健康保険の扶養に入る
条件・外れる条件とは?
基準の年収や手続きを分かりやすく解説!

無料で資料をダウンロード
 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 >
✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント >
この記事のまとめ

健康保険における扶養の要件は年収・親族の範囲・生計維持の3つの要件です。

・健康保険の扶養は、税法上の扶養と考え方が異なる為、混同しないよう注意が必要です。
・被扶養者の年収が基準を超えたり身分の変更があったりした場合、健康保険の扶養からは外れます。
・扶養を追加する場合・外れる場合どちらも、勤務先が必要書類を被保険者から回収して手続きします。

本記事では、健康保険の扶養について解説します。

ヒー

健康保険の扶養に入るには、どのような要件を満たしたらよいのでしょうか。

ムートン

健康保険の扶養は、年収・親族の範囲・生計維持の3つの要件を満たす必要があります。要件や税法上の扶養との違いを理解し、対象となる従業員がいる場合は適切な手続きをして、従業員と家族の医療を保障しましょう。

※この記事は、2025年9月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

健康保険(社会保険)における扶養とは

親族の扶養制度は、健康保険上と税法上で要件が異なります社会保険のひとつである健康保険における扶養の仕組みや、税法上の扶養との違いを解説します。

扶養制度の仕組み

健康保険の扶養とは、主に家計を支える家族が加入する会社の健康保険などに、その家族も加入できる制度のことです。

扶養に入るメリットは、保険料を負担せずとも被保険者と同じような医療保障が受けられる点です。これにより、自身では生計を立てられない人も、ほかの人と同じように医療サービスを受けられます。国内在住の配偶者のほか、子どもや74歳以下の親などを扶養に入れられます。

扶養に入れば1人あたりの保険料負担が減るため、従業員の家計にも好影響をもたらします。

健康保険上と税法上の扶養の違い

健康保険の扶養と税法上の扶養は、扶養要件となる年収基準や収入の定義などが異なります。両者の違いは、以下の通りです。

健康保険の扶養税法上の扶養
年収基準130万円未満123万円以下
収入の定義非課税給付(障害年金・出産手当金など)を含むすべての収入非課税給付(障害年金・出産手当金など)を除外した課税対象となる所得
親族の範囲直系尊属、配偶者、子、孫及び兄弟姉妹(同居・別居問わず)、被保険者の3親等内の親族(同一の世帯のみ)6親等内の血族と3親等内の姻族で、戸籍上親族であること

どちらの扶養に入るかによって、その年の収入のボーダーラインや働き方に影響を及ぼします。こうした制度の違いを踏まえて、従業員からの問い合わせや事務手続きに対応する必要があります。

健康保険の扶養に入る条件

健康保険の扶養に入るには、以下の3つを満たす必要があります。

  • 年収の要件
  • 親族の範囲要件
  • 生計維持関係の要件

それぞれの要件について解説します。

年収の要件【106万円の壁・130万円の壁】

健康保険の扶養に入るための年収要件は、原則として扶養認定を受ける時点から1年間の収入見込みが130万円未満であることが基本です。ただし、60歳以上の人や障害厚生年金を受けられる程度の障害がある人は、基準額が180万円未満となります。

前述のとおり、収入には給与に加え、障害年金や雇用保険の基本手当、出産手当金、交通費など非課税のものも含まれます。月収は108,333円、基本手当は日額3,611円(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は日額5,000円未満)が要件を満たす目安です。

ただし、注意しなければならないのはパートなどで働く際です。従業員51人以上の企業で週20時間以上働き、年収が106万円を超えると、会社の社会保険の加入対象になります。この、いわゆる「106万円の壁」とよばれる基準は、2026年10月をめどに年収の要件が撤廃され、企業規模の要件も段階的に撤廃される予定です。そのため、パートなどで働きながら扶養に入れる人は今後限られてくることが予想されます。

なお、19〜23歳の親族(配偶者を除く)を扶養する場合の年収要件は、2025年10月から150万円未満に引き上げられる予定です。

親族の範囲要件

扶養の対象となるのは、配偶者のほかに健康保険に加入している人から見て、3親等内の親族に限られます

直系傍系
・曾祖父母
・祖父母
・父母
・子
・孫
・曾孫
・兄弟姉妹
・叔父(伯父)
・叔母(伯母)
・甥
・姪

直系尊属、配偶者、子、孫、兄弟姉妹は同一世帯でなくても扶養に入れられますが、それ以外の3親等内の親族は同一世帯に属していなければ扶養に入れられません。また、事実婚により内縁の配偶者の父母、連れ子を扶養に入れる場合も、同一世帯でなければ扶養の対象外です。

扶養に入れる家族が、従業員とどのような関係にあるのかが、扶養に入れるかどうか判断するポイントになります。

生計維持関係の要件

扶養に認定されるには、従業員が親族の生計を維持しているかが判断材料になります。基準は被保険者と同居しているか、別居しているかで異なります。

同一世帯に属している場合、生計を維持される人の収入が被保険者の収入の半分未満かつ、年収130万円未満となれば、原則扶養の対象です。一方、同一世帯に属していない場合は、生計を維持される人の収入が被保険者からの仕送り額(援助額)よりも少なく、年収が130万円未満の場合に扶養対象となります。

年収130万円未満という前提のもと、生計を維持される人の実際の収入額がいくらなのか確かめるのが重要です。

新たに健康保険の扶養に入るケース

新たに健康保険の扶養に入るのは、主に以下のようなケースが考えられます。

  • 子どもが生まれた場合
  • 配偶者が退職した場合

それぞれのケースについて解説します。

子どもが生まれた場合

子どもが生まれた場合、出生から原則5日以内に健康保険の扶養手続きを行います。1カ月健診や万一の病気に備え、医療費の全額自己負担を避けるためです。

手続きは、親の勤務先が行います。勤務先は「被扶養者(異動)届」などの必要書類を回収し、会社で加入している健康保険の運営者へ提出します。

配偶者が退職した場合

配偶者が退職し、すぐに転職しない場合は、退職日の翌日から被保険者の扶養に入れます。これにより、保険料の負担なく医療保障を継続でき、無保険期間の発生を防げます。

こちらも、手続きは勤務先が行います。必要書類を回収して、会社で加入している健康保険の保険者へ提出します。

健康保険の扶養から外れるケース

健康保険の扶養から外れるのは、以下のようなケースがあります。

  • 年収が基準額を超えてしまった場合
  • 子どもの就職・結婚など身分の変更があった場合
  • 離婚・別居など世帯状況の変化があった場合

それぞれのケースを解説します。

年収が基準額を超えてしまった場合

年収が130万円(60歳以上や障害者は180万円)以上になると、扶養の対象から外れます。重要なのは、年末に年収が確定した時点ではなく、収入増が恒常的になると見込まれた日から扶養を外れる点です。

シフトに入る機会が増えたり昇給したりして月給が108,333円を継続的に超えるといった場合は、ただちに扶養から外れます。

ただし、会社の繁忙期などの理由で一時的に収入が増えた場合は、勤務先の事業主がその旨を証明する「事業主証明」を提出することで、引き続き扶養が認められる可能性があります。

被扶養者を雇用する企業は、当人に一時的なシフト・勤務時間の増加を依頼する場合、事業主証明を提出して、従業員の手取り給料がように配慮するのが望ましいです。

子どもの就職・結婚など身分の変更があった場合

子どもの就職や結婚などにより身分に変更があった場合は、健康保険の扶養から外れます。

例えば、子どもは就職すると基本的に勤務先の社会保険に加入するため、その保険の「資格取得年月日」をもって親の扶養から外れます。勤務先の社会保険に加入したら、親の勤務先は扶養を削除する手続きを行い、古い保険証がある場合は返却します。また、子どもが結婚によって配偶者の収入によって生計を立てるようになったときも、親の扶養から外れるタイミングです。

「子どもが就職した」といった報告を従業員から受けた場合、会社はすぐに扶養削除の手続きをする必要があります。

離婚・別居など世帯状況の変化があった場合

離婚や死別など、世帯の状況が変わった際も扶養関係の見直しをします。離婚した場合、配偶者としての関係がなくなるため、離婚届を提出した日に扶養資格を失います。元配偶者は、資格喪失日から14日以内に国民健康保険に加入するなどの手続きが必要です。

また、保険の加入者本人(被保険者)が死亡した場合は、その翌日に被扶養者全員が資格を失います。そのため、遺された家族は国民健康保険への加入や他の親族の扶養に入るなどの手続きをします。

さらに、別居している親族への仕送りをやめた場合も、生計を維持している実態がなくなるため、扶養から外す手続きを行わなければなりません。

会社としては、離婚・別居・従業員の死亡などの報告があった時点で、すぐに扶養削除の手続きをします。

健康保険の扶養の手続き方法

健康保険の扶養に関する手続きの流れを「扶養に追加する場合」と「扶養から外れる場合」に分けて解説します。扶養の追加・除外に抜け漏れがあるとトラブルになる可能性もあるため、ポイントをおさえて手続きを進めるようにしてください。

扶養に追加する場合

従業員から家族を扶養に入れたい旨の申し出があった場合、扶養の事実が発生した日から原則5日以内に従業員から必要書類を回収します。

手続きをするのは、被保険者の勤務先です。被保険者に子どもが生まれた場合や被保険者の配偶者が退職した場合などは、被扶養者(異動)届と必要書類を回収し、会社の加入する健康保険の運営者へ書類を提出します。

扶養から外れる場合

家族が就職や収入超過などで扶養の条件を満たさなくなった場合も、事実発生日から原則5日以内に、勤務先が扶養から外す手続きをします。

扶養から外れる場合は、対象の家族の保険証を回収する必要があります。扶養の資格がないにもかかわらず保険証を使った場合、加入する健康保険が負担した医療費が後日、被保険者へ一括で請求されます。
保険証の回収が遅れると、会社が保険者へ保険証を返却する手続きも遅れ、扶養から外れた証明である資格喪失証明書の発行が遅れる恐れがあります。その場合、家族が国民健康保険などへ加入する手続きの遅れにもつながりかねません。

各手続きで従業員から受け取る書類

人事労務担当者が従業員から扶養に関する届出を受ける際は、その理由を客観的に証明する書類が添付されているか確認するのが重要です。

例えば、被保険者に子どもが生まれた場合、勤務先の人事労務担当者は子どもが生まれた被保険者に以下の書類の提出を求めます。

  • 「被扶養者(異動)届」
  • 母子健康手帳の出生届出済証明のページのコピー
  • 子どものマイナンバーが分かる住民票

加入する健康保険が健康保険組合である場合、出産育児一時金に独自の給付を上乗せする付加給付制度を設けていることがあるため、あわせて申請してもらうよう被保険者に伝えます。

また、被保険者の配偶者が退職して新たに扶養に入る場合も、被保険者の勤務先が手続きをします。被保険者に以下の書類の提出を求めます。

  • 「被扶養者(異動)届」
  • 離職票のコピー
  • 退職証明書
  • 雇用保険受給資格者証のコピー

など

前述のとおり、雇用保険の基本手当日額が3,611円超(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は日額5,000円超)の場合は、扶養の対象外です。配偶者が手当受給終了後も職に就かない場合は、受給が終わってから扶養に入れるよう促すのが望ましいです。

一方、扶養から外れる場合は、外れる人の保険証健康保険被扶養者(異動)届を被保険者に提出してもらいます。また、健康保険証や資格確認書が発行されている場合には、回収することが必要です。これらの書類を紛失しており、回収できない場合には、「健康保険資格確認書回収不能届」または「健康保険被保険者証回収不能届」を添付しなければなりません。なお、加入する健康保険が健康保険組合である場合には、独自の添付書類が要求される場合もあります。

このほか、被扶養者が亡くなった場合は死亡事実が確認できるもの、就職した場合は就職先の健康保険証の写し、収入が基準を超えた場合は被扶養者の給与明細書や確定申告書などが必要になります。

健康保険の扶養手続きの注意点

健康保険の扶養手続きでは、以下の点に注意が必要です。

  • 共働き夫婦の子どもは収入が高いほうの扶養に入れる
  • 書類提出が遅れると扶養認定日が変わる
  • 加入する健康保険ごとの基準やルールを確かめる

それぞれ解説します。

共働き夫婦の子どもは収入が高いほうの扶養に入れる

共働き夫婦に子どもが生まれた場合は、収入が高いほうの扶養に入れます。厚生労働省の通知「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について」にて、原則年収が多いほうの親が扶養するルールになっているためです。例えば、夫の年収が600万円、妻の年収が450万円であれば、子どもは夫の扶養に入ります。

ただし、夫婦の収入差が収入の多いほうの1割以内である場合に限り、届出をすることで収入が低いほうの親の扶養に入れることもできます。

共働きで職場が異なり、夫婦で収入差が少なく、かつ双方が健康保険組合に加入している場合、付加給付が手厚いほうを選ぶと、家計の助けにもなります。会社側は、夫婦どちらの収入が高いのか正確に把握し、原則に従って準備を進めてください。

出典:厚生労働省「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について」

書類提出が遅れると扶養認定日が変わる

扶養の事実が発生してから、正当な理由なく手続きが遅れてしまうと、扶養の認定日が変わる可能性があります。

例えば、4月1日に配偶者が退職したにもかかわらず、6月15日に書類を提出した場合、認定日が6月15日になる可能性があります。この場合、4月2日から6月14日までが「無保険期間」とみなされ、通常その間に発生した医療費は全額自己負担となります。また、その期間分の国民健康保険料を遡って支払う必要もあります。さらに、遡って保険料を支払ったとしても、それまでに発生した医療費の保険給付相当分が必ず返還されるとは限りません。

書類の提出期限は5日以内と短いため、必要書類を回収したら速やかに健康保険の運営者に提出するのが望ましいです。

加入する健康保険ごとの基準やルールを確かめる

扶養手続きで必要な書類や基準は、自社が加入する健康保険の運営元によく確認しておくのが重要です。

中小企業の従業員は協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入することが多く、大企業では独自に運営する組合健保に加入することが多いです。組合健保は独自の規約を設けられるため、給付内容やルールなどが協会けんぽと異なる場合があります。

例えば、保険料率は協会けんぽと組合健保で異なります。また、組合健保の加入者が独自の付加給付の対象になれば、追加で給付手続きが必要です。

手続きの前に自社の加入する健康保険の特徴を把握し、必要に応じて問い合わせしながらルールに沿って運用するのがポイントです。

健康保険の扶養に関するQ&A

健康保険の扶養に関する質問や疑問をまとめました。扶養の追加・除外などの各種業務の参考にしてください。

健康保険の扶養に入りながら働く時間を増やすことはできる?

扶養に入りながら働く時間を増やすことは可能ですが、扶養から外れる2つの基準である「130万円の壁」と「106万円の壁」に注意する必要があります。

勤務先の従業員数が51人以上であり、労働時間を増やして月収が恒常的に108,333円を超える場合や、労働時間が週20時間以上になった場合は、その時点で扶養から外れます。

従業員から扶養に入り続けながら働く時間を増やしたい旨の要望があった場合は、働く時間を増やした際の労働時間や収入を計算して、どのくらいまで労働時間を増やせるか提示するのが望ましい対応です。

別居の家族を扶養に入れる条件は?

離れて暮らす家族を扶養に入れるには、その家族の年収が基準額(130万円または60歳以上などは180万円)未満であることに加え、仕送り額がその家族の年収以上であることが条件です。これにより生計を維持しているとみなされ、扶養に入れられます。

会社としては従業員に年収と仕送り額を比較してもらい、正しい金額を報告してもらうことが重要です。

健康保険上の扶養で交通費は年収に含まれる?

交通費は健康保険の扶養を判定する際の年収に全額含まれます。税法上の扶養と異なり、非課税収入も算定対象です。ただし、106万円の壁においては、交通費は年収に含まれません。よって、130万円の壁の基準を満たすかどうかを判断するときに、交通費の有無を確認します。

家族の年間給与が130万円未満でも、交通費を含めれば130万円以上となる場合、扶養に入れられません。各種手当を含んだ給与額を基準に、年収が基準に達しているか確かめる必要があります。

一時的な増収があっても健康保険の扶養に入れる?

やむを得ない理由で一時的に収入が増え、年収が130万円以上となる場合でも、扶養に入り続けられる可能性があります。政府の「年収の壁・支援強化パッケージ」により「事業主証明書」を扶養者の勤務先経由で加入する健康保険へ提出すれば、扶養が継続できます。

一時的な増収がある場合は、勤務先が事業主証明書を提出して引き続き扶養を継続させるのが望ましいです。ただし、扶養の維持はあくまで一時的な措置であり、今後も収入が増えるのであれば、扶養対象から外れる可能性も考えられます。

ムートン

最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

無料で資料をダウンロード
 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 >
✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント >

参考文献

厚生労働省「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について」

日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」

監修者

アバター画像
涌井好文 社会保険労務士(神奈川県会横浜北支部)
就業規則作成、社会保険手続き、給与計算、記事執筆及び監修