企業法務とは何をする仕事?
法務部の役割や仕事内容を分かりやすく解説!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
企業法務担当者が押さえておきたい重要法令まとめ
この記事のまとめ

「法務部の役割」「法務部が担う仕事内容」について解説します。

企業のガバナンス、コンプライアンスの重要性が高まっている今、法務部の重要性も高まっています。

この記事では、企業の法務部はどのような業務を行っているのか、法務担当者に求められるスキル、などを解説します。

ヒー

企業の法務部って、あまり一般の人はイメージがしにくい仕事かもしれませんね。

ムートン

そうですね。法務部の仕事というと、契約書の作成、レビューなどが代表的ですが、それ以外にも様々です。

(※この記事は、2021年1月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

法務部の役割と重要性

多くの企業が「法務部」「法務担当社員」を社内に有していますが、企業の「法務部」や「法務担当社員」が何をしているのか、十分に把握していますでしょうか。

ここでは、法令遵守が叫ばれる昨今の企業において、法務部に求められている役割と、 法務部がなぜ必要不可欠な組織であるのか、について解説していきます。

攻めの法務と守りの法務

法務部は、企業法務、すなわち企業が関与するすべての法律的な業務を担当し、 企業活動が法令や契約と整合性をもって適正に行われ、企業が健全な発展を遂げることができるように企業全体をサポートすることがその役割です。

法務部は、主に「攻め」「守り」の2つの機能を有しています。

「攻め」の法務企業活動の目的遂行(増収や増益)のため、法的な手段・技術を使った有用な戦術・戦略で、企業活動を後押しすること
「守り」の法務社外や社内の法的な衝突を未然に防ぎ、または発生した紛争を解決するために適切な処置を行うことで、企業活動のリスクヘッジをすること

法務部員には、この「攻め」と「守り」の両面を考慮すること、つまり、 「企業の利益の追求」と 「法的に適正な活動」の双方を踏まえた判断が必要となり、高いバランス感覚が求められます。

変化する企業法務の役割

近年、企業を取り巻くリスクの裾野が、法的なリスクを中心として、レピュテーションリスクやブランド毀損のリスクなどまで広がってきています。

そのような環境の中で、法知識・契約交渉のスキルなどの法務スキルを基に、 経営判断の支援を行う、「企業経営の相談役」としての役割も法務部には求められてきています。

法務部の仕事内容

法務部の業務には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、法務部の業務をいくつか紹介し、その内容について解説していきます。もちろん、 ここで挙げる業務はあくまで一例であり、これら以外にも法務部がかかわる業務は存在します。

法律相談

法務部の業務の多くは、経営者や事業部からの相談・経営者や事業部へのヒアリングで始まります。
法務部は、相談・ヒアリングを通じて、相談内容や問題点を理解し、経営者や事業部のサポートを行います。問題となる事業ごとに関連する法律が異なるため、幅広い法律知識が求められます。

また、ヒアリングで取引内容や依頼内容を正確に把握することが、問題点を正確に理解して、適切な提案を行うためには欠かせないため、 法務部員は十分なヒアリングを実施する必要があります。

契約法務

法務部の業務の中では、契約にかかわるものが非常に多いです。

契約は、自社と相手方の間の取引のルールを決める行為であり、法律に関する知識と素養を備えた法務部が、 どのような権利義務が生じるのかを意識した契約書を抜け漏れなく作成する必要があるためです。

契約書に関する業務としては、相手方から出された契約書が法的に妥当か、また、自社の利益を損ねる内容ではないかを確認する 契約書審査(「契約書レビュー」と呼ばれる場合もあります)と、法務部で契約書を書き起こす契約書作成 (「契約書ドラフト」と呼ばれる場合もあります)の2つがあります。

また、契約相手が日本企業とは限らないため、英語など、日本語以外の言語で契約書の「審査」、「作成」を行うこともあります。

契約書審査(レビュー)、契約書作成(ドラフト)については、以下の記事がありますので、チェックしてみてください。

機関法務(ガバナンス)

機関法務は、企業の意思決定を行う株主総会や取締役会などの、会社の内部機関の活動が適法に行われることも目的とした事務局業務です。

この業務は、会社法を中心とした法律知識が必要なことから法務が担当している場合が多いです。
また、機関法務の中には、企業の組織再編や上場対応などの業務なども含まれます。

なお、コーポレートガバナンスの更なる強化を目指して、会社法の改正が予定されています。
会社法改正については、以下の記事で解説しています。

紛争(訴訟)対応

社外や社内でトラブルが発生、または、顧客からクレームが寄せられた際に、 法務部は紛争解決のための対応を行うことがあります。それらのケースが、訴訟などの法的な紛争解決手段に発展する可能性が大いにあるためです。

紛争(訴訟)対応の場面では、法務部のみで対応することもあれば、法律事務所の弁護士と協議・連携することも多くあります。

外部の弁護士と連携する場合の連絡や相談、社内と弁護士をつなぐ仕事(紛争解決に向けた社内の情報収集など)、費用交渉なども法務部が担当する場合が多いです。

コンプライアンス

近年、企業に法令遵守(コンプライアンス)を求める動きが進んでいますが、 自社の適正な体制、組織作り、整備を行うことも法務部に求められる仕事の1つです。

具体的には、社内秩序を守るための社内のルール(社内規程)を定める、コンプライアンスに関する社内研修や教育を行う、 内部通報のための窓口を設置する、など、その仕事は多岐に及びます。

法令調査

企業をめぐる環境変化のひとつに法令改正があります。
法令改正の影響がどのように自社に及ぶのか、調査・検討し、社内周知するのも、法務部の役割です。

海外で取引を行っている企業や、海外に関係会社がある企業の法務部は、日本のみならず海外の法令改正にも注意することが必要です。

労務・労働問題

従業員を雇用する企業であれば、労務管理や労働問題への対応を避けて通ることはできません。企業と従業員の間の雇用関係には、労働基準法をはじめとした各種の労働法令が適用されるため、法務部によるリーガルチェックが必要となるケースも多いです。

例えば、従業員から会社に対して未払い残業代を請求されたり、会社が不当解雇で訴えられたりするケースが想定されます。法務部は、これらの労働紛争を迅速に解決するため、自ら法的検討を行い、時には外部弁護士と連携して対応します。

また近年では、セクハラパワハラなどのハラスメント対応も、企業にとって重要な課題となっています。ハラスメントに関する相談窓口の設置や、実際に寄せられたハラスメントに関する相談への対応などにおいても、法務部の協力が必要になります。

その他、就業規則をはじめとする労務関連の社内規程の整備や、労働基準監督署への対応なども、法務部によるサポートを必要とする業務です。

知的財産権

知的財産権に関する紛争に巻き込まれた場合、企業は大きなリスクにさらされます。自社の知的財産権を侵害された場合は、早急に対処しなければ売上・収益の減少につながりますし、反対に他社の知的財産権を侵害した場合には、対応を誤ると巨額の損害賠償を強いられる事態になりかねません。

法務部は、特許権・商標権・著作権に代表される知的財産権関連の紛争について、外部弁護士と連携しながら対応を行います。知的財産権に関する紛争対応は、極めて専門性の高い分野であり、かつ工数も多いのが特徴です。そのため、法務部が主導して、外部弁護士への相談と役割分担を適切に行うことが、知的財産権紛争を早期に解決するためのポイントとなります。

また、自社が何らかの発明やネーミングなどを生み出した場合には、特許権・商標権等の登録を行う必要が生じます。知的財産権の出願登録事務は弁理士が取り扱っているため、会社は弁理士と協力しながら出願を行うことになります。

知的財産権の出願登録事務に関する弁理士との窓口は、所管部(知的財産管理部等)が担当するケースが多い一方で、法務部が担当するケースもあります。

債権回収・債権管理

売掛金などの債権回収が滞ると、企業にとっては資金繰りの危機が訪れてしまいます。 未払いとなった債権を回収するには、内容証明郵便による催告を行ったうえで、最終的には支払督促や訴訟などの法的手続を講ずる必要があります。適宜外部弁護士と連携しながら、状況に応じた適切な手続を通じて債権回収を試みることは、法務部に求められる役割の一つです。

また、債務不履行がまだ生じていない段階であっても、債権の支払期限や時効期間の管理を適切に行うことは非常に大切です。支払期限を過ぎた債権は、回収に向けた対応に着手する必要がありますし、消滅時効の完成が迫っている債権については、速やかに時効完成を阻止する手続をとらなければなりません。

上記のような債権管理は、第一義的には所管部の役割です。しかし、契約の解釈や消滅時効などとの関係で、法務部が債権管理に関するアドバイスを求められるケースもあります。その場合は、法務部内で対応につき検討・協議を行い、所管部に対してアドバイスを行うことが求められます。

その他、法律に関連する業務

上記に列挙した業務以外にも、企業が対応すべき法律関連業務には様々な種類があります。

企業法務に関係する法律の例

✅  景品表示法
✅  独占禁止法
✅  下請法
✅  個人情報保護法
✅  借地借家法
✅  宅地建物取引業法(不動産会社などの場合)
✅  金融商品取引法(金融機関などの場合)
など

法務部は、その都度発生する法律問題に合わせた検討を適切に行い、会社にとってのリスクや損害を最小限に抑えるための対応を講じることが求められます。

なお、上記の法律すべてに詳しくなければならない、というわけではありません。法務部の業務の中でよく問題になる法令もある一方で、全く考えたことのない法律問題に直面するケースもたびたび発生するからです。

法務部員が適切に法律問題へ対応するためにも、少なくともよく問題になる法律については、日々の業務の中で知識や経験を十分に蓄えておく必要があるでしょう。その一方で、突発的に発生した不慣れな法律問題については、適宜外部弁護士と協力しながら解決を図る姿勢が大切になります。

法務担当者に求められるスキル

法務部の業務を遂行し、その役割を果たしていくために、法務担当者にはどのようなスキルが求められるのでしょうか。
ここでは、代表的な3つのスキルをご紹介します。

学び続ける意欲

法務部が取り扱う問題には明確な答えがないケースも多々あります。

企業間の取引(契約)や紛争などには利害関係が発生し、その登場人物の関係性も個々の取引に応じて異なってきます。

そのような状況の中で、企業の利益と法的に適正な活動の双方を踏まえた判断をしていくことが求められます。

法務部として適切な対応をしていくためには、経営者や事業部以上に事業の内容について理解し、また、日々変化する社会や法令、裁判例などについての知識をアップデートしていく必要があります。

法務部に求められる、経営判断の支援、企業経営の中枢・経営の相談役としての役割を果たすため、学び続ける意欲は欠かせないものです。

コミュニケーション能力

前述したように、法務部には「攻め」と「守り」のバランス、すなわち、企業の利益の追求と法的に適正な活動の双方を踏まえた判断が求められます。

そのためには、経営者や事業部から十分なヒアリングを行うこと、外部の弁護士に社内事情を正確に理解してもらうことなど、 コミュニケーション能力が欠かせません。

協調性調整力を身につけて、社内外から信頼される存在になっていきましょう。

高い専門性

法務部の存在意義は、法知識・法的思考力・契約交渉のスキルなどの法務スキルを生かして企業活動を支援することにあります。

したがって、前提として、法務スキルに関する高い専門性が求められます。
法知識はもちろんのこと、対外的な交渉のための文書作成力英語力、法令調査などで必要な調査力など多くの専門性が求められます。

この記事のまとめ

法務部は、企業が関与するすべての法務業務を担当し、企業活動が法令や契約と整合性をもって適正に行われ、企業が健全な発展を遂げることができるように企業全体をサポートする部門です。

法務部員には、企業の利益の追求である「攻め」と、法的に適正な活動である「守り」の両面を踏まえた判断が求められ、高いバランス感覚が必要とされます。

近年は、法務部の役割として、法知識・契約交渉のスキルなどの法務スキルを生かした経営判断の支援など、「企業経営の相談役」としての役割も期待されており、今後、法務部はますますその重要性を増していくのではないでしょうか。

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
企業法務担当者が押さえておきたい重要法令まとめ

参考文献

瀧川英雄『スキルアップのための企業法務のセオリー』

中村 豊・淵邊 善彦「強い企業法務部門のつくり方」

経営法友会大阪部会「企業活動の法律知識〔新訂第8版〕」