【2023年4月1日施行】
遺伝子組換え表示制度の改正内容や
対応のポイントを解説!
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- この記事のまとめ
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遺伝子組換え農作物については、遺伝子組換え表示制度として、食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)に表示制度が定められており、義務表示と任意表示の2つのルールがあります。
このうち、任意表示に関するルールが2019年に改正され、2023年4月1日より施行されます。新制度では、適切に分別生産流通管理された旨の表示が可能になり、消費者の誤認防止や消費者の選択の機会の拡大につながるとされており、食品関連事業者にとっては表示切替えをするか否かは重要な判断になるでしょう。
この記事では、遺伝子組換え食品の表示制度の全体像を俯瞰した上で、任意表示についての新制度を解説します。
※この記事は、2023年2月3日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
遺伝子組換え食品とは?
「遺伝子組換え農作物」、「遺伝子組換え食品」という言葉を耳にしたことがある方や、食品の原材料欄に「大豆(遺伝子組換えでない)」などと表示されているのを見たことがある方は多いと思います。
「遺伝子組換え技術」については、農林水産省のウェブサイト「生物多様性と遺伝子組換え(基礎情報)」において、「ある生物が持つ遺伝子(DNA)の一部を、他の生物の細胞に導入して、その遺伝子を発現(遺伝子の情報をもとにしてタンパク質が合成されること)させる技術」であり、この遺伝子組換え技術を活用して、さまざまな性質を持つよう改良した農作物のことを遺伝子組換え農作物というと紹介されています。
また、消費者庁のウェブサイト「遺伝子組換え食品」においては、「遺伝子組換え食品とは、他の生物から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、その性質を持たせたい植物などに組み込む技術を利用して作られた食品です」と説明されています。
遺伝子組換え農作物の定義
食品表示基準においては、「遺伝子組換え農産物」という用語が用いられており、「遺伝子組換え農産物」は、「対象農産物のうち組換えDNA技術を用いて生産されたもの」と定義されています(食品表示基準2条1項15号)。
「対象農産物」とは、「組換えDNA技術を用いて生産された農産物の属する作目であって別表第16に掲げるもの」と定義されており(同条14号)、別表第16において以下の農作物が列挙されています。
1 大豆(枝豆および大豆もやしを含む。)
2 とうもろこし
3 ばれいしょ
4 なたね
5 綿実
6 アルファルファ
7 てん菜
8 パパイヤ
9 からしな ※
※2022年3月30日に施行された改正食品表示基準により、遺伝子組換えからしなについて、厚生労働省による安全性審査を経て、新たに遺伝子組換えからしな由来の食品の国内流通が可能になると見込まれることから、遺伝子組換え表示の義務付けの対象農産物に「からしな」が追加されました。
「組換えDNA技術」とは、「酵素等を用いた切断及び再結合の操作によって、DNAをつなぎ合わせた組換えDNAを作製し、それを生細胞に移入し、かつ、増殖させる技術」と定義されています(同条13号)。
食品表示基準には、「特定遺伝子組み換え農産物」という概念もあります。「特定遺伝子組換え農産物」とは、「対象農産物のうち組換えDNA技術を用いて生産されたことにより、組成、栄養価等が通常の農産物と著しく異なるもの」と定義されています(同条17号)。
具体的には、以下の形質を持った加工食品・対象農産物が想定されています(食品表示基準別表18)。
形質 | 加工食品 | 対象農産物 |
---|---|---|
ステアリドン酸産生 | 1 大豆を主な原材料とするもの(脱脂されたことにより、上欄に掲げる形質を有しなくなったものを除く。) 2 1に掲げるものを主な原材料とするもの | 大豆 |
高リシン | 1 とうもろこしを主な原材料とするもの(上欄に掲げる形質を有しなくなったものを除く。) 2 1に掲げるものを主な原材料とするもの | とうもろこし |
遺伝子組換え農作物に関する法制度
消費者庁のウェブサイト「遺伝子組換え食品」においても、従来の掛け合わせによる品種改良では不可能と考えられていた特徴(害虫抵抗性、除草剤耐性など)を持つ農作物を作ることができ、食糧問題や環境保全にメリットがあると説明した上で、「このような特定のメリットをもたらす遺伝子組換え食品が健康や環境に対しての問題を引き起こすことがあってはなりません」と述べ、安全性確保の仕組みを紹介しています。
遺伝子組換え農作物に関しては、
①食品としての安全性
→「食品衛生法」および「食品安全基本法」
②飼料としての安全性
→「飼料安全法」および「食品安全基本法」
③生物多様性への影響
→「カルタヘナ法」(遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)
に基づいて、科学的に安全性を審査し、問題が生じないと評価されて初めて使用できる仕組みが整備されています(下記の図も参照)。
農林水産省ウェブサイト「遺伝子組換え農作物の安全を確保する仕組み」
遺伝子組換え表示制度とは?全体像を解説
義務表示制度および任意表示制度とは?
安全性が確認された遺伝子組換え農作物とその加工食品について、食品表示基準によって表示のルールが定められています。このルールにおいては、
義務表示:遺伝子組換えに関する表示をしなければならない
任意表示:表示義務はないものの任意で表示することができる
の2種類があります。
義務表示の対象となる農産物・加工食品
食品表示基準に基づいた遺伝子組換えに関する義務表示の対象は以下のとおりです。
① 大豆(枝豆および大豆もやしを含む。)、とうもろこし、ばれいしょ、なたね、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤ、からしなの9種類の農産物(食品表示基準別表第16)
② 上記①の農産物を原材料とし、加工工程後も組み換えられたDNAまたはこれによって生じたたんぱく質が検出できる下記の加工食品(食品表示基準別表第17)
対象農産物 | 加工食品 |
---|---|
大豆(枝豆および大豆もやしを含む。) | 1 豆腐・油揚げ類 2 凍り豆腐、おからおよびゆば 3 納豆 4 豆乳類 5 みそ 6 大豆煮豆 7 大豆缶詰および大豆瓶詰 8 きなこ 9 大豆いり豆 10 1から9までに掲げるものを主な原材料とするもの 11 調理用の大豆を主な原材料とするもの 12 大豆粉を主な原材料とするもの 13 大豆たんぱくを主な原材料とするもの 14 枝豆を主な原材料とするもの 15 大豆もやしを主な原材料とするもの |
とうもろこし | 1 コーンスナック菓子 2 コーンスターチ 3 ポップコーン 4 冷凍とうもろこし 5 とうもろこし缶詰およびとうもろこし瓶詰 6 コーンフラワーを主な原材料とするもの 7 コーングリッツを主な原材料とするもの(コーンフレークを除く。) 8 調理用のとうもろこしを主な原材料とするもの 9 1から5までに掲げるものを主な原材料とするもの |
ばれいしょ | 1 ポテトスナック菓子 2 乾燥ばれいしょ 3 冷凍ばれいしょ 4 ばれいしょでん粉 5 調理用のばれいしょを主な原材料とするもの 6 1から4までに掲げるものを主な原材料とするもの |
なたね | |
綿実 | |
アルファルファ | アルファルファを主な原材料とするもの |
てん菜 | 調理用のてん菜を主な原材料とするもの |
パパイヤ | パパイヤを主な原材料とするもの |
からしな |
① 食品表示基準別表第18の形質(ステアリドン酸産生、高リシン)を有する特定遺伝子組換え農産物を含む対象農産物(大豆、とうもろこし)
② 食品表示基準別表第18に列挙された下記の加工食品
形質 | 加工食品 | 対象農産物 |
---|---|---|
ステアリドン酸産生 | 1 大豆を主な原材料とするもの(脱脂されたことにより、上欄に掲げる形質を有しなくなったものを除く。) 2 1に掲げるものを主な原材料とするもの | 大豆 |
高リシン | 1 とうもろこしを主な原材料とするもの(上欄に掲げる形質を有しなくなったものを除く。) 2 1に掲げるものを主な原材料とするもの | とうもろこし |
分別生産流通管理とは?
義務表示の対象となる場合の表示事項については、以下の分類にまとめることができます(東京都福祉保健局ウェブサイト「食品衛生の窓 遺伝子組み換え食品に関する事項」参照)。
分類に用いられている「分別生産流通管理」および「特定分別生産流通管理」とは、以下のように定義されています(食品表示基準2条1項19号・20号)。
✅ 分別生産流通管理
→遺伝子組換え農産物および非遺伝子組換え農産物を生産、流通および加工の各段階で善良なる管理者の注意をもって分別管理すること(その旨が書類により証明されたものに限る。)
✅ 特定分別生産流通管理
→特定遺伝子組換え農産物および非特定遺伝子組換え農産物を生産、流通および加工の各段階で善良なる管理者の注意をもって分別管理すること(その旨が書類により証明されたものに限る。)
分類 | 表示事項 | 表示例 |
---|---|---|
分別生産流通管理が行われたことを確認した遺伝子組換え農産物である別表第17に掲げる対象農産物を原材料とする場合 | 当該原材料名の次に括弧を付して「遺伝子組換えのものを分別」、「遺伝子組換え」等分別生産流通管理が行われた遺伝子組換え農産物である旨を表示 | 大豆(遺伝子組換えのものを分別) 大豆(遺伝子組換え) |
生産、流通又は加工のいずれかの段階で遺伝子組換え農産物及び非遺伝子組換え農産物が分別されていない別表第17に掲げる対象農産物を原材料とする場合 | 当該原材料名の次に括弧を付して「遺伝子組換え不分別」等遺伝子組換え農産物及び非遺伝子組換え農産物が分別されていない旨を表示 | とうもろこし(遺伝子組換え不分別) |
特定分別生産流通管理が行われたことを確認した特定遺伝子組換え農産物である別表第18に掲げる対象農産物を原材料とする場合 | 当該原材料名の次に括弧を付して「○○○遺伝子組換えのものを分別」、「○○○遺伝子組換え」等特定分別生産流通管理が行われた特定遺伝子組換え農作物である旨を表示 (※○○○は、別表第18に掲げる形質) | 大豆(ステアリドン酸産生遺伝子組換え) 大豆(ステアリドン酸産生遺伝子組換えのものを分別) |
特定遺伝子組換え農産物及び非特定遺伝子組換え農産物が意図的に混合された別表第18に掲げる対象農産物を原材料とする場合 | 当該原材料名の次に括弧を付して「○○○遺伝子組換えのものを混合」等特定遺伝子組換え農作物及び非特定遺伝子組換え農作物が意図的に混合された農作物である旨を表示* (※○○○は、別表第18に掲げる形質) | 大豆(ステアリドン酸産生遺伝子組換えのものを混合) |
*この場合において、「○○○遺伝子組換えのものを混合」等の文字の次に括弧を付して、当該特定遺伝子組換え農作物が同一の作目に属する対象農産物に占める重量の割合を表示することができます。
2023年4月に施行される任意表示制度の改正内容
食品表示基準改正の経緯
改正前は、分別生産流通管理をして、意図せざる混入を5%以下に抑えられている大豆・とうもろこしとそれらを原材料とする加工食品については、「遺伝子組換えでないものを分別」、「遺伝子組換えでない」などの表示が可能とされていました。
改正については、「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書」11-12頁において、
「『遺伝子組換えでない』表示が認められる条件については、大豆及びとうもろこしに対して遺伝子組換え農産物が最大5%混入しているにもかかわらず、『遺伝子組換えでない』表示を可能としていることは誤認を招くとの意見を踏まえ、誤認防止、表示の正確性担保及び消費者の選択幅の拡大の観点から、『遺伝子組換えでない』表示が認められる条件を現行制度の『5%以下』から『不検出』に引き下げることが適当と考えられる。」……
「遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書」11-12頁
「『不検出』に引き下げた際に『遺伝子組換えでない』表示ができなくなる食品については、消費者の食品の選択の幅を広げる観点だけでなく、分別生産流通管理を適切に実施してきた事業者の努力を消費者に伝える観点からも、表示の信頼性及び実行可能性を確保できる範囲内で、分別生産流通管理が適切に行われている旨の表示を任意で行うことができるようにすることが適当と考えられる。」
などの整理の方向性が示されました。
新たな遺伝子組換え表示制度の概要・変更点
新たな遺伝子組換え表示制度では、「分別生産流通管理をして、意図せざる混入を5%以下に抑えている大豆及びとうもろこし並びにそれらを原材料とする加工食品」については、「適切に分別生産流通管理された旨の表示」が可能となります。
他方、「分別生産流通管理をして、遺伝子組換えの混入がないと認められる大豆及びとうもろこし並びにそれらを原材料とする加工食品」については「遺伝子組換えでない」、「非遺伝子組換え」などの表示が可能となります。
以下の図において、改正前と新たな遺伝子組換え表示制度の変更点が分かりやすくまとめられています。
消費者庁「知っていますか?遺伝子組換え表示制度―消費者が正しく理解できる情報発信を目指して―」3頁
「適切に分別生産流通管理された旨」の表示方法
「適切に分別生産流通管理された旨」を具体的にどのように表示すればよいかという点については、消費者庁の「知っていますか?遺伝子組換え表示制度」において、「遺伝子組換え農産物と非遺伝子組換え農産物を分けて生産、流通及び製造加工の各段階で管理を行っていることが分かるように表示する必要」がある旨が示されています。
表示例としては、以下のものが紹介されています。
〇 「原材料に使用しているトウモロコシは、遺伝子組換えの混入を防ぐため分別生産流通管理を行っています」
〇 「大豆(分別生産流通管理済み)」
また、「分別生産流通管理」の代わりに、「IP ハンドリング」、「IP 管理」という表現も使用することができるとされています。
他方、遺伝子組換え農産物の意図せざる混入の割合について、表示の読み手の主観によって左右されるような表現は避けるべきとされています。
× 「遺伝子組換え大豆はほぼ含まれていません。」
× 「遺伝子組換えトウモロコシの混入をできる限り抑えています。」
さらに、遺伝子組換え農産物の具体的な混入率などを合わせて表示することは可能であるものの、表示と商品に矛盾がないように注意すべき旨も記載されています。
「遺伝子組換えでない」と表示するための条件
適切に分別生産流通管理を実施し、遺伝子組換え農産物の混入がないことを確認した非遺伝子組換え農産物およびこれを原材料とする加工食品には、「遺伝子組換えでない」と表示することができます。
遺伝子組換え農産物の混入がないことの確認方法としては、第三者分析機関等による分析のほか、以下を証明する書類等を備えておくことなどが考えられます。
① 生産地で遺伝子組換えの混入がないことを確認した農産物を専用コンテナ等に詰めて輸送し、製造者の下で初めて開封していること
② 国産品(本稿執筆時点で、日本で食用として使用することを目的とした遺伝子組換え作物の商業栽培はありません。)または遺伝子組換え農産物の非商業栽培国で栽培されたものであり、生産、流通過程で、遺伝子組換え農産物の栽培国からの輸入品と混ざらないことを確認していること
③ 生産、流通過程で、各事業者において遺伝子組換え農産物が含まれていないことが証明されており、その旨が記載された分別生産流通管理証明書を用いて取引を行っている場合
なお、行政の行う科学的検証および社会的検証の結果において、原材料に遺伝子組換え農産物が含まれていることが確認された場合には、不適正な表示となります。
「遺伝子組換えでない」はなくなる?
新たな遺伝子組換え表示制度の下では「遺伝子組換えでない」という従前通用していた表現ができなくなってしまうのではないかという不安の声を耳にすることがありますが、そうではないことは上記のとおりです。
もっとも、改正前は「遺伝子組換えでない」という表示が許容されていた、「分別生産流通管理をして、意図せざる混入を5%以下に抑えている大豆及びとうもろこし並びにそれらを原材料とする加工品」で、意図せざる混入がゼロではないものについては、新制度の下では、「遺伝子組換えでない」という表示ができなくなります。
食品関連事業者としての留意点・対応のポイント
分別生産流通管理の実施状況の確認
食品関連事業者等としては、義務表示ではなく、任意表示のルールが変わるだけだと甘く考えることは禁物です。
というのも、改正前のルールに基づき、意図せざる混入を5%以下に抑えられている大豆およびとうもろこしならびにそれらを原材料とする加工食品について、「遺伝子組換えでない」、「非遺伝子組換え」と表示していた食品関連事業者等は、2023年4月1日の改正食品表示基準施行後は、そのような表示はできなくなります。
そのため、分別生産流通管理を実施し、意図せざる混入が一切無いか、(5%以下であったとしても)存在しているかを自社として適切に確認することが重要です。確認の結果、意図せざる混入がわずかであっても存在していて、「遺伝子組換えでない」、「非遺伝子組換え」と表示している場合には、表示の変更が必要になります。
既存の在庫の確認
在庫に関しては、2023年4月1日より前に製造した在庫は処分する必要はなく、改正前の制度に基づいた表示をした食品(例えば、倉庫にある商品在庫)については、2023年4月1日の改正食品表示基準施行後も販売できるとされています。
ただし、「施行後に古い『遺伝子組換えでない』の表示(=意図せざる混入が5%まで許容)が流通することは消費者の正しい選択を誤らせるおそれがありますので、事業者はできる限り施行前までに改正後の食品表示基準に即した表示への切替えをお願いします」との呼びかけがなされています。
包材の表示の見直し・切り替え
包材(容器・パッケージなど)に関しては、2023年4月1日の改正食品表示基準施行後に改正前に作った包材をそのまま継続して使うことができるかは、分別生産流通管理の実施状況の確認結果によります。
例えば、適切に分別生産流通管理を行っているが、遺伝子組換え農作物の意図せざる混入がないことまでは担保できない農産物を使用する場合は、「遺伝子組換えでない」、「非遺伝子組換え」といった記載の包材は使用できなくなります。この場合には、適切に分別生産流通管理された旨(「分別生産流通管理済み」など)が記載された包材を新たに用意し、切り替える必要があります。
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