裁量労働制とは?
2024年の変更点・対象業務(職種)・残業代・
メリット・デメリットなどを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「裁量労働制」とは、労働者に広い裁量が認められる一方で、みなし労働時間が適用される制度です。「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、それぞれ対象となる業務が異なります。
自由な働き方が認められる裁量労働制を導入すると、企業側にとっては労務管理の負担が軽減される点や、労働者の満足度が高まり定着しやすくなる点などのメリットがあります。
労働者側にとっても、自分のペースで働くことができる点や、業務の進め方によっては労働時間を短縮できる点などが裁量労働制のメリットです。
その一方で、企業側にとっては労働者に具体的な指示ができなくなる点、労働者側にとっては残業代が支払われなくなる点などが、裁量労働制のデメリットといえます。裁量労働制を導入する際には、専門業務型の場合は労使協定の締結、企画業務型の場合は労使委員会の決議が必要です。そのほか、労働基準法所定の手続きを経る必要があります。
この記事では裁量労働制について、メリット・デメリット・導入手続き・注意点などを解説します。
※この記事は、2024年12月10日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
裁量労働制とは
「裁量労働制」とは、労働者に広い裁量が認められる一方で、みなし労働時間が適用される制度です。
裁量労働制の特徴|労働者の広い裁量と「みなし労働時間」・残業代の扱い
裁量労働制の特徴は、労働者に広い裁量が認められる点と、「みなし労働時間」が適用される点です。
使用者は、裁量労働制で働く労働者に対して、業務の遂行の手段や時間配分の決定などにつき、具体的な指示をすることができません。したがって、裁量労働制の労働者には自由な働き方が認められます。
その反面、裁量労働制の労働者は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた時間労働したものとみなされます。労働時間がかなり長くなったとしても、残業代が追加で支給されることはありません(深夜手当を除く)。
2種類の裁量労働制|専門業務型・企画業務型
裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」(労働基準法38条の3)と「企画業務型裁量労働制」(労働基準法38条の4)の2種類があり、それぞれ対象となる業務が異なります。
専門業務型裁量労働制の対象業務
専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、以下の20種類です。
① 新商品や新技術などの研究開発、または人文科学や自然科学に関する研究の業務
② 情報処理システムの分析または設計の業務
③ 記事や放送番組の取材や編集の業務
④ 新たなデザインの考案の業務
⑤ 放送番組や映画などのプロデューサーやディレクターの業務
⑥ コピーライターの業務
⑦ システムコンサルタントの業務
⑧ インテリアコーディネーターの業務
⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
⑩ 証券アナリストの業務
⑪ 金融商品の開発の業務
⑫ 大学における教授研究の業務
⑬ M&Aアドバイザリー業務
⑭ 公認会計士の業務
⑮ 弁護士の業務
⑯ 建築士の業務
⑰ 不動産鑑定士の業務
⑱ 弁理士の業務
⑲ 税理士の業務
⑳ 中小企業診断士の業務
企画業務型裁量労働制の対象業務
企画業務型裁量労働制の対象となる業務は、事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析の業務です。
専門業務型とは異なり、類型によって限定されているわけではありません。ただし、遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務に限られます。
2024年の変更点|対象業務・労使協定事項の追加など
裁量労働制に関しては、労働基準法施行規則等の改正により、2024年4月から以下の変更が適用されています。
- 裁量労働制に関する2024年施行の改正内容
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<専門業務型裁量労働制の変更点>
・対象業務にM&Aアドバイザリー業務を追加
・労使協定事項の追加
・労働者の同意を得ることの義務化
・記録の作成、保存義務の新設
・健康・福祉確保措置の強化
など<企画業務型裁量労働制の変更点>
・労使委員会の運営規程に定めるべき事項の追加
・労使委員会決議事項の追加
・記録の作成、保存義務の新設
・健康・福祉確保措置の強化
・定期報告の起算日、頻度の変更
裁量労働制のメリット・デメリット
裁量労働制には、企業側と労働者側の双方にとって、メリットとデメリットの両面があります。
企業側のメリット・デメリット
裁量労働制ではみなし労働時間が適用されるため、企業は対象労働者の労働時間を厳密に管理する必要がありません。労務管理の負担が軽減される点は、企業にとってのメリットと言えるでしょう。
また、裁量労働制によって自由な働き方が認められると、労働者の満足度が高まり、人材の定着につながることも期待されます。
その反面、裁量労働制で働く労働者に対しては、企業は業務の進め方や時間配分などについて具体的な指示をすることができません。そのため、裁量労働制の労働者が担当する業務に関しては、進捗管理がしにくくなる点などがデメリットと言えます。
労働者側のメリット・デメリット
裁量労働制の下では、労働者には幅広い裁量が認められるため、自分のペースで働くことができます。業務を効率的に進めれば、労働時間を短縮でき、ワークライフバランスを確保しやすくなるでしょう。
その一方で、裁量労働制の労働者には、労働時間の規制が適用されません。どんなに働いても追加残業代は支払われない上に、仕事が終わらないと長時間働かざるを得なくなることは、労働者側にとってのデメリットです。
裁量労働制を導入する際の手続き
裁量労働制を導入する際には、以下の流れで手続きを行います。
① 労使協定の締結または労使委員会の決議
② 労働契約や就業規則などを整備する
③ 労働基準監督署長に届け出る
④ 対象労働者の同意を得る
⑤ 健康・福祉確保措置などを講じる
労使協定の締結または労使委員会の決議
裁量労働制の導入に当たっては、専門業務型の場合は労使協定の締結、企画業務型の場合は労使委員会の決議が必要です。
専門業務型の場合|労使協定を締結する
専門業務型裁量労働制に関する労使協定は、使用者と過半数労働組合または労働者の過半数代表者の間で締結します。労使協定に定めるべき事項は、以下のとおりです。
- 専門業務型裁量労働制の労使協定に定めるべき事項
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(a) 制度の対象とする業務
※20業務の中からいずれかを記載(b) 1日の労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
(c) 対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が適用労働者に具体的な指示をしないこと
(d) 適用労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉確保措置の具体的内容
※後述(e) 適用労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
※苦情処理窓口の設置など(f) 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと
(g) 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取り扱いをしてはならないこと
(h) 制度の適用に関する同意の撤回の手続き
※撤回の申出先となる部署および担当者、申出の方法など(i) 労使協定の有効期間
※3年以内とすることが望ましい(j) 以下の事項に関する労働者ごとの記録を、労使協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること
・労働時間の状況
・健康・福祉確保措置の実施状況
・苦情処理措置の実施状況
・同意および同意の撤回
企画業務型の場合|労使委員会を設置・決議する
企画業務型裁量労働制は、労使委員会を設置し、決議することによって導入します。
設置する労使委員会の委員の半数以上は、過半数労働組合または労働者の過半数代表者によって指名された者でなければなりません。
労使委員会の議事については議事録を作成・保存し、労働者へ周知する必要があります。
また、労使委員会の設置に当たっては、以下の事項を定めた運営規程の作成が必要です。
- 労使委員会の運営規程で定めるべき事項
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(a) 労使委員会の招集に関する事項
(b) 労使委員会の定足数に関する事項
(c) 労使委員会の議事に関する事項
※議長の選出、決議の方法(d) 対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容の使用者からの説明に関する事項
※説明を行う賃金・評価制度の項目、決議に先立つ事前説明(e) 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項
※制度の実施状況の把握の頻度や方法(f) 開催頻度を6カ月以内ごとに1回とすること
(g) その他労使委員会の運営について必要な事項
※使用者が労使委員会に対して開示すべき情報の範囲、開示手続、開示が行われる労使委員会の開催時期、労使委員会の調査事項の範囲、労使委員会が労使協定に代えて決議を行うことができる規定の範囲
上記の要件を満たす労使委員会が、出席委員の5分の4以上の多数によって決議することにより、企画業務型裁量労働制を導入することができます。労使委員会によって決議すべき事項は、以下のとおりです。
- 企画業務型裁量労働制の労使委員会で決議すべき事項
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(a) 制度の対象とする業務
(b) 対象労働者の範囲
(c) 1日の労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
(d) 適用労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉確保措置の具体的内容
※後述(e) 対象労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
※苦情処理窓口の設置など(f) 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと
(g) 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取り扱いをしてはならないこと
(h) 制度の適用に関する同意の撤回の手続き
※撤回の申出先となる部署および担当者、申出の方法など(i) 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと
(j) 労使協定の有効期間
※3年以内とすることが望ましい(k) 以下の事項に関する労働者ごとの記録を、決議の有効期間中およびその期間満了後3年間保存すること
・労働時間の状況
・健康・福祉確保措置の実施状況
・苦情処理措置の実施状況
・同意および同意の撤回
労働契約や就業規則などを整備する
裁量労働制を労働者に適用するためには、労働契約上の根拠が必要です。
そのため、労使協定や労使委員会決議とは別に、個々の労働者と締結する労働契約や就業規則などにおいて、裁量労働制に関する事項を定める必要があります。
一般的には、就業規則において以下の事項などを定めます。
- 裁量労働制に関して就業規則に定めるべき主な事項
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・裁量労働制の種類(専門業務型or企画業務型)
・裁量労働制を適用する旨
・労働者からの同意の取得方法
・みなし労働時間
・原則的な就業時間と、労働者の裁量に時間配分を委ねる旨
・休憩時間
・休日
・休日労働、深夜労働のルール
など
労働基準監督署長に届け出る
専門業務型裁量労働制の労使協定、および企画業務型裁量労働制の労使委員会決議は、事業場を管轄する労働基準監督署長に届け出なければなりません。
届出書面の様式は、労働基準監督署の窓口で交付を受けられるほか、以下の厚生労働省ウェブサイトからもダウンロードできます。
対象労働者の同意を得る
裁量労働制を適用する労働者からは、適用について個別に同意を得る必要があります。
同意が得られなかった労働者には、裁量労働制を適用することができません。また、同意しなかった労働者に対して、解雇その他不利益な取り扱いをすることは認められません。
労働者から同意を得る際に、使用者は労働者に対して以下の事項を説明する必要があります。
- 労働者に対して説明すべき事項
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(a) 労使協定の内容等、裁量労働制の概要
※対象業務の内容、労使協定の有効期間、みなし労働時間など(b) 同意した場合に適用される賃金・評価制度の内容
(c) 同意をしなかった場合の配置および処遇
労働者の同意は口頭ではなく、書面や電磁的記録などによって取得しましょう。同意に関する労働者ごとの記録は、労使協定または労使委員会決議の有効期間中、およびその満了後3年間保存する必要があります。
健康・福祉確保措置などを講じる
使用者は、裁量労働制で働く労働者に対して、労働者の健康および福祉を確保するための措置を講じなければなりません。
- 健康・福祉確保措置の具体例
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・勤務間インターバルの確保
・深夜業の制限
・労働時間の制限
・年次有給休暇の取得促進
・医師による面接指導
・特別休暇の付与
・健康診断の実施
・健康問題に関する相談窓口の設置
・必要に応じた配置転換
・保健指導
など
裁量労働制の導入・運用に関する注意点
裁量労働制の導入および運用に関して、使用者は特に以下のポイントに注意しましょう。
- 深夜手当の支払いは、裁量労働制でも必要
- 記録の作成と3年間の保存が必要
- 【企画業務型】定期的な労使委員会の開催と労働基準監督署長への報告が必要
深夜手当の支払いは、裁量労働制でも必要
裁量労働制の労働者にはみなし労働時間が適用されますが、午後10時から午前5時までの労働に対しては、通常の労働者と同様に深夜手当が発生します。
深夜手当の割合は、通常の賃金に対して25%以上です。労働者から未払いを指摘されないように、確実に深夜手当を支払いましょう。
記録の作成と3年間の保存が必要
使用者は、裁量労働制の実施に関して、以下の事項に関する記録を作成した上で3年間保存しなければなりません。
- 記録を作成・保存すべき事項
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・労働時間の状況
・健康・福祉確保措置の実施状況
・苦情処理措置の実施状況
・同意および同意の撤回
労働基準監督署による調査等が行われる場合に備えて、上記の事項に関する記録を確実に作成および保存しておきましょう。
【企画業務型】定期的な労使委員会の開催と労働基準監督署長への報告が必要
企画業務型裁量労働制については、労使委員会を6カ月以内ごとに1回以上開催し、制度の実施状況をモニタリングすることが義務付けられています。
また、記録を作成・保存すべき事項(上記参照)につき、定期的に所轄の労働基準監督署へ報告しなければなりません。
報告の頻度は、初回は決議有効期間の始期から6カ月以内、2回目以降はその後1年以内ごとに1回とされています。
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