親を扶養に入れる要件は?
メリット・デメリットや手続きを
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

扶養には税法上の扶養健康保険上の扶養があり、親を扶養に入れる要件はそれぞれ異なります。必ずしも両方の要件を満たす必要はなく、片方のみの扶養に入ることも可能です。

・扶養には、所得控除を受けることで税負担を軽減できる「税法上の扶養」と、家族が保険料の負担なく健康保険に加入できる「健康保険上の扶養」の2種類があります。
・税法上の扶養に入れるには、「親の年間合計所得金額が58万円以下、納税者と生計を一にしている、個人事業主の事業専従者ではないこと」の3つの要件を満たす必要があります。
・一方、健康保険上の扶養に入れるには、「親の年間収入が130万円未満、納税者と生計を一にしている、年齢が75歳未満であること」の3つの要件を満たさなければなりません。

本記事では、親を扶養に入れる要件について、基本から詳しく解説します。

ヒー

従業員から「親を扶養に入れたいのですが、要件を教えてください」と聞かれたのですが、どのように答えたらよいでしょうか?

ムートン

親を扶養に入れる場合、税法上の扶養と健康保険上の扶養で要件が異なります。それぞれの要件の違いを解説します。

※この記事は、2025年9月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

扶養には税法上と健康保険上の2種類がある

扶養は、税法上の扶養」と「健康保険上の扶養」の2種類に分けられます。2つは別の制度であり、扶養が認められるための収入要件や対象となる家族の範囲などがそれぞれ異なるため注意が必要です。

以下では、税法上と健康保険上の2種類の扶養制度の定義を解説します。

税法上の扶養

税法上の扶養は、所得税法上で扶養親族として認められる者に関する制度のことです。税法上の扶養親族に該当する場合、扶養控除と呼ばれる所得控除制度が適用されるだけでなく、配偶者が一定の基準を満たす場合は配偶者控除や配偶者特別控除なども対象になります。場
具体的には、課税対象となる所得から一定の金額を差し引くことで、結果として所得税や住民税の負担が軽くなる仕組みです。制度の対象となる家族を「控除対象扶養親族」と呼び、会社員は年末調整、個人事業主は確定申告で手続きを行います。

健康保険上の扶養

健康保険上の扶養とは、被保険者である従業員に生計を維持されている家族が「被扶養者」として認定され、病気やけがの治療や出産育児一時金などを受けられるようになる制度です。被扶養者には、被保険者本人と同様の保険証が交付され、追加の保険料を負担することなく医療サービスを利用できます。

協会けんぽや健康保険組合などの保険者から認定を受けると、家族は被扶養者として健康保険に加入できる「被扶養者資格」を得られます。

親を扶養に入れることは可能

親を扶養に入れることは可能です。一方で、税法上の扶養と社会保険上の扶養では要件が異なります。

税法上の扶養である扶養控除は、扶養親族がいる場合に一定の所得控除を受けられることで、従業員の所得税や住民税の負担が軽減されます。一方、健康保険上の扶養である被扶養者認定は、認定を受けた家族は追加の保険料を負担せずに保険給付を受けられるため、親自身が保険料を支払わなくても済むことが特徴です。

両者は基準が異なるため、「税法上は扶養に入れるが、健康保険上の扶養には入れない」という状況も起こり得ます。

親を扶養に入れる要件

親を扶養に入れるために満たすべき具体的な要件について、税法上と健康保険上の扶養の制度に分けて解説します。

税法上の扶養家族の要件

従業員が親を税法上の扶養に入れるには、所得税法で定められた「控除対象扶養親族」の要件を全て満たす必要があります。満たすべき要件は、以下のとおりです。

  • 親の年間合計所得金額が58万円以下であること
  • 納税者と生計を一にしていること
  • 個人事業主の事業専従者ではないこと

以下では、それぞれの要件について、令和7年度税制改正の内容も踏まえながら詳しく解説します。

親の年間合計所得金額が58万円以下であること

親を税法上の扶養に入れるための所得要件は、令和7年分所得税から合計所得金額「58万円以下(改正前は48万円以下)」に変わります

変更に伴い、収入別の年収目安も更新されます。新しい基準は、給与収入のみの場合は年収123万円以下、公的年金収入のみの場合は65歳未満なら年収118万円以下、65歳以上は年収168万円以下です。

新しい所得要件は令和7年分の年末調整から適用となるため、新たに対象となる親族がいないか従業員への確認と周知が重要です。

納税者と生計を一にしていること

税法上の扶養家族の要件として、納税者と生計に一にしていることが挙げられます。

税法上の扶養における「生計を一にする」ことの意味は、日常生活の資金を共にしている状態を指し、必ずしも同居している必要はありません

別居している親であっても、納税者から常に生活費や療養費などの送金が行われている場合は「生計を一にする」関係と認められます。日常的に同居できない場合でも、休日や長期休暇に生活を共にすることが常態化しており、かつ生活費の資金援助が継続的に行われている場合も同様です。
同居の場合は、明らかに独立した生計を立てていると認められるケースを除き、要件を満たすものとして扱われます。

個人事業主の事業専従者ではないこと

親が個人事業主の事業専従者として給与を受け取っている場合、親は税法上の扶養控除の対象にはなりません

例えば、父が営む事業を手伝っている母が、青色申告者である父から対価として「青色事業専従者給与」を受け取っている場合、母は扶養控除や配偶者控除の対象外です。
青色申告の「青色事業専従者給与」や白色申告の「事業専従者控除」は、納税者の所得から控除されるため、配偶者控除や扶養控除との二重適用ができないとされています。

そのため、従業員の親が個人事業主の事業に従事し、専従者として給与を受け取っている場合は扶養に含められません。年の途中で専従者でなくなった場合でも、その年においては扶養控除の対象外となるため、年末調整の際には注意が必要です。

健康保険上の扶養家族の要件

従業員の親を健康保険上の扶養に入れるには、協会けんぽや健康保険組合などの保険者から「被扶養者」として認定される必要があります。多くの保険者で採用されている健康保険上の扶養家族の要件は、以下のとおりです。

  • 年間収入が130万円未満であること
  • 納税者と生計を一にしていること
  • 親の年齢が75歳未満であること

ただし、実際の認定基準は保険者ごとに異なる場合があるため、事前に確認しておくことが重要です。

年間収入が130万円未満であること

健康保険の被扶養者認定における収入要件は、原則として今後の年間収入見込みが130万円未満であることです。ただし、60歳以上または障害者の場合は180万円未満に基準が緩和されます。

収入は、税法上の所得とは異なり、遺族年金や障害年金などの非課税収入も全て含まれるため、注意が必要です。さらに、生計維持関係の要件として、同居の場合は親の収入が被保険者の収入の半分未満、別居の場合は被保険者からの仕送り額未満である必要があります。

納税者と生計を一にしていること

健康保険上の扶養家族の認定を受けるには、被保険者と生計を一にしていることが要件です。

例えば、協会けんぽ(全国健康保険協会)では、義父母を被扶養者とする場合は同居が必要とされています。一方、親や子の場合では、別居でも生計維持関係を証明として、被扶養者の収入を上回る額の仕送りがあることを客観的な記録で証明できれば、扶養認定を受けられるケースがあります

証明には、銀行振込の明細や現金書留の控えなど、送金者、受取人、日付、金額が確認できる書類が必要です。手渡しは第三者による証明ができない可能性があるため、原則として認められません。

親の年齢が75歳未満であること

健康保険上の扶養家族の認定要件として挙げられるのが、親の年齢が75歳未満であることです

健康保険の被扶養者である親が75歳に達すると、誕生日当日に被扶養者資格を自動的に喪失し、後期高齢者医療制度へ移行します。75歳での制度移行は法律で定められたルールであり、所得や同居の状況に関係なく、会社の健康保険上の扶養から外れることになります。

資格喪失に伴い、会社は「被扶養者(異動)届」の提出が必要です。従業員からは使用できなくなった保険証を回収し、市区町村から新しい保険証が交付される旨を周知する対応が求められます。

親を扶養に入れるメリット

親を扶養に入れることで得られる具体的なメリットについて、税法上の扶養・健康保険上の扶養の2つの観点で解説します。

  • 税法上の扶養に入るメリット:扶養する人の税負担の軽減できる
  • 健康保険上の扶養に入るメリット:親の国民健康保険料の負担がなくなる

税法上の扶養に入るメリット:扶養する人の税負担の軽減できる

親を税法上の扶養に入れると、扶養控除の適用により所得税・住民税が軽減されます。控除額は親の年齢や同居状況で異なり、70歳以上の親の場合、同居なら58万円別居では48万円が従業員の課税所得から差し引かれます
令和7年分から、制度を利用するには親の年間合計所得金額が58万円以下であることが要件です。例えば、収入が公的年金のみの65歳以上の親であれば、年収168万円以下が該当します。

健康保険上の扶養に入るメリット:親の国民健康保険料の負担がなくなる

従業員の75歳未満の親を健康保険上の扶養に入れることで、親自身の国民健康保険料の負担がなくなります。被扶養者となれば国民健康保険から脱退するためで、従業員の保険料は基本的に増加しません。

適用には、親の年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)であること、主に従業員の収入で生計を維持していることなどの要件を満たさなければいけません。

なお、75歳になると後期高齢者医療制度に加入するため、被扶養者の資格は喪失します。必要な手続きは勤務先や健康保険組合を通じて行われます。

親を扶養に入れるデメリット

親を扶養に入れる前に必ず知っておくべきデメリットや注意点について解説します。

  • 健康保険上の扶養のデメリット:高額療養費の負担が増える可能性がある
  • 健康保険上の扶養のデメリット:介護保険料やサービス費が高くなる可能性がある
  • 税制上の扶養のデメリット:親の就業状況に影響を与える可能性がある

健康保険上の扶養のデメリット:高額療養費の負担が増える可能性がある

従業員の親を健康保険上の扶養に入れた場合、高額療養費制度における自己負担限度額が子の所得区分で決まるため、親の医療費負担が増える可能性があります

特に、親自身の所得が低く低所得者として低い限度額が適用される場合、子の扶養に入ることで所得区分が上がり、限度額が引き上げられる可能性が高くなります。例えば、70歳以上の親が住民税非課税世帯から子の扶養に入ると、月の自己負担限度額が数万円単位で高くなることも珍しくありません。

健康保険上の扶養のデメリット:介護保険料やサービス費が高くなる可能性がある

親を健康保険上の扶養に入れると、65歳以上の親の介護保険料や介護サービス利用時の自己負担額が増える可能性があります。介護保険関連の費用は、住民票上の世帯の住民税課税状況で決まる仕組みであるためです。

住民税を納めている子の扶養に入ると、親は住民税課税世帯と見なされ、たとえ親自身の所得が低くても、より高い介護保険料段階が適用されることがあります。

特に、介護施設の食費・居住費の負担軽減制度は「世帯全員が住民税非課税」が要件のため、扶養により対象外となる影響は大きいです。

介護保険料の計算方法については、以下の記事で詳しく紹介しているため、あわせてご覧ください。

税制上の扶養のデメリット:親の就業状況に影響を与える可能性がある

親を扶養に入れた場合、親の働き方に直接的な法的制約が生じるわけではありません。ただし、税法や健康保険の扶養要件には収入上限があるため、要件を超えると扶養から外れてしまいます

令和7年から、税法上の扶養に入るための親の年間合計所得要件は58万円以下(給与収入のみなら123万円以下)に緩和されます。一方で、健康保険上の扶養は、原則として年収130万円未満(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)が基準です。

このように制度ごとに基準が異なるため、収入上限を意識した結果、親が勤務時間を調整する働き控えを引き起こすかもしれません。

ただし、健康保険上の扶養に入れば、親自身が保険料を支払う必要がなくなり、医療給付を受けられる恩恵もあります。したがって、子の税負担軽減というメリットを併せて、親の就労意欲や生きがいなどの側面も含めて判断することが重要です。

親を扶養に入れる際の手続き

実際に親を扶養に入れると決めた方向けに、具体的な手続きの流れを解説します。税法上の扶養と健康保険上の扶養の各手続きを分けて理解し、スムーズに申請を進められるように準備しましょう。

税法上の扶養手続き

従業員が親を税法上の扶養に入れる手続きは、年末調整で行います。人事担当者は、従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を回収し、内容を確認します。

確認の要点は、親の年間合計所得金額が要件内であること、兄弟姉妹間で重複して扶養申請していないかです。

企業においては、従業員が別居の親を扶養に入れる場合、生計を一にしている客観的な証明として、銀行の振込記録などを従業員本人に保管させるよう指導することが重要です。国外居住の親の場合は、法律で定められた親族関係書類と送金関係書類の提出がなければ控除が適用されないため、確認する必要があります。

健康保険上の扶養手続き

健康保険法施行規則第38条により、従業員が親を健康保険上の扶養に入れるには、「健康保険被扶養者(異動)届」を親を扶養に入れるべき事実が発生した日から5日以内に提出する必要があります。提出先は保険制度により異なり、協会けんぽの場合は事業主経由で年金事務所や事務センターに、健康保険組合の場合は健康保険組合が指定する部署宛に提出します。

協会けんぽの場合、親の年間収入が基準額(60歳未満は130万円、60歳以上は180万円)未満で、主に被保険者の収入で生計を維持していることが要件です。同居の場合は親の収入が被保険者の半分未満、別居の場合は仕送り額未満である必要があります。

届出には、続柄を確認する戸籍謄本や収入証明、別居の場合は仕送りを証明する通帳の写しなどを添付します。マイナンバーの記載により一部書類は省略可能です。

健康保険組合の場合は、組合ごとに独自の基準や追加要件が設けられていることもあります。そのため、加入している制度の規定を確認することが重要です。

ムートン

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参考文献

国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」

国税庁「確定申告書等作成コーナー」

全国健康保険協会「被扶養者とは?」

日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」

国税庁「No.1180 扶養控除」

e-Gov法令検索「健康保険法施行規則」

日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」

監修者

この記事を書いた人
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労務相談、社会保険・労働保険手続き、社内規定類作成、ライフプランニング相談ほか