遡及効とは?
民法の具体例・契約におけるバックデートや
遡及条項の文例などを分かりやすく解説!
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※この記事は、2024年2月28日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
遡及効とは
「遡及効」とは、過去に遡って法的な効果が生じることをいいます。
法律行為がなされた場合、その効果は将来に向かって発生するのが原則です。しかし、法律または契約の定めに従い、例外的に遡及効が生じることがあります。
遡及効が認められる場合・認められない場合
契約等の法律行為については、遡及効を定めることが柔軟に認められます。当事者の意思を尊重するという「私的自治の原則(契約自由の原則)」が適用されるためです。
これに対して、法令改正により変更されたルールを、改正前になされた行為等に適用することは原則として認められません(=法令不遡及の原則)。法令改正の遡及効が認められると、市民が自らの行為に適用されるルールを予測できなくなり、社会生活が不安定になってしまうためです。
特に刑罰法規については、法令不遡及の原則が特に厳格に適用され、遡及処罰の禁止が徹底されています。
民法における遡及効の具体例
民法では、以下の場面などについて遡及効が定められています。
① 無権代理行為の追認による遡及効
② 条件が成就した場合の遡及効
③ 時効完成時の遡及効
④ 相殺の遡及効
無権代理行為の追認による遡及効
代理権を有しないにもかかわらず、他人の代理人として契約をすることを「無権代理」といいます。無権代理行為は、本人が追認しなければ、本人に対してその効力を生じません(民法113条1項)。
本人が無権代理行為を追認した場合は、契約の時にさかのぼってその効力を生じるとされています(民法116条)。つまり、本人の追認によって、契約は当初から有効になるということです。
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(無権代理行為の追認)
第116条 追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
条件が成就した場合の遡及効
成就した時から法律効果が発生する条件を「停止条件」、成就すると法律効果が失われる条件を「解除条件」といいます。
停止条件が成就したときは、成就時から将来に向かって法律効果が発生するのが原則です(民法127条1項)。解除条件についても、成就時から将来に向かって法律効果が失われるのが原則とされています(同条2項)。
ただし、停止条件または解除条件の成就について、当事者が遡及効を生じさせる旨の意思表示をした場合には、その意思に従って遡及効が発生します(同条3項)。
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(条件が成就した場合の効果)
第127条 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
2 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
3 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。
時効完成時の遡及効
一定期間占有等を継続すれば権利を取得できる制度を「取得時効」、一定期間行使しなかった権利が消滅する制度を「消滅時効」といいます。時効の完成が猶予され、または更新されることなく時効期間が経過すると、取得時効または消滅時効の効力が発生します。
時効の効力は起算日にさかのぼるとされています(民法144条)。
したがって、取得時効が完成した場合には、(時効期間の経過時ではなく)占有等の開始時から権利を取得したことになります。
消滅時効が完成した場合にも、時効の起算日の時点で権利が消滅したことになります(すなわち、起算日以降の遅延損害金は発生しなかったことになります)。
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(時効の効力)
第144条 時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
相殺の遡及効
同種の目的を有し、互いに対立する2つの債権がいずれも弁済期にある場合に、両者を対等額で打ち消し合って債務を免れることを「相殺」といいます。
相殺の意思表示は、「双方の債務が互いに相殺に適するようになった時」にさかのぼって効力を生じます(民法506条2項)。
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(相殺の方法及び効力)
第506条 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
2 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。
「双方の債務が互いに相殺に適するようになった時」とは、以下の要件を全て満たすようになった時です(この状態は「相殺適状」と呼ばれます)。
① 当事者双方が、いずれも相手方に対して、同種の目的を有する債権を有している
(例)A社がB社に対して貸付債権を有し、B社がA社に対して売掛金債権を有している(いずれも金銭の支払いを目的とするため、同種の債権である)
② 相殺を主張する側の債権(=自働債権)が弁済期にある
(例)①の債権同士の相殺をA社が主張する場合には、A社がB社に対して有する貸付債権の弁済期(返済期限)が到来していることが必要
③ 相殺禁止に該当しない
(例)相殺禁止の特約がある場合、相殺を受ける側が有する債権(=受働債権)が差押禁止債権である場合、受働債権が不法行為に基づく損害賠償請求権である場合などには相殺禁止
契約の遡及効について
契約条項については、当事者の合意によって遡及効を持たせることができます。遡及効が定められた契約条項については、当事者が合意した日に遡ってその効果が発生します。
契約に遡及効を持たせるための手続き
契約条項に遡及効を持たせるための手続きとしては、主に以下の2通りが考えられます。
① 契約中に遡及条項を定める
契約全体、または特定の条項について遡及効を持たせる旨を、契約書において規定します。
② 契約締結日を過去の日付とする(バックデート)
遡及条項を定めることなく、契約締結日自体を過去の日付とします。
バックデートを行うと、実際の締結日と書類上の締結日がずれてしまうため、後に取引の経緯等を確認する際に支障が生じることがあります。契約管理を適切に行う観点からは、バックデートを避けて遡及条項を定める方が望ましいでしょう。
遡及条項の文例
契約における遡及条項の文例を紹介します。
- 契約全体について遡及効を持たせる遡及条項の例
-
第○条(遡及効)
本契約は、締結日にかかわらず、○年○月○日にさかのぼって効力を生じるものとする。
- 契約中の一部の条項についてのみ遡及効を持たせる遡及条項の例
-
第○条(遡及効)
本契約のうち、第○条……の規定は、締結日にかかわらず、○年○月○日にさかのぼって効力を生じるものとし、本契約におけるその余の条項は、締結日から効力を生じるものとする。
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