から取消しに変更
③ 詐欺・強迫によって意思表示をした場合
④ 相手方の意思表示が無権代理による場合
⑤ 事業者によって不当な勧誘が行われた場合
制限行為能力者が法律行為をした場合
以下の者は制限行為能力者とされており、単独で有効に法律行為をすることができません。
① 未成年者
未成年者が法律行為をするには、法定代理人の同意を得なければなりません(民法5条1項)。法定代理人の同意を得ずにした未成年者の法律行為は、原則として取り消すことができます(同条2項)。
ただし以下の場合には、例外的に未成年者が単独で法律行為をすることできるため、取消しの対象になりません。
・単に権利を得、もしくは義務を免れる場合(同条1項但し書き)
・法定代理人が許した目的の範囲内で財産を処分する場合(同条3項)
・法定代理人が許した営業の範囲内である場合(民法6条)
② 成年被後見人
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができます。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については取消しの対象外です(民法9条)。
③ 被保佐人
被保佐人の法律行為のうち、必要な保佐人の同意を得ていないものは取り消すことができます(民法13条4項)。
④ 被補助人
被補助人の法律行為のうち、必要な補助人の同意を得ていないものは取り消すことができます(民法17条4項)。
ただし、制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術(ウソ、騙すこと)を用いたときは、その行為を取り消すことができないものとされています(民法21条)。
法律行為の要素について錯誤があった場合|2020年施行の民法改正で変更
「錯誤(さくご)」とは、表意者の真意とは異なる意思表示であって、表意者がその齟齬を自覚していないものをいいます。
錯誤に当たる意思表示は、錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであるときに限り、取り消すことができます(民法95条1項)。動機の錯誤については上記に加えて、その動機が相手方に表示されていたことが必要です(同条2項)。
ただし、錯誤が表意者の重大な過失による場合は、以下の場合を除いて錯誤取消しが認められません(同条3項)。
① 相手方が表意者の錯誤を知り、または重大な過失によって知らなかったとき
② 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
以前の民法では、錯誤による意思表示は無効とされていましたが、判例によってその効果が取消しに等しいものと解釈されていたため、2020年4月1日に施行された改正民法によって取消しに改められました。
詐欺・強迫によって意思表示をした場合
「詐欺」とは、人を騙して錯誤に陥らせる行為です。
「強迫」とは、人を畏怖させて意思表示をさせる行為です。
詐欺・強迫による意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。
ただし、詐欺による意思表示の取消しは、善意かつ過失がない第三者に対抗できません(同条3項)。
また、詐欺をしたのが第三者である場合には、相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができます(同条2項)。
相手方の意思表示が無権代理による場合
「無権代理」とは、代理権がないにもかかわらず代理人として法律行為をすること、または代理権の範囲を逸脱し、もしくは代理権を濫用して法律行為をすることをいいます。
無権代理に当たる行為は、表見代理(民法109条・110条・112条)が成立する場合を除き、本人が追認しなければ本人に対して効力を生じません(民法113条1項)。この場合、相手方が不安定な立場に置かれてしまいます。
そこで、無権代理によって締結された契約の相手方は、本人が追認をしない間は、その契約を取り消すことができるとされています。ただし、相手方が無権代理であることを知っていた場合は、契約を取り消すことができません(民法115条)。
事業者によって不当な勧誘が行われた場合
消費者契約法や特定商取引法では、事業者による不当な勧誘行為がなされた場合に、消費者による契約の取消しを認めています(消費者契約法4条、特定商取引法9条の3など)。
消費者契約法と特定商取引法の詳細は、以下の記事をご参照ください。
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