不当利得とは?
問題になるケース・民法のルール・要件・
対象範囲・時効・返還請求の流れなどを
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

不当利得」とは、法律上の原因なく利益を受け、そのために他人の損失を及ぼすことをいいます。不当利得を得た者に対して、損失を受けた者は当該不当利得の返還を請求可能です。

不当利得返還請求を行うためには、以下の4つの要件を全て満たす必要があります。
① 被請求者が利益を得ていること
② 請求者が損失を被ったこと
③ 利益と損失の間に因果関係があること
④ 被請求者が利益を保持する法律上の原因がないこと

不当利得返還請求の対象となるのは、原則として現存利益(残っている利益)のみです。ただし、利益を受けた者がその当時に悪意であった場合は、不当利得の全額に利息を付して返還する義務を負います。

不当利得返還請求を行う際には、請求書を送付した上で相手方と交渉するか、または民事調停訴訟などの法的手続きによって争います。法的手続きによって不当利得返還請求が認められた後は、強制執行の申立てもできます。

不当利得返還請求を成功させるには、不当利得の証拠を確保することが重要です。また、相手方の悪意を立証できれば、不当利得の回収額を増やせます。

この記事では不当利得について、問題になるケース・要件・対象範囲・消滅時効・返還請求の流れなどを解説します。

ヒー

経理から「取引先の請求が間違っていた、払いすぎた分は返金してもらえる?」という相談がありました。

ムートン

それは法律的には「不当利得返還請求」をすることになります。まずは連絡・交渉からですね。要件なども確認していきましょう。

※この記事は、2024年2月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

不当利得とは

不当利得」とは、法律上の原因なく利益を受け、そのために他人の損失を及ぼすことをいいます。不当利得を得た者に対して、損失を受けた者は当該不当利得の返還を請求できます。

不当利得の種類|給付利得と侵害利得

不当利得は、「給付利得」と「侵害利得」の2つに分類されます。

不当利得の種類

① 給付利得
外形上有効な契約等によって財産的利益が移転したものの、その契約等が無効・取り消し・解除によって効力を失った結果、その財産的利益が不当利得となるパターンです。

② 侵害利得
外形的にも契約関係等がない当事者間において、一方の権利を他方が侵害して権原なく利益を得るパターンです。

「法律上の原因がない」とは

法律上の原因がない」とは、利益を得た者がその利益を保持できる具体的な法律関係がないことをいいます。

給付利得の場合、当初は財産的利益の移転を基礎づける契約等が存在し、または存在するように見えます。
しかし、その契約等が後になって消滅し、または当初から存在しなかったことが分かると、利得者がその財産的利益を保持する法律上の原因はないことになります。

侵害利得の場合は、そもそも財産的利益の移転を基礎づける契約等が全く存在しないため、当事者のうち一方が他方の犠牲の下に得た利益には、法律上の原因がありません。

不当利得が問題となるケースの例

不当利得が問題になるケースとしては、以下の例が挙げられます。各ケースにおいてはいずれも、XがYに対して不当利得の返還を請求可能です。

不当利得の具体例・ケース

① 給付利得の例
・XはYに対して、不動産の購入代金として3000万円を支払ったが、後に不動産売買契約が解除された。
・XはYに対して、不動産の購入代金として3000万円を支払ったが、後に不動産売買契約が錯誤を理由に取り消された。
・XはYに対して、不動産の購入代金として3000万円を支払ったが、不動産売買契約の締結時においてXに意思能力がなかったため、同契約は無効である。

② 侵害利得の例
・Xの所有する美術品を、Yが勝手に売却して代金を自分のものにした。
・Xが所有する不動産を、YがZに対して勝手に賃貸し、Zから賃料を受け取って自分のものにした。
・Xが所有する土地を、Yが自分の車を置くための駐車場として勝手に使った。

不当利得返還請求の要件

不当利得返還請求を行うためには、以下の4つの要件を全て満たす必要があります。

不当利得返還請求の要件

① 被請求者が利益を得ていること
② 請求者が損失を被ったこと
③ 利益と損失の間に因果関係があること
④ 被請求者が利益を保持する法律上の原因がないこと

被請求者が利益を得ていること

不当利得の要件の1つ目は、請求を受ける側(被請求者)が他人の財産または労務によって利益を受けていること(=受益です。

給付利得の場合は、財貨の給付を受けたことが受益に当たります。

給付利得における受益の例

・相手からお金の支払いを受けたこと
・売買の目的物の交付を受けたこと

侵害利得の場合は、目的物の使用・消費・処分によって利益を得ることが受益に当たります。

侵害利得における受益の例

・相手の所有物を勝手に使い、本来であれば支払うべき費用の支払いを免れたこと(=使用)
・相手のお金を勝手に使って飲食したこと(=消費)
・相手の所有物を勝手に売却して代金の支払いを受けたこと(=処分)

請求者が損失を被ったこと

不当利得の要件の2つ目は、請求する側(請求者)が損失を被ったことです。

給付利得の場合は、財貨を給付したことが損失に当たります。給付利得において、請求者の損失は非請求者の受益と表裏一体です。

侵害利得の場合は、勝手に自己の財産を利用されたことによって受ける損害が損失に当たります。

なお、自ら財産を使う可能性がない場合には現実の損失は生じません(例えば、Xが全く使っておらず放置していた土地を、Yがこっそり使っていた場合など)。しかしこのようなケースでも、不当利得との関係では多くの場合、損失が存在するものとみなされます。

利益と損失の間に因果関係があること

不当利得の要件の3つ目は、被請求者の受益と請求者の損失の間に因果関係があることです。

給付利得の場合は、財貨の給付を受けたことが受益、財貨を給付したことが損失に当たり、受益と損失が表裏一体の関係にあります。そのため、因果関係が独立して争われることは通常ありません。

侵害利得の場合は、被請求者の受益によって請求者の損失が生じたといえるだけの関係性があるかどうかを、社会観念(社会通念)に従って評価・判断します。

被請求者が利益を保持する法律上の原因がないこと

不当利得の要件の4つ目は、被請求者が利益を保持する法律上の原因がないことです。

前述のとおり「法律上の原因がない」とは、利益を得た者がその利益を保持できる具体的な法律関係がないことをいいます。

給付利得の場合は、外形的な具体的法律関係(契約等)が無効であり、または取り消し・解除によって消滅したときに、利益を保持する法律上の原因がなくなります。
侵害利得の場合は、外形的な具体的法律関係が存在しないので、そもそも利益を保持する法律上の原因がありません。

不当利得返還請求の対象範囲

不当利得返還請求の対象となるのは、原則として被請求者に現存する利益のみです。ただし例外的に、利益を得た当時において被請求者が悪意だった場合は、不当利得全額に利息を付して返還する義務を負います。

ヒー

悪意って、「騙してやろう」という意図のことですか?

ムートン

法律用語としての「悪意」は、「事情を知っていること」という意味です。「これ、間違ってるな」と気付いていた場合も、法律上は「悪意」です。

原則|現存利益のみ

不当利得を受けた者(=受益者)は、そのために損失を受けた者に対し、原則として現存利益を返還する義務のみを負います(民法703条)。

現存利益」とは、受益者のところに残っている利益です。

例えば金銭の不当利得については、現金や預金として残っている場合には現存利益があります。また、必要な出費(生活費など)に充てた場合にも、受益者の財産を用いた支出を免れているため、現存利益があるものとみなされます。
これに対して、不当利得に当たる金銭を浪費してしまった場合には、現存利益がないものと判断されます。

また、不当利得として不動産を得た場合には、その不動産が現存していれば当然返還する必要があります。これに対して、災害等によって不動産が滅失した場合には、受益者における現存利益がないので、原則として返還義務を負いません。

例外|悪意だった場合は全額+利息

不当利得の受益者が、利益を得た当時において、その利益を保持する法律上の原因がないことを知っていた(=悪意)場合には、不当利得の全額に利息を付して返還しなければなりません(民法704条)。

例えば、受益者が詐欺的な売買によって不動産を得た後、その不動産が災害等によって滅失した場合には、受益者は相手方に対して不動産の価格相当額の金銭を返還する義務を負います。不動産の滅失によって現存利益はなくなったものの、受益者は不当利得について悪意だったからです。

ただし給付利得の場合には、受益者が悪意であっても公平の観点から結論を調整すべき場合があると考えられます。
例えば、受益者が相手方から強迫を受けて無理やり商品を買わされた後、その商品が滅失したようなケースでは、受益者は不当利得について悪意であるものの、商品代金全額の返還を義務付けるのは酷です。
このような場合には、権利濫用(民法1条3項)などの一般法理を用いて結論を調整する余地があります。

不当利得返還請求権の消滅時効

不当利得返還請求権は、以下のいずれかの期間が経過すると時効によって消滅します(民法166条1項)。

① 権利を行使できることを知った時から5年
② 権利を行使できる時から10年

不当利得返還請求権の消滅時効の完成は、内容証明郵便等による催告(民法150条)や、裁判上の請求(訴訟の提起。民法147条1項1号)などを行うことによって阻止できます。

不当利得返還請求の手続き・流れ

不当利得返還請求を行う際には、以下の流れで手続き対応を行いましょう。

① 不当利得に関する事実調査・証拠確保・計算
② 請求書の送付・交渉
③ 民事調停
④ 訴訟の提起

不当利得に関する事実調査・証拠確保・計算

まずは請求の準備段階として、不当利得に関する事実の調査や証拠の確保を行いましょう。
例えば不動産の売買契約を解除して代金の返還を求める場合には、解除事由として主張できる事実があるかどうかを確認し、あればその事実を立証し得る証拠を確保します。

また、価格による返還を請求する場合には、不当利得の金額の計算も必要です。
例えば売主が不動産売買契約を解除したものの、買主がすでに第三者へ不動産を売却して登記も移転してしまった場合は価格返還となります。この場合、売却時における不動産の価値を鑑定等によって計算した上で請求します。

請求書の送付・交渉

請求の準備が整ったら、相手方に対して請求書を送付して、不当利得の返還に関する交渉を求めましょう。

請求の証拠が残るように、内容証明郵便で請求書を送付するのが一般的です。内容証明郵便による請求(催告)には、不当利得返還請求権の消滅時効の完成を6カ月間猶予する効果もあります(民法150条1項)。

交渉によって合意が成立したら、その内容をまとめた合意書を締結した後、不当利得の精算を行います。

民事調停

不当利得返還請求に関する交渉がまとまらない場合は、民事調停を申し立てることが考えられます。

民事調停は、簡易裁判所で行われる紛争解決手続きです。民間の有識者から選任される調停委員が、当事者の意見を調整しながら紛争解決の合意を試みます。

調停委員が間に入ることで、当事者同士の直接交渉よりも冷静な話し合いが期待できる点が民事調停のメリットです。

訴訟の提起

交渉や民事調停による解決が困難な場合は、裁判所に訴訟を提起して不当利得の返還を請求しましょう。

訴訟では、請求者が不当利得返還請求権の要件を立証しなければなりません。長期化するケースも多いので、十分な準備を整えた上で訴訟に臨みましょう。

強制執行

民事調停や訴訟によって確定した解決内容に従わず、相手方が不当利得を返還しない場合には、裁判所に強制執行を申し立てることができます。

強制執行手続きでは、執行官が強制的に相手方から請求者へ財産を移転します。例えば金銭の不当利得返還請求訴訟に勝訴した場合には、相手方が所有する財産や預貯金、給与債権などを差し押さえた上で、強制的に弁済へ充当することが可能です。

不当利得返還請求の結果を左右し得るポイント

不当利得返還請求を成功させるためには、以下の2つの観点から、ご自身(自社)にとって有利な証拠を十分に確保することが大切です。

① 不当利得であることの証拠を確保する
② 相手方の悪意を立証し得る証拠を確保する

不当利得であることの証拠を確保する

不当利得であることの証拠を確保することは、不当利得返還請求を成功させるために必須です。

例えば契約の無効・取り消し・解除を主張する場合には(=給付利得のケース)、その原因となる事実を立証し得る証拠を確保しましょう。
侵害利得のケースでは、相手方が利益を得たのかどうか、およびそれによってご自身(自社)が損失を被ったのかどうかが焦点となるケースが多いです。利益や損失の事実および金額を立証し得る証拠を確保しましょう。

相手方の悪意を立証し得る証拠を確保する

相手方の悪意を立証できれば、不当利得全額に利息を付した金額の返還を請求できます。

「悪意」は相手方の主観であるため、間接事実を積み上げて立証するほかありません。給付利得のケースでは契約を締結した当時の状況、侵害利得のケースでは侵害行為がなされた当時の状況に関して、ご自身(自社)にとって有利な証拠をできる限り豊富に集めましょう。

ムートン

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