【2025年4月開始】
カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針
(ガイドライン)とは?
定義・具体例・東京都カスハラ防止条例の
対応ポイントなどを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」とは、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例に基づいて制定された指針です。
カスハラ防止指針では、カスハラ防止条例によって禁止されている「カスタマー・ハラスメント」の定義や、カスハラ防止に関する事業者の責務、事業者が講ずべきカスハラ防止措置の内容などが明示されています。
東京都内の事業者はもちろん、他の地域の事業者にとっても参考になるため、事業者はカスハラ防止指針の内容をよく理解しておきましょう。
この記事ではカスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)について、事業者が留意すべきポイントを解説します。
※この記事は、2025年2月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- カスハラ防止指針…カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)
- カスハラ防止条例…東京都カスタマー・ハラスメント防止条例
目次
カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)とは
「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」(以下「カスハラ防止指針」)とは、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例に基づいて制定された指針です。
カスハラ防止条例に定められた事業者の責務などの内容が、カスハラ防止指針において具体的に明示されています。
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(カスハラ防止条例)とは
東京都議会は2024年10月4日、「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(以下「カスハラ防止条例」)を可決・成立させました。
カスハラ防止条例は、顧客による著しい迷惑行為(=カスタマー・ハラスメント、カスハラ)の防止を目的としています。あらゆる人に対してカスハラを一律禁止するとともに、カスハラ防止に関する事業者の責務などが定められています。
カスハラ防止条例は、2025年4月1日から施行される予定です。
カスハラ防止指針における用語の定義
カスハラ防止指針では、カスタマー・ハラスメント(カスハラ)の定義を明確化したうえで、事業者の責務などが定められています。カスハラ防止指針の内容を理解する前提として、同指針においてよく用いられている言葉の定義を確認しておきましょう。
「カスタマー・ハラスメント」とは
「カスタマー・ハラスメント」とは、顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいいます(カスハラ防止条例2条5号)。
カスハラ防止指針では、上記のカスタマー・ハラスメントの定義を明確化するため、以下のような考え方が示されています。
- 「カスタマー・ハラスメント」の定義
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① 「著しい迷惑行為」の考え方
「著しい迷惑行為」とは、暴行・脅迫その他の違法な行為、または正当な理由がない過度な要求・暴言その他の不当な行為をいいます(カスハラ防止条例2条4号)。違法行為は直ちに著しい迷惑行為に当たるほか、内容が不相当である要求や、手段・態様が不相当である要求も著しい迷惑行為に当たります。顧客の要求の相当性は、以下のような要素を総合的に考慮して判断すべきとされています。
・当該行為の目的
・当該行為を受けた就業者の問題行動の有無や内容、程度など、当該行為が行われた経緯や状況
・就業者の業種、業態
・業務の内容、性質
・当該行為の態様、頻度、継続性
・就業者の属性や心身の状況、行為者との関係性
など② 「就業環境を害する」の考え方
「就業環境を害する」とは、顧客等による著しい迷惑行為により、人格または尊厳を侵害されるなど、就業者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、就業者が業務を遂行する上で看過できない程度の支障が生じることをいうとされています。顧客等の行為が就業環境を害しているかどうかは、平均的な就業者の感じ方を基準に判断されます。
「事業者」とは
「事業者」とは、都の区域内で事業を行う法人その他の団体、または個人事業主をいいます。非営利団体や国の機関も事業者に含まれます(カスハラ防止条例2条1号)。
「事業」とは、一定の目的をもって同種の行為を反復継続的遂行することを意味します。営利目的があるか否かを問いません。
「都内」で事業を行っていると判断されるのは、事務所や事業所が都の区域内にある場合や、それ以外に都内で事業を行っている実態がある場合です。
「就業者」とは
「就業者」とは、都内で業務に従事する者をいいます。都内で行う事業に関連して、都の区域外でその業務に従事する者も就業者に該当します(カスハラ防止条例2条2号)。
労働者だけでなく、フリーランス・ボランティア・インターンシップ生なども、都内で業務に従事していれば就業者に当たります。
「業務」とは、事業者の事業に関連して行われる経済的な活動、または社会的な活動における行為をいいます。個人の趣味に基づく活動、家事育児等の家庭生活上の活動、違法性がある活動は業務に含まれません。
なお、インターネット上で業務を行う者も、都内で業務に従事していることなどを明示していれば就業者に該当することがあります。
「顧客等」とは
「顧客等」とは、顧客または就業者の業務に密接に関連する者をいいます(カスハラ防止条例2条3号)。
「顧客」とは、就業者から商品またはサービスの提供を受ける者です。商品やサービスの購入を検討している者も顧客に含まれます。
・業務遂行に当たって必要不可欠な利害関係者(ステークホルダー)
(例)企業経営者にとっての株主、学校教諭にとっての保護者、議員にとっての有権者など
・本来は関わりが想定されていないものの、円滑な業務の遂行に当たって対応が必要な者
(例)配達員にとっての配達先の隣人、マラソン大会のボランティアにとっての沿道住民、著名人にとってのSNSにコメントを書き込む人など
カスタマー・ハラスメントの具体例(行為類型)
カスハラ防止指針では、カスタマー・ハラスメントの代表的な行為類型として、以下の例を挙げています。
- カスタマー・ハラスメントの具体例(行為類型)
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① 顧客等の要求内容が妥当性を欠く
(例)
・商品やサービスに瑕疵や過失が認められないのに、交換ややり直しを要求する
・要求内容が、商品やサービスの内容と関係ない② 顧客等の要求内容の妥当性にかかわらず、要求を実現するための手段・態様が違法または社会通念上不相当である
(例)
・就業者への身体的な攻撃(物を投げる、唾を吐く、殴る、蹴る……)
・就業者への精神的な攻撃(脅す、大声で責め立てる、人格を否定する、名誉を傷つける……)
・就業者への威圧的な言動(声を荒らげる、にらむ、話しながら物を叩く、高圧的に要求する、揚げ足をとる……)
・就業者への土下座の要求
・就業者への執拗な(継続的な)言動(長時間にわたって厳しく叱責する、何度も電話をする……)
・就業者を拘束する行動(長時間居座る、長電話をする……)
・就業者への差別的な言動(人種、職業、性的指向などを侮辱する……)
・就業者への性的な言動(わいせつ行為、つきまとい行為……)
・就業者個人への攻撃や嫌がらせ(服装や容姿の中傷、誹謗中傷のSNS投稿……)③ 顧客等の要求内容の妥当性に照らして、要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当である
(例)
・過度な商品交換の要求(高すぎる商品や、入手困難な商品との交換を要求する……)
・過度な金銭補償の要求(高額すぎる金銭補償を要求する……)
・過度な謝罪の要求(正当な理由なく謝罪文を要求する、自宅に来て謝罪するよう要求する……)
・その他不可能な行為や抽象的な行為の要求(法律を変えろ、子どもを泣き止ませろ、誠意を見せろ……)
カスタマー・ハラスメントと正当なクレームの違い
理不尽なカスタマー・ハラスメントとは異なり、顧客の正当なクレームが不当に制限されてはなりません。カスハラ防止条例5条でも、同条例の適用に当たり、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意すべき旨が定められています。
顧客等による正当な権利行使に当たるクレームは、原則としてカスタマー・ハラスメントに該当しません。カスハラ防止指針では、特に配慮すべき顧客等の権利として、以下のものを例示しています。
- 消費者の権利
- 障害者の権利
- 認知症の人の権利
- 表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利
カスハラ防止に関する事業者の責務
カスハラ防止条例では、カスタマー・ハラスメントの防止に関する事業者の責務(努力義務)を定めています。カスハラ防止指針では、事業者の責務に関連して、以下の考え方が示されています。
(a) 主体的かつ積極的な取り組み
カスタマー・ハラスメント防止に当たって、事業者ごとの状況に合わせた効果的な対策を講じるとともに、就業者がカスタマー・ハラスメントによる被害を受けないように積極的な取り組みを行うことが求められます。
(b) 都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策への協力
カスタマー・ハラスメントの防止に関する都の施策を実効性あるものにするため、協力することが求められます。
(c) 就業者の安全の確保
顧客等の暴力行為等によって就業者の安全が脅かされている場合、現場監督者等が対応を代わったうえで、顧客等から就業者を引き離す、弁護士や管轄の警察と連携を取りながら対応するなど、就業者への被害が継続しないようにすることが求められます。
(d) 中止の申入れその他の必要かつ適切な措置
行為者である顧客等に対して、就業者への行為を止めるよう要請するとともに、退去要請や出入り禁止、商品やサービスの提供停止の通告等の対処を行うことが求められます。
(e) 就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないようにすること
就業者がカスタマー・ハラスメントを行わないよう、カスハラ防止に関する啓発や教育等を行っていくことが求められます。
事業者が講ずべきカスハラ防止措置
カスハラ防止指針において挙げられている、事業者が講ずべきカスハラ防止措置のポイントを解説します。
① カスハラ対策の基本方針・基本姿勢などの明確化・周知
② 相談窓口の設置・適切な相談対応の実施
③ 相談者のプライバシー保護措置の実施・周知
④ 相談を理由とした不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め周知
⑤ 現場での初期対応や内部手続きの方法・手順(マニュアル)の作成
⑥ 事実関係の正確な確認と事案への対応
⑦ 就業者の安全の確保・精神面および身体面への配慮
⑧ 具体的な対応についての就業者への教育・研修等
⑨ カスハラの再発防止に向けた取り組み
カスハラ対策の基本方針・基本姿勢などの明確化・周知
カスハラ対策の基本方針や基本姿勢を明確化して周知することで、事業者が就業者を守り、尊重しながら業務を進めるという安心感が生まれます。
基本方針に定めるべき要素としては、以下の各点が例示されています。
(a) カスタマー・ハラスメントの内容
(b) カスタマー・ハラスメントは自社にとって重要な問題である
(c) カスタマー・ハラスメントを放置しない
(d) カスタマー・ハラスメントから就業者を守る
(e) 就業者の人権を尊重する
(f) 常識の範囲を超えた要求や言動を受けたら、周囲に相談してほしい
(g) カスタマー・ハラスメントには組織として毅然とした対応をする
また、自社の就業者が他社に対してカスタマー・ハラスメントを行ってはならない旨の方針も、明確化したうえで周知することが求められます。
相談窓口の設置・適切な相談対応の実施
カスタマー・ハラスメントを受けた就業者が相談できる窓口を設置したうえで、自社の就業者へ広く周知することが求められます。
相談窓口の担当者は、相談内容や状況に応じて適切に対応できなければなりません。相談担当者向けの研修を行う際には、ケーススタディ等を通して対応例を想定するような内容が有効とされています。
相談者のプライバシー保護措置の実施・周知
カスタマー・ハラスメントについて相談する人のプライバシーを保護するための措置を講じて、自社の就業者へ広く周知することが求められます。
具体的な取り組みとしては、プライバシー保護に必要な手順のマニュアル化、相談担当者向けの研修の実施、プライバシー保護措置に関する社内広報などが挙げられています。
相談を理由とした不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め周知
カスタマー・ハラスメントに関する相談を理由に、就業者が不利益を受けない旨を明確化したうえで周知することが求められます。
例えば、不利益な取り扱いの禁止を就業規則などの服務規律に明記することや、社内広報の資料に記載することなどが考えられます。
現場での初期対応や内部手続きの方法・手順(マニュアル)の作成
カスタマー・ハラスメントが発生するケースを想定して、現場での初期対応の方法や手順をまとめたマニュアルを作成しておくことが求められます。
マニュアルの内容は事業者ごとに検討する必要がありますが、業界団体において各事業者が参考にできるようなマニュアルをあらかじめ作成することが望ましいとされています。
また、本社や本部と連携した対応が必要になる場合は、報告や相談、指示や助言などの内部手続きに関する方法や手順も整備することが求められます。
事実関係の正確な確認と事案への対応
カスタマー・ハラスメントと思われる事案が発生した場合は、事実関係を正確に確認したうえで、適切に対応することが求められます。
大前提として、顧客等や就業者から寄せられた情報を基に、確かな証拠や証言に基づいて事実確認を行うことが大切です。
そのうえで、正当なクレームに対しては謝罪や商品の交換・返金等を行い、理不尽な要求に対しては接客の中止、商品やサービスの提供の拒否、退去命令、弁護士や警察と連携した対応を行うべき旨が示されています。
就業者の安全の確保・精神面および身体面への配慮
カスタマー・ハラスメントを受けた就業者については、安全を確保したうえで精神面および身体面のケアを行うことが求められます。
安全の確保については、被害を受けた就業者を顧客等から引き離したうえで、責任者に引き継ぐなどの対応が考えられます。
精神面や身体面のケアについては、産業医・産業カウンセラー・臨床心理士等の専門家による相談対応や、定期的なストレスチェックなどが挙げられています。
また、性的な言動を伴うカスタマー・ハラスメントを受けた場合は、同性の担当者が相談対応をするなど、被害内容に合わせた配慮が必要とされています。
具体的な対応についての就業者への教育・研修等
カスタマー・ハラスメントが発生した際に適切に対応できるように、就業者に対して教育や研修を実施することが求められます。また、経営層や相談対応者(上司、現場監督者)にも教育や研修を実施すべきとされています。
実施すべき研修の内容として、カスハラ防止指針では以下の事項が挙げられています。
- 具体的な対応についての研修の内容
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<ハラスメント発生後の対応>
(a) 悪質なクレーム(カスタマー・ハラスメント)とは(定義や該当行為例、正当なクレームとの相違)
(b) カスタマー・ハラスメントの判断例(判断基準やその事例)
(c) パターン別の対応方法
(d) 苦情対応の基本的な流れ
(e) 顧客等への接し方のポイント(謝罪、話の聞き方、事実確認の注意点等)
(f) 記録の作成方法
(g) 各事例における顧客対応での注意点
(h) ケーススタディ<ハラスメント未然防止>
(a) カスタマー・ハラスメントを発生させないためには(顧客との良好な関係の築き方)
(b) 接客対応(言葉遣い、傾聴力等)
(c) 利用者目線の顧客サービスについて
(d) 社内・外における好事例の紹介
カスハラの再発防止に向けた取り組み
カスタマー・ハラスメントの再発を防止するため、定期的に取り組みの見直しや改善を行うことや、継続的に取り組みを行うことが求められます。
具体的な再発防止の取り組みとしては、就業者に対する情報共有、実際の事例を活用した新たな防止策の検討やマニュアル・研修の見直し、就業者や労働組合等を対象としたアンケート調査や意見交換などが挙げられています。
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