整理解雇とは?
進め方や実施の4要件(要素)、
注意点を解説!
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- この記事のまとめ
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整理解雇とは、企業の経営悪化によって人員を削減する解雇のことです。
・整理解雇には、可能な限り4つの要件(要素)を満たすことが必要です。
・整理解雇は、5ステップに分けて丁寧に進める必要があります。
・整理解雇の際は、社会保険の手続きや違法リスク、有給の扱いなどに注意が必要です。
本記事では、整理解雇の要件や進め方、注意点などを解説します。
※この記事は、2025 年7月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
整理解雇とは
整理解雇とは、企業の経営状況の悪化などにより、人員を削減するための解雇のことです。整理解雇をするには、所定の要件(要素)を満たす必要があります。リストラとの違いや、普通解雇・懲戒解雇との違いを解説します。
リストラとの違い
「リストラ」とは、企業の事業全体を再構築することを指す経営用語です。解雇だけでなく、不採算事業からの撤退や売却、業務プロセスの効率化、組織の再編成などもリストラに該当します。
一方で「整理解雇」は、リストラ策の中で、人員削減が必要な場合に取られる手段です。企業が経営再建のためにリストラを行う際、まずは役員報酬のカットや経費削減、新規採用の停止などを行います。それでもなお人員の削減が不可避であると客観的に判断された場合に、はじめて整理解雇が選択肢になるのです。
普通解雇・懲戒解雇との違い
解雇には、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇の3種類があります。
普通解雇は、労働者の能力不足や勤務態度の不良など、労働契約の履行が期待できない場合に適用されます。懲戒解雇は、横領や経歴詐称といった、就業規則上の懲戒事由に該当する悪質な規律違反行為への制裁措置です。これらはいずれも、解雇の理由が労働者個人にあります。
一方で、整理解雇は労働者本人に全く落ち度がありません。会社の経営不振や事業縮小といった経営上の事情によって、一方的に労働契約を解除するものです。整理解雇は、会社により重い責任が課される解雇の仕方といえます。
整理解雇をするための4要件(要素)
整理解雇をするには、4要件(要素)を満たす必要があります。かつては要件を厳格に満たさなければなりませんでしたが、近年では個別の事情を考慮して解雇の有効性が判断される判例も出てきており、「要素」に緩和される傾向にあります。
4つの要件(要素)は以下のとおりです。
- 人員削減の必要性があるか
- 解雇回避努力義務が果たされているか
- 解雇対象者の選定が合理的か
- 労働者へ十分な説明・協議をしたか
それぞれの要件(要素)を解説します。
人員削減の必要性があるか
整理解雇が法的に有効と認められるには、人員削減の必要性を示すことが求められます。
単純な業績悪化ではなく「人員を削減しなければ企業の存続自体が危うい」といった正当な理由があって、はじめて人員削減の必要性が生じます。複数期にわたる大幅な赤字経営や主要取引先の倒産による売上の激減、このままでは資金が枯渇し倒産に至るという切迫した状況などが該当します。
一方、黒字を確保しておりさらに利益向上を目指す際の人員整理などは、必要性が低く不当解雇にあたる可能性があります。まずは自社の経営状況を分析して、人員削減が必要な根拠を用意しておくとよいです。
解雇回避努力義務が果たされているか
整理解雇は、あくまでも経営状況を好転させる最終手段です。解雇に踏み切る前には、解雇を回避しようと努力したかどうかが問われます。この努力を怠ったと判断されれば、たとえ経営状況が深刻であっても解雇は無効となる可能性が高まります。
具体的な解雇回避努力は、以下のとおりです。
- 役員報酬の削減
- 徹底した経費の見直し
- 新規採用の停止
- 時間外労働の削減
- 従業員の雇用を維持するための配置転換や関連会社への出向
- 雇用調整助成金などを活用した一時休業
- 希望退職の募集
これらの施策をどの程度真摯に実行したかが、企業が解雇回避努力義務を果たしたかどうか判断する上での重要な基準となります。
解雇対象者の選定が合理的か
誰を解雇の対象とするかという人選の合理性は、整理解雇をする上で重要です。基準は客観的・合理的なものとし、運用も公平でなければなりません。経営者の個人的な感情や、主観的な理由で特定の従業員を解雇するような恣意的な人選は、不当解雇の典型例で、法的に認められません。
合理的とされる人選基準は、以下のようなものを組み合わせて作成します。
- 客観的な人事評価データに基づく勤務成績
- 会社の状況に応じた勤続年数
- 工場閉鎖や事業所閉鎖に伴う担当業務の有無
なお、性別、年齢、国籍、信条、あるいは労働組合員であることや育児休業の取得を理由とすることは違法です。基準が合理的であることを誰にでも説明できるようにしておく必要があります。
労働者へ十分な説明・協議をしたか
労働者への協議・説明を怠らない「手続きの妥当性」も、整理解雇をする際には求められます。会社が決定事項を一方的に通告するのではなく、解雇について、対象となる労働者や労働組合に対して十分な説明を行い、誠実な協議を尽くしたかが問われるものです。
最終的に労働者全員の同意が得られなかったとしても、会社側が「納得を得るために真摯に対話の努力を重ねた」というプロセスそのものが、法的に極めて重要視されます。この協議・説明を省略したり、形式的なものに終わらせたりすると、他の要件を満たしていても解雇が無効となる可能性があります。
個別面談や質問への丁寧な回答、面談の議事録の保管などをして、手続きが妥当であることを証明できるようにしてください。
整理解雇の進め方
整理解雇は、以下の手順で進めていきます。
- 解雇以外の方法で人員整理を進める
- 整理解雇の方針やスケジュールを決める
- 解雇対象者や労働組合に説明・協議をする
- 整理解雇を予告する
- 整理解雇を実施する
4要件(要素)を満たしながら、丁寧に進めていくのが重要です。
1.解雇以外の方法で人員整理を進める
整理解雇は、企業の経営改善のための最終手段です。実際に解雇を検討する前には、解雇を回避するための努力をする必要があります。
コスト面では、役員の報酬や経費の削減、採用の凍結などをするとよいです。また、他部署への配置転換や関連会社への出向など、従業員を雇用しながら人員整理を進めるのも効果的です。
また、希望退職を募る方法もあります。希望退職を募る際は、退職金の上乗せなどの優遇措置を実施することが一般的です。
2.整理解雇の方針やスケジュールを決める
あらゆる解雇回避努力を尽くしても経営が上向かない場合は「人員削減の必要性」を検討し、解雇の方針やスケジュールを決めていきます。
不明瞭な基準では、従業員の不信感を招き、法的紛争に発展する可能性があります。削減予定の人数や実施時期、退職金の算定方法など、適切な基準と明確な計画を定めて、手続の透明性を確保しましょう。
また「合理的な人選基準」となるよう方針を決めていくことも重要です。解雇の際は、勤務成績や勤続年数、担当業務の必要性などから「どのような基準で解雇する従業員を選んだか」を説明できるようにしておく必要があります。
弁護士などの専門家に策定した方針や基準をチェックしてもらい、法的リスクに問題がないことを確認しておくと安心です。
3.解雇対象者や労働組合に説明・協議をする
基準や方針が固まったら、解雇対象の従業員や労働組合に説明や協議を行います。労働者への十分な協議・説明をしたという「手続きの妥当性」がポイントとなるため、一方的な通告とならないよう注意してください。
従業員には、説明会を開き、会社の厳しい経営状況やこれまでしてきた対策、整理解雇の必要性などをデータとあわせて説明します。労働組合との協議では、団体交渉の場で真摯に協議を重ねましょう。
その上で、解雇対象者一人ひとりと個別面談を行い、対象となった理由の説明や質問・意見の受付をします。協議内容は証拠として正確に記録し、大切に保管してください。
4.整理解雇を予告する
十分な説明と協議を尽くした上で、整理解雇を予告します。
最終的に解雇を決定した従業員には、労働基準法20条の定めにしたがって、解雇日の少なくとも30日前に「解雇予告通知書」を書面で交付します。30日前の予告は法律で定められた使用者の義務です(ただし、労働者の重大な過失等一定の事由がある場合には、事前に労働基準監督署長による解雇予告除外認定を受けることで、予告なしに即時解雇することが可能)。
書面で通知することで、解雇の意思表示と解雇日を明確にし、トラブルを防ぎます。面談の場で最終決定を伝え、解雇日を明記した通知書を本人に直接手渡すのが一般的です。
もし30日の予告期間を設けずに即日解雇とする場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。その場合は、手当の支払日や計算根拠も書面に明記します。なお、労働者から解雇の理由を記載した解雇理由証明書の交付を求められた場合、会社は発行する義務があるため、その準備も並行して進めておくとよいです。
5.整理解雇を実施する
解雇予告期間が満了し、解雇日を迎えたら、必要な事務手続きを行います。法的な手続きを確実に完了させることはもちろん、会社に残り事業を担う従業員のケアに注力することが大切です。
主な事務手続きは、以下のとおりです。
- 退職金の支払い
- 源泉徴収票や雇用保険の離職票の発行
- 社会保険の資格喪失証明書の発行
残った従業員に対しては、あらためて今後の経営方針やビジョンなどを説明し、必要に応じて従業員の不安や疑問を聞き出していくとよいです。必要な手続きをすべて終えたら、整理解雇の手続きが完了します。
整理解雇における注意点
整理解雇では、以下の4点に注意してください。
- 雇用保険や社会保険の手続きを忘れずに行う
- 特定の状況下での整理解雇は違法の場合がある
- 退職金の割増支給を検討する
- 有給休暇は通常どおり消化させる
対応が漏れたり見落としたりすると、トラブルに発展するおそれがあり、将来のリスクにつながるため、よく確かめておくとよいです。
雇用保険や社会保険の手続きを忘れずに行う
従業員を解雇する際は、社会保険・労働保険の手続きを期限内に正確に行う必要があります。手続きが遅れると、従業員が雇用保険の失業給付を受けられなくなるなど不利益が生じるため、トラブルの原因となる可能性があります。
主な手続きは以下のとおりです。
- 雇用保険被保険者資格喪失届・離職証明書:退職日の翌日から10日以内にハローワークへ提出
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届:退職日の翌日から5日以内に管轄の年金事務所へ提出
手続きは期限が短く多岐にわたるため、事前に必要な書類や提出先をまとめておき、担当者が漏れなく対応できるようにしておくとよいです。
なお、労使間で解雇について争いがあったとしても、社会保険の喪失手続きは行います。
特定の状況下での整理解雇は違法の場合がある
たとえ整理解雇の要件(要素)を満たしているように見えても、特定の状況下にある従業員を解雇対象とすることは、不当解雇とみなされ法律で明確に禁止されています。
主なケースは、以下のとおりです。
- 従業員が業務上の怪我や病気で休業している期間と職場復帰後30日間の解雇
- 女性従業員の産前産後休業期間とその後の30日間の解雇
- 育児・介護休業の申し出や取得を理由とする解雇
このほか、労働組合員であることなどを理由とする不利益な取り扱いなども禁じられています。
対象者を選定する際は、上記のケースに該当しないか確かめておく必要があります。
退職金の割増支給を検討する
整理解雇の対象者には、通常の退職金に割増分を上乗せして支払うことを検討するとよいです。
整理解雇は、労働者に非がありません。そのため、労働者の生活に不安を与えてしまいます。会社が金銭的な補償を手厚くすることで、労働者が解雇を受け入れる準備ができるのです。
例えば、「給与の〇ヶ月分」といった形で特別加算金を支給し、その支給を条件に、将来の紛争を抑止する内容を盛り込んだ「退職合意書」の締結を目指すケースが一般的です。これにより、将来の訴訟リスクを抑えられます。
会社の財務状況と照らし合わせながら、割増退職金の支給を検討し、訴訟や紛争が起きないようにしましょう。
有給休暇は通常どおり消化させる
整理解雇の対象者であっても、解雇日までに残っている年次有給休暇を取得する権利は法律で保障されています。そのため、会社は原則として従業員からの申し出を拒否することはできません。
解雇というデリケートな状況下では、有給消化を巡るトラブルが感情的な対立に発展しやすいため、適切な対応が求められます。
実務上は、解雇予告と同時に有給休暇の残日数を確認し、本人と消化計画について話し合うのがスムーズです。業務の引継ぎを解雇予告期間の前半で完了させ、残りの期間は有給消化に充てるといった対応が考えられます。
どうしても消化しきれない日数分について、労使双方の合意の上で会社が任意に買い取ることは例外的に可能ですが、まずは権利の消化を最大限尊重するのが大切です。
整理解雇に関する裁判の判例
整理解雇に関しては、過去の裁判の判例を参考にしながら進めるのも方法のひとつです。整理解雇が有効とみなされたケース・無効とみなされたケースについて解説します。
整理解雇が有効とみなされた例
裁判所が整理解雇を有効と判断するケースでは、企業側が「人員削減の高度な必要性」を客観的資料で証明し、希望退職の募集や配置転換の検討など「解雇回避努力」を真摯に尽くし、丁寧な「説明・協議」を重ねたことが総合的に評価されています。
例えば、会社更生手続中であった日本航空事件では、極めて高い人員削減の必要性に加え、労働組合と多数回の団体交渉を重ねた手続きの妥当性が評価され、解雇は有効とされました。
「経営危機を客観的に証明できるか」「解雇以外のあらゆる選択肢を検討・実行したか」「プロセスを従業員に丁寧に説明したか」が有効性の判断基準です。
整理解雇が無効とみなされた例
整理解雇が無効と判断されるケースは、4要件(要素)のいずれか、あるいは複数の要件において、企業の対応が不十分であると指摘された場合です。特に「解雇回避努力義務」や「手続きの妥当性」の欠如が理由となるケースが見受けられます。
例えば、あさひ保育園事件では、園児の減少という事情はあったものの、希望退職者の募集といった解雇を回避する具体的な方策を検討しなかった点が問題視され、無効となりました。
経営不振を理由に安易に解雇に頼ることはできません。あくまでも誠実な回避努力と対話が不可欠だといえます。
整理解雇が無効とされた場合のリスク
整理解雇が無効とみなされた場合には、以下のようなリスクが生まれます。
- バックペイや慰謝料の発生
- 訴訟トラブルの発生
金銭支払いや訴訟など負担のかかるトラブルが起こるため、注意が必要です。
バックペイや慰謝料の発生
整理解雇が無効となった場合、企業は解雇日から判決が確定するまでの期間の賃金全額を、遡って支払う義務を負います。これは「バックペイ」と呼ばれ、裁判が長引くほど金額が増えていきます。
例えば、月給40万円の従業員の解雇が無効となり、解決まで1年半かかった場合、バックペイだけで720万円の支出が発生します。あわせて、精神的苦痛に対して数十万円から百万円を超える慰謝料の支払いを命じられるケースも少なくありません。
経営再建中の企業において、こうした支払いは厳しいため、適正な手続きを踏んでトラブルを防ぐようにしてください。
訴訟トラブルの発生
不当解雇の疑いがある場合、訴訟が起きる可能性があります。訴訟は金銭負担に加え、解決までの時間や労力がかかります。
この間、経営陣や人事担当者は、弁護士との打ち合わせや証拠資料の準備、裁判所への出廷などに時間を費やさなければなりません。そのため、本来の事業活動が停滞する可能性があります。
また「従業員を不当に解雇する会社」という評判が立てば、残った従業員の士気は低下し、顧客離れや採用活動の難化を招くおそれもあります。こうしたリスクを防ぐためにも、解雇を検討する初期の段階から専門家を交えて相談し、適切な手続きをしていく必要があるのです。
整理解雇に関するQ&A
整理解雇に関する質問や疑問をまとめました。整理解雇を実際にする際の参考にしてください。
育休中の労働者を整理解雇してもよい?
育児休業中の労働者を解雇することは、育児・介護休業法10条で禁じられており無効です。
ただし、事業所の閉鎖に伴い所属従業員全員を解雇する必要があるなど、客観的な基準で整理解雇の対象となった場合は、例外的に違法とならないかどうかが慎重に判断されます。
整理解雇を拒否されたらどうすればよい?
整理解雇は、労働者の同意をもって成立するわけではありません。そのため、従業員に解雇を拒否されたとしても、要件(要素)を満たしていれば法的には解雇の効力が生じます。
ただし、従業員の意思を無視して解雇を強行すれば「手続きの妥当性」が欠けていたと判断され、解雇が無効となる可能性があります。紛争を避けるためには、退職金の上乗せといった譲歩や「説明・協議を尽くした」という事実の記録などが大切です。
パートやアルバイトも整理解雇の対象になる?
パートやアルバイトも、人員整理の対象です。ただし、扱いが正社員と異なるため、注意が必要となります。
契約期間の途中で解雇する場合、労働契約法17条により、正社員の整理解雇よりもさらに厳しい「やむを得ない事由」が必要とされ、会社の倒産が目前であるなど極めて限定的な状況でしか認められません。安易な解雇はできないため、慎重な対応が求められます。
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参考文献
監修












