食物アレルギーに関する
表示制度(法規制)の概要
—食品関連事業者等が
取り組むべきリスクマネジメント―

この記事を書いた人
アバター画像
三浦法律事務所弁護士
University of Pennsylvania Law School(LL.M. with Wharton Business & Law Certificate)修了。 2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)、中級食品表示診断士。長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月より現職。 危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG・SDGs、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。
この記事のまとめ

食品表示の中には、消費者の生命や健康に直結する事項も含まれており、その代表例が食物アレルギーに関する表示です。食物アレルギー患者にとってその表示は極めて重要であり、万一正確な表示がなされていなかった場合には、健康被害が発生してしまう危険があります。

また、外食・中食に関し、2022年4月の時点では、食物アレルギーに関する表示を法的に義務付けるルールは存しないものの、適切な情報提供ができなかったり、アレルゲンのコンタミネーションにより食物アレルギー患者に健康被害が生じたりした場合、態様によっては企業に法的責任が生じ得ることに加えて、レピュテーション・ダメージも発生しかねません。

今回は、食物アレルギーに関する表示を巡る法規制の概要をご説明した上で、食品関連事業者等としてのリスクマネジメントについて解説します。

※この記事は、2022年4月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

食物アレルギーとアレルゲンに関する前提知識

食品表示の分野では、食物の摂取により生体に障害を引き起こす反応のうち、食物抗原に対する免疫学的反応によるものを「食物アレルギー(Food Allergy)」と呼び、食物アレルギーの原因となる抗原を特に「アレルゲン」と呼んでいます(「食品表示基準Q&A」(令和3年3月17日消食表第115号 改正)の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」A-1)。

食品表示法(平成25年法律第70号)4条1項1号では「アレルゲン」は「食物アレルギーの原因となる物質」と定義されています。

アレルギー全般の基本情報については、厚生労働省の補助事業として一般社団法人日本アレルギー学会が運営する「アレルギーポータル」のウェブサイトにおいて、詳細な説明がなされています。

「アレルギーポータル」のウェブサイトでは、以下のとおり説明されています。

消費者庁が2021年3月に作成した「加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック」(以下「ハンドブック」といいます。)4頁によると、食物アレルギーについては現時点で有効な治療方法はないとのことであり、原因となるアレルゲンを摂取しないこと(正しい診断に基づいた必要最小限の原因食物の除去)、いわゆる「除去療法」が予防策となります。

これらの知識を踏まえると、食物アレルギー患者が、食品の原材料欄の表示を見て、自身のアレルギーの原因食品(アレルゲン)が含まれているか否かをチェックできるようにするという意味で、食物アレルギーに関する表示は非常に重要なものであることがお分かりになるかと思います。

食物アレルギーに関する表示制度の概要

食物アレルギーに関する表示制度は、「食品表示基準」(平成27年内閣府令第10号)に規定されています。また、「食品表示基準について」(平成27年3月30日消食表第139号)にも表示の詳細が規定されています。

「特定原材料」と「特定原材料に準ずるもの」

「食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高い食品」(「食品表示基準について」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」第1の1(1)、第1の2(1))は、「特定原材料」として、食品表示基準3条2項においてアレルゲンの表示を義務付けられています。

2022年4月時点では、えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生の7品目が「特定原材料」として定められています(食品表示基準別表第14)。

また、「食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないもの」は、「特定原材料に準ずるもの」として、「食品表示基準について」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」第1の2(2)において、アレルゲンを可能な限り表示するよう努めることとされています(以下、本記事では「特定原材料」と「特定原材料に準ずるもの」を「特定原材料等」と総称します。)。

2022年4月時点では、アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチンの21品目が「特定原材料に準ずるもの」として定められています。このうち、アーモンドについては、2019年に新たに「特定原材料に準ずるもの」に加わったものです。

特定原材料等の見直しは珍しいことではなく、これまで以下のような見直しが行われています(「食品表示基準Q&A」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」B-2)。

2004年特定原材料に準ずるものに「バナナ」を追加
2008年特定原材料に「えび」、「かに」を追加
2013年特定原材料に準ずるものに「カシューナッツ」、「ごま」を追加
2019年特定原材料に準ずるものに「アーモンド」を追加

「食品表示基準Q&A」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」A-2では、「食物アレルギーの原因物質は、時代の変化とともに変わっていく可能性があると考えられるので、更に実態調査・科学的研究を行い、新たな知見や報告により適宜、特定原材料等の見直しを行っていきます。」との記載がなされています。

そのため、食品関連事業者等は、「特定原材料」や「特定原材料に準ずるもの」の見直しに関する情報を適切に把握する必要があります。

食物アレルギーに関する表示の対象範囲

以下の食品については、原則としてアレルゲンの表示が必要と定められています(食品表示基準第3条第2項)。

また、ハンドブック6頁では、アレルゲンに由来する添加物を使用した生鮮食品もアレルゲンの表示が必要であると記載されています。

容器包装の表示可能面積が30平方センチメートル以下の場合であっても食物アレルギーに関する表示を省略できないこと(ハンドブック6頁)、加工助剤(食品の加工の際に添加されるものであって、当該食品の完成前に除去されるもの、当該食品の原材料に起因してその食品中に通常含まれる成分と同じ成分に変えられ、かつ、その成分の量を明らかに増加させるものではないもの又は当該食品中に含まれる量が少なく、かつ、その成分による影響を当該食品に及ぼさないもの)やキャリーオーバー(食品の原材料の製造又は加工の過程において使用され、かつ、当該食品の製造又は加工の過程において使用されないものであって、当該食品中には当該添加物が効果を発揮することができる量より少ない量しか含まれていないもの)など添加物の表示が免除されているものであっても食物アレルギーに関する表示を省略できないこと等に注意が必要です(ハンドブック20頁)。

なお、容器包装に入れずに販売する食品(ばら売り、量り売り等)、設備を設けて飲食させる食品、酒類(食品製造時に使用されるアルコールも含む)については、対象の範囲外とされています(ハンドブック6頁)。

食物アレルギーに関する表示の方法

アレルゲンの表示については、原則として個別表示(個々の原材料の直後にそれぞれに含まれる特定原材料を表示する)で行うこととされています。

そして、個別表示を行う際には、「代替表記」(特定原材料等と表示方法や言葉は異なるが、特定原材料等と同様のものであることが理解できる表記)や、「拡大表記」(特定原材料等又は代替表記を含むことにより、特定原材料等を使った食品であることが理解できる表記)を採用できる場合があります。

例えば、「卵」の代替表記として「玉子、たまご、タマゴ、エッグ、鶏卵、あひる卵、うずら卵」、拡大表記として「厚焼玉子、ハムエッグ」等が挙げられます。代替表記は限定列挙、拡大表記は例示列挙である点にご留意ください。

ハンドブック9頁では、個別表示の例として、以下の表示方法が記載されています。

名称ロールパン
原材料名全粒粉(小麦を含む)、砂糖、卵、ショートニング(大豆を含む)、脱脂粉乳、イースト、食塩
添加物乳化剤(卵由来)、酸化防止剤(V.C)

そして、上記個別表示の例の解説として、以下の内容が説明されています。

  • 「全粒粉(小麦を含む)」:全粒粉の材料である小麦についての個別表示
  • 「ショートニング(大豆を含む)」:ショートニングには通常「大豆油」が使用されており、この「大豆油」が特定原材料等の「大豆」から作られている
  • 「卵」:特定原材料そのもの
  • 「脱脂粉乳」:拡大表記
  • 「乳化剤(卵由来)」:卵由来のものを使用しているため、個別表示

個別表示ができない場合や、個別表示になじまない場合には、例外的に一括表示が可能とされています。

ハンドブック9頁では、一括表示をできる場合として、以下のケースが例示列挙されています。

・個別表示よりも一括表示の方が文字数を減らせる場合であって、表示面積に限りがあり、一括表示でないと表示が困難な場合

・食品の原材料に使用されている添加物に特定原材料等が含まれているが、最終食品においてはキャリーオーバーに該当し、当該添加物が表示されない場合

・同一の容器包装内に容器包装に入れられていない食品を複数詰め合わせる場合であって、容器包装内で特定原材料等が含まれる食品と含まれていない食品が接触する可能性が高い場合

・弁当など裏面に表示がある場合、表示を確認するのが困難であるとの食物アレルギー患者からの意見を踏まえ、表面に表示するため(ラベルを小さくするため)に、表示文字数を減らしたい場合

ハンドブック10頁では、一括表示の具体例として、以下の例が示されています。

コンタミネーションとは

食品を製造する際に、原材料として特定原材料等を使用している場合には、上記のアレルゲンの表示を行うことが必要となりますが、場合によっては、原材料としては使用していないにもかかわらず、特定原材料等が意図せず最終製品に混入されてしまう場合があります(ハンドブック26頁)。このような場合を「コンタミネーション」(contamination)といいます。

食物アレルギーはごく微量のアレルゲンによっても発症することがあり、コンタミネーションによって想定外のアレルギー症状の誘発につながる危険があります。そのため、製造時に可能な限り防止策を講じる必要があります。

「食品表示基準Q&A」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」G-4でも、「製造ラインを複数の製品の製造に用いるとき(共有するとき)、コンタミネーションの防止対策として、製造ラインを十分洗浄した上で、特定原材料等を含まないものから製造することが考えられます。また、可能な限り専用器具を使用することも有効です。」と述べています。

対策を講じても、必ず特定原材料等が混入してしまう場合には、通常の原材料としてアレルゲン表示を行う必要があります(「食品表示基準Q&A」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」G-2、ハンドブック26頁)。

コンタミネーションのリスクを払拭できない場合には、原材料表示欄外に注意喚起表示を行うことが望ましいとされています(なお、「食品表示基準Q&A」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」G-2、及びハンドブック26頁には、混入の頻度と量が少ない場合には、食物アレルギー患者の食品選択の幅を過度に狭める結果になることから、注意喚起表示の必要はない旨が記載されています)。

なお、食物アレルギーに関する表示に関しては、特定原材料等が「入っているかもしれない」、「入っているおそれがある」といった可能性表示は認められないため、注意喚起表示を行う際には、そのような可能性表示は回避し、注意喚起を明確に示すことが必要です(「食品表示基準Q&A」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」G-3)。

「食品表示基準Q&A」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」G-3では、以下の3つの類型で、コンタミネーションの注意喚起例を示しています。

同一製造ライン使用によるコンタミネーション・「本品製造工場では○○(特定原材料等の名称)を含む製品を生産しています。」
・「○○(特定原材料等の名称)を使用した設備で製造しています。」等
原材料の採取方法によるコンタミネーション・「本製品で使用しているしらすは、かに(特定原材料等の名称)が混ざる漁法で採取しています。」
えび、かにを捕食していることによるコンタミネーション・「本製品(かまぼこ)で使用しているイトヨリダイは、えび(特定原材料等 の名称)を食べています。

実務上の留意点

抜け漏れのない表示の徹底

本記事では、基本的な表示のルールのみをご紹介しており、食物アレルギーに関する表示については本記事で紹介したものに加えて、詳細なルールが存在します。

食物アレルギーに関する表示を検討する際には、必ず食品表示法、食品表示基準等の法規制を確認するとともに、消費者庁の通知やハンドブック等を参照し、ルールに沿った形での適切な表示を徹底する必要があります。

食物アレルギーに関する表示については、ハンドブック32~38頁の「食物アレルギー表示作成のステップ」が参考になります。以下の6つのステップごとに具体例とともにチェックポイントが解説されています。

  1. 製品原材料詳細の確認
  2. 食物アレルギー表示が必要となる原材料の確認
  3. 製造方法に対する特定原材料等の調査
  4. 重複するものを含めた全ての特定原材料の表示
  5. 個別表示による表示の作成
  6. 個別表示が困難な場合における一括表示による表示の作成

また、ハンドブック39頁には「表示の検証」(原材料中の特定原材料等の情報の検証、製造記録と使用原材料との整合性の確認)についても解説がなされています。

特定原材料である7品目については、「食品表示基準について」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」内の「別添 アレルゲンを含む食品の検査方法」において検査方法が紹介されています。

上記の点に関連し、特定原材料等を原材料として含むか否かの検証を確実に行えるよう、製造記録等を適切に作成・保管することも必要です(「食品表示基準について」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」第2.1参照)。

問題があった場合の迅速かつ適切な対応

食物アレルギーに関する表示の問題があった場合には、速やかな事実調査を行い、適切な対応を行う必要があります。

事実調査に関し、製品に加えられていた特定原材料に準ずるものの不表示事例などが発覚したケースにおいて、「不適切な食品表示」として調査が実施された事例が存在します(焼津水産化学工業株式会社の2019年9月11日付けの「当社製品の一部における不適切な食品表示についてのお詫びと今後の対応について」と題するリリース参照)。

仮に食品表示基準に従った表示がされていない商品を販売した場合においては、食品等の自主回収の届出が必要になることがあります(食品表示法10条の2第1項)。食品等の自主回収の届出については、「食品コンプライアンスの新展開―食品衛生法・食品表示法改正に基づくリコール情報の届出義務化―」をご参照ください。

食品関連事業者等が上記届出をせず、又は虚偽の届出をした場合には50万円以下の罰金に処する旨が定められていますので(食品表示法21条3号)、対応方針を検討する際にはこの点を失念しないようご留意ください。

これに加えて、自社ウェブサイトでの迅速な情報提供など、消費者の健康被害を回避するための方策を講じることが望まれます(例えば、株式会社西和賀産業公社の2018年2月28日付けの「アレルギー表示の誤表示に関するお詫びとお知らせ(特に卵にアレルギーをお持ちのお客様へ)」と題するリリース参照)。

繰り返しになりますが、食物アレルギーに関する表示は、食物アレルギー患者にとって非常に重要なものであるため、表示に問題があった場合には、消費者の健康被害を回避すべく迅速かつ適切な対応を行うことが肝要です。

外食・中食業者のリスクマネジメント

2014年12月3日に、消費者庁の「外食等におけるアレルゲン情報の提供の在り方検討会中間報告」が公表されました(2015年4月1日に一部改定)。

当該検討会では、結論として外食・中食における食物アレルギーに関する表示の義務化は実現しませんでした。

その理由としては、「営業形態が対面販売であり、注文等の際、消費者が店員にメニューの内容等の確認や、使用する原材料や調理方法の調整が可能である」、「調理や盛りつけ等により、同一メニューでも使用される原材料や内容量等にばらつきが生じる」、「提供される商品の種類が多岐にわたり、その原材料が頻繁に変わるという特徴がある」といったことが挙げられています。また、「アレルギー表示を義務付けることについては、これらのことに加え、外食等は注文等に応じて、様々なメニューを手早く調理する必要があり、調理器具等からのアレルゲンの意図せぬ混入防止対策を十分に取ることが難しいという特有の課題もある」ということも指摘されています(同報告11頁)。

外食・中食における食物アレルギーに関する表示が義務付けられていないとしても、外食・中食業者において、食品アレルギーに関する表示の抜け漏れが問題となるケースは後を絶ちません(例えば、SPA&HOTEL 舞浜ユーラシアの2020年1月6日付けの「メニュー誤表記に関するお詫びとお知らせ」と題するリリース参照)。

また、2021年11月11日付けのNHKのニュース「外食で食物アレルギー誤食は約40% 患者会がルール作り要望へ」において、全国8つの食物アレルギーの患者会の協力した調査により、「食物アレルギーがある患者がレストランなどで外食した際、およそ40%が誤ってアレルギーの原因となる食品を食べた経験があり、そのうち15%が症状が重く入院にまで至っていた」旨が報じられました。

さらに、同日、患者会は消費者庁に対し、外食などでの食物アレルギーに関する表示のルール作りを求める要望書を提出しました(2021年12月6日付けのNHKのニュース「飲食店で食物アレルギー表示がなくて困っています」参照)。

このような状況を踏まえ、外食・中食業者はアレルギー情報の適切な提供をしないことが大きなリスクにつながることをきちんと理解し、問題が発生しないよう十分なリスクマネジメントを行うことが肝要です。

具体的には、提供している食材に特定原材料等が含まれているか、コンタミネーションの可能性があるかという点について適切に把握し、正確な情報を顧客に提供することが、食物アレルギー患者の健康被害の回避に資するとともに、外食・中食業者のリスクマネジメントの観点からも重要であると考えられます。