資本金とは?
金額の決め方・会社経営に与える影響・
増資と減資の手続きなどを分かりやすく解説!
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 法務必携!ポケット会社法重要用語集 |
- この記事のまとめ
-
「資本金」(しほんきん)とは、出資者が会社に対して払い込んだ金額を基礎として設定される金額です。出資額に対して、2分の1以上の金額を資本金として計上しなければなりません。
資本金の額は、会社経営に影響を与える場面が多々あります。
具体的には、消費税・法人税の課税が変化する点、会社法をはじめとする各種法令による規制の適用が変化する点、資本金部分は剰余金の配当に回すことができない点などが挙げられます。会社設立時においては、出資すべき金額の最低ラインが定められておらず、資本金1円でも会社は設立可能です。
しかし、あまりにも資本金が少なすぎると、取引先からの信用を得られないおそれがあります。取引先からの見え方を考慮して、適切な額の資本金を定めるべきです。
また、資本金の額が多すぎると課税上不利になる場合があります。特に中小企業においては、特段の事情がない限り、高額すぎる資本金を設定することは避けた方がよいでしょう。この記事では資本金について、会社経営に与える影響・金額の決め方・増資および減資の手続きなどを解説します。
※この記事は、2024年5月27日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 下請法…下請代金支払遅延等防止法
目次
資本金とは
「資本金」(しほんきん)とは、出資者が会社に対して払い込んだ金額を基礎として設定される金額です。
資本金の目的
資本金は、会社の規模や信用力などを示す指標の一つと理解できます。
資本金の額は、少なくともその金額が会社に対して払い込まれ、または剰余金としてプールされていたことが一度はあることを意味します。
現在その金額のキャッシュが会社にプールされているとは限りませんが、資本金の額を見れば、会社の規模や信用力をある程度窺い知ることができます。
また後述するように、資本金の額は税制上の取り扱いや中小企業保護に関する基準として用いられているほか、剰余金の配当に対する制約としても機能しています。
資本金の額の決定方法
株式会社の設立または株式の発行に際して払い込まれた財産については、その2分の1以上を資本金として計上しなければなりません(会社法445条1項・2項)。
したがって、会社設立時に出資額の50%から100%までの範囲内で資本金額を決め、その後は増資のたびに資本金が増えることになります。
ただし、資本金の額は株主総会決議によって増加または減少することが認められています(「資本金を増額・減額する際の手続き|増資・減資」で後述)。
資本金と資本剰余金・資本準備金・利益剰余金・利益準備金の違い
会社に関する会計上の数値としては、資本金以外にも「資本剰余金」「資本準備金」「利益剰余金」「利益準備金」などがあります。それぞれの意義は以下のとおりです。
① 資本剰余金
株式の発行などの資本取引を行った結果として生じる剰余金です。
② 資本準備金
資本剰余金のうち、法律の規定により純資産の部に計上する必要がある準備金です。
株式会社の設立または株式の発行に際して払い込まれた額のうち、資本金として計上しない額は、資本準備金として計上しなければなりません(会社法445条3項)。
資本準備金は資本金とともに、剰余金の配当に対する制限として機能します。
③ 利益剰余金
会社の活動を通じて得た利益のうち、会社内部に留保している額です。
④ 利益準備金
利益剰余金のうち、将来会社の経営が悪化した場合に取り崩して欠損の填補に充てられるように、法律上積み立てが求められている準備金です。
剰余金の配当をする際には、資本準備金の額と合わせて準備金が資本金の4分の1に達するまで、配当額の10分の1を利益準備金として積み立てなければなりません(会社法445条4項、会社計算規則22条2項)。
資本金の額によって会社経営に生じる影響
会社の資本金の額は、税金や中小企業保護、剰余金の配当などに影響を及ぼすことがあります。
資本金の額によって生じ得る会社経営上の影響としては、以下の例が挙げられます。
① 消費税の納税義務|資本金1000万円以上なら1期目から納税が必要
② 法人税の税率|資本金1億円超なら軽減税率の適用なし
③ 外形標準課税|資本金1億円超の会社に適用
④ 大会社に対する規制|資本金5億円以上の会社に適用
⑤ 中小企業者としての保護|業種に応じて一定以下の資本金額の会社に適用
⑥ 下請法による保護|取引当事者の資本金額によって適用の有無が決まる
⑦ 剰余金の配当|資本金部分は配当できない
消費税の納税義務|資本金1000万円以上なら1期目から納税が必要
2期前の事業年度の売上高が1000万円以下であるなどの要件を満たす会社は、消費税の納税が免除されます(=免税事業者)。
設立2年目までは「2期前の事業年度の売上高」が存在しないので、免税事業者となる会社が多いです。
しかし、資本金の額が1000万円以上の会社は自動的に課税事業者となり、設立2年以内であっても消費税を納税しなければなりません。
法人税の税率|資本金1億円超なら軽減税率の適用なし
法人税の税率は、原則として所得に対して23.20%です。ただし、資本金1億円以下の会社については軽減税率が適用され、年800万円以下の部分については15%または19%となります。
資本金が1億円を超える会社には軽減税率が適用されないため、資本金1億円以下の会社に比べると、法人税の負担が重くなります。
外形標準課税|資本金1億円超の会社に適用
資本金が1億円を超える会社には、法人事業税の課税に関して「外形標準課税」が適用されます。
法人事業税は原則として、所得を基準として課税されます(=所得割)。
しかし、外形標準課税が適用される会社に関しては、法人事業税のうち8分の5につき、付加価値を基準とした課税(=付加価値割)と資本金等の額を基準とした課税(=資本割)が行われます。
大会社に対する規制|資本金5億円以上の会社に適用
資本金の額が5億円以上の会社は、会社法上の「大会社」に当たります(会社法2条6号)。
大会社には、以下の規制が適用されます。
- 公開会社である大会社に限定して適用される規制
-
・社外取締役の設置義務
・監査役会の設置義務
・取締役の個人別報酬等に関する方針の決定義務
・連結計算書類の作成義務
- 非公開会社である大会社にも適用される規制
-
・会計監査人の設置義務
・内部統制システムの決定義務
・損益計算書の公告義務
・清算時における監査役の設置義務
大会社に関する会社法上の規制の詳細については、以下の記事をご参照ください。
中小企業者としての保護|業種に応じて一定以下の資本金額の会社に適用
中小企業基本法では、業種に応じて資本金の額および常時使用する従業員の数が一定以下の会社を「中小企業者」と定義しています(同法2条1項)。
業種 | 資本金の額 | 常時使用する従業員の数 |
---|---|---|
(a) 製造業、建設業、運輸業その他の業種 ※(b)(c)(d)に掲げる業種を除く | 3億円以下 | 300人以下 |
(b) 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
(c) サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
(d) 小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 |
中小企業者に当たる会社は、中小企業基本法に基づいて行われる国のさまざまな施策(補助金・助成金など)を利用し、経済的な保護を受けることができます。
下請法による保護|取引当事者の資本金額によって適用の有無が決まる
下請法では、親事業者の下請事業者に対する搾取を防ぐため、下請代金の支払遅延をはじめとする親事業者の禁止行為を定めています。
下請法が適用されるのは、親事業者の資本金の額が一定水準を超え、かつ下請事業者の資本金の額が一定水準以下である場合です。
委託業務の種類 | 親事業者の資本金の額 | 下請事業者の資本金の額 |
---|---|---|
・物品の製造委託 ・修理委託 ・情報成果物委託(プログラムの作成に限る) ・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限る) | 3億円超 | 3億円以下 |
1000万円超3億円以下 | 1000万円以下 | |
・情報成果物委託(プログラムの作成を除く) ・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く) | 5000万円超 | 5000万円以下 |
1000万円超5000万円以下 | 1000万円以下 |
下請法については、以下の記事をご参照ください。
剰余金の配当|資本金部分は配当できない
株式会社における剰余金の配当は、分配可能額を限度として行うことができます(会社法461条)。
分配可能額は剰余金の額をベースとして計算するところ、資本金および準備金の額の合計額は剰余金の額から控除されます(会社法446条1号ニ)。
したがって、会社にプールされている資産のうち、資本金に相当する部分は配当することができません。
会社設立時における資本金の額の決め方
会社設立時に資本金の額を決めるに当たって、知っておくべきポイントや考慮すべき要素を解説します。
当初の出資額は自由|資本金1円でも会社は設立可能
会社法では、会社設立時における出資の最低額は設けられていません。したがって、当初の出資額は1円から自由に定めることができます。
出資額が1円であれば、資本金の額は1円となります。
もちろん、多額の出資を行うことも可能です。出資額の2分の1以上を資本金として計上することになります。
取引先からの信用を考慮して資本金の額を設定する
会社設立時には出資額(資本金の額)を自由に決められますが、あまりにも資本金の額が少なすぎると、取引先から十分な信用を得られないおそれがあります。将来的な資金調達や受注拡大を見据えると、ある程度まとまった金額を出資することが望ましいでしょう。
中小企業では、100万円から500万円程度の資本金を設定するケースがよく見られます。税制上も有利な取り扱いを受けられ、中小企業保護の制度も利用しやすいので、バランスのよい金額設定といえるでしょう。
納税義務を考慮する|資本金の額が多すぎると課税上不利になる場合あり
設立時から多額の資本金を設定すると、消費税や法人税等の負担が重くなることがあります。
設立当初から多額の資金を活用する必要がある場合でも、出資ではなく融資を利用する選択肢があります。特に日本政策金融公庫の創業時支援融資は、設立したばかりの会社でも利用しやすいことで知られています。
税金の負担軽減を図るためには、当初の出資額を低く抑え、融資を活用することも検討すべきでしょう。
資本金を増額・減額する際の手続き|増資・減資
資本金の額は、会社設立後に増額または減額することができます。資本金を増額することは「増資」、減額することは「減資」と呼ばれています。
資本金を増額(増資)する際の手続き
資本金を増額する手続きは、主に新株発行に伴う増資と剰余金の組み入れによる増資の2種類があります。
新株発行に伴う増資を行う際には、まず募集株式について募集事項を決定します。募集事項の決定は、公開会社では取締役会決議、非公開会社では株主総会の普通決議によって行います(会社法199条2項・201条1項)。
募集事項の決定後、募集株式の引受けに関する申込みを受け付けて、各申込者に割り当てる募集株式の数を定めます(会社法203条・204条)。ただし、募集株式の申込み・割当てを行わずに、特定の者と総数引受契約を締結することもあります(会社法205条)。
引受人は払込期日において出資を払い込み、払い込まれた金銭の2分の1以上を資本金に計上します(会社法445条1項・2項)。
剰余金の組み入れによる増資を行う際には、減少する剰余金の額と増資の効力発生日を、株主総会の普通決議によって定めます(会社法450条2項)。
効力発生日が到来すると剰余金の額が減少し、その分資本金が増加します。
資本金を減額(減資)する際の手続き
資本金を減額する際には、原則として株主総会の特別決議により、以下の事項を定めなければなりません(会社法447条1項・309条2項9号)。
① 減少する資本金の額
② 減少する資本金の額の全部または一部を準備金とするときは、その旨および準備金とする額
③ 資本金の額の減少がその効力を生ずる日
その後、官報公告などを通じた債権者異議手続(会社法449条)を経て、効力発生日に資本金の額が減少します。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 法務必携!ポケット会社法重要用語集 |