「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改訂ポイント・企業が注意すべき点を解説!

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三浦法律事務所弁護士
慶應義塾大学法科大学院法務研究科中退 2016年弁護士登録(東京弁護士会所属)、2016年~18年三宅・今井・池田法律事務所において倒産・事業再生や一般企業法務の経験を積み、2019年1月より現職。
この記事のまとめ

現在の社会では、働き方やキャリアに対する価値観が変わってきており、雇用の流動化が進行しています。その中で、本業以外の仕事を試みる労働者も増えてきています。

また、働き方改革法が施行されたことに伴って、政府は、副業・兼業の解禁を促進しています。これらを受けて、労働者の副業・兼業への考え方を改めている企業も多いでしょう。

厚生労働省は、2018(平成30)年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、同時に「モデル就業規則」を改定しました。また、2020(令和2)年9月1日には、ガイドラインの大幅改定も行われました。

これによって、国として、労働者の副業・兼業を促進していくことが明確になりました。そのため、この記事では、ガイドラインやモデル就業規則の改定に関する解説と、企業が注意すべきポイントについて解説します。

(※この記事は、2022年11月1日時点の法令等に基づいて作成されています。)

副業・兼業の促進に関するガイドライン公表・改定の背景

2014年に中小企業庁が実施した「平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査事業」では、副業・兼業を促進していると回答した企業は0社であり、容認している企業も全体で14.7%に留まる等、必ずしも副業・兼業は歓迎されていませんでした。

しかしながら、近年は、副業・兼業を希望する労働者が、年々増加傾向にあります。このような背景には、意欲的な労働者は、「収入を増やしたい」「本業以外にも自分が活躍できる場を広げたい」「スキルアップを図りたい」という希望を持っていることにあります。また、ITを活用した働き方やインターネット上での企業と労働者のマッチングが容易になったこともあります。

意欲的な労働者が増えることは好ましいことですが、労働者が勤務先に無断で副業・兼業を始めてしまった場合、本業への支障や人材流出、健康問題、情報漏えい等のリスクが生じる可能性は否定できません

これらを受けて、厚生労働省は、「働き方改革実行計画」(2017(平成29)年3月28日 働き方改革実現会議決定)を踏まえて、2018(平成30)年1月、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下「副業促進ガイドライン」といいます。)を作成・公表しました。

しかしながら、副業・兼業制度を導入するに当たって、最大の問題は労働時間の管理方法です。従前の副業促進ガイドラインでは、この点が具体的に記載されておらず、企業にとっては、本業と副業・兼業との労働時間の管理方法や労働基準法の適用関係が不明確であり、副業・兼業制度の導入にはハードルがありました。

また、新型コロナウイルス感染症を契機として、各企業がテレワーク等を推進するようになったことに伴い、時間的余裕が生まれて、より副業・兼業を希望する労働者も増えてきています。

このような状況において、厚生労働省は、2020(令和2)年9月1日に、副業促進ガイドラインを大幅に改定しました。

今回の改定によって、厚生労働省の副業・兼業を促進するスタンスがより明確に示され、副業・兼業をする場合の労働時間管理の問題について大幅に内容が補充されました。そこで、この記事では、副業促進ガイドラインや企業が注意すべき点等について、解説していきます。

そもそも副業・兼業とは

副業・兼業の定義

まず、副業・兼業とは、どういった場合を指すでしょうか。副業促進ガイドラインでは、「副業・兼業」の定義は明確にされていませんが、同じく厚生労働省が公表する「副業促進ガイドラインの解説パンフレット」においては、

とされています。

この記事では上記を前提として、「本業」「副業・兼業」について以下のとおり定義し、解説します。

副業・兼業の促進の方向性

副業・兼業について、副業促進ガイドラインは、「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由」であるとしており、原則として、企業は労働者の副業・兼業を認めるよう方向性が示されています

ただし、例えば、以下の場合においては、各企業において副業・兼業を制限することも許されるとされています。

副業・兼業の制限が許される場合

・労務提供上の支障がある場合
・業務上の秘密が漏えいする場合
・競業により自社の利益が害される場合
・自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

副業・兼業を促進するメリット

また、副業・兼業自体には、労働者にとっても、企業にとってもそれぞれ以下のようなメリットがあります。

労働者にとってのメリット

・本業のほかにスキルや経験を得ることで新たなキャリア形成ができる
・本業の所得を活かして新たなことに挑戦できる
・所得が増加する

企業にとってのメリット

・社内では得られない知識・スキルを獲得することができる
・新たな知識・情報や人脈によって事業機会を拡大できる
・優秀な人材の確保や流出を防止できる

しかしながら、副業・兼業を導入するに当たっては、企業において留意すべき点があることも事実です。留意点については次で解説しますが、留意点への対応も検討しつつ、労働者の希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境を整備することが大切です。

副業・兼業の導入における留意点

副業促進ガイドラインでは、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものであるかどうか改めて精査したうえで、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則として、副業・兼業を認める方向で検討することが求められています。

しかしながら、副業・兼業の導入に当たっては、以下のような留意点があります。

副業・兼業に当たっての留意点

労働契約上の付随義務への留意
労働時間管理への留意
労働者の健康管理への留意

労働契約上の付随義務への留意

労働契約においては、企業及び労働者は、主たる義務(賃金支払義務、労務提供義務)のほかに、多様な付随義務を負っています。

まず、企業は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。この安全配慮義務は、副業・兼業を行う労働者を使用する全ての企業が負っています。そのため、企業が、労働者の全体(副業・兼業先を含む。)としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何らの配慮をせず、労働者の健康に支障が生ずるに至った場合等に問題となる可能性があります。

このような義務の違反を避けるために、以下のような対策をとることが考えられます。

次に、労働者は、企業の業務上の秘密を守る秘密保持義務を負っています。しかしながら、副業・兼業を行うことによって、労働者が業務上の秘密を副業・兼業先で漏えいする可能性や、反対に副業・兼業先として雇用している労働者が他社の秘密を自社の下で漏えいする可能性が考えられます。

そのため、以下のような対策をとることが考えられます。

なお、秘密保持義務と似たような話として、労働者が在職中に勤務先と競合する業務を行わない競業避止義務も問題となり得ます。秘密保持義務等と同様に、就業規則や労働契約等において労働者の義務を定めたり、注意喚起を行ったりするほか、労働者から副業・兼業の届出を受けることで業務内容等を確認することが考えられます。

労働時間管理への留意

労働基準法38条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。ここでいう「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合も含むと考えられています(労働基準局長通達(1948(昭和23)年5月14日付 基発第769号))。

そのため、副業・兼業を行っている労働者については、労働基準法による労働時間規制が適用されない場合に該当しない限り、本業の事業場と副業・兼業先の事業場の労働時間を通算しなければなりません。ただし、いわゆるフリーランスや業務委託、自営業、起業、役員等については、そもそも労働基準法の適用を受けないため、労働時間の通算は問題となりません。

労働時間の通算が問題となるのは、本業も副業・兼業も雇用契約である場合です。企業は、労働時間を具体的にどのように通算するのか、管理していくのかという問題が生じます。

今回改定された副業促進ガイドラインでは、労働時間の通算に当たって、以下の2つの区分において、労働者の申告等により把握した所定労働時間や所定外労働時間の通算を行い、各々の企業は、36協定の範囲内であるか確認したり、割増賃金を支払ったりする必要があります。

①所定労働時間の通算

・自社の所定労働時間と副業・兼業先の所定労働時間を通算して、時間外労働となる部分を確認する。
・通算した結果、自社の労働時間制における法定労働時間を超える部分がある場合は、その超えた部分が時間外労働となり、副業・兼業先(後から労働契約を締結した企業)が当該企業の36協定で定めるところによって、その時間外労働を行わせる。

②所定外労働時間の通算

・労働者からの申告に基づき、自社の所定外労働時間と副業・兼業先における所定外労働時間を当該所定外労働が行われる順に通算する。
・通算した結果、自社の労働時間制における法定労働時間を超える部分がある場合は、その超えた部分が時間外労働となる。各々の企業は、そのうち自ら労働させた時間について、自社の36協定で定めた延長時間の範囲内とする必要があるとともに、割増賃金を支払う必要がある。

これらの労働時間の通算管理については、労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、労基法に定める最低労働条件が順守されやすくなる簡便な方法として、「管理モデル」と呼ばれる方法も推奨されています。
なお、労働時間の計算・管理方法の詳細については、厚生労働省が公表する副業促進ガイドラインのパンフレット15~20頁において、具体的な方法が解説されていますので、ご参考ください。

労働者の健康管理への留意

企業は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等(以下「健康確保措置」といいます。)を実施しなければなりません(労働安全衛生法66条等)。

これらの健康確保措置の実施対象者の選定に当たっては、副業・兼業先における労働時間の通算をすることまでは求められていません。しかしながら、企業と労働者が情報交換や報告・相談を行うことによって、労働者が副業・兼業による過労によって健康を害したり、現在の業務に支障を来たしたりしていないか、確認することが望まれます。

企業は、労働者に対して、健康保持のため自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝えたり、健康確保措置を実施したりすることが考えられ、労使の話合い等を通じて、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置を実施する必要があります。

モデル就業規則の解説

就業規則等の見直し

厚生労働省が公表する改定前のモデル就業規則では、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」を労働者の順守事項として規定し、副業・兼業を一律許可制としていました。しかしながら、副業促進ガイドラインの改定やモデル就業規則自体の改定も踏まえて、副業・兼業を禁止している企業や一律許可制にしている企業は、副業・兼業を認める方向で就業規則等を見直すことが求められます。

この点、2021年12月現在、厚生労働省が公表するモデル就業規則においては、副業・兼業に関する規定の一例として、以下のような規定例をあげています。

(副業・兼業)

第68条

労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

 ①労務提供上の支障がある場合
 ②企業秘密が漏洩する場合
 ③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
 ④競業により、企業の利益を害する場合

このモデル就業規則の規定例では、1項において、副業・兼業を原則として認めることとされています。また、2項においては、労働者からの事前の届出により労働者の副業・兼業を把握し、労務提供上の支障や企業秘密の漏えいがある場合等においては、例外的に禁止又は制限できるものとされています。

しかしながら、この規定例は、あくまでも一例であって、各企業において必ずこの規定例どおりに定めなければならないわけではありません。副業・兼業について許可制を維持しつつも、厚生労働省が指摘する①から④の場合に限って、許可をしないとする限定列挙型の副業許可制も考えられます。

いずれにせよ、就業規則の内容は事業場の実態に合ったものとしなければなりませんが、以下のようなポイントから就業規則等の見直しを行うことが考えられます。

就業規則等の見直しのポイント

・副業・兼業を原則として認めること
・労務提供上の支障がある場合等、裁判例において例外的に副業・兼業を禁止又は制限することができるとされている場合を定めておくこと
・副業・兼業の有無や内容を確認するための方法を定めておくこと(例えば、届出制の仕組みを設けたり、労働者との間で合意書を締結したりすること)

なお、厚生労働省では、「副業・兼業の有無や内容を確認するための方法」として、副業兼業に関する届出様式例副業・兼業に関する合意書様式例も公表していますので、これらを参考にすることが考えられます。これらの届出書や合意書では、労働基準法38条等を踏まえて、次の事項を確認することとしています。

基本的な確認事項

(a)副業・兼業先の事業内容
(b)副業・兼業先で労働者が従事する業務内容
(c)労働時間通算の対象となるか否かの確認

労働時間通算の対象となる場合に確認する事項

(d)副業・兼業先との労働契約の締結日、期間
(e)副業・兼業先での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
(f)副業・兼業先での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
(g)副業・兼業先における実労働時間等の報告の手続
(h)これらの事項について確認を行う頻度

実際の運用上の注意

副業・兼業については、他の企業等に雇用される形での副業・兼業のほか、事業主となって行うものや、請負・委託・準委任契約により行うものも含むことに留意が必要です。

契約の名称にかかわらず、労働契約であるか否かは実態に基づいて判断されます。そのため、労働基準法の労働時間規制、労働安全衛生法の安全衛生規制等を潜脱するような形態は認められず、違法な偽装請負や実態は労働契約であると認められる請負契約等においては、労働基準法等の適用を受けることになります。

また、労働者が副業・兼業に係る相談や自己申告等をしやすい環境づくりが重要であり、労働者が相談・自己申告等を行ったことを理由として、不利益な取扱いをすることはできません。

副業・兼業に関わるその他の制度

労災保険制度

副業・兼業している労働者が増えている実情を踏まえて、副業・兼業している労働者が安心して働くことができる環境を整備するため、「雇用保険法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第14号)が制定され、2020(令和2)年9月1日から施行されています。

まず、労災保険の給付(休業補償、障害補償、遺族補償等)について、労災保険制度は、従来その給付額については、災害が発生した就業先の賃金分のみに基づき算定されていました。

しかしながら、法改正により、災害が発生した就業先以外の賃金額も合算して労災保険給付を算定することになったほか、本業先と副業・兼業先いずれの業務上の負荷も総合的に評価して労災認定を行うことになりました

なお、労働行政において、本業先から副業・兼業先への移動時に起こった災害については、労働災害として労災保険給付の対象になるとされています。

雇用保険制度

雇用保険制度においては、同一の事業主の下で、
①1週間の所定労働時間が20時間未満である者
②継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
については被保険者とならず、労働時間等は本業と副業・兼業先で合算されません。

なお、同時に複数の事業主に雇用されている者が、それぞれの雇用関係において、被保険者要件を満たす場合には、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者となります。

ただし、法改正により、2022(令和4)年1月より、65歳以上の労働者本人の申出により、1つの雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、副業・兼業先の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が試行的に開始される予定です。

また、社会保険制度の適用要件については、事業所ごとに判断するため、労働時間等は複数事業所で合算されません。

終わりに

企業は、副業・兼業を認めるに当たって、労働者の健康状態にも配慮しなければならないうえ、労働者の秘密保持や競業避止にも注視しなければなりません。また、実際の導入に当たっては、主に労働時間の管理について、企業の負荷が高くなることも事実です。

しかしながら、新型コロナウイルス感染症に伴ってテレワークが普及したり、政府の働き方改革によって政府主導で副業・兼業を促進する方向性が示されたりしたことによって、今後も、副業・兼業を希望する労働者は増加していくと考えられます。

そのため、企業においては、もはや副業・兼業を解禁するか否かの問題ではなく、「副業促進ガイドラインを踏まえて、どのような制度を構築するか」を考える必要が出ています。

厚生労働省が公表する副業促進ガイドラインやパンフレットも踏まえつつ、専門家のアドバイスも受けて、企業ごとに適切な制度を構築していくことが賢明です。