物権とは?
民法のルール・債権との違い・種類・
物権的請求権などを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「物権」とは、物を直接的に支配する権利をいいます。物権は原則として、債権に優先する強力な権利です。
法律上認められた物権には、主に以下の種類があります。
・所有権
・占有権
・用益物権(地上権、永小作権、地役権、入会権)
・担保物権(留置権、先取特権、質権、抵当権、非典型担保)物権を侵害された場合には、侵害の状況に応じて返還請求・妨害排除請求・妨害予防請求を行うことができます。これらの請求をする権利を「物権的請求権」といいます。
物権は、契約等によって発生・変更・消滅する場合があります。これらは「物権変動」と呼ばれます。
物権変動を第三者に対抗するためには、不動産については登記、動産については引渡しにより対抗要件を備えなければなりません。この記事では物権について、債権との違い・種類・物権的請求権などを解説します。
※この記事は、2024年7月10日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
物権とは
「物権」とは、物を直接的に支配する権利をいいます。物権は原則として、債権に優先する強力な権利であり、民法に定めがあります。
「物」とは
「物」とは、有体物をいいます(民法85条)。
有体物のうち、土地およびその定着物(建物など)は「不動産」に当たります(民法86条1項)。
不動産以外の有体物は「動産」に当たります(同条2項)。
不動産と動産では、対抗要件具備の方法などについて違いがあります(後述)。
物権と債権の違い
物権が物に対する権利である一方で、人に対する権利は「債権」と呼ばれています。
物権は、債権よりも強力な権利です。特に以下の3点について、債権とは異なる物権の特色が表れています。
- 物権の特徴
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① 直接支配性
債権は、人に何らかの行為をさせることによって、間接的に物などに対して影響力を及ぼすに過ぎません。
これに対して物権には、他人を介することなく、物を直接的に支配する効力があります。② 排他性(一物一権主義)
債権については、同じ物に関して同一内容の債権が複数存続することも認められます(例:二重譲渡)。
これに対して物権については、同じ物の上に同一内容の物権が複数存続することは認められません。③ 優先的効力
物権は原則として、その内容と矛盾する債権に優先します。ただし、対抗要件を備えた賃借権などの債権については、例外的に物権よりも優先される場合があります。
物権法定主義とは
物権は、民法その他の法律で定めるもののほか、当事者が合意によって創設することはできません(民法175条)。これを「物権法定主義」といいます。
ただし例外的に、以下のような物権が慣習上認められています。
- 温泉専用権(大審院昭和15年9月18日判決)
- 流水利用に関する水利権
- 非典型担保(後述)
主な物権の種類|10種類+αを分かりやすく解説!
民法では、以下の物権が定められています。そのほか、慣習上の担保権(=非典型担保)がいくつか認められています。
- 主な物権の種類
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① 所有権
② 占有権<用益物権>
③ 地上権
④ 永小作権
⑤ 地役権
⑥ 入会権<担保物権>
⑦ 留置権
⑧ 先取特権
⑨ 質権
⑩ 抵当権
所有権
「所有権」は、法令の制限内において、自由に物を使用・収益・処分できる権利です(民法206条)。
物権の中でも、所有権は最も強力な権利です。所有者はその所有物を自由に使ったり、他人に貸したり、売却したりすることができます。
なお土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶものとされています(民法207条)。
占有権
「占有権(せんゆうけん)」は、自分のために物を所持する権利です(民法180条)。
所有者ではない者に占有権が認められるケースもあります。例えば所有者Aが盗まれた時計をBが自分の物だと思って所持している場合、時計の所有者はAですが、Bに時計の占有権があります。
善意の占有者には物から生じた収益を取得する権利が認められているほか(民法189条)、所有権などの即時取得が認められることもあります(民法192条)。
また、占有の妨害等に対しては、各種の訴えを提起することが認められています(民法197条~202条)。
用益物権
「用益物権(ようえきぶっけん)」とは、他人の土地を一定の目的のために使用・収益する権利です。
民法では、以下の4つの用益物権が認められています。
- 地上権
- 永小作権
- 地役権
- 入会権
地上権
「地上権」とは、工作物または竹木を所有するため、他人の土地を使用する権利です(民法265条)。
地上権者は地主に対して地代を支払うのが一般的ですが、地代を無償とすることもできます。
例えば、他人の土地の上に建物を建築する際には、その土地を賃借するか、または地上権の設定を受けることが考えられます。
なお、建物の所有を目的とする地上権には、借地借家法の規定が適用されます。この場合、地上権者には強力な権利が認められます。
永小作権
「永小作権(えいこさくけん)」とは、小作料を支払って、他人の土地において耕作または牧畜をする権利です(民法270条)。永小作人は、地主に対して小作料を支払う義務を負います。
例えば、他人の土地を借りて牧場を経営する際には、その土地を賃借するか、または永小作権の設定を受けることが考えられます。
地役権
「地役権(ちえきけん)」とは、他人の土地を自分の土地の便益のために利用する権利です(民法280条)。
便益を受ける地役権者の土地を「要役地」、要役地の便益に供される土地を「承役地」といいます。
地上権や永小作権では原則として、対象となる土地を地主が使用することはできません。
これに対して地役権の場合、承役地は地主も利用することができます。
地役権の具体例としては、他人の土地を通行できる「通行地役権」や、他人の土地上に用水を通すことができる「用水地役権」などが挙げられます。
入会権
「入会権(いりあいけん)」とは、山林部などにおける住民の共同体などが、山林原野などの土地を総有し、伐木や採草などの共同利用を行う権利です。
入会権は元来、慣習によって認められた物権です。
民法では、共有の性質を有する入会権については共有の規定を適用し(民法263条)、共有の性質を有しない入会権については地役権の規定を適用するものとして(民法294条)、入会権を承認しています。
担保物権
「担保物権(たんぽぶっけん)」とは、債権を保全するために設定される物権です。
民法では、以下の4つの担保物権が定められているほか、慣習上認められた担保物権(=非典型担保)も存在します。
- 留置権
- 先取特権
- 質権
- 抵当権
なお、留置権と先取特権は法律上当然に発生しますが(=法定担保物権)、質権と抵当権は当事者の合意に基づいて発生します(=約定担保物権)。
留置権
「留置権(りゅうちけん)」とは、物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる権利です(民法295条)。
例えば、顧客が時計の修理業者に対して、壊れた時計の修理を依頼したとします。この場合、修理業者は修理した時計について留置権を有します。
時計を修理した修理業者は、顧客から修理代金の支払いを受けるまで、修理した時計の顧客に対する引渡しを拒むことができます。
他の担保物権と異なり、留置権者には、他の債権者よりも優先的に債権の弁済を受ける制度上の権利がありません。
ただし、留置物を競売した上で、競売代金の返還債務と相手方に対して有する債権を相殺できるため、事実上の優先弁済効が認められています。
先取特権
「先取特権(さきどりとっけん)」とは、債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(民法303条)。
先取特権は、「一般の先取特権」と「特別の先取特権」の2種類に大別されます。
① 一般の先取特権(民法306条)
債務者の総財産について発生する先取特権です。以下の原因によって生じた債権を有する者に認められます。
・共益の費用
・雇用関係
・葬式の費用
・日用品の供給
② 特別の先取特権
債務者の財産のうち、特定の財産についてのみ発生する先取特権で、「動産の先取特権」と「不動産の先取特権」の2種類があります。
(a) 動産の先取特権(民法311条)
・不動産賃貸の先取特権
→賃貸人は、不動産賃貸借に関する賃借人の債務を担保するため、目的物に備え付けられた賃借人の動産などについて先取特権を有します。
・旅館宿泊の先取特権
→旅館業者は、宿泊客が負担すべき宿泊料および飲食料を担保するため、その旅館にある宿泊客の手荷物について先取特権を有します。
・運輸の先取特権
→運送人は、旅客または荷物の運送賃および付随の費用を担保するため、運送人の占有する荷物について先取特権を有します。
・動産保存の先取特権
→動産の保存者は、動産の保存のために要した費用または動産に関する権利の保存・承認・実行のために要した費用を担保するため、その動産について先取特権を有します。
・動産売買の先取特権
→動産の売主は、動産の代価およびその利息を担保するため、その動産について先取特権を有します。
・種苗または肥料の供給の先取特権
→種苗または肥料の供給者は、代価およびその利息を担保するため、その種苗または肥料を用いた土地から使用後1年以内に生じた果実について先取特権を有します。
・農業労務の先取特権
→農業労務に従事する労働者は、最後の1年間の賃金に関し、その労務によって生じた果実について先取特権を有します。
・工業労務の先取特権
→工業労務に従事する労働者は、最後の3カ月間の賃金に関し、その労務によって生じた制作物について先取特権を有します。
(b) 不動産の先取特権(民法325条)
以下の原因によって生じた債権を有する者は、その債権を担保するため、対象不動産について先取特権を有します。
・不動産の保存
・不動産の工事
・不動産の売買
質権
「質権(しちけん)」とは、債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(民法342条)。
例えば、AがBに対して100万円を貸しており、その債権を担保するために、AがBから高級時計を質物として預かったとします。
その後、BがAに対する100万円の返済を怠った場合には、動産競売の手続きまたは鑑定人の評価に従った金額により、Aは高級時計を100万円の弁済に充当することができます。
なお、質権は動産だけでなく、不動産や権利に設定することも認められています。
抵当権
「抵当権(ていとうけん)」とは、債務者または第三者が占有を移転しないで担保に供した不動産につき、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(民法369条)。
抵当権の機能は質権と似ていますが、対象が不動産に限られている点や、抵当物の占有が抵当権者に移転しない点などが質権とは異なります。
なお抵当権の実行は、民事執行法に基づく担保不動産競売の手続きによります。
非典型担保|譲渡担保・仮登記担保・所有権留保など
民法で定められた上記の担保物権(=典型担保)以外に、慣習上の担保物権(=非典型担保)が認められています。
- 非典型担保の例
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・譲渡担保
→債権者が債務者から、所有権などの財産権を担保として形式上譲り受け、被担保債権が返済されたらその権利を返還する・仮登記担保
→被担保債権が不履行となった場合は担保物を代物弁済等に充てることを約し、その旨の仮登記を行う・所有権留保
→売買契約の目的物につき、所有権を形式上売主に残しておき、代金の支払いが不履行となった場合には売主が目的物を引き上げる
物権的請求権とは|物権を侵害された場合にできる請求
自らの物権を侵害された者は、侵害者に対して以下の請求ができると解されています。これらの請求を行う権利は「物権的請求権」と呼ばれています。
① 返還請求
侵害者が権原なく占有する者を、自己に返還するよう請求できます。
② 妨害排除請求
侵害者が占有以外の方法によって物権の行使を妨害している場合に、その妨害をやめるよう請求できます。
③ 妨害予防請求
侵害者によって自己の物権が妨害されるおそれがある場合に、そのおそれを取り除くよう請求できます。
物権変動とは
物権は、契約等によって発生・変更・消滅する場合があります。これらは「物権変動」と呼ばれます。
- 物権変動の例
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① 物権の発生
・売買によって不動産の所有権を取得した。
・相続によって不動産の所有権を取得した。
・時効によって不動産の所有権を取得した。② 物権の変更
・地上権の存続期間を変更した。
・抵当権の順位を変更した。③ 物権の消滅
・所有していた家屋が焼失した。
・所有していた時計を捨て、所有権を放棄した。
・時効によって不動産の所有権を失った。など
不動産の物権変動を第三者に対抗するためには、登記を備えなければなりません(民法177条)。
また、動産に関する物権の譲渡を第三者に対抗するためには、その動産の引渡しが必要です(民法178条)。