増資・減資とは?
メリットとデメリット・手続き・
注意点などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

増資」とは資本金の額を増加させること、「減資」とは資本金の額を減少させることを意味します。

増資をすると、企業としての信用力が向上する、資金繰りの状況が改善されるなどのメリットがあります。その反面、課税上不利になる場合がある点や、剰余金の配当がしにくくなる点などに注意が必要です。

減資をすると、課税上有利になる場合がある、剰余金の配当がしやすくなるなどのメリットがあります。その反面、企業としての信用力が低下するおそれがある点に注意が必要です。

増資と減資では、会社法上必要とされている手続きが異なります。
増資を行う場合の株主総会決議普通決議で足り、債権者異議手続は不要です。また、公開会社においては、新株発行に伴う増資を取締役会決議によって行うことができます。
これに対して、減資を行う際には、原則として株主総会の特別決議を経た上で、債権者異議手続を実施しなければなりません。

この記事では株式会社の増資・減資について、メリットとデメリット・手続き・注意点などを解説します。

ヒー

スタートアップが増資をしたり、大企業が減資をしたりするニュースを見ます。増資や減資って会社にどういう影響を与えるものですか?

ムートン

資本金を増減させることが増資・減資ですが、その目的は会社によってさまざまです。それぞれの効果や手続きなどを確認していきましょう!

※この記事は、2024年5月27日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

増資・減資とは

増資」とは資本金の額を増加させること、「減資」とは資本金の額を減少させることを意味します。また、増資と減資を同時に実施する「増減資」が行われることもあります。

増資とは

増資」とは、資本金の額を増加させることをいいます。

増資は主に、会社が新たに株式を発行することに伴って行われます。
新たに発行される株式について払い込まれた金銭のうち、2分の1以上は資本金として計上しなければなりません(会社法445条1項・2項)。したがって、新株発行が行われる際には、必然的に増資を伴います。

また、剰余金を資本金に組み入れる方法によって増資が行われるケースもあります。この場合の増資は、主に債権者や取引先などに対する信用力強化を目的とするものです。

減資とは

減資」とは、資本金の額を減少させることをいいます。

資本金が多い会社は、税制上不利になる場面があるほか、剰余金の配当がしにくいなど、資本金が少ない会社に比べて経営上の制約が大きい傾向にあります。
そこで、より柔軟かつ効率的な経営を実現するために、減資を行うケースがあります。

ただし後述するように、減資は事業規模の縮小等を伴い、または債権者の利益を害する場合があるため、増資に比べて手続きが厳格になっています。

増減資とは

増資と減資が同時に行われるケースもあります。これは「増減資」と呼ばれています。

増減資の典型例は、新株発行に伴う増資の後、増えた資本金と同額の減資を行って、資本金額を新株発行前の水準に戻すケースです。
新株発行によって資金調達を行う必要があるものの、増資によるデメリット(後述)を避けたい場合には、増減資が行われることがあります。

増資のメリット・デメリット

増資をすると、企業としての信用力が向上する、資金繰りの状況が改善されるなどのメリットがあります。
その反面、課税上不利になる場合がある点や、剰余金の配当がしにくくなる点などに注意が必要です。

増資のメリット

増資の主なメリットとしては、企業としての信用力が向上する点が挙げられます。

資本金額が多い企業は、過去に大規模な資金調達を成功させてきた信用できる企業との評価を得られるケースが多いです。
金融機関や投資家からの信用が向上すれば、さらに資金調達がしやすくなります。また、取引先候補からの信用が向上すれば、受注の強化等によって業績の向上が期待できるでしょう。

また、新株発行に伴う増資を行えば、事業の資金繰りが改善されます。経営破綻のリスクを抑えられるほか、さらなる成長を目指した設備投資なども積極的に行うことができるようになります。

増資のデメリット

増資をすると、税制上の優遇措置が受けられなくなり、課税負担が増えることがあります。

例えば、2期前の事業年度における売上高が1000万円以下であれば、原則として消費税の納付が免除されます(=免税事業者)。しかし、資本金が1000万円以上の会社については、消費税の納付が免除されません。
また、資本金が1000万円を超える会社は法人住民税の均等割額が増える点や、資本金が1億円を超えると外形標準課税が適用されて赤字でも法人事業税の負担が生じる点なども、増資のデメリットとして挙げられます。

さらに、増資をして資本金の額が増えると、剰余金の配当がしにくくなることがあります。

剰余金の配当は、分配可能額を上限として行うことができます(会社法461条1項)。分配可能額のベースとなるのは、剰余金の額です(同条2項)。
剰余金の額からは、資本金および準備金の額の合計額が控除されます(会社法446条1号ニ)。したがって、増資によって資本金額が増えれば、そのぶん分配可能額が減ることになります。

新株発行に伴う増資であれば、新株に対する払い込みによってキャッシュが増えるので、直ちに剰余金の配当が困難になる心配はないでしょう。
これに対して、剰余金の組み入れによる増資を行う場合は、分配可能額の減少によって剰余金の配当がしにくくなる点に注意が必要です。

減資のメリット・デメリット

減資をすると、課税上有利になる場合がある、剰余金の配当がしやすくなるなどのメリットがあります。
その反面、企業としての信用力が低下するおそれがある点に注意が必要です。

減資のメリット

減資のメリットは、増資のデメリットと表裏一体です。

減資をすると、資本金額の減少に伴って税制優遇措置の対象となり、税負担が減ることがあります。
例えば、資本金が1000万円未満となれば、2期前の事業年度の売上高が1000万円以下であることなどを条件に、消費税の納付が免除されます。
また、資本金が1億円以下となれば、外形標準課税の対象外となります。

また、減資によって資本金額が減ると、分配可能額が増えて剰余金の配当がしやすくなります。

減資のデメリット

減資をすると、金融機関・投資家や取引先候補からの信用が低下することがあります。
その結果、資金調達が困難になったり、十分な量の仕事を受注できずに業績が低下したりするかもしれません。

増資の手続き

増資には主に、新株発行に伴う増資と、剰余金の組み入れによる増資の2パターンがあります。それぞれの手続きは以下のとおりです。

新株発行に伴う増資の手続き

新株発行に伴う増資は、以下の流れで行います。

① 募集株式の募集事項の決定
株式を引き受ける者の募集に関して、以下の事項を定めます(会社法199条1項)。
(a) 募集株式の数(種類株式発行会社では、募集株式の種類および数)
(b) 募集株式の払込金額またはその算定方法
(c) 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨ならびに当該財産の内容および価額
(d) 払込期日またはその期間
(e) 増加する資本金および資本準備金に関する事項

募集事項は、公開会社では取締役会決議、非公開会社では株主総会の普通決議によって定めます(会社法199条2項・201条1項)。

② 募集株式の申込み・割当て、または総数引受契約の締結
募集株式の引受けに関する申込みを受け付けて、各申込者に割り当てる募集株式の数を定めます(会社法203条・204条)。
ただし、特定の者が募集株式の全てを引き受ける契約(=総数引受契約)を締結するときは、募集株式の申込みおよび割当ては行われません(会社法205条)。

③ 出資の履行(払込み)
払込期日において、または払込期間のうちに、募集株式の引受人は募集事項に従って、出資の全額を払い込みます(会社法208条)。
出資の履行をした日に、引受人は募集株式の株主となります(会社法209条)。

④ 資本金の計上(増資)
募集株式について払い込まれた金銭の2分の1以上を、払込みと同日付で資本金に計上します(会社法445条1項・2項)。
金銭以外の財産が出資された場合は、その評価額の2分の1以上を資本金として計上します。

剰余金の組み入れによる増資の手続き

剰余金の組み入れによる増資は、株主総会の普通決議によって行います(会社法450条2項)。

増資に関する株主総会決議では、以下の事項を定めなければなりません(同条1項)。

① 減少する剰余金の額
② 資本金の額の増加がその効力を生ずる日

株主総会決議で定められた効力発生日に、剰余金の額が減少し、資本金が剰余金の減少分と同額増加します。

減資の手続き

減資の手続きは、株主総会決議債権者異議手続の2段階で行います。
減資に関する株主総会決議は、増資の場合とは異なり、特別決議が必要となるのが大きな特徴です。

株主総会決議|原則として特別決議が必要

資本金の額を減少する(減資をする)に当たっては、原則として株主総会の特別決議により、以下の事項を定めなければなりません(会社法447条1項・309条2項9号)。

① 減少する資本金の額
② 減少する資本金の額の全部または一部を準備金とするときは、その旨および準備金とする額
③ 資本金の額の減少がその効力を生ずる日

減資に関する事項の決定につき、原則として株主総会の特別決議が要求されているのは、減資に伴って事業規模の縮小など会社の基礎に関わる事態が生じ得るためです。

ただし例外的に、株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、減少の効力発生日後の資本金の額が減少前の資本金の額を下回らないときは、取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会決議)で上記事項を定めることができます(会社法447条3項)。

債権者異議手続

株式会社が資本金の額を減少するときは、会社債権者は会社に対して、資本金の額の減少について異議を述べることができます(会社法449条1項)。

資本金の額を減少する株式会社は、以下の事項を官報公告しなければなりません(同条2項)。

① 資本金の額の減少の内容
② 株式会社の計算書類に関する事項として、会社計算規則152条で定めるもの
③ 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

上記の公告事項は原則として、知れている債権者には個別に催告する必要があります(同項)。
ただし、定款の定めに従って、官報のほか日刊新聞紙への掲載または電子公告による公告も行うときは、個別の催告は不要です(同条3項)。

公告で示された期間内に異議を述べなかった債権者は、資本金の額の減少を承認したものとみなされます(同条4項)。

期間内に異議を述べた債権者に対しては、会社は原則として、弁済・相当の担保の提供・弁済を目的とする信託のいずれかを行わなければなりません。ただし、資本金の額の減少が当該債権者を害するおそれがないときは、この限りではありません(同条5項)。

上記の債権者異議手続の完了を条件として、効力発生日に資本金の額が減少します(同条6項)。

増資・減資を行う際の注意点

株式会社の増資・減資には、メリット・デメリットの両面があります。そのため、自社の状況に照らして、本当に増資・減資を行うべきかどうかをよく検討することが大切です。

増資を行う際の注意点

新株発行に伴う増資は、事業規模を拡大する観点から重要であり、成長を目指す企業としては避けて通ることはできません。チャンスがあれば積極的に増資を検討するのがよいでしょう。
ただし、増資によって外部の株主が増えれば、オーナー経営者個人の判断で経営することは難しくなる点に注意が必要です。

剰余金の組み入れによる増資は、企業としての信用力を向上させる観点からメリットがあります。
ただし、増資によって税負担が増えることがあるので、税理士に相談して事前にシミュレーションを行うのがよいでしょう。
また、将来的に剰余金の配当を予定している場合は、増資によって配当金額に影響が生じるかどうかについても検討が必要です。

減資を行う際の注意点

減資には税金や剰余金の配当に関するメリットがある一方で、企業としての信用力が削がれてしまうリスクがあります。金融機関や取引先候補との関係で、減資がどのように受け取られるのかを考慮した上で、実際に減資を行うかどうかを慎重に判断しましょう。

また、減資に当たっては債権者異議手続が必要になります。会社法の規定に沿って、適切に債権者異議手続を実施しましょう。

ムートン

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