著作権譲渡とは?
著作権法のルールや
著作権譲渡契約の注意点などの
基本を分かりやすく解説!

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弁護士法人NEX弁護士
2015年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。経済産業省知的財産政策室や同省新規事業創造推進室での勤務経験を活かし、知的財産関連法務、データ・AI関連法務、スタートアップ・新規事業支援等に従事している。
この記事のまとめ

著作権譲渡とは、著作者(著作権者)が、自らが保有する著作権を譲受人に譲渡(移転)することをいいます。
著作権の譲渡契約は当事者の合意のみによって成立しますが、著作権の譲渡を第三者に対抗するには、著作権登録制度の利用が必要です。

この記事では、著作権譲渡について、その著作権法のルールと著作権譲渡契約の注意点について、基本からわかりやすく解説します。

ヒー

今回発注するイラスト、いつでも使えるように著作権は当社が持ちたいです。契約はどう書けばよいでしょうか?

ムートン

著作権を譲渡してもらうこと自体は口頭でも可能ですが、契約書にまとめておいた方が安全です。注意点を解説しましょう!

※この記事は、2024年9月2日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

著作権譲渡とは

著作権譲渡とは、著作者(著作権者)が、自らが保有する著作権を譲受人に譲渡(移転)することをいいます(著作権法61条1項)。著作権を取引の対象として活用する方法の1つといえます。

著作権とは

著作権とは、著作者(著作権者)がある著作物について有する、その財産的利益を保護するための権利です。著作権は、著作物を創作することにより、特に登録等の手続をしなくても自動で発生します(著作権法17条2項)。

著作権に含まれる権利(支分権)としては、以下の11の権利が挙げられます。

① 複製権(著作権法21条)
② 上演権・演奏権(同法22条)
③ 上映権(同法22条の2)
④ 公衆送信権・公衆伝達権(同法23条)
⑤ 口述権(同法24条)
⑥ 展示権(同法25条)
⑦ 頒布権(同法26条)
⑧ 譲渡権(同法26条の2)
⑨ 貸与権(同法26条の3)
⑩ 翻訳権・翻案権等(同法27条)
⑪ 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法28条)

ライセンス(利用許諾)との違い

著作権を取引の対象として活用する方法には、著作権の譲渡のほかに、著作権をライセンス(利用許諾)する方法も挙げられます(著作権法63条1項)。

著作権を譲渡する場合、著作者(著作権者)から譲受人に著作権が移転し、譲受人は、譲受後、譲り受けた著作権を自由に利用することができるのに対し、著作物をライセンスする場合、著作権を著作者(著作権者)に残したまま、ライセンシー(許諾を受ける人)に対し著作権の利用を許諾するのみとなります。

後者の場合、ライセンシーは、ライセンス契約等で定められた範囲内でのみ著作物を利用することができる(=全て自由に利用することはできない)という点で著作権の譲渡とは異なります。

また、著作権を譲渡すると、元の著作者(著作権者)は譲渡した著作権を利用することができなくなりますが、著作物のライセンスの場合は、一般的には、著作物のライセンス後も、著作者(著作権者)が自ら当該著作物を利用することや、さらに第三者に対し当該著作物をライセンスすることも可能です。

著作権譲渡に関する著作権法のルール

それでは、著作権譲渡に関する著作権法のルールについて見ていきます。

著作権の一部譲渡

著作権は、その全部を譲渡するだけではなく、その一部のみを譲渡することも可能です(著作権法61条1項)。著作権の一部の譲渡については、例えば、支分権の一部のみを譲渡する場合のほか、その内容、場所、時間等に制限を設けて譲渡することも可能と考えられています。このため、例えば、以下のような著作権の譲渡も可能です。

著作権の一部譲渡の例

・「複製権のみを譲渡する」
・「CD用に複製する権利のみを譲渡する」
・「東京都における演奏権のみを譲渡する」
・「今後5年間の演奏権を譲渡する」

また、著作権を譲渡する契約において、①翻訳権・翻案権等(著作権法27条)と、②二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法28条)が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡者に留保されたものと推定されます(同法61条2項)。

この規定は、経済的に弱者の地位にある著作者を保護することを趣旨とする規定であるなどと説明されていますが、いずれにしても、これらの権利についても譲渡の目的に含ませる場合には、著作権譲渡契約書にその旨を特に規定する必要がありますので、留意が必要です(「権利譲渡」参照)。

対抗要件

著作権の譲渡契約は諾成契約ですので、特段の要式等に従うことは不要で、当事者の合意のみによって成立します。

もっとも、著作権の移転を第三者(登録が存在しないことを主張することについて正当な利益を有する第三者)に対抗するには、著作権登録制度の利用が必要です(著作権法77条1号)。このため、例えば、著作者Aから、譲受人B・譲受人Cに対し、著作権が二重譲渡された場合、譲受人B・譲受人Cの優劣は、登録の先後で決することになります。

著作権の譲渡契約・契約書作成に関する注意点

以上、著作権譲渡に関する著作権法のルールを見てきましたが、ここからは、当該ルールも踏まえて、著作権譲渡契約を作成する際の注意点について見ていきます。

権利譲渡

著作権の一部譲渡」に記載のとおり、著作権はその一部のみを譲渡することも可能ですが、著作権の一部のみを譲渡する場合、どのような権利が譲渡されているかについて当事者の認識に齟齬が生じないよう、著作権譲渡契約において、譲渡する権利の内容を明確に規定する必要があります。

また、「著作権の一部譲渡」に記載のとおり、①翻訳権・翻案権等(著作権法27条)と、②二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法28条)については、譲渡の目的として特掲されていないときは、譲渡者に権利が留保されたものと推定されますので(著作権法61条2項)、これらの権利も譲渡の対象とする場合は、著作権譲渡契約において明確に規定する必要があります。

特に、ある著作物に関する全ての著作権譲渡するときは、「本件著作物に関する全ての著作権を譲渡する」ではなく、「本件著作物に関する全ての著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む。)を譲渡する」と規定しなければ、①翻訳権・翻案権等と、②二次的著作物の利用に関する原著作者の権利は、譲渡されていないと推定されることになりますので、特に注意が必要です。

譲渡対価

著作権譲渡契約では、著作権の譲渡対価についても、規定します。

著作権の譲渡を主な取引の目的とする典型的な著作権譲渡契約であれば、著作権の譲渡対価についても忘れず規定されると考えられます。しかし、著作権の譲渡は、例えば、ある成果物の制作を注文・委託する請負契約業務委託契約において、当該成果物の創作者であり著作者である請負人・業務受託者から、注文者・業務委託者に対して、当該成果物の著作権を譲渡する場合等にも行われることが多くあります。

この場合、請負契約等において、請負代金や業務委託料については規定されているものの、著作権の譲渡対価については特段の規定がされていないことも多いかと思います。この場合、注文者側としては、請負代金等に著作権譲渡の対価も含まれていると思っており、一方、請負人側は、請負代金等とは別に著作権譲渡の対価を請求できると思っているなど、当事者の認識が一致しておらず、紛争になることも想定されます。

このため、請負契約等において、成果物の著作権の譲渡について規定する場合には、請負代金等が著作権譲渡の対価を含む金額であるのか、請負代金等とは別に著作権譲渡の対価を請求することができるかについて、請負契約等において、明確にしておくことが重要です。

移転登録

対抗要件」記載のとおり、著作権の譲渡は当事者の合意のみによって成立しますが、著作権の移転を第三者に対抗するためには、登録が必要です(著作権法77条1号)。このため、特に譲受人の立場では、必要に応じ、著作権移転の登録ができるよう、譲渡人の協力義務費用負担等について、著作権譲渡契約において、定めておくことが考えられます。

なお、著作権の移転の登録は、原則として、登録権利者(譲受人)と登録義務者(譲渡人)が共同して申請する必要がありますが、登録義務者(譲渡人)の承諾書がある場合は、登録権利者(譲受人)が単独で申請することができます。

その他、登録の手続については、以下の資料が参考になります。

参考:
文化庁著作権課「初めて登録申請される方へ」
文化庁著作権課「登録の手引き-著作権に関する登録をお考えの方へ」(令和5年4月)

著作者人格権の扱い

著作者(著作権者)が、著作権を譲渡することができることについては上記のとおりですが、著作者が有するもう1つの権利である著作者人格権は、一身専属権であるため、他者に譲渡することができません(著作権法59条)。

著作者人格権

① 公表権(著作権法18条)
② 氏名表示権(同法19条)
③ 同一性保持権(同法20条)

このため、著作者が著作権を譲渡すると、著作権は譲受人に移転するものの、著作者人格権は引き続き著作者(譲渡人)に帰属したままということになります。この場合、譲受人の立場に立つと、著作権の譲渡を受けても、著作者が著作者人格権を行使すれば、著作権の自由な利用に影響を生じることになり、安心して著作権の譲渡を受けることができないことにもなりかねません。

そこで、譲受人の立場では、著作権譲渡契約において、「譲渡人は、本件著作物に関する著作者人格権を行使しない」旨の著作者人格権の不行使特約を設けることが考えられます。

著作権が帰属することの保証

著作権とは」に記載のとおり、著作権は、著作物を創作することにより、特段登録等の手続を要することなく自動で発生する権利であり(著作権法17条2項)、かつ、「対抗要件」に記載のとおり、著作権の譲渡契約は当事者の合意のみによって成立し特段登録等の手続を要しないため、譲受人の立場では、譲渡人が本当にある著作物の著作者や著作権者であるかを確認する方法がありません

このため、譲受人の立場では、著作権譲渡契約において、対象著作物の著作権が譲渡人に帰属することについて、譲渡人に表明保証してもらうことが考えられます。

利用許諾していないことの保証

著作権法2020年改正において、著作物を利用する権利に関する当然対抗制度が導入されました(著作権法63条の2)。

著作物を利用する権利に関する当然対抗制度とは、著作者(著作権者)Aから著作物のライセンスを受けているライセンシーBが、当該著作者Aが譲受人Cに著作権を譲渡しても、登録等の特段の手続を要することなく、ライセンシーBは当然に当該著作物に関する利用権を譲受人Cに対抗することができ、引き続き当該著作物の利用を継続することができることとする制度です。

著作権法2020年改正前は、ライセンシーは、著作者(著作権者)とライセンス契約を締結し著作物を利用していても、著作権が譲渡されると、当該著作物を利用する権利(利用権)を譲受人に対抗することができず、当該著作物の利用を継続することができなかったところ、著作物の利用を促進する観点等のため設けられた制度です。

本制度は、ライセンス契約の安定性に資する制度といえますが、一方、著作権を譲り受ける者からすると、譲渡人が、著作権の譲渡契約以前に、ライセンシーに著作物の利用をライセンスしていると、当該ライセンシーからその利用権を対抗されることとなるため、著作権の自由な利用に支障をきたす可能性も考えられます。

このため、譲受人の立場では、著作権譲渡契約において、対象著作物を他者に利用許諾していないことについて、譲渡人に表明保証してもらうことが考えられます。

第三者の権利侵害

仮に、著作者(著作権者)から譲受人に譲渡された著作権が第三者の著作権等の権利を侵害するものであった場合、譲受人が当該著作権を利用する行為は、当該第三者の著作権等の権利を侵害することとなり、譲受人が当該第三者から差止請求や損害賠償請求を受ける可能性も考えられます。

このため、譲受人の立場では、著作権譲渡契約において、対象著作物が第三者の著作権やその他の権利を侵害していないことについて、譲渡人に表明保証してもらうことが考えられます。

この記事のまとめ

著作権譲渡の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

中山信弘「著作権法[第4版]」(有斐閣、2023年)

半田正夫=松田政行編「著作権法コンメンタール2[第2版]」(勁草書房、2015年)