労働者名簿とは?
作成方法・フォーマット・記載事項・保存期間・
企業の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「労働者名簿」とは、使用者が雇用する労働者に関する情報を記載した名簿です。「法定三帳簿」の一つとして、労働基準法によって労働者名簿の作成が義務付けられています。使用者は、日雇い労働者を除く労働者について労働者名簿を作成しなければなりません。
労働者名簿の様式は、厚生労働省のウェブサイトで公表されていますが、書式は自由であるため、独自の書式を用いても構いません。ただし、労働基準法施行規則所定の記載事項を網羅する必要があります。
労働者名簿の保存期間は、労働者の死亡・退職・解雇の日から3年間です。
労働者名簿の記載事項について変更が生じた場合は、遅滞なく訂正しなければなりません。また、労働者名簿の作成・保存義務を怠ると、労働基準監督官による是正勧告や刑事罰の対象になり得るので注意が必要です。
この記事では、労働者名簿について、作成方法・フォーマット・記載事項・保存期間・企業の注意点などを解説します。
※この記事は、2024年1月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 法…労働基準法
- 規則…労働基準法施行規則
目次
労働者名簿とは
「労働者名簿」とは、使用者が雇用する労働者に関する情報を記載した名簿です。使用者には労働基準法に基づき、労働者名簿の作成および保存が義務付けられています(法107条・109条)。
労働者名簿の主な目的は、使用者の労務管理に役立てることです。雇用している労働者を一覧的に把握できる名簿を作成・保存することで、適切な労務管理がしやすくなります。
また労働者名簿は、労働基準監督署が労働基準法等の遵守状況を調査する際や、年金事務所が社会保険料の支払い状況を調査する際の重要な参考資料でもあります。
労働者名簿を参照すれば、事業場において雇用されている労働者を一覧的に把握できるので、労働基準監督署や年金事務所は調査をスムーズに行うことができます。
労働者名簿は「法定三帳簿」の一つ
労働者名簿は、労働基準法によって使用者に作成・保存が義務付けられている「法定三帳簿」の一つとされています。法定三帳簿に当たるのは、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿です。
- 法定三帳簿とは
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① 労働者名簿(法107条、規則53条)
雇用する労働者に関する情報を記載した名簿です。② 賃金台帳(法108条、規則54条)
労働者に対する賃金の支払いに関する事項を記載した台帳です。③ 出勤簿
労働者の出勤状況を記載した帳簿です。労働基準法上の明文はありませんが、労働時間・休憩・休日に関する規定の趣旨に照らし、使用者は出勤簿を作成する義務を負うと解されています。
法定三帳簿はいずれも、使用者の労務管理に役立てること、および労働基準監督署や年金事務所による調査の参考資料とすることを目的として、使用者に対して作成・保存が義務付けられています。
労働者名簿の対象は、日雇い労働者を除く労働者
労働者名簿に記載すべきなのは、日雇い労働者を除く全ての労働者です(法107条1項)。雇用する労働者に関する情報を一覧的に把握するという労働者名簿の趣旨から、常時雇用する労働者については全員が労働者名簿の記載対象とされています。
したがって、正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトなどの非正規社員も、日雇いでない限りは労働者名簿に記載する必要があります。
労働者名簿と社員名簿・従業員名簿の違い
労働者名簿には、「社員名簿」や「従業員名簿」などの名称が付されていることもあります。基本的には、労働者名簿・社員名簿・従業員名簿の役割や内容は同じであり、特に差はありません。
使用者が雇用する者は、法律上は「労働者」と呼ばれますが、一般的には「社員」や「従業員」などと呼ばれることも少なくありません。「社員名簿」や「従業員名簿」などの名称は、これらの一般的な呼称に対応したものと思われます。
「社員名簿」や「従業員名簿」などの名称が付されていたとしても、労働基準法および労働基準法施行規則に従った事項が記載されていれば、同法に基づく労働者名簿として認められます。この場合、別途「労働者名簿」という名称の名簿を作成・保存していなくても問題ありません。
労働者名簿の作成方法
労働者名簿の作成方法に関するルールは、労働基準法および労働基準法施行規則において定められています。各企業は、法令で定められた方法に従って労働者名簿を作成しなければなりません。
労働者名簿を正しく作成するため、書式や記載事項に関するルールを確認しておきましょう。
労働者名簿のフォーマット|ただし書式は自由
労働者名簿の様式(フォーマット)は労働基準法施行規則によって定められており(様式第十九号)、厚生労働省のウェブサイトに掲載されています。基本的には、厚生労働省のウェブサイトからフォーマットをダウンロードして、必要事項を記入して保存すれば問題ありません。
しかし、労働者名簿の書式は自由であり、必ずしも労働基準法施行規則の様式に従わなくてもよいとされています(規則59条の2第1項)。そのため、自社で独自に労働者名簿のフォーマットを作成しても構いません。
労働基準法施行規則に基づく様式は縦書きであり、表計算ソフト(Excelなど)による作成には適していません。データ管理の利便性を考慮すると、独自のフォーマットによって労働者名簿を作成した方が便利なことが多いです。
ただし、独自のフォーマットに基づいて労働者名簿を作成する際には、次の項目で挙げる記載事項を網羅しなければならない点にご注意ください。
労働者名簿の記載事項|記入例も紹介
労働者名簿には、以下の事項を記載しなければなりません(法107条1項、規則53条)。
- 労働者名簿の記載事項
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① 氏名
② 生年月日
③ 履歴(入社前の経歴、入社後の人事異動歴など)
④ 性別
⑤ 住所
⑥ 従事する業務の種類(常時30人未満の労働者を使用する事業においては不要)
⑦ 雇入の年月日
⑧ 退職の年月日およびその事由(解雇の場合は、その理由を含む)
⑨ 死亡の年月日およびその原因
上記の記載事項が網羅されていれば、労働者名簿の書式はどのような形でも構いません。以下の記入例の要領で、各労働者に関する事項を記載しましょう。
氏名 | ヒー |
生年月日 | 20XX年4月1日(牡羊座) |
履歴 | 2020年8月~ 法務部 |
性別 | 男 |
住所 | 〇〇県××市△△1-2-3 |
従事する業務の種類 | 法務部 |
雇入れ年月日 | 2020年8月1日 |
退職または死亡の年月日 | |
退職または死亡の事由 |
労働者名簿は事業場ごとに作成する
労働者名簿は、事業場ごとに作成する必要があります(法107条1項)。
「事業場」とは、1つの事業を行っている場所をいいます。同一の場所で行われている事業は原則として1個と評価され、その場所(店舗やオフィスなど)が1つの事業場となります。
ただし、規模が著しく小さく、独立性に乏しい出張所・支所などは、直近上位の機構と一括して1つの事業場として取り扱われます。
事業場(店舗やオフィスなど)が複数ある企業においては、労働者名簿のファイルを事業場ごとに分けて作成しなければなりません。全労働者をまとめた労働者名簿を作成したのでは、労働基準法上の要件を満たさないので注意が必要です。
労働者名簿の保存期間
労働者名簿の保存期間は、労働者の死亡・退職・解雇の日から3年間とされています(法109条・附則143条1項、規則56条1項1号)。
在職中の労働者については、常に労働者名簿に記載しておかなければなりません。
死亡した労働者については死亡の年月日と原因、退職した労働者(解雇した場合を含む)については退職の年月日と事由を記載します。その上で、死亡または退職の時から3年間は労働者名簿の記載を残し、3年間が経過したら削除しましょう。
保存期間を適切に管理するためには、表計算ソフト(Excelなど)によって労働者名簿を作成するのが便利です。死亡・退職の年月日でソートできるようにしておけば、それぞれの元労働者について、労働者名簿の保存期間をスムーズに把握できます。
労働者名簿の作成・保存に関する注意点
企業が労働者名簿を作成・保存する際には、以下の各点に注意しましょう。
① 記載事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正する必要がある
② 労働者名簿の作成・保存を怠った場合のペナルティ
記載事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正する必要がある
労働者名簿の記載事項に変更があった場合には、その変更を反映するため、労働者名簿を遅滞なく訂正しなければなりません(法107条2項)。
具体的な訂正期限は明示されていませんが、「遅滞なく」とあるため、実務上合理的な期間内に訂正する必要があります。
労働者名簿の記載事項に変更があったにもかかわらず、それを反映するための訂正を行わずに放置していると、労働基準監督官によって労働基準法違反の指摘を受けるおそれがあるのでご注意ください。
労働者名簿の作成・保存を怠った場合のペナルティ
労働者名簿の作成または保存を怠った場合には、労働基準監督官による是正勧告の対象となるほか、悪質な場合には刑事罰が科されることもあり得るので要注意です。
労働基準法および労働基準法施行規則の定めに従い、適切な形で労働者名簿を作成・保存しましょう。
労働基準監督官による是正勧告
労働基準法違反が疑われる事業場に対して、労働基準監督官は臨検(立ち入り調査)を行うことがあります。臨検の際、労働基準監督官は事業場に対して帳簿・書類の提出を求めたり、使用者および労働者に対する尋問を行ったりすることができます(法101条1項)。
労働者名簿の作成・保存義務違反そのものが疑われて、労働基準監督官の臨検を受ける可能性は高くないでしょう。しかし、例えば残業代の未払いや違法な長時間労働など、別の原因で労働基準法違反が疑われた際に臨検を受けることは十分考えられます。
臨検を通じて労働基準法違反が発覚した場合、労働基準監督官は事業場に対して是正勧告を行います。労働者名簿の作成・保存が適切に行われていなかった場合も、是正勧告を受ける可能性があります。
是正勧告を受けた事業場では、速やかに違反状態を是正した上で、その結果を労働基準監督官へ報告しなければなりません。
是正勧告に法的拘束力はありませんが、違反状態の是正および報告を適切に行わなければ、違反行為者や企業に対する刑事処分が行われるおそれがあります。労働基準監督官の臨検には誠実に協力しつつ、是正勧告を受けた点については速やかに是正しましょう。
刑事罰
労働者名簿の作成・保存義務違反は、刑事罰の対象です。違反行為者は「30万円以下の罰金」に処され(法120条1号)、さらに事業主(企業)に対しても「30万円以下の罰金」が科されます(法121条)。
労働基準法違反の罪については、労働基準監督官が司法警察官の職務を行います(法102条)。したがって、臨検を経て労働基準法違反の事実が判明した場合には、事件や証拠資料などが労働基準監督官から検察官へ直接送致されることになります。
検察官送致(送検)が行われた場合は、刑事裁判(公判手続きまたは略式手続き)を経て刑事罰を科されるおそれがあるので要注意です。
なお実務上は、労働基準法違反によって送検されて刑事罰を受けるのは、悪質な違反が認められるケースに限られています。
労働者名簿の作成・保存義務に違反しただけでは、刑事罰まで科される可能性は低いでしょう。
しかし、残業代の未払いや違法な長時間労働など、他に悪質な違反が認められる場合には、刑事罰が科されることも十分考えられます。その際、労働者名簿の作成・保存義務に違反していたことについても併せて訴追され、刑が加重されるおそれがあるので注意が必要です。
また、労働基準監督官が検察官へ送致した労働基準法違反事件については、都道府県労働局のウェブサイトにおいて、企業名とともに公表されるのが通例となっています。
労働基準法違反によって送検されたことが公表されれば、企業としてのレピュテーションに傷がついてしまうでしょう。送検・公表処分を避けるためにも、労働者名簿の作成・保存を含めて、労働基準法のルールを適切に遵守することが求められます。
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