第4回:業務委託契約における仕事の完成と引渡し

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長谷川俊明法律事務所弁護士
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ひと目でわかる要チェック条文 業務委託契約書編
この記事について

本特集は、昨今、さまざまな分野でこれまでなかった新しい取引に使うようになった業務委託契約を、類型ごと論点ごとに取り上げ、解説を試みようとするものです。

業務委託契約において何らかの成果物が発生する場合、当該成果物を委託者に引き渡すことがあります。「引渡し」とは、占有の移転を指すところ、特段大きな問題は生じないようにも思えます。しかし、業務委託契約における引渡しは、報酬の支払いと密接に関係しているのみならず、その前提となる「仕事の完成」を巡りトラブルが生じることもあります。

そこで、第4回目の今回は、業務委託契約における引渡しやその前提となる仕事の完成について、契約書式例や裁判例を紹介しながら解説していきます。

※この記事は、2024年6月17日時点の法令等に基づいて作成されています。

業務委託契約における引渡しとは

法律用語における「引渡し」とは、一般的に、占有を移転することをいいます。

第1回目において解説したとおり、業務委託契約は、

  • 請負型(成果物あり)
  • 委任・準委任型(成果物なし)
  • 混合型

の3つに分類されます。これらいずれの類型においても、引渡しを要するものがあります。

請負型における引渡し

請負型においては、例えば、建物建築請負契約において完成した建物を注文者に引き渡すなど、請負人が自己の占有下で仕事を行いその成果物を注文者に引き渡す場合が挙げられます。

ムートン

この点はイメージし易いところでしょう。

委任・準委任型における引渡し

委任・準委任型においては、例えば、探偵調査において作成した調査報告書を依頼者に交付するなど、委任された事務の履行により得られた成果を依頼者に引き渡す場合が挙げられます。

混合型における引渡し

混合型においては、例えば、

  • 製造物供給契約(請負契約と売買契約の混合型)において製作物を買主に引き渡す場合
  • (請負契約と(準)委任契約の混合型の)ソフトウェア開発委託契約において注文者にソフトウェアの著作権を譲渡したりソースコードを引き渡したりする場合

などが挙げられます。

仕事の完成と完成物の引渡し義務

引渡しの前提となる仕事の完成

請負契約において、請負人は、注文者に対して契約で引き受けた「仕事を完成する」義務を負っています(民法632条)。

(準)委任契約では、契約で引き受けた行為を行えば債務の履行となり、その結果の実現保証までは含まれていません。しかし、請負契約における「仕事」の「完成」は、契約で引き受けた仕事の結果の実現保証を含んだものであるといえます(潮見佳男著『基本講義 債権各論Ⅰ 契約法・事務管理・不当利得 第4版』新世社、2022年、251頁)。
したがって、請負人が仕事を完成させなかった場合はもちろん、完成させた仕事の内容が請負契約の内容に適合していない場合にも、請負人は注文者に対して債務不履行責任(その特則である契約不適合責任を含みます)を負うこととなります。

ムートン

なお、仕事が完成したかどうかの判断基準は一律ではなく、個別具体的な契約の内容により決まります。この点は、後ほど紹介する「仕事の完成を巡るトラブル事例」で見ることにしましょう。

完成物の引渡し義務

注文者としては、たとえ仕事が完成しても、その目的物の引渡しを受けないことには、契約の目的を達成することができません。そのため、請負人から注文者への目的物の引渡しが必要な場合、請負人は、仕事を完成させた後も、依然として当該完成物を注文者に引き渡す義務を負っています

請負人が完成物の引渡し義務に違反した場合、注文者は、請負人に対して引渡しの履行を請求することができるほか、債務不履行を理由に損害賠償を請求したり(民法415条)、契約を解除したりすることができます(同法541条・542条)。

なお、仕事の完成後に目的物が滅失・損傷した場合、危険負担の問題が生じます。この点、民法では、危険は、目的物の引渡しを受けることにより、受託者から委託者へ移転する、としています(民法559条1項、同法567条1項)。

完成物の引渡しと報酬請求権

請負契約は、仕事の完成(および引渡し)と報酬の支払いとが対価関係に立っています(民法633条参照)。

報酬の支払い時期は、特約があればそれによりますが、特約がなければ、

  • 仕事の目的物の引渡しを要する場合には引渡しと同時に支払い
  • 引渡しを要しない場合には後払い

とされています(民法633条)。なお、成果完成型の委任契約においても、報酬の支払いに関しては、請負契約と同様に考えられています(民法648条の2)。

ここで、報酬の支払いと同時履行の関係に立つのは、あくまでも目的物の引渡し義務であり、仕事完成義務は先履行の関係に立ちます。

例えば、時計の修理を依頼した場合、①報酬の支払いと修理との同時履行は主張できませんが、②修理後は、目的物の引渡しと報酬支払いについては同時履行の抗弁権を主張することができます(平野裕之『コア・テキスト 民法Ⅴ 契約法 第2版』新世社、2020年、253頁)。

引渡しに関する条項の定め方

一般的な規定例

成果物の対象が明らかで、その納入時期を明確に定めることができる場合は、以下のように規定することが考えられます。ここでは、甲が注文者、乙が請負人となっています。

第●条(本成果物の納入)
1 乙は、甲に対して、令和●年●月●日までに本成果物を納入するものとする。
2 乙は、前項に定める納期までに本成果物を納入することができないことが明らかになった場合、甲に対して、直ちにその旨およびその原因を報告するとともに、新たな納入予定日を書面により申し出るものとする。

詳細を個別契約に委ねる規定例

例えば、一定期間に渡って自動車部品の製造を委託する場合、製造委託基本契約を締結します。

基本契約とは、継続的な取引を行うに当たり、個々の取引に共通して適用される事項を定めた契約ですから(日本組織内弁護士協会監修『〔改訂版〕契約用語 使い分け辞典』新日本法規、2020年、241頁)、将来発生する製品に関する取引の詳細を定めることは不可能です。

そこで、個別契約において、製品を特定する事項やその引渡し期日、引渡し場所を規定することが考えられます。

第●条(個別契約)
個別契約は、甲が次の各号を具体的に記載した注文書を乙に交付し、乙が注文請書を甲に交付することによって成立する。
 ⑴ 生産計画
 ⑵ 本製品の品名、品質、規格、数量
 ⑶ 原材料の品名(入庫ロット)、数量
 ⑷ 生産期日および船積み予定日
 ⑸ 引渡し期日
 ⑹ 引渡し場所
 ⑺ その他必要がある場合は、その事項

成果完成型の委任契約における規定例

例えば、会社のパソコン端末等のIT機器を処分する際、その内部に蓄積されたデータの消去やIT機器自体の廃棄処分を外部に委託する場合があります。

委託者としては、いくら受託者が処分や廃棄に成功したと口頭で述べたとしても、かかる事実を客観的に証明するものを交付してほしいところです。そこで下記のように、成果完成型の委託契約において何らかの成果物が生じる場合、以下のように規定することが考えられます。ここでは、甲が委託者、乙が受託者となっています。

第●条(報告書の提出)
1 乙は、作業終了後、●営業日以内に、依頼内容に応じて、乙が行った作業内容を取りまとめた「データ消去作業報告書」または「データ破壊作業報告書」を作成し、これを甲に送付する。
2 乙は、データの消去またはデータの破壊が成功した場合には、「データ消去証明書」または「データ破壊証明書」を作成し、これを前項に規定する「データ消去作業報告書」または「データ破壊作業報告書」と併せて甲に送付する。

仕事の完成を巡るトラブル事例

仕事の完成が認められなかった事例-東京地判平成22年9月21日判タ1349号136頁

事案の概要

本件は、企業の業務効率化に関するコンサルティングおよびシステム開発等を業とするX社が、学習塾を経営するY社に対して、一連の業務委託契約に基づく業務を履行しまたは仕事を完成したと主張して、各契約の未払い代金および遅延損害金を請求した事件です。

ムートン

本件の事案を簡略化して時系列順に並べると、以下のようになります。

Y社各生徒の学習カリキュラム管理、講師のスケジュール管理等の学習塾の業務を管理するために独自に開発した本件旧システムを使用して、教室を運営
②H17.12.20
 
 
 
 
 

 
 H18.08.18
 H18.11.21
X社・Y社
 
 
 
 
 
 

Y社⇒X社
X社・Y社
本件コンサルティング契約を締結
・本件新システム(勘定系基幹システム、本件教室管理システム、本件教務システム)開発のためのコンサルティング
・代金合計:5250万円
  ├業務分析:1596万円
  ├要件定義:1029万円
  └開発管理:2625万円

2625万円支払い
開発管理の代金について3718万6800円に変更
③H18.12
 H19.04.13
 
 H19.04.20
 H19.05.18
X社・Y社
X社・Y社
 
Y社⇒X社
Y社⇒X社
本件教務システム開発契約を締結
・請負代金:8450万4000円
本件教務システム開発契約に関する覚書を締結
1575万円支払い
3141万6000円支払い
納入物の検収を拒否
④H19.10.26Y社⇒X社本件コンサルティング契約および本件教務システム開発契約を債務不履行解除する旨の意思表示

争点

①X社は本件コンサルティング契約における債務を履行したか
②(X社に債務不履行が認められる場合の)Y社の損害額
③X社は本件教務システム開発契約における仕事を完成したか

判旨

1 争点①について
  「X社が作成したY社向けの説明資料や中間報告資料には、『一部のラベルや帳票を除き本件旧システムの機能は全て踏襲します』と明確にうたわれていること、Y社は、……X社に対し、……本件新システムにおいても必要とする本件旧システムの機能について説明していたこと、その後のX社のY社に対する本件システム開発の状況の説明においても、本件旧システムの機能を承継することを前提に説明がされていたことなどからすると、本件新システムは、Y社の業務を何もないところからシステム化しようとするものではなく、従前使用していた本件旧システムを前提として、これを改善するシステムであると位置付けられていたというべきであり……、X社とY社の間に、本件新システムの構築に当たって本件旧システムの機能を基本的に踏襲するとの合意があった」。
  「このことが本件新システムの構築において基本的かつ重要な事項であることは明らかであるから、本件新システムの構築に当たっては、本件旧システムの機能を基本的に踏襲することが、……本件コンサルティング契約を通してのX社の債務の内容となり、X社は、本件旧システムの機能の変更又は削除をする場合にはY社の同意を得る必要があった」。
  「本件教室管理システムは、Y社の業務フローそのものに関わる重要な事項について本件旧システムの機能を踏襲しておらず、X社が、そのことについてY社の同意又は承認を得ていたものと認めることはできないから、X社が本件コンサルティング契約における債務の本旨に従った履行をしたものと認めることは困難である。」

2 争点②について
  「本件コンサルティング契約の法的性質については、……請負契約に当たると解されるシステム構築及び準委任契約に当たると解されるコンサルテーションの両方の業務が含まれていることが認められることから、準委任契約であるとしても、業務分析や要求定義は一般的にシステム構築に係る請負契約の一部分であるとされる場合が多いと解され、開発管理についても管理の対象はY社とFの間の請負契約であることからすると、請負契約の要素を含む」。
  「Y社による本件コンサルティング契約の債務不履行を理由とする解除は有効であると認められるから、Y社は、その解除により、未払代金の支払債務を免れ、X社に対して支払済み代金について返還を請求することができる一方で、X社も、その仕事の完成義務を免れ、X社のした仕事でY社の所有又は占有するものの返還を請求することができる……。そして、さらに、Y社は、この原状回復によっても補うことができない損害を被っている場合には、その損害について、請負人であるX社に対して賠償を請求することができる(民法545条3項)。」
  「Y社は、本件教室管理システムの問題点を改修する作業をFに対して、依頼せざるを得なかったから、その改修費用4778万7600円は、X社の債務不履行と相当因果関係のある損害であると主張する。しかし、……本件コンサルティング契約の解除により、X社は、仕事の完成義務を免れ、Y社は、X社のした仕事でY社の所有又は占有するものがあれば、これを返還しなければならないのであるから、仕事の完成義務を前提とする改修費用は、X社が賠償する責任を負うべき損害に当たらないことは明らかである」。

3 争点③について
  「本件教務システム開発契約の締結までの経緯からすると、本件新システムにおいては本件旧システムの機能を基本的に踏襲する旨のX社とY社の間の合意は、本件教務システムの開発にも及ぶことは明らかであり、本件旧システムの機能を基本的に踏襲した本件教務システムを開発することが、本件教務システム開発契約におけるX社の仕事の内容となっていた」。
  「X社がY社に対して納品した本件教務システムには、……本件旧システムの機能を踏襲していない各問題点があったことが認められ、その中には、X社自身がY社の業務フローそのものに関わる重要な事項であると認める……各種テストの機能の欠落が含まれている。」
  「以上のとおり、本件教務システムは、Y社の業務フローそのものに関わる重要な事項について、本件旧システムの機能を踏襲しておらず、X社は、そのことについてY社の同意を得ていたものと認めることができないから、X社が本件教務システム開発契約における仕事を完成したものと認めることは困難である」。

コメント

本件では、X社とY社との間で締結した本件コンサルティング契約および本件教務システム開発契約において、本件旧システムの機能も本件新システムにおいて踏襲することが契約の内容になっていたとして、本件旧システムを踏襲していないX社の本件新システムは、仕事を完成したとはいえないと評価されました。

この点、X社は、以下のとおり主張していました。

本件新システムは、……本件旧システムとは異なる全く新しいシステムとして開発されたのであって、本件旧システムの各機能を無条件に踏襲することを前提としていたものではなく、業務分析及び要件定義の各段階を経て、機能の増減や変更があることは当然に予定されていた

しかし、裁判所は、かかるX社の主張を容れず、中間報告資料等の記載や、Y社がX社に対して本件新システムにおいても必要とする本件旧システムの機能について説明していたことなどを踏まえ、

X社とY社の間に、本件新システムの構築に当たって本件旧システムの機能を基本的に踏襲するとの合意があった

と判示しました。

 このことからも分かるとおり、委託者としては、受託者に「仕事」を「完成」してもらうために

  • 業務委託契約の目的条項を工夫すること
  • 契約締結前後の打ち合わせを綿密に行うこと
  • 議事録などを作成し、かかる打ち合わせの記録をとること

が重要となります。

仕事の完成が認められた事例-東京地判昭和62年5月18日判時1272号107頁

事案の概要

本件は、婦人服の製造・販売を業とするX社が、商業店舗の企画・設計などを業とするY社に対して、X社が出店を予定していた2件の店舗の内装の設計および監理に関する請負契約(本件設計契約)の債務不履行解除による原状回復として、支払済みの請負代金152万円および利息の支払いを求めた事件です。

ムートン

本件の事案を簡略化して時系列順に並べると、以下のようになります。

①S59.12.28X社・Y社
 
X社⇒Y社
X社が出店を予定している2件の店舗の内装の設計および監理に関する本件設計契約を締結
X社が製造する婦人服のブランド商品(KファクトリーおよびBクラブ)の製品を見せ、これらのイメージを説明し、内装設計についての希望を伝えた
②S60.01.18
        19
Y社⇒X社
X社⇒Y社
Y社⇒X社
各店舗の内装についての模型および図面を提出
それぞれ別のデザインを考えてくるよう要求
他のデザインを提出することを拒否(以後何らの作業も進めず)
③S60.03.09X社⇒Y社Y社の債務不履行を理由とする本件設計契約を解除する旨の意思表示が記載された本訴状が送達
④S60.04.18Y社⇒X社未払い報酬金(30万4000円)および遅延損害金を請求する反訴状が送達

争点

①Y社の債務不履行の有無(本訴)
②Y社の損害の有無(反訴)

判旨

1 本訴について
  「本件のようにKファクトリー及びBクラブというブランドの婦人服を専門的に販売する店舗の内装のデザインがその商品のイメージに合い、これを引き立てる効果を有するものであることが必要である……。そして、本件設計契約において、X社はY社に対してそのようなデザインの設計を依頼したことは当事者間に争いがなく、Y社においては、X社の希望するイメージのデザインを制作することがその債務となる」。
  「しかし、デザインにおける素材、色彩又は形状等について発注者から指示があればデザイナーはそれに従うべきことは当然であるが、そのような指示のない限りそのようなイメージのデザイン化は、あげてデザイナーの感性、創作能力に委ねられるものであって、デザイナーが予め発注者とイメージについて充分打合わせをし、その結果に基きそのイメージに合うものとしてその感性、創作能力をもってデザインを制作した以上、結果的にデザインが発注者の意に沿わないものであったとしても、デザイナーとしてはその債務を履行したものというベきであって、発注者とデザイナーとの間で明示的又は黙示的にその旨の合意がない限り、デザイナーにおいて発注者の意に沿うまでデザインを制作し直す義務はない……(信義則上要求される程度の修正は別問題である。)。」
  なぜならば、「デザインがあるイメージに合うか否かは全く個人の主観によるもるものであり、デザイナーがその感性、制作能力により真撃に発注者の希望するイメージを表現すべくデザインを制作したにも拘らず、発注者において希望するイメージに合わないと判断する限り、デザイナーの費用負担において幾度でもデザインを制作し直さなければならないとすれば、デザイナーの不利益は甚しいものがあるからである。
  そのように解すれば、発注者にとっても、自己の意に沿わないデザインに対して対価を支払うことを余儀なくされることになるが、発注者にとっては、デザイナーの感性、創作能力を予め充分見定めた上で契約を締結すればよく(これがまさにX社が従来とってきた方法である。)、また、契約するに当っては、その要求により幾度かデザインを制作し直すべきことを条項として入れることもできる(デザイナーもこれを前提に料金を決めることができる。)」
  本件設計契約においては、Y社はX社との充分な打合わせに基づき、X社の希望するイメージを表現すべくデザインを制作したこと、また本件設計契約においてX社の要求によりデザインを制作し直す旨の条項がな〔く〕、また、黙示的にせよそのような合意がされたことを認めることができる証拠もないので、Y社にX社の主張するような債務の不履行はなかった」。

2 反訴について
  「Y社が昭和60年1月18日にKファクトリー及びBクラブの各店舗の内装の模型及び図面を提出したにもかかわらずX社は全く別個のデザインの制作を要求し、それが容れられないとして他のデザイナーに発注してデザインを完成させたものであるが、これは、結局本件設計契約におけるY社の仕事が完成しない間にX社の都合により契約を解除したものと認めることができるので、Y社は、それにより被った損害(それまでにY社がした業務割合による報酬の額が損害の額になるものと解される。)の賠償を請求することができる(Y社は反訴において末払報酬として請求しているが、その趣旨は右損害賠償を請求するところにあると認められる。)。」
  「Y社がX社に模型及び図面を提出したのは、Y社の企画を可視的に表現してX社に説明するためのものであると認められるのであるから、いわゆる基本設計の段階にあったと認めることができる。そして、この段階でX社からクレームがついたのであるから、基本設計の具体化を図るいわゆる実施設計の段階にまで入っていたとは認め難い」。
  社団法人日本インテリアデザイナー協会が作成した「インテリアデザインの業務及び報酬基準」は、本件において業務工程と報酬割合との関係「を判断するにつき最も適切な資料であ〔り、それに照らすと、〕Y社がKファクトリー及びBクラブにつきそれぞれ遂行した業務に対する報酬割合はそれぞれ全体の50パーセントであると認めるのが相当であ〔る〕」。
  「したがって、Y社は、Kファクトリーについては金77万5000円、Bクラブについては金74万5000円を報酬として請求できるところ、Y社は、本件設計契約締結の日である昭和59年12月28日に初回支払金としてKファクトリーについては金77万5000円、Bクラブについては金74万5000円の支払いを受けていることは当事者間に争いがないので、Y社はその遂行した業務の割合に相当する報酬はいずれも支払いを受けており、結局、X社がした中途解除によってY社は何ら損害を被っていないこととなる。」

コメント

請負型であれ、委任・準委任型であれ、業務委託契約において役務を提供する者は、相手方から独立しており、自らの裁量に基づいて役務を提供することが一定の範囲で認められています。この点が、従属的に役務を提供する雇用契約と異なります(この点について、山本敬三監修『民法5 契約』有斐閣、2022年、230頁を参照)。

本件においても、まさに請負人の裁量がポイントとなりました。すなわち、裁判所は、店舗の内装の設計契約において、その設計がデザイナーの完成と創作能力に委ねられていたときは、デザイナーが真摯に注文者の希望するイメージを表現すべくデザインを製作すれば、そのデザインが注文者の意に沿わないものであったとしても、仕事は完成されたと評価したのです(鎌田薫ほか編『新基本コンメンタール 債権2』日本評論社、2020年、246頁)。

なお、裁判所が

デザインにおける素材、色彩又は形状等について発注者から指示があればデザイナーはそれに従うべきことは当然であるが

と留保するとおり、発注者からデザインにおける素材や色彩などについて具体的な指示があれば、それに沿ったデザインを制作しない限り、仕事の完成は認められません。

ムートン

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