退職所得控除とは?
目的や適用範囲、計算方法などを
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

退職所得控除とは、退職金を一時金で受け取った際に、課税対象額を計算する前に差し引くことができる非課税枠を指します。

・退職所得控除は、退職金の税負担を軽減し、長期勤続報酬としての性質を考慮した制度です。
・退職所得控除は、勤続年数に応じて控除額が決まります。
・障がい者退職や複数回退職金受給時に追加控除が適用される場合があるため、注意が必要です。

本記事では、退職所得控除について、基本から詳しく解説します。

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従業員が退職金を受け取る際に、所得税などはどれくらいかかるのでしょうか?

ムートン

退職金には「退職所得控除」が適用されるため、他の給与所得よりも大幅に税負担が軽減されます。計算方法や注意点を見ていきましょう。

※この記事は、2025 年8月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

退職所得控除とは

退職所得控除とは、退職金を一時金で受け取った際に、課税対象額を計算する前に差し引くことができる非課税枠のことを指します。

勤続年数(A)に応じて控除額が決まり、20年以下の場合は「40万円×A(最低80万円)」、20年超の場合は「800万円+70万円×(A-20年)」となります。

退職金が控除額を下回る場合、所得税・住民税はかかりません。

退職所得控除の目的

退職所得控除の目的は、退職金に対する税負担を軽減することです。

退職金は長年の勤務に対する報酬であり、定年退職の場合は老後の生活資金としての性格も持つため、税負担が軽くなるよう配慮されています。

退職所得には勤続年数に応じた控除を設け、さらに課税対象額を2分の1に軽減する特例を設けることで、税負担を大幅に軽くしています。

退職所得控除の適用範囲

退職所得控除は、退職を直接の原因として支給される一時金に適用されます。

定年退職や早期退職優遇制度による割増退職金、会社都合・自己都合による退職金などが対象です。一方、退職後の顧問料や業務委託料、在職中の賞与、年金形式での分割支給分には適用されません。

控除の可否は支給理由に左右されるため、慎重な判断が求められます。

退職金にかかる税金の計算方法

退職金には一定の優遇措置が設けられており、他の所得とは異なる方法で税額が計算されます。以下では、退職金にかかる税金の計算方法について、解説します。

1|退職所得控除額を計算する

退職金に対する税金の計算では、まず「退職所得控除額」を正しく求める必要があります。退職所得控除は、勤続年数に応じて一定額を非課税とする制度であり、控除額が多いほど課税される金額は少なくなります。

計算式は勤続年数の長さによって異なり、端数の扱いや最低保証額など、いくつかの注意点も
あるため事前に確認することが重要です。以下では、退職所得控除額の具体的な計算方法を解説します。

退職所得控除額の計算式

退職所得控除額は、勤続年数に応じて2通りの計算式が適用されます。

20年以下の場合は「40万円×勤続年数」で算出し、80万円に満たない場合は一律80万円が控除額です。20年を超える場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で計算します。

例えば、勤続20年の場合、控除額は800万円です。勤続1年などの短期勤務でも最低80万円が適用されます。

勤続年数の計算ルール(1年未満の切り上げ)

勤続年数の計算では、1年未満の端数がある場合でも、切り上げ1年として扱います

たとえ1日だけの勤務でも、1年とカウントされる取り扱いです。例えば、2020年4月1日入社で2023年6月15日退職の場合、実際の勤続期間は3年2カ月ですが、計算上は4年とされます。

休職期間は勤続年数に含まれますが、判断に迷う場合は、就業規則や専門家への確認が必要です。

ケース別控除額の計算方法

退職所得控除額は、立場や状況により計算方法が異なります。

一般従業員は基本の計算式を用いますが、役員の場合は「特定役員」(勤続年数が5年以下)に該当すると2分の1とする軽減措置の対象外となる点に注意が必要です。

他にも、障がい者となったことを直接の原因として退職する場合は、通常の退職所得控除額に加えて100万円が上乗せされます。さらに、過去に退職金を受け取っている場合は、前回からの期間や重複する勤続年数に応じて控除額の調整が必要です。

状況ごとの違いを正しく理解して計算することが重要です。

控除額に調整が必要なケース

退職所得控除額は、過去に退職金を受け取っている場合に調整が必要となることがあります。

前年以前4年以内(2026年以降は9年以内)に他の退職手当を受け取っている場合は、勤続年数が重複する分の控除額を差し引かなければなりません。

例えば、A社勤続10年、B社勤続5年のうち4が重複する場合、2回目の控除額は200万円から160万円を差し引いた40万円になります。また、iDeCoの一時金と併用する際も、退職金の受給時期によって控除額の調整が必要です。

2|課税退職所得金額を計算する

退職所得控除額を差し引いた後は、実際に課税される退職金の金額である「課税退職所得金額」を計算します

課税退職所得金額を基に、所得税や住民税が決まるため、正確な計算が不可欠です。退職所得には、他の所得と異なる特例的な計算方法が適用されます。

以下では、課税退職所得金額の具体的な算出方法について解説します。

課税退職所得金額の基本的な計算式(1/2ルール)

課税退職所得金額の計算には、「1/2ルール」と呼ばれる特例が適用されます。

1/2ルールは、退職金収入から退職所得控除額を差し引いた残額の2分の1だけを課税対象とする制度です。計算式は「(退職金収入-退職所得控除額)×1/2」となります。

例えば、退職金が1000万円で控除額が600万円なら、課税対象は(1000万円-600万円)×1/2=200万円です。控除額が退職金を上回る場合は、課税対象はゼロ円となり非課税となります。

例外:勤続5年以下の役員(特定役員)は1/2にしない

勤続5年以下の役員(特定役員)には、1/2課税が適用されない特例があります。

特例は、短期間で高額な退職金を受け取る役員への過度な優遇を防ぐための措置です。特定役員とは、退職手当を支払う会社において役員としての勤続年数が5年以下の者を指します。

3|所得税・住民税の税額を計算する

課税退職所得金額が算出できたら、次に所得税と住民税の税額を求めます。退職金には他の所得とは異なる課税方法が適用され、計算には一定のルールがあるため、注意が必要です。

以下では、具体的な税率や計算手順について詳しく解説します。

所得税・復興特別所得税額の計算式

退職所得にかかる所得税は、課税退職所得金額に対して累進税率を適用して算出します。          

税率は5%~45%までの7段階で、金額が高くなるほど税率も上がります。各区分には控除額が設定されており、課税退職所得金額×税率-控除額」で所得税額を求めることが可能です

所得税の税額表〔求める税額=A×B-C〕(令和7年分)
A 課税退職所得金額B 税率C 控除額
1,000円から1,949,000円まで5%0円
1,950,000円から3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円以上45%4,796,000円

さらに、所得税額に2.1%を乗じた額が復興特別所得税として加算されます。復興特別所得税は2037年まで課されます。

いずれも100円未満は切り捨てて計算します。

住民税額の計算式

退職所得にかかる住民税は、課税退職所得金額に一律10%の税率をかけて算出します

都道府県民税が4、市町村民税が6で、合計10が適用されます。所得税と異なり、金額の多寡にかかわらず税率は一定です。

計算式は「課税退職所得金額×10%」となり、例えば300万円の場合は30万円、600万円なら60万円となります。復興特別所得税のような付加税はなく、端数は100円未満を切り捨てて計算します。

退職所得控除の手続きの流れ

退職金に対して退職所得控除を適用するには、所定の手続きを正しく行う必要があります。手続きを誤ると、退職者が本来受けられるはずの控除が反映されず、余分な税負担が生じる恐れがあるため、注意が必要です。

以下では、退職所得控除の適用に必要な手続きの流れについて解説します。

1|「退職所得の受給に関する申告書」を記入・提出してもらう

退職金の支給が決まったら、退職者に「退職所得の受給に関する申告書」を提出してもらいます。

退職所得の受給に関する申告書は、退職所得控除の適用と正しい源泉徴収を行うために必要な書類です。申告書は退職予定日の1〜2週間前までに渡し、記入方法を分かりやすく案内しておくことが重要です。

記入方法を説明した社内マニュアルを用意し、退職者が戸惑わずに提出できるようサポート体制を整える必要があります。申告書を確実に提出してもらうことで、退職者の税負担を最小限に抑えられます。

「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合

「退職所得の受給に関する申告書」が提出されない場合、退職金の全額に対して、20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)の源泉徴収を行う必要があります。

上記の税率は退職所得控除1/2ルールを適用しないため、退職者にとって大きな負担となります。例えば、退職金1000万円・勤続20年の場合、本来の税額は約10万円程度ですが、申告書未提出では204万円が差し引かれる計算です。

企業側は提出を強制できませんが、退職者に不利益が生じる可能性を丁寧に説明し、提出の必要性を具体的に伝えることが重要です。

提出がない場合でも、一律で源泉徴収し、退職者が確定申告により還付を受けられる旨を案内する必要があります。必要に応じて、専門家への相談も勧めると安心です。          

2|申告書の受領・内容を確認する

申告書を受領したら、内容に不備や記入漏れがないか丁寧に確認します。

勤続年数、過去の退職金受給歴、障がい者該当の有無といった情報は、退職所得控除額に直接影響するため慎重な確認が必要です。

前職の退職金がある場合は、受給時期や金額を確認し、5年ルールによる控除額の調整が必要かどうかを判断します。勤続年数の計算では、入社日と退職日を基に端数を切り上げて年数を確定します。

不明点がある場合は退職者に照会し、必要に応じて資料の提出を依頼することが重要です。控除額の誤りは源泉徴収税額の過不足につながるため、チェックリストを活用し、確認漏れのない体制を整える必要があります。

3|退職所得控除額や課税退職所得金額を算出する

申告書の内容を確認した後は、退職所得控除額、課税退職所得金額、源泉徴収税額を順に算出します。

退職所得控除額は勤続年数に応じて計算し、20年以下は40万円×年数、20年超は800万円+70万円×(年数-20)で求めます。課税退職所得金額は、退職金から控除額を差し引いた残額の2分の1です。

ただし、勤続5年以下の特定役員は、1/2課税が適用されないため注意が必要です。

所得税は課税退職所得金額に累進税率を適用し、さらに2.1%の復興特別所得税を加算します。住民税は一律10%で計算します。

4|退職金を支給する

税額の計算が完了したら、源泉徴収税額を退職金から差し引き、残額を退職者に支給します

支給時には、退職金の総額や控除された所得税・復興特別所得税、住民税の内訳を明記した支給明細書を交付することが必要です。企業は、退職者に対して課税内容や控除額の根拠が明確になるよう、退職所得控除額や課税退職所得金額などの情報も記載します。

支給は銀行振込が一般的ですが、現金で支払う場合は受領書を作成し、記録を適切に保管します。退職者の生活に配慮し、可能な限り速やかな支給が重要です。

5|源泉徴収票の作成・交付をする

退職金を支給したら、退職所得に関する源泉徴収票を速やかに作成し、退職者に交付します。

源泉徴収票には、退職金の収入金額、退職所得控除額、課税退職所得金額、源泉徴収税額(所得税・復興特別所得税・住民税)を正確に記載します

退職所得の源泉徴収票は、退職金を支払った全ての者に対して作成・交付しなければなりません。また、役員に支払った場合には、税務署と市区町村への提出も必要です。

なお、令和7年度税制改正により、退職所得の源泉徴収票・特別徴収票の税務署および市区町村への提出範囲が、「役員のみ」から「全ての受給者」に拡大されました。今回の改正は令和8年1月1日以後に提出すべき退職所得の特別徴収票に適用されます。

記載漏れや計算ミスを防ぐため、テンプレートやチェックリストを活用し、電子申告の場合はデータの整合性確認も欠かせません。交付は支給後1カ月以内が目安であり、郵送する際は確実に届くよう簡易書留などの方法を選ぶ必要があります。          

源泉徴収票については、以下の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。

6|申告書を保管する

退職所得の受給に関する申告書は、法定保存文書として7年間(令和8年以降は10年間)の保管が義務付けられています

税務調査で提示を求められる可能性があるため、紛失や情報漏えいを防ぐ適切な管理が必要です。申告書は退職年度ごとに分類し、「20○○年度退職者申告書」などの見出しを付けて整理すると、検索性が向上します。

原本は施錠できる保管場所に保存し、必要に応じてスキャンデータをバックアップとして保存するとより安心です。アクセス権限を明確にし、保存期間満了後は個人情報保護の観点から適切な方法で廃棄します。

退職所得控除について社内で共有すべきポイント

退職所得控除は、退職金に関する税務処理の中でも誤解やミスが起こりやすい分野のひとつです。適切な手続きを行う際に、退職所得控除について社内で共有すべきポイントは以下のとおりです。

  • 退職所得の受給に関する申告書の重要性
  • 他社での退職金受給の有無の確認
  • 計算ミス防止のためのチェック体制
  • 退職者への退職所得控除の説明

退職所得の受給に関する申告書の重要性

退職所得の受給に関する申告書は、退職金に退職所得控除を適用するために必要な法定書類です。

申告書の提出があれば、控除額が反映された適正な税額で源泉徴収を行うことができ、退職者の税負担を大幅に軽減できます。一方、提出がない場合は退職金の総額に対して一律20.42%の税率が適用されます。

例えば、退職金800万円・勤続20年のケースでは、申告書の有無で源泉徴収額に約164万円の差が生じます。トラブルを防ぐには、社内で申告書の重要性を共有し、退職者への丁寧な説明ができる体制を整えることが不可欠です。

対応のばらつきをなくすため、記入マニュアルや説明資料を事前に用意し、どの担当者でも同じ内容を案内できる体制が求められます。

他社での退職金受給の有無の確認

転職歴のある退職者には、前職での退職金受給の有無を必ず確認する必要があります。

過去4年以内に退職金を受け取っている場合、退職所得控除額の重複分を調整する必要があるためです。確認を怠ると控除額の過大適用により、税務上の問題が生じる恐れがあります。

適正な計算を行うには、転職歴や退職金受給歴を確認する質問票を用意し、必要に応じて前職の源泉徴収票を提出してもらう社内体制が重要です。

2026年からは退職所得控除の調整規定の対象拡大なども予定されているため、変更内容も含め、社内で事前に情報を共有しておくことが重要です。

計算ミス防止のためのチェック体制

退職所得控除の計算は工程が多く、注意が必要です。計算式の切り替えや特例の適用、退職金受給歴による調整など、ミスにつながる要素が多く含まれています。

正確な処理には、Excelなどの計算ツールを用いた算出と、別の担当者による検算によるダブルチェック体制が効果的です。

計算根拠の記録や保管方法も明確にし、属人化を避けた仕組みを整備することが重要です。

退職者への退職所得控除の説明

退職所得控除に関する説明を行うことは、退職者自身が理解を深め、誤解やトラブルを防ぐために重要です。

多くの退職者は制度を十分に理解しておらず、「退職金は全て非課税」と誤認していることもあります。担当者ごとの説明に差があると混乱や不信感を招くため、社内で内容と説明方法の統一が必要です

具体例や図解を用いた説明資料を準備し、「退職金1000万円・勤続25年なら控除額1150万円で税金はかからない」のように、分かりやすい事例を示すことが重要です。

参考文献

国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」

企業年金連合会「退職所得控除額」

国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」

監修者

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涌井好文 社会保険労務士(神奈川県会横浜北支部)
就業規則作成、社会保険手続き、給与計算、記事執筆及び監修
ムートン

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