【最決令和8年6月17日】
委託者兼受益者による信託契約の終了を制限する
規定の有効性が限定的に解された事例

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この記事のまとめ

最高裁令和8年6月17日決定では、信託の委託者兼受益者であるXが、裁判所に対して受託者であるYの解任を申し立てた事案が問題になりました。

信託法の規定に基づき、委託者兼受益者は原則として自らの判断で信託を終了させることができるものの、信託行為(信託契約など)に別段の定めがあるときはそれに従うものとされています。

本件信託契約には、委託者兼受益者は信託期間(30年間)中、同契約を解除することができない旨が定められていました(=本件条項)。XはYに対して信託の終了を通知したものの、Yは本件条項を根拠として終了は認められない旨を主張し、受託者としての職務を続けました。それを受けてXは、裁判所に対してYの解任を申し立てました。

最高裁は、本件条項を有効とした原審の決定を破棄し、審理を東京高裁に差し戻しました。その理由として最高裁は、受託者が名義主体でありながら利益を享受しないことが信託の本質であり、本件条項の有効性も、このような信託の本質に照らして検討されるべきであることなどを挙げています。

委託者兼受益者による信託の終了を制限しようとする場合は、それが真に委託者兼受益者のためになるのか、受託者によって悪用されるおそれがないかといったポイントにつき慎重に検討することが求められます。

裁判例情報
最高裁令和8年6月17日決定(裁判所ウェブサイト)

※この記事は、2026年7月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

事案の概要

信託委託者兼受益者であるXが、受託者であるYに対して信託を終了する旨を通知したところ、Yが信託契約上の規定に基づいて信託の終了は認められない旨を主張したため、Xが裁判所に対してYの解任を申し立てた事案です。

Xは香港法人の株式9億株余り(同法人の発行済み株式総数の約9.8%に相当。以下「本件株式」という)を保有していました。
2017年5月23日に、Xとその兄であるYは、本件株式をXからYに信託譲渡する旨の信託契約(以下「本件信託契約」といい、本件信託契約に基づく信託を「本件信託」という)を締結しました。それ以降、本件株式はYが受託者として管理することになりました。

信託法の定めにより、委託者および受益者はいつでも、その合意によって信託を終了することができるものとされています(信託法164条1項)。この規定によれば、委託者兼受益者であるXは、単独の判断によって信託を終了させることができます。

ただし、信託行為(信託契約など)に別段の定めがあるときは、その定めるところによるとされています(同条3項)。本件信託契約には、委託者兼受益者は信託期間(30年間)中、同契約を解除することができない旨が定められていました(以下「本件条項」という)。

Xは2020年8月26日と同年9月15日、Yに対して本件信託を終了させる旨を通知しました。これに対してYは、本件条項の存在を理由に、本件信託が終了したとは認められない旨を主張し、その後も受託者としての任務遂行を続けました

受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は委託者または受益者の申立てにより、受託者を解任することができます(信託法58条4項)。Xは同規定に基づき、裁判所に対してYの解任を申し立てました。

原審の東京高裁は、本件条項が信託法164条3項の「別段の定め」に当たるため、委託者兼受益者であるXがYに通知しても本件信託は終了しないと判断し、Xの申立てを退けました。これを不服としたXは、最高裁に許可抗告を申し立てて受理されました。

決定の要旨

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