民法の学び方は?
効率的な方法・注意点・企業法務担当者が
重点的に学ぶべきポイントを解説!
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- この記事のまとめ
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民法は、“私人”間の日常の生活関係において一般的に適用される法律です。
企業は「私人」に該当するため、企業が取り扱う全ての法律関係に、民法が適用されます。したがって企業法務担当者は、民法について一定以上の知識を身に着けることが求められます。
民法を学ぶ方法としては、主に以下の例が挙げられます。学習者の目的や習熟度などに合わせて、適切な方法で民法を学びましょう。
①学者が執筆した書籍(基本書)を読む
②法律資格試験の参考書を読む/講義を受講する
③裁判例の解説を読む
④法律関連ウェブサイトの記事を読む民法を学ぶ際には、規定の全体像を意識しつつ、基本原則を念頭に置くことが大切です。さらに、判例と学説は厳密に区別した上で、判例については可能な限り原文を確認しましょう。
民法の規定は分量が多いため、実務でよく問題になる規定を重点的に学ぶことをおすすめします。自社の業務の内容に照らして、メリハリを付けながら民法の学習を進めましょう。
この記事では民法の学び方について、方法・注意点・企業法務担当者が重点的に学ぶべきポイントなどを解説します。
※この記事は、2023年7月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
民法の主な学び方
企業法務担当者にとって、全ての契約に通じる民法を学ぶことは非常に重要です。民法を正しく理解すれば、そのルールに照らしてリスクを踏まえた上で、企業が締結する契約書を適切にレビューできます。
民法を学ぶ方法としては、主に以下の例が挙げられます。目的に応じて、適切な方法で民法の学習を進めましょう。
①専門家が執筆した書籍(基本書・逐条解説など)を読む
②法律資格試験の参考書を読む/講義を受講する
③裁判例の解説を読む
④法律関連サイトの記事を読む
専門家が執筆した書籍(基本書・逐条解説など)を読む
民法を体系的に学習するためには、法学者が執筆した書籍を通読することが望ましいです。
特に、大学の法学部生や司法試験を目指す方の間で、教科書のような位置づけである書籍は「基本書」と呼ばれています。基本書には、民法に関する基本的な知識・ルールから判例・学説まで、幅広く記述されているのが特徴です。
- 民法の基本書の例
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・内田貴『民法Ⅰ~Ⅳ』(東京大学出版会)
・近江幸治『民法講義Ⅰ~Ⅶ』(成文堂)
・山田卓生ほか『民法Ⅰ~Ⅴ』(有斐閣)
・我妻榮ほか『民法1~3』(勁草書房)
など
また、民法における個々の条文を詳しく調べたい場合は、逐条解説を参照するのが効果的です。
逐条解説は条文を一つずつ詳しく解説した書籍で、学説や判例、改正の経緯などが詳細にまとめられています。
民法の逐条解説としては、『新注釈民法』(有斐閣)がもっとも権威のある書籍として認知されています。
法律資格試験の参考書を読む/講義を受講する
民法の全体像を分かりやすく学びたい場合は、法律資格試験(司法試験・司法書士試験・行政書士試験など)の参考書を読むことも考えられます。
初学者から試験合格を目指す方を対象としているものが多く、民法の基本をスピーディに学ぶことができます。ただし、重要な記述が省かれているケースも多いので、必要に応じて基本書などを併用することが望ましいです。
また各資格試験予備校では、司法試験・司法書士試験・行政書士試験などの受験者に向けた講義が提供されています。自分で本を読むだけでは勉強が大変だという場合は、資格試験予備校の講義を利用することも考えられるでしょう。
裁判例の解説を読む
民法に関する重要な裁判例について、判断の理由や背景などを詳しく知りたい場合には、裁判例の解説(判例評釈)を読むのが良いでしょう。
重要な最高裁判例については、『最高裁判所判例解説』(法曹会)という書籍に、最高裁判所調査官が書いた判例評釈(=調査官解説)がまとめられています。調査官解説は法律実務家の間でも権威が高く、最高裁判例を理解するためには必携の書籍です。
そのほか、以下の法律雑誌でも判例評釈が掲載されます。
『判例タイムズ』
『法曹時報』
『判例時報』
など
法律関連ウェブサイトの記事を読む
民法について、特に知りたい具体的なトピックがある場合には、法律関連ウェブサイトの記事を読むのが手軽で便利です。
法律関連ウェブサイトには、さまざまなトピックに関する解説記事が掲載されています。関連する規定の基本的なルールや実務上の取り扱いなどを、短時間で簡単に把握できる点が大きなメリットです。
その一方で、記載内容の網羅性・正確性は必ずしも保証されていないので、基本書などを併用することをおすすめします。
民法を学ぶ際の注意点
法務担当者が民法を学ぶ際には、以下の各点に注意ください。
- 全体像を意識する
- 基本原則を理解する
- 判例と学説を区別する
- 判例はできる限り原文を確認する
- 規定と事案の接続を整理する
全体像を意識する
民法は、以下の5つの編によって構成されます。
第1編「総則」
→民法全体に共通して適用されるルールが定められています。
(例)権利能力・意思能力・行為能力・意思表示・代理・時効など
第2編「物権」
→物に対する権利(物権)に関するルールが定められています。
(例)占有権・所有権・抵当権など
第3編「債権」
→人に対する権利(債権)に関するルールが定められています。
(例)契約・事務管理・不当利得・不法行為など
第4編「親族」
→近親者間の法律関係や権利義務に関するルールが定められています。
(例)婚姻・親子・親権・成年後見制度・扶養など
第5編「相続」
→人が死亡した場合における財産の承継(相続)に関するルールが定められています。
(例)相続人・遺産分割・相続放棄・遺言・遺留分など
さらに、各編は章・節・款に細分化されています。
(例)
第3編「債権」→第2章「契約」→第3節「売買」→第2款「売買の効力」
民法を学習する際には、編・章・節・款の見出しを念頭に、全体像を捉えることを意識すると、より理解が深まるでしょう。
基本原則を理解する
民法を学ぶに当たっては、規定全体に通じる以下の基本原則を理解しなければなりません。
①権利能力平等の原則
人であれば、全て平等の権利能力を有するという原則です。
②私的自治の原則
人は、自らの意思に基づいてのみ拘束されるという考え方です。
私的自治の原則を踏まえて、民法の規定は原則として任意規定(=契約によって上書きできるルール)であり、強行規定(=契約では上書きできず、強制的に適用されるルール)は一部の例外に限られています。
③所有権絶対の原則
物の所有者は、何らの制約なく自由にその物を使用・収益・処分できるという原則です。
物権に関する規定を理解する際には、所有権絶対の原則を念頭に置く必要があります。
判例と学説を区別する
民法の解説書(基本書・法律資格試験の参考書・判例評釈など)には、条文の解釈などに関する解説が掲載されています。解釈の理由として挙げられているのは、判例の規範または学説上の考え方です。
判例の規範は、最高裁判例または有力な下級審判例で示されたものです。実務は基本的に、判例の規範に従って動いています。
これに対して学説上の考え方は、通説として支持を得ているものと、独自説に過ぎないものに分かれます。通説であれば実務でも通用しますが、独自説を鵜呑みにしてしまうのは危険です。
民法の解説を読む際には、まず判例と学説を区別した上で、まず判例の規範を理解しましょう。判例がなければ、通説的な考え方を理解します。
独自説は鵜呑みにせず、「そのような考え方もある」という程度の捉え方にとどめておきましょう。
判例はできる限り原文を確認する
民法の解説書では、解説内容の根拠となる判例がたびたび引用されています。
判例を正しく理解するためには、どのような事案が争われ、どのような理由で規範が示されたのかを把握しなければなりません。しかし、事案の詳細や規範の詳細な根拠は、解説書には示されていないケースが多いです。
そのため、解説書で引用されている重要判例は、極力原文を確認しましょう。裁判所のウェブサイトにアクセスすれば、最高裁判例をはじめとする重要判例の原文が閲覧できます。
規定と事案の接続を整理する
民法を学ぶ際には、単に条文を確認するのではなく、その条文がどのようなケースに適用されるのかを具体的にイメージすることが大切です。
(例)不動産売買契約の場合
・いつの時点で契約は成立する?
・手付を放棄するとどうなる?
・不動産に欠陥があったら?
・代金が支払われなかったら?
……など
具体的に想定されるトラブルなどをイメージしながら学習を進めると、民法の規定の理解度が深まります。
企業法務担当者が重点的に学ぶべき民法の規定
企業法務担当者は、民法の中でも以下の規定を重点的に学ぶことをおすすめします。
- 所有権に関する規定
- 債務不履行に関する規定
- 売買契約に関する規定
- 請負契約に関する規定
- 委任契約・準委任契約に関する規定
- その他業務上取り扱う契約に関する規定
- 不法行為に関する規定
所有権に関する規定
物権法の基本となる「所有権」に関する規定(民法206条以下)は、企業法務においても非常に重要です。会社の資産や保有する商品などについては、所有権の規定が適用されます。
基本原則である「所有権絶対の原則」を念頭に置きつつ、所有権に関するルールは詳細に学びましょう。
債務不履行に関する規定
主に契約トラブルが発生した場合に問題となるのが「債務不履行」に関する規定(民法412条以下、541条以下)です。
債務不履行とは、契約上の債務が履行されないことをいいます。民法では、債務不履行が発生した場合の救済手段として、損害賠償や契約解除などを定めています。
取引相手が契約違反を犯すようなケースを想定して、債務不履行の規定についても理解を深めましょう。
売買契約に関する規定
会社が締結する契約の中でも、「売買契約」は締結頻度の高い重要な契約といえます。例えば原材料の仕入れに関する契約や、商品の販売契約などは売買契約に当たります。
売買契約については、目的物に欠陥等があった場合に適用される「契約不適合責任」の規定が定められています(民法562条以下)。
契約不適合責任の規定は、売買契約以外の有償契約にも準用されるため(民法559条)、重点的に学習しておきましょう。
請負契約に関する規定
自社製品の製造を外部委託する場合や、他社から製品の製造を受注する場合などには、「請負契約」に関する規定(民法632条)が適用されます。
また製品の製造に限らず、仕事の完成を目的とする業務委託契約などについても、請負契約に関する規定が適用されます。
売買契約と並んで、請負契約も企業間において締結される頻度が高いため、関連する民法の規定を理解しておきましょう。
委任契約・準委任契約に関する規定
仕事の完成を目的としない業務委託契約については、「委任契約(準委任契約)」に関する規定(民法643条以下)が適用されます。
例えば客先常駐や、システムの保守・運用(SES)などを内容とする業務委託契約は、委任契約(準委任契約)に関する規定の適用対象です。該当する取引を行う企業の法務担当者は、委任契約(準委任契約)についても学習しましょう。
その他業務上取り扱う契約に関する規定
上記のほか、自社が関与する取引に適用される民法の規定については、その内容を正しく理解しておきましょう。
(例)
労働者を雇用している場合:雇用契約
金融機関:消費貸借契約、寄託契約
不動産業者:賃貸借契約
など
不法行為に関する規定
知的財産権の侵害や近隣トラブルなど、契約関係にない相手方との間で発生したトラブルについては、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償が問題となります。
不法行為については、原則的な損害賠償のルールに加えて、
- 使用者責任(民法715条)
- 工作物責任(民法717条)
- 共同不法行為責任(民法719条)
などの派生パターンについてもルールが定められています。
これらの規定も、企業が関与する法律トラブルではよく問題になるので、民法上の取り扱いを確認しておきましょう。
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