退職後、健康保険の
手続きをせずに14日過ぎたら?
手続きやリスクも分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

退職者は、退職後国民健康保険への切り替えを希望する場合、14日以内に手続きをする必要があります。14日を過ぎた場合でも手続きは可能ですが、退職者が不利益を被るリスクが発生します。企業は退職者が遅滞なく手続きを完了できるよう、正しい情報を提供し、必要な書類を速やかに発行するよう努める必要があります。

・健康保険の手続きが遅れると、医療費の一時的な全額負担や保険料の遡及請求により、退職者に金銭的リスクが生じます。
・退職後の健康保険には、国民健康保険・任意継続制度・家族の扶養という3つの選択肢があります。
・企業による健康保険資格喪失証明書の発行遅延は、退職者の手続きを妨げ、企業のトラブルや評判低下の原因です。

本記事では、退職者の健康保険手続きが14日過ぎた場合について、基本から詳しく解説します。

ヒー

退職者から健康保険の切り替え手続きが14日過ぎたと連絡があったのですが、何のことでしょうか?

ムートン

おそらく国民健康保険への切り替え手続きのことですね。関連する手続きとして、企業は手続きに必要となる資格喪失届を、退職後5日以内に年金事務所等に提出する義務があります(健康保険法48条、健康保険法施行規則29条)。詳しく見ていきましょう。

※この記事は、2025 年8月27日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

退職後の国民健康保険切り替えに必要な手続き

本章では、従業員の退職に伴い発生する国民健康保険の切り替え手続きについて、企業担当者が把握しておくべき流れと、従業員へ的確に案内するためのポイントを解説します。

退職後5日以内|資格喪失届の提出(企業が対応)

従業員の退職時、企業は被保険者資格喪失届退職日の翌日から5日以内に年金事務所(郵送の場合は事務センター)へ提出することが義務付けられています。(健康保険法第48条)また、健康保険資格喪失証明書を速やかに本人へ交付することは、退職者が国民健康保険への切り替えといった次の手続きに進むために重要です。

国民健康保険への切り替えにおいて、健康保険資格喪失証明書は必ずしも必要な書類ではありません。企業には証明書を発行する法的義務がなく、自治体によっては離職票やマイナポータルの情報で代用できるためです。

しかし、退職者が居住地の役所で手続きを円滑かつ確実に行うに有効な書類です。そのため、退職者から希望があった場合は、トラブル防止の観点からも速やかに発行し、本人へ交付することが推奨されます。

退職後14日以内|国民健康保険への切り替え手続き(退職者が対応)

退職後、任意継続や家族の扶養に入らず国民健康保険への加入を希望する場合、退職者は退職日の翌日から14日以内に居住地の市区町村で切り替え手続きを行う必要があります。

企業としては、退職者が手続きを円滑に進められるよう、事前に案内しておくことが重要です。なお、切り替え手続きは14日の期限を過ぎても可能ですが、速やかに行うよう伝えることが望ましいです。

提出遅延による退職者のリスク

退職者の国民健康保険手続きが遅延した場合、退職者に金銭的リスクが生じます。以下では、懸念されるリスクについて、未加入と保険料遡及に分けて解説します。

未加入期間が発生する

手続きが遅れると、保険証のない未加入期間が発生します。未加入期間内に医療機関を受診した場合、医療費は一時的に10割全額自己負担しなければなりません

後日、療養費の支給申請を行えば保険適用分が払い戻されます。ただし、療養費の支給申請には、医療費を支払った日の翌日から2年という時効があるため、手続きの遅れが長引くほど申請を忘れるリスクが高まるため注意が必要です。

保険料を遡及して請求される

国民健康保険料は、手続きを行った日からではなく、企業の健康保険の資格を喪失した日まで遡って計算される仕組みです(最長2年)

そのため、手続きが数カ月遅れた場合、遅れた期間分の保険料がまとめて請求され、一時的に大きな金銭的負担となる可能性があります。

健康保険の切り替え手続きに関して退職者に伝えるべき事項

退職後の問い合わせやトラブルを未然に防ぐためには、退職手続きの際に正確な情報を分かりやすく伝えることが重要です。退職者に伝えるべき内容は、主に以下の2点です。

  • 退職日の翌日が社会保険の資格喪失日になる
  • 国民健康保険への切り替え手続きは退職後14日以内に行う必要がある

退職日の翌日が社会保険の資格喪失日になる

退職者には、社会保険の資格喪失日が退職日の翌日であることを具体的な日付で伝えることが重要です。資格喪失日は保険料徴収や保険証有効期限の基準となるため、明確な伝達が後の問い合わせを防ぎます。

月末退職の場合、8月31日退職であれば「資格喪失日は9月1日です。そのため、8月分の保険料までが徴収対象となり、保険証は8月31日まで有効です」と具体的に案内します。

国民健康保険への切り替え手続きは退職後14日以内に行う必要がある

退職者には、資格喪失日から14日以内に、居住地の役所で国民健康保険への加入手続きが必要であると明確に伝えることが重要です。

国民健康保険法で定められた14日以内の届出は、単なる目安ではなく法的な義務です。手続きが遅れると、本人に金銭的デメリットが生じる可能性があることを説明します。

具体的には、保険証がない間の医療費が一時的に10割負担になる点や、保険料が資格喪失日まで遡って一括請求されるリスクを伝えます。再就職や家族の扶養に入る場合は手続きが異なるため、「早めの対応をお願いします」と添えることで、退職者のスムーズな切り替えの支援が可能です。

退職後でも加入可能な健康保険制度

退職後すぐに転職し、転職先の健康保険に加入するのではない場合、健康保険の選択肢は国民健康保険だけではありません。退職後でも加入できる健康保険制度は、主に以下のとおりです。

  • 健康保険任意継続
  • 国民健康保険
  • 家族の健康保険(被扶養者)

制度の違いを理解することで、退職者の収入や家族構成などの状況に応じた最適な情報提供が可能になり、退職後の問い合わせを削減できます。

健康保険任意継続

健康保険任意継続とは、在職中に加入していた健康保険を退職後も最長2年間継続できる制度です。

申請には退職日の翌日から20日以内(20日目が土日祝日の場合は翌営業日、郵送の場合は書類到着が20日以内)という期限があるため、迅速な情報提供が求められます。任意継続の保険料は本人分のみの負担で、扶養家族が何人いても保険料が一定です。

一方で企業負担分がなくなるため、保険料は在職時の約2倍になります。結果として、前年の所得が高く扶養家族が多い退職者にとっては、国民健康保険よりも有利になる可能性があるのです。

担当者は20日間という申請期限があることを伝え、退職者が比較検討する時間を持てるよう早めの情報提供が推奨されます。

国民健康保険

退職後の健康保険として一般的な選択肢が、市区町村が運営する国民健康保険です。

任意継続の申請期限を過ぎた場合や、家族の扶養に入れない場合の受け皿となる制度です。保険料は前年の所得や世帯人数に応じて決まり、単身世帯や前年の所得が低い場合は任意継続より有利になることがあります。

とくに、会社都合の離職者には、保険料が軽減される制度があるため、案内が必要です。各自治体のウェブサイトで保険料の概算が可能であることを伝え、事前の確認を促すことで、退職者は安心して手続きを進められます。

健康保険任意継続と国民健康保険の違い

任意継続と国民健康保険では、保険料算定基準扶養の有無が異なります。

任意継続は退職時の給与を基に算定し、扶養家族がいても保険料は変わりません。一方、国民健康保険は前年の所得と世帯人数で決まり、扶養の概念がないため加入者ごとに保険料が発生します。

また、会社都合による離職者には、保険料の軽減措置についても伝えることが重要です。扶養家族が多い場合は任意継続が、単身で前年所得が低い場合は国民健康保険が有利になる傾向があります。

任意継続の申請は退職日の翌日から20日以内と厳格なため、早めに比較検討を促す必要があります。

家族の健康保険(被扶養者)

退職後の選択肢として、家族が加入する健康保険の被扶養者になる方法もあります。被扶養者として認定されると、本人は保険料を負担することなく健康保険に加入可能です。

ただし、認定には被扶養者の年間収入130万円未満(2025年10月1日以降は、19歳以上23歳未満の方(被保険者の配偶者を除く)は150万円未満)のように要件があり、誰でも選択できるわけではないため注意が必要です。手続きは家族の勤務先を通じて行われます。

その際、退職者の元の勤務先が発行する健康保険資格喪失証明書が必要になることを明確に説明します。詳細な条件は扶養者側の健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)によって異なるため、家族の勤務先へ確認するよう促すことで、円滑な手続きが可能です。

退職後の健康保険に関する手続きが遅れることによる影響

退職者の健康保険切り替え手続きが遅延した場合、従業員本人だけでなく企業側にも影響があります。主なリスクは、以下のとおりです。

  • 従業員への不利益や企業へのペナルティにつながる
  • 新しい健康保険への加入の妨げとなる
  • 企業の評判を損なう

手続きの遅れは単なる事務的な問題ではなく、従業員の生活や企業の信頼性に直結する重要な課題です。以下では、各影響を紹介します。

従業員への不利益や企業へのペナルティにつながる可能性がある

健康保険手続きの遅延は、退職者への不利益と企業への法的リスクを招くため、迅速な対応が必要です。

企業は健康保険法施行規則29条により、退職後5日以内に資格喪失届を提出する法的義務があります。これは、退職者が国民健康保険への切り替え手続きを退職後14日以内に行うためにも遅滞なく対応する必要があります。正当な理由なく提出を怠った場合、健康保険法施行規則により法的義務違反となるため、行政指導の対象となる可能性があり、退職者の次の保険手続きに支障をきたします。

手続きの遅れは企業のコンプライアンスに関わる重要事項であり、適切な管理体制の構築が重要です。

退職者の新しい健康保険への加入を妨げることになる

企業による健康保険資格喪失証明書の発行遅延は、退職者の新しい健康保険への加入を妨げます。

国民健康保険や任意継続、家族の扶養いずれの手続きにおいても、公的窓口では資格喪失を証明する書類の提出が原則として必要です。特に、退職者が申請期限が20日と厳格である任意継続を希望する場合、企業の対応の遅れが原因で退職者の権利を失わせ、深刻なクレームに発展しかねません。迅速な書類発行は、退職者に対する企業の重要な責務です。

企業の評判を損なう可能性がある

退職時の健康保険手続きの不手際は、企業の評判を内外から損なう経営リスクとなります。

SNSや口コミサイトで悪い評判が拡散されると、将来の採用活動において優秀な人材から敬遠される要因になり得ます。また、退職者への不誠実な対応は、現従業員のエンゲージメントや企業への信頼感を低下させることにもつながりかねません。さらには、退職者も企業のサービス・製品等の一顧客になる可能性もあるため、誠実な対応が求められます。

退職手続きを単なる事務処理ではなく、企業のブランドイメージに直結するコミュニケーションと捉え、丁寧で迅速な対応を徹底することが必要です。

退職後の健康保険の手続きに関する注意点

退職後の健康保険の手続きは、トラブルを防ぐために以下の点に注意が必要です。

  • 退職手続きに必要な書類を整える
  • 退職日程の最終調整と手続きスケジュールを共有する

退職手続きに必要な書類を整える

退職手続きを円滑に進めるには、企業側で必要書類の正確な事前準備が必要です。

とくに健康保険資格喪失証明書は、退職者が次の保険に加入する際に必要となるため、他の書類と同様に退職書類一式に含めて交付する体制が求められます。また、離職票や源泉徴収票も問い合わせが発生しやすい書類です。

関連書類を退職書類一式としてまとめ、各書類の用途を記した案内状を添えることで、退職者の不安を解消し、企業への問い合わせを削減できます。退職者ごとのチェックリストで交付状況を管理すれば、渡し忘れのミスも防止可能です。

退職日程の最終調整と手続きスケジュールを共有する

退職手続きの遅延を防ぐには、退職者と具体的なスケジュールを共有することが重要です。最終出社日などに、退職日、国民健康保険の切り替え期限(14日後)、任意継続の申請期限(20日後)、必要書類の発送予定日を明記した書面を手渡します。

日付を書面で手渡すことで、退職者は自身のやるべきことを把握できます。口頭説明だけでなく、個別のスケジュールシートを提供することで認識の齟齬を防ぎ、企業の事後対応の軽減が可能です。

ムートン

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参考文献

e-Gov 法令検索「健康保険法施行規則」

全国健康保険協会 協会けんぽ「健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について」

厚生労働省「国民健康保険制度」

全国健康保険協会 協会けんぽ「被扶養者とは?」

監修者

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遠藤良介 社会保険労務士(愛知社労士会所属)
Reメンバー労務オフィス
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