健康保険とは?目的や種類、
他の保険との違いなどを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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健康保険とは、健康保険法に基づき、全国健康保険協会や健康保険組合を通じて加入する公的医療保険制度です。
・主に民間企業の従業員が加入する健康保険は、保険料の労使折半や扶養制度がある一方、国民健康保険料は全額自己負担となります。
・加入義務は法人事業所なら従業員1名から、特定の個人事業所なら従業員5名以上で発生し、条件を満たす従業員本人と扶養家族が保障の対象です。
・保険料は従業員の給与で決まり、企業のコストとなる一方、従業員にとっては病気や怪我の際の保障が手厚く、安心感につながる点が採用時のアピールにつながります。本記事では、健康保険について、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025年8月28日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
健康保険とは
健康保険とは、健康保険法に基づき、全国健康保険協会や健康保険組合を通じて加入する公的医療保険制度です。民間企業で働く従業員(被保険者)とその家族(被扶養者)が加入します。
業務外の病気や怪我、出産、死亡などの不測の事態に際し、医療給付や手当金を支給することで、経済的な負担を軽減します。
健康保険の目的
健康保険の主な目的は、従業員とその家族の生活を安定させ、福祉を向上させることです。加入者と事業主が保険料を公平に負担し、社会全体で互いに支え合う「相互扶助」の理念が、制度運営の基盤となっています。
保険者の役割
健康保険を運営する保険者の主な役割は、加入者と事業主から保険料を徴収し、保険給付や保険事業を行うことです。
保険者には、主に中小企業の従業員を対象とする全国健康保険協会(協会けんぽ)と、大企業などが設立する健康保険組合(健保組合)の2種類があります。両者の保険では保険料率や給付内容等が異なり、健保組合による組合管掌健康保険は、法定給付に加えて独自の付加給付やきめ細やかな健康増進事業を実施できることが特徴です。
自社がどちらに属するかで従業員の福利厚生や会社の費用負担が変わるため、人事労務担当者は違いを理解しておく必要があります。
保険給付
保険給付は、医療費の自己負担を軽減する現物給付(療養の給付等)と、特定の状況で現金が支給される現金給付に分かれます。
現物給付のなかでも療養の給付は、医療機関の窓口での支払いを原則3割負担に抑える、健康保険の基本的な機能です。人事の実務に深く関わる現金給付には、高額な医療費負担を払い戻す高額療養費制度や、業務外の病気・怪我による休業中の生活を支える傷病手当金があります。
加えて、出産時には出産育児一時金や出産手当金も支給されます。従業員の経済的不安を和らげるため、各種制度を正しく理解し、適切に案内することが重要です。
保険事業
保険事業とは、加入者の病気予防と健康増進を目的として保険者が実施する予防的なサービスです。
協会けんぽは生活習慣病予防健診などを提供し、組合健保では予防接種の補助やスポーツジム割引などのサービスが利用できる場合があります。
人事労務担当者が社内で利用を促すことは、従業員の健康意識を高め、企業の健康経営を力強く推進します。
健康保険と他の保険の違い
従業員からの質問に的確に答え、退職や働き方の変更に伴う手続きを正しく案内するためには、健康保険と他の主要な保険との違いについて理解する必要があります。以下では、健康保険と他の保険の違いを解説します。
健康保険と国民健康保険の違い
健康保険と国民健康保険の違いは、保険料の負担方法と扶養制度の有無です。
会社員が加入する健康保険では、保険料を会社と従業員で折半して負担します。一方、自営業者などが加入する国民健康保険料は、全額が加入者の自己負担です。
また、健康保険には条件を満たす家族を保険料負担なく追加できる扶養の仕組みがあります。国民健康保険には扶養制度がなく、世帯の加入者数に応じて保険料が決まる点も相違点の一つです。
健康保険と民間の医療保険の違い
健康保険は強制適用の公的医療保険であり、民間の医療保険は任意加入の私的保険商品です。
健康保険は、医療費の自己負担を一定割合に抑える国民皆保険制度の土台です。一方、民間保険は公的保険の適用外となる費用を補う役割を担います。
例えば、入院時の差額ベッド代や先進医療の技術料など、健康保険だけではカバーしきれない費用などが一例です。
両者は目的と保障範囲が異なり、互いに補完し合う関係にあります。
健康保険の加入が義務付けられている事業
健康保険への加入は任意ではなく、法律で定められた事業所に対して強制的に適用されます。健康保険の加入が義務付けられている事業は、以下のとおりです。
- 全ての法人事業所(被保険者1人以上)
- 個人事業所(常時従業員を5人以上雇用)
全ての法人事業所(従業員1人以上)
株式会社や合同会社など、法人の形態を問わず、従業員を1人でも雇用する事業所は健康保険の強制適用事業所となります。代表取締役や常勤役員も加入対象の従業員に含まれるため、社長1人の会社でも役員報酬が支払われていれば加入義務が生じます。
会社を設立し、最初の給与支払いが発生した際は、事実発生から5日以内に管轄の年金事務所へ「新規適用届」を提出しなければなりません。
手続きを怠ると最大2年分の保険料を遡って徴収される上、延滞金も発生するため確実な対応が求められます。
個人事業所(常時従業員を5人以上雇用)
個人事業所の場合、健康保険の加入義務は業種と従業員数の2つの条件で決まります。まず、製造業や建設業などの法律で定められた業種(法定17業種)であることが前提です。2022年10月から弁護士・税理士等の士業が適用業種に追加されました。
上記に該当する上で、常時5人以上の従業員を雇用している場合に強制加入の対象となります。なお飲食業や理美容業などは法定業種に含まれないため、従業員が5人以上でも自動的に加入義務は発生しません。
ただし、強制加入とならない事業所でも、従業員の半数以上の同意があり厚生労働大臣の認可を受けることで、任意適用事業所として健康保険に加入することが可能です。
健康保険の種類
ここまでは会社員が加入する健康保険について解説しましたが、本章では視点を広げ、日本の公的医療保険制度全体を広義の健康保険として捉え、各種類を紹介します。
公的医療保険制度は、会社員などが加入する被用者保険と、自営業者などが加入する地域保険の枠組みで成り立っています。各種手続きや保険料の違いを把握するには、まずそれぞれの分類を理解することが重要です。
以下では、主な健康保険の種類を被用者保険と地域保険に分けて解説します。
被用者保険(職域保険)
被用者保険とは、会社員や公務員など、雇用されている人が勤務先を通じて加入する医療保険です。保険料は原則として事業主と本人が折半で負担します。
被用者保険には、主に以下の種類があります。
- 健康保険組合
- 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)
- 共済組合
- 船員保険
以下では、このうちの代表的な3つの保険についてそれぞれ解説します。
健康保険組合
健康保険組合は、健康保険法に基づき、健康保険事業を行う公法人です。主に大企業が単独(被保険者が常時700人以上いることが要件)、または同業種の複数企業が共同(被保険者が合計で常時3,000人以上いることが要件)で設立し、国の健康保険事業を代行します。設立には、厚生労働大臣の認可が必要です。
企業にとってのメリットは、保険料率を組合の財政状況に応じて柔軟に設定できることにあり、協会けんぽより低い両立を実現できれば企業の保険料負担を軽減できます。
さらに、法律で定められた給付に上乗せする独自の付加給付は、他社と差別化できる強力な福利厚生となり、優秀な人材の獲得や定着につながります。
全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)
全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)は、主に独自の健康保険組合を持たない中小企業の従業員が加入する、日本最大の公的医療保険です。
全国健康保険協会が運営しており、健康保険料率が都道府県単位で設定されていることが特徴です。各地域の医療費水準や年齢構成を反映して毎年料率が改定されるため、人事労務担当者は自社の所在地の最新料率を正確に把握し、給与計算へ反映させる必要があります。
共済組合
共済組合は、公務員や私立学校の教職員が加入する、特定の職域に特化した公的医療保険制度です。健康保険法とは別の法律に基づいて設立・運営され、年金を含む独自の給付や福祉事業が整備されています。
一般企業の人事労務担当者は、直接加入手続きに関わることはありません。しかし、従業員の配偶者が加入している場合など、扶養認定の際に制度の違いを理解していると、従業員への説明がスムーズになります。
地域保険
地域保険とは、自営業者や退職者など、職域保険に加入していない全ての住民を対象とする公的な医療保険制度です。
運営は都道府県と市区町村が共同で行い、保険料は加入者が全額自己負担します。また、会社員が加入する健康保険とは異なり、扶養という概念がありません。
地域保険には、主に以下の2種類があります。
- 国民健康保険(市町村国保)
- 国民健康保険組合(国保組合)
以下では、それぞれの保険の種類を解説します。
国民健康保険(市町村国保)
国民健康保険(市町村国保)は、自営業者や退職者など、他の公的医療保険に加入していない住民を対象とする制度です。
保険料は前年の所得や世帯の加入者数に基づき、住まいの市区町村が決定します。従業員の退職時には、国民健康保険への加入手続きに必要な「健康保険資格喪失証明書」を速やかに発行することが重要です。
国民健康保険組合(国保組合)
国民健康保険組合(国保組合)は、医師や弁護士、建設業など、同種の事業・業務に従事する人々で組織される公的医療保険制度です。
市区町村の国民健康保険との違いは、多くの組合が所得にかかわらず保険料を一律に設定していることです。そのため、高所得の専門職にとっては、保険料負担を軽減できる可能性があります。
また、専門職の従業員が退職する際に、国保組合の選択肢を情報提供することも、有益なサポートとなります。
健康保険の支払いの仕組み
健康保険における健康保険料は、原則として会社と従業員が折半で負担し、毎月の給与から天引きする形で納付します。人事労務担当者が給与計算を行う上で、保険料の正確な計算は極めて重要な業務です。
以下では、まず健康保険料の具体的な計算方法を整理し、続いて計算の基礎となる標準報酬月額の決定方法や保険料率の確認手順について解説していきます。
健康保険料の計算方法
健康保険料は、従業員の報酬を基にした標準報酬月額と、加入する保険者が定める健康保険料率という2つの要素から決定されます。
上記2つの要素が保険料の算出基礎です。
以下では、計算の基礎となる標準報酬月額の決定方法、保険料率の確認方法、具体的な計算式について詳しく解説していきます。
標準報酬月額の決定
標準報酬月額とは、健康保険料の計算を簡略化するために、従業員の給与を50等級に区分したものです。基本給だけでなく通勤手当や残業手当なども含めた報酬を基に算定されます。
月額が決定・改定される主なタイミングは3つです。
- 資格取得時決定:従業員の入社時に行われる決定
- 定時決定:毎年4月〜6月の給与を基に、その年の9月から保険料を見直す決定
- 随時決定:昇給や降給などにより固定給が大きく変動した際に行われる改定
人事労務担当者は、上記の違いと算定基礎の範囲を正しく理解する必要があります。
健康保険料率の確認
健康保険料の計算に用いる健康保険料率は、加入する保険者によって異なるため注意が必要です。
協会けんぽの場合、保険料率は事業所の所在地がある都道府県ごとに設定されています。一方、組合健保の場合は、各組合が独自の財政状況に応じて料率を定めています。
また、40歳から64歳の従業員は、全国一律の介護保険料率1.59%(2025年度、前年度1.60%から引き下げ)が上乗せされることも重要です。保険料率は毎年改定されるため、人事労務担当者は最新の料率を必ず確認し、給与計算に反映させなければなりません。
保険料の計算式
月々の健康保険料は、「標準報酬月額 × 健康保険料率」で計算します。算出された保険料の総額を、会社と従業員で半分ずつ負担する労使折半が原則です。
例えば、標準報酬月額30万円で保険料率が10%の場合、保険料総額は3万円となります。
労使で折半するため、従業員の給与から控除される金額は1万5千円です。なお、40歳以上64歳以下の場合は、介護保険料率1.59%が加算されます。
賞与も同様に標準賞与額に同じ料率を掛けて計算し、労使で負担します。毎月の給与から天引きされる保険料は、標準報酬月額と保険料率を基に算出されるのです。
健康保険の対象
健康保険の対象者は、会社に雇用される従業員本人である被保険者と、主に収入によって生計を維持されている家族である被扶養者に分けられます。
誰が被保険者となり、どのような家族が被扶養者として認定されるのか、それぞれの条件を正確に把握することが人事労務の基本です。
以下では、保険加入の主体となる被保険者と被扶養者の要件について解説します。
被保険者
健康保険の被保険者とは、適用事業所に雇用され、保険料を負担する従業員本人を指します。正社員だけでなく、代表者や役員、一定の条件を満たすパート・アルバイトも加入対象です。
短時間労働者の加入条件は企業規模により異なります。従業員51人以上の企業では、週20時間以上の労働や月額賃金8.8万円以上、学生でない、雇用期間が2カ月超見込みなどの要件満たす場合に適用されます。50人以下の企業では、週所定労働時間および月所定労働日数が正社員の4分の3以上である従業員が主な対象です。
入社時に雇用契約に基づき加入資格を正しく判断することが、人事労務担当者の重要な責務です。
被扶養者
被扶養者とは、被保険者に扶養されている家族のことで、保険料の負担なく医療給付を受けられます。
認定されるには、続柄、生計維持関係、収入基準といった複数の条件を全て満たさなければいけません。年収130万円の壁は広く知られていますが、別居の家族を扶養に入れる場合は、その家族の収入を上回る額の送金事実を証明するなど、より厳しい条件が課されます。
近年、認定基準の確認は厳格化していましたが、2024年より「年収の壁・支援強化パッケージ」により、一時的な収入変動については事業主の証明により被扶養者認定の継続が可能となりました。
健康保険に加入する際の手続き
健康保険への加入手続きは単一の申請で完結するものではなく、複数のステップを正しい順序で、かつ定められた期限内に進める必要があります。
企業が健康保険に加入する際の主な手続きの流れは、以下のとおりです。
- 事業所の新規適用届を提出
- 被保険者資格取得届を提出
- 被扶養者(異動)届を提出
- 保険料口座振替納付申出書を提出
- 任意適用の場合は厚生労働大臣の認可を得る
以下では、健康保険の加入手続きについて、それぞれ詳しく解説します。
1. 事業所の新規適用届を提出
新規適用届の届出により、従業員を健康保険に加入させることが可能になります。
法人を設立した場合や、個人事業所で常時5人以上の従業員を雇用した場合など、加入義務が発生した日から5日以内に管轄の年金事務所への提出が必要です。期限が短く、遅延すると資格確認や保険証発行が遅れ、一時的に立替払いが生じる等のリスクがあるため注意が必要です。
2. 被保険者資格取得届を提出
事業所の登録後は、従業員一人ひとりを加入させる被保険者資格取得届を提出します。届出を提出することで従業員は正式に被保険者となり、健康保険証が発行されます。
届出には、マイナンバーや報酬月額などの正確な情報が必要です。従業員の入社日から5日以内に提出する義務があり、通常は事業所の新規適用届と同時に提出します。
提出が遅れると自費診療となる恐れもあるため、迅速な対応が求められます。
3. 被扶養者(異動)届を提出
従業員に扶養家族がいる場合、被扶養者(異動)届の提出が必要です。提出により、認定された家族は保険料負担なく保険給付を受けられます。
扶養認定には、続柄や収入、生計維持関係など厳格な条件があり、近年審査は厳格化しています。とくに別居の家族を扶養する場合、定期的な送金証明など客観的な書類が必要です。
人事労務担当者は、従業員からの申告内容を慎重に確認し、必要な証明書類を案内することが重要です。
4. 保険料口座振替納付申出書を提出
毎月の健康保険料納付を効率化し、納付漏れを防ぐため、保険料口座振替納付申出書の提出が推奨されます。届出の提出により、保険料が毎月自動で引き落とされ、支払い業務の負担軽減が可能です。
申出書は口座振替を利用する金融機関の確認を受けた上で、管轄の年金事務所へ提出します。法的な義務ではありませんが、延滞金発生のリスクを回避し、確実な納付管理を行う上で実務上は必須の手続きといえます。
新規適用届の準備と同時に進めるとスムーズです。
5. 任意適用の場合は厚生労働大臣の認可を得る
法律上の加入義務がない個人事業所が任意で健康保険に加入する場合、任意適用という特別な手続きが必要です。任意適用は、届出ではなく厚生労働大臣の認可を受けるための申請です。
まず、加入希望の従業員の半数以上から同意を得て、任意適用申請書に同意書を添えて年金事務所に提出します。認可が下りた後、通常の流れで従業員の資格取得届などを提出します。従業員の合意を前提とした手続きであるため、説明が必要です。
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参考文献
日本年金機構「事業所が健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするとき」
全国土木建築国民健康保険組合「国保組合とは(健保との違い・メリット)」
監修者












