賃金台帳とは?
作成方法・フォーマット・記載事項・保存期間・
企業の注意点などを分かりやすく解説!

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整備しておきたい 主要な社内規程まとめ
この記事のまとめ

賃金台帳」とは、使用者の労働者に対する賃金の支払い状況や勤務時間などを記載した帳簿です。「法定三帳簿」の一つとして、労働基準法によって賃金台帳の作成が義務付けられています。日雇い労働者を含む全ての労働者が賃金台帳の対象です。

賃金台帳の様式は、厚生労働省のウェブサイトで公表されていますが、書式は自由とされているため、独自の書式を用いても構いません。ただし、労働基準法施行規則所定の記載事項を網羅する必要があります。

賃金台帳の保存期間は、最後に記入した日から3年間です。

労働時間が自己申告制の場合は、賃金台帳への記載に当たり、実際の労働時間を把握する必要があります。また、賃金台帳の作成・保存義務を怠ると、労働基準監督官による是正勧告や刑事罰の対象になり得るので注意が必要です。

この記事では賃金台帳について、作成方法・フォーマット・記載事項・保存期間・企業の注意点などを解説します。

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賃金台帳って給与明細のデータの元ですよね? データがあれば大丈夫ですか?

ムートン

台帳として作成・保存をすることが必要です。給与計算システムを導入していれば、集計して作成できるものも多いですね。作成方法や記載事項について確認していきましょう。

※この記事は、2024年1月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 法…労働基準法
  • 規則…労働基準法施行規則

賃金台帳とは

賃金台帳」とは、使用者の労働者に対する賃金の支払い状況や勤務時間などを記載した帳簿です。使用者には労働基準法に基づき、賃金台帳の作成および保存が義務付けられています(法108条・109条)。

賃金台帳の主な目的は、賃金の額やその計算根拠などを記録することで、使用者に適正な賃金の支払いを促すことです。使用者は、賃金台帳に記録しながら賃金の計算・支払いを行うことで、労働基準法に従った賃金計算等が行われているかどうかを自ら検証する機会を得られます。

また賃金台帳は、労働基準監督署年金事務所が事業場に対して調査を行う際に、重要な参考資料となります。
労働基準監督署は労働基準法等の遵守状況、年金事務所は社会保険料の支払い状況に関する調査を行うことがあります。その際に賃金台帳を参照すれば、調査の対象となる賃金の支払い状況をスムーズに把握することができます

賃金台帳は「法定三帳簿」の一つ

賃金台帳は、労働基準法によって使用者に作成・保存が義務付けられている「法定三帳簿」の一つに当たります。法定三帳簿に当たるのは、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿です。

法定三帳簿とは

① 労働者名簿(法107条、規則53条)
事業場において雇用する労働者に関する情報を記載した名簿です。

② 賃金台帳(法108条、規則54条)
事業場において雇用する労働者ごとに、賃金の支払いに関する事項を記載した台帳です。

③ 出勤簿
労働者の出勤状況を記載した帳簿です。労働基準法上の明文はありませんが、労働時間・休憩・休日に関する規定の趣旨に照らし、使用者は出勤簿を作成する義務を負うと解されています。

法定三帳簿の作成・保存が使用者に対して義務付けられているのは、いずれも使用者の労務管理に役立てるため、および労働基準監督署や年金事務所による調査の参考資料とするためです。

賃金台帳は全ての労働者が対象|日雇い労働者についても必要

賃金台帳には、雇用する全ての労働者について、賃金の支払いに関する事項を記載する必要があります。正社員だけでなく、契約社員パート・アルバイトなどの非正規社員や、日雇い労働者についても賃金台帳に記載しなければなりません。

ムートン

なお、社会保険の対象となる役員についても、賃金台帳を作成する必要があります。労働基準法上は不要ですが、社会保険に関する手続きにおいて賃金台帳が必要となることがあるからです。

これに対して労働者名簿は、日雇い労働者を除くすべての労働者が記載対象とされています(法107条1項)。
日雇い労働者については、労働者名簿に記載する必要はない一方で、賃金台帳には記載を要するという違いがある点に留意しましょう。

賃金台帳と給与明細の違い

労働者の賃金に関する文書としては、賃金台帳のほかに「給与明細」などがあります。

給与明細は、使用者が労働者に対して交付する、賃金に関する支払明細書です。賃金(給与)を支払うに当たり、使用者には労働者に対して支払明細書(=給与明細)を交付することが義務付けられています(所得税法231条1項)。

賃金台帳と給与明細は全く異なる文書で、具体的には以下の違いがあります。

賃金台帳と給与明細の違い

①根拠法令
賃金台帳は労働基準法、給与明細は所得税法に基づく文書です。

②保存・交付
賃金台帳は使用者における保存が義務付けられていますが、給与明細は労働者に対する交付が義務付けられています。使用者において給与明細を保存するかどうかは任意です。

③記載事項
給与明細の記載事項は以下のとおりです(所得税法施行規則100条1項)。
・給与等の金額
・給与等から源泉徴収した所得税の額(源泉所得税額)
・年末調整によって発生した過納額の還付額

これに対して、賃金台帳の記載事項は労働基準法および労働基準法施行規則によって定められており、給与明細とは異なります(後述)。

賃金台帳の作成方法

企業は、労働基準法および労働基準法施行規則に従って賃金台帳を作成しなければなりません。
賃金台帳を正しく作成するため、書式や記載事項に関するルールを確認しておきましょう。

賃金台帳のフォーマット|ただし書式は自由

賃金台帳の様式(フォーマット)は労働基準法施行規則によって定められています(常時使用される労働者については様式第二十号、日雇い労働者については様式第二十一号)。各様式は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロード可能です。

しかし、賃金台帳の書式は自由とされているため、必ずしも労働基準法施行規則の様式に従わなくても構いません(規則59条の2第1項)。データ管理の利便性を考慮すると、独自のフォーマットによって賃金台帳を作成した方が便利でしょう。

ただし、独自のフォーマットに基づいて賃金台帳を作成する際には、労働基準法施行規則で定められた記載事項(後述)を網羅しなければならない点にご注意ください。

賃金台帳の記載事項

賃金台帳の記載事項は、以下のとおりです(規則54条)。厚生労働省ウェブサイトの様式を参照しながら、各事項を適切に記載しましょう。

賃金台帳の記載事項

① 氏名
② 性別
③ 賃金計算期間(日雇い労働者については記載不要)
④ 労働日数
⑤ 労働時間数
⑥ 時間外労働・休日労働・深夜労働の各時間数
⑦ 基本給、手当その他の賃金の種類ごとにその額(通貨以外のもので支払われる賃金がある場合は、その評価総額も記載する)
⑧ 法24条1項の規定によって賃金の一部を控除した場合には、その額

※以下の労働者については、⑤と⑥は記載不要
・土地の耕作もしくは開墾または植物の栽植、栽培、採取もしくは伐採の事業その他農林の事業(林業を除く)に従事する者
・動物の飼育または水産動植物の採捕もしくは養殖の事業その他の畜産、養蚕または水産の事業に従事する者
・事業の種類にかかわらず監督もしくは管理の地位にある者(=管理監督者)、または機密の事務を取り扱う者(=機密事務取扱者)
・監視または断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
・高度プロフェッショナル制度が適用される者

賃金台帳は事業場ごとに作成する

賃金台帳は、事業場ごとに調製(作成)する必要があります(法108条)。

事業場」とは、1つの事業を行っている場所のことです。同一の場所で行われている事業は原則として1個と評価され、それが行われている場所(店舗やオフィスなど)が1つの事業場となります。

ただし、規模が著しく小さく、独立性に乏しい出張所・支所などは、直近上位の機構と一括して1つの事業場として取り扱われます。

事業場(店舗やオフィスなど)が複数ある企業では、賃金台帳のファイルを事業場ごとに分けて作成する必要があります。全労働者をまとめた賃金台帳を作成しただけでは、労働基準法を遵守したことにならないのでご注意ください。

ムートン

異動などがあった場合は、対応する必要があるといえます。

賃金台帳の保存期間

賃金台帳の保存期間は、最後の記入をした日から3年間です(労働基準法109条・附則143条1項、労働基準法施行規則56条1項2号)。

賃金台帳には、労働者に対する賃金の支払いの都度、その賃金に関する事項を遅滞なく記入する必要があります。したがって、在職中の労働者については、基本的に毎月賃金台帳への記入を行うことになります。
労働者が退職すると、賃金台帳への記入が行われなくなります。最後の記入から3年が経過したら、その元労働者に関する賃金台帳の記載は削除して構いません。

保存期間を適切に管理するためには、表計算ソフト(Excelなど)によって賃金台帳を作成するのが便利です。最後の記入日でソートできるようにしておけば、残すべきデータと削除してよいデータをスムーズに見分けることができます。

賃金台帳の作成・保存に関する注意点

企業が賃金台帳を作成・保存する際には、以下の各点に注意しましょう。

① 労働時間が自己申告制の場合、実際の労働時間を把握する必要がある
② 賃金台帳の作成・保存を怠った場合のペナルティ

労働時間が自己申告制の場合、実際の労働時間を把握する必要がある

労働時間の管理を、労働者の自己申告に基づいて行っている企業が多数見られます。勤怠管理システムを導入するコストを割くことができない、テレワークが中心のため労働時間の管理が難しいなど、さまざまな事情で自己申告制をやむを得ず採用している例も多いと考えられます。

労働時間が自己申告制である場合は、申告内容と実際の労働時間が異なる可能性がある点に注意が必要です。企業としては、労働者の自己申告に完全に依拠するのではなく、労働時間の実態を把握するよう努めなければなりません。

厚生労働省のウェブサイトでは、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が公表されています。
労働時間の自己申告制を採用している企業は、同ガイドラインを参考にして実際の労働時間の把握に努め、賃金についても実際の労働時間に基づく計算・支給を行いましょう。

賃金台帳の作成・保存を怠った場合のペナルティ

賃金台帳の作成または保存怠った場合には、労働基準監督官による是正勧告の対象となるほか、悪質な場合には刑事罰が科されることもあり得るので注意が必要です。

労働基準監督官による是正勧告

労働基準法違反が疑われる事業場に対して、労働基準監督官は臨検立ち入り調査)を行うことがあります。臨検を行う労働基準監督官は、事業場に対して帳簿・書類の提出を求め、または使用者および労働者に対する尋問を行うことができます(法101条1項)。

特に残業代の未払いなど、賃金に関する労働基準法違反が疑われている場合には、賃金台帳は必ずチェックされると考えておきましょう。その際、賃金台帳が全く作成されていなかったり、虚偽の内容が記載されていたりすると、労働基準法違反の指摘を受ける可能性が高いので要注意です。

臨検を通じて労働基準法違反が発覚した場合、労働基準監督官は事業場に対して是正勧告を行います。是正勧告を受けた場合には、速やかに違反状態を是正した上で、その結果を労働基準監督官へ報告しなければなりません。

是正勧告に法的拘束力はないものの、労働基準法違反の状態を適切に是正した上で期限内に報告しなければ、違反行為者や企業が刑事処分を受けるおそれがあります。
労働基準監督官の臨検が行われる際には誠実に協力しつつ、是正勧告を受けた違反事項については速やかに是正措置を講じましょう

刑事罰

賃金台帳の作成・保存義務違反は、刑事罰の対象です。違反行為者「30万円以下の罰金」に処され(法120条1号)、さらに事業主(企業)に対しても「30万円以下の罰金」が科されます(法121条)。

刑事罰は刑事裁判(公判手続きまたは略式手続き)を通じて科されますが、それに先立って、労働基準監督官は検察官に対して事件や証拠物などを送致します(=送検)。

送検が行われた労働基準法違反事件については、都道府県労働局のウェブサイトにおいて、企業名とともに公表されるのが通例です。労働基準法違反の疑いによる送検の事実が公表されれば、企業のレピュテーションに傷が付いてしまいます。
是正勧告や刑事罰を受けないように、賃金台帳の作成・保存を含めて、労働基準法を適切に遵守しましょう。

ムートン

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