「前段」「後段」とは?
条文の特定方法・憲法や法律における例
などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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法律・契約の条文において、「前段」とは文章の前半部分、「後段」とは文章の後半部分を指します。
但し書き・なお書き・柱書き・括弧書きなど、別の方法によっては条文を特定できない場合に、「前段」「後段」によって該当箇所を区別することがあります。なお、一つの条文が3つ以上の部分に分けられる場合には、「第1文」「第2文」「第3文」……として区別することもあります。
契約書をレビューする際には、特に「前段」「後段」を引用する場合に、引用の範囲が不明確にならないように注意が必要です。
この記事では「前段」「後段」について、条文の特定方法・憲法や法律における例・契約書レビュー時の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年12月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
法律・契約の条文における「前段」「後段」とは
法律・契約の条文において、「前段」とは文章の前半部分、「後段」とは文章の後半部分を指します。
法律や契約では、一つの条文で複数の事柄を定めることがあります。
本来であれば項や号を分けるなど、明確に区別できるように定めることが望ましいです。しかし、条文作成上の何らかの都合により、複数の事柄が一つの条文にまとめられる例もよく見られるところです。
このような場合には、条文の前半部分を「前段」、後半部分を「後段」と呼んで区別することがあります。
民法
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(相殺の方法及び効力)
第506条 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
2 略
例えば、民法506条1項の相殺の方法に関する規定では、
「相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。」が前段、
「この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。」が後段に当たります。
「前段」「後段」以外の条文の特定方法
「前段」「後段」の区別は、別の方法によっては条文を特定できない場合に用いるのが一般的です。
「前段」「後段」以外の条文の特定方法としては、以下の例が挙げられます。
- 「前段」「後段」以外の条文の特定方法
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① 本文・但し書き
② なお書き
③ 柱書き
④ 括弧書き
⑤ 「第1文」「第2文」「第3文」……
本文・但し書き
「本文」は条文の原則を定める部分、「但し書き(ただしがき)」は本文に対する例外を定める部分です。
民法
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(心裡留保)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 略
例えば民法93条1項の心裡留保の規定では、
「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。」が本文、
「ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。」が但し書きに当たります。
なお書き
「なお書き」は、本文に対する補足的な内容を定める部分です。
(売買代金の支払い)
第○条 甲は乙に対して、○年○月○日付で、本契約に基づく売買代金として○万円を、乙が別途指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。
上記の条文例は、売買契約における売買代金の支払いについて定めたものです。
「なお、振込手数料は甲の負担とする。」がなお書きに当たります。
柱書き
「柱書き(はしらがき)」とは、「条」や「項」の中に「号」が設けられる場合に、「号」に当たる部分を除いた記載をいいます。
民法
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(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2~4 略
例えば民法95条1項の規定では、
「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」が柱書きに当たります。
括弧書き
「括弧書き(かっこがき)」とは、条文中の括弧で括られた部分です。
民法
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(時効の援用)
第145条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
例えば民法145条の規定では、
「(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)」が括弧書きに当たります。
「第1文」「第2文」「第3文」……
「第1文」「第2文」「第3文」……は、一つの条文において複数の事柄が定められている場合の区別の方法です。
「第1段」「第2段」「第3段」……と呼ばれることもあります。また、3つの場合は「前段」「中段」「後段」という呼び方もあります。
憲法・法律における「前段」「後段」の例
日本国憲法や法律では、「前段」「後段」を用いて区別される条文が見られます。その一例として、以下の4つを紹介します。
個人の尊重・幸福追求権および公共の福祉
日本国憲法
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第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
日本国憲法13条では、個人の尊重ならびに幸福追求権および公共の福祉について定めています。
個人の尊重を定める「すべて国民は、個人として尊重される。」が前段、
幸福追求権および公共の福祉を定める「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」が後段です。
観念的競合・牽連犯
刑法
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(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第54条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
2 略
刑法54条1項では、観念的競合(=一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合)および牽連犯(=犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れる場合)について定めています。
観念的競合を定める「一個の行為が二個以上の罪名に触れ、」が前段、
牽連犯を定める「又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れる」が後段です。
住居侵入罪・不退去罪
刑法
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(住居侵入等)
第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
刑法130条では、住居侵入等罪について定めています。
前段に当たる「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、」では、住居侵入・邸宅侵入・建造物侵入・艦船侵入の各罪を挙げています。
後段に当たる「又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった」は、不退去罪を示したものです。
管理監督者・機密事務取扱者
労働基準法
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(労働時間等に関する規定の適用除外)
第41条 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 略
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 略
労働基準法41条では、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用しない労働者の類型を挙げています。
同条2号で挙げられているのは、「監督若しくは管理の地位にある者(=管理監督者)」および「機密の事務を取り扱う者(=機密事務取扱者)」です。
管理監督者は権限・地位・待遇等の観点から経営者と一体的地位にある労働者、機密事務取扱者は経営者や管理監督者の活動と一体不可分の業務を行う労働者を意味します。
同法41条2号においては、
管理監督者について定める「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」が前段、
機密事務取扱者について定める「又は機密の事務を取り扱う者」が後段です。
「前段」「後段」に関する契約書レビュー時の注意点
法律や契約書の条文においては、他の条文を引用することがあります。
「前段」「後段」によって区別されている条文を引用する際には、引用の範囲が不明確にならないように注意しなければなりません。
「前段」または「後段」の引用がどの範囲を示しているのか、契約書の記載から一義的に分かるようにしておきましょう。もし引用範囲の解釈が複数あり得るようであれば、文言を変更して引用範囲を明確化すべきです。
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