解雇予告手当とは?
支給すべきケース・計算方法・
労働基準法のルール・
支給しない場合の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「解雇予告手当」とは、使用者が労働者を事前に予告せず解雇する場合、または1~29日前に予告して解雇をする場合に支払うべき手当です。
労働者が次の仕事を見つけるまでの生活保障の目的で、労働基準法によって使用者に解雇予告手当の支払いが義務付けられています。事前予告なし、または予告期間30日未満で解雇する場合でも、例外的に以下のケースにおいては、解雇予告手当の支払いが不要となります。ただし、労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。
・天災事変その他やむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合
・労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合解雇予告手当の金額は、以下の式によって計算します。
解雇予告手当=平均賃金×対象日数解雇予告手当を支払わないと、労働基準監督署による是正勧告や刑事罰の対象となります。労働者との間でトラブルに発展するリスクも高まるので、解雇予告手当の支払いが必要な場合は確実に支払いましょう。
また、解雇については厳しい規制が設けられているので、そもそも安易な解雇は避けるべきです。この記事では解雇予告手当について、企業が知っておくべき労働基準法のルールを解説します。
※この記事は、2025年2月7日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
解雇予告手当とは
「解雇予告手当」とは、使用者が労働者を事前に予告せず解雇する場合、または1~29日前に予告して解雇をする場合に支払うべき手当です。
労働者が解雇を知らされてから、次の仕事を見つけるまでには時間がかかります。そのため、労働基準法では原則として、解雇日の30日前に予告することを使用者に義務付けています。
しかし何らかの事情によって、労働者を即日で解雇せざるを得ない場合や、十分な予告期間を設けられない場合もあります。このようなケースにおいては、次の仕事を見つけるまでの生活費を保障する目的で、使用者は労働者に対して解雇予告手当を支払わなければなりません。
解雇予告手当を支給すべきケース
使用者は労働者に対して、以下の場合に解雇予告手当を支払う必要があります。
- 事前予告をせずに解雇をする場合
- 1~29日前に予告して解雇をする場合
正社員だけでなく、パートやアルバイトなどに対しても、上記のいずれかに該当する場合は解雇予告手当を支払わなければなりません。
事前予告をせずに解雇をする場合
事前予告をせず、労働者を即日で解雇する場合には、使用者は労働者に対して解雇予告手当を支払わなければなりません。
この場合の解雇予告手当の金額は、30日分以上の平均賃金相当額とされています(労働基準法20条1項)。
1~29日前に予告して解雇をする場合
解雇の事前予告をする場合でも、予告の時期が解雇日の1~29日前であるときは、使用者は労働者に対して解雇予告手当を支払わなければなりません。
この場合の解雇予告手当の金額は、30日から予告期間分を短縮した日数分以上の平均賃金相当額とされています(労働基準法20条2項)。
パート・アルバイトにも支給は必要?
解雇予告手当の支給対象となるのは、事前の予告なく解雇され、または1~29日前に予告を受けて解雇される全ての労働者です。
「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用され、賃金を支払われる者をいいます(労働基準法9条)。すなわち、企業などと雇用契約を締結している人は、幅広く労働者に含まれます。
正社員だけでなく、パートやアルバイトも「労働者」に当たります。そのほか、契約社員や嘱託社員なども「労働者」です。
したがって、パートやアルバイトなどを解雇する際にも、事前予告をしないか、または予告期間が1~29日である場合は、解雇予告手当を支払わなければなりません。
解雇予告手当を支給しなくてよいケース
以下のいずれかに該当するケースにおいては、30日以上の予告期間を設けない場合でも、労働者に対して解雇予告手当を支払う必要がありません。
① 天災事変その他やむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合
② 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
③ 解雇予告を要しない労働者である場合
※①および②については、労働基準監督署長の認定が必要
天災事変その他やむを得ない事由のために、事業の継続が不可能となった場合
天災事変その他やむを得ない事由によって、事業全部または大部分の継続が不可能となった場合には、30日以上の予告期間を設けない場合でも、解雇予告手当の支払いが不要とされています(労働基準法20条1項但し書き)。
このような場合には、解雇について使用者に責任があるとは言えないためです。
上記の事由によって解雇予告手当を支払わない場合は、その事由について労働基準監督署長の認定を受けなければなりません(同法20条3項・19条2項)。
労働基準監督署長の認定を受けない場合は、解雇予告手当の支払いが必要です。
労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合も、予告期間の有無や長さにかかわらず、解雇予告手当の支払いが不要となります(労働基準法20条1項但し書き)。
「労働者の責に帰すべき事由」とは、労働者の故意過失またはこれと同視すべき事由をいいます。例えば以下のような例が挙げられます。
- 労働者の責に帰すべき事由の例
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・事業場内における窃盗、横領、傷害などの刑法犯
・事業場外における刑法犯のうち、当該事業場の名誉や信用を著しく失墜するもの、取引関係に悪影響を与えるもの、または労使間の信頼関係を失わせるもの
・職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす行為
・雇入れ時の経歴詐称
・他の事業場への転職
・正当な理由のない長期間の無断欠勤
・勤怠不良であり、何度注意を受けても改めない
など
労働者の責に帰すべき事由を理由に解雇予告手当を支払わない場合も、その事由について労働基準監督署長の認定を受けなければなりません(同法20条3項・19条2項)。認定を受けないときは、解雇予告手当の支払いが必要です。
解雇予告を要しない労働者である場合
以下の労働者については、例外的に解雇予告が不要とされています(労働基準法21条)。
- 解雇予告を要しない労働者
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① 日々雇い入れられる者(=日雇い労働者)
※1カ月を超えて引き続き使用された者を除く② 2カ月以内の期間を定めて使用される者
※所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った者を除く③ 季節的業務に4カ月以内の期間を定めて使用される者
※所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った者を除く④ 試の使用期間中の者(=試用期間中の者)
※14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く
上記に該当する労働者に対しては、解雇予告をしなかった場合でも、解雇予告手当を支払う必要はありません。
解雇予告手当の金額の計算方法
使用者が労働者に対して支払うべき解雇予告手当の金額は、以下の手順で計算します。
① 平均賃金を計算する
② 対象日数を計算する
③ 解雇予告手当の金額を計算する
平均賃金を計算する
まずは、以下の式によって平均賃金を計算します。
- 平均賃金の計算方法
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平均賃金=(対象期間中の賃金総額-控除すべき賃金)÷対象期間の総日数
<対象期間>
直前の賃金締切日以前の3カ月間から、以下の期間を除いたもの
・産前産後休業期間
・使用者の責に帰すべき事由によって休業した期間
・育児休業期間
・介護休業期間
・試用期間<平均賃金から控除すべき賃金>
・臨時に支払われた賃金
・3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
・通貨以外のもので支払われた賃金で、一定の範囲に属しないもの
(例)
対象期間(3か月間)に支払われた賃金の総額が92万円、対象期間の総日数が92日の場合
→平均賃金は1万円(=92万円÷92日)
なお、解雇予告手当には最低保証額があります。日給・時間給・出来高払いの労働者の場合、上記で計算した金額と最低保証額のうち高い方の額が平均賃金となります。
最低保証額=直近3カ月の賃金総額÷直近3カ月の労働日数×0.6
対象日数を計算する
次に、以下の式によって解雇予告手当の対象日数を計算します。
対象日数=30日-解雇予告日から解雇日までの日数
(例)
解雇予告をせず、即日解雇した場合
→対象日数は30日
10日前に予告したうえで解雇した場合
→対象日数は20日(=30日-10日)
解雇予告手当の金額を計算する
最後に、以下の式によって解雇予告手当の金額を計算します。
解雇予告手当の金額=平均賃金×対象日数
(例)
平均賃金が1万円、対象日数が30日の場合
→解雇予告手当の金額は30万円(=1万円×30日)
平均賃金が1万円、対象日数が10日の場合
→解雇予告手当の金額は10万円(=1万円×10日)
解雇予告手当を支払うべき時期
行政通達によれば、解雇予告手当は解雇の申し渡しと同時に支払うべきであるとされています(昭和23年3月17日基発464号)。
しかし実務上は、最後の賃金と同時に解雇予告手当を支払うなどの運用がよく見られます。
このような取り扱いも法令違反とは言い切れません。後述する最高裁判例の基準に照らすと、解雇日までに解雇予告手当を支払っておけば、実際に問題が生じるリスクは少ないでしょう。
解雇予告手当について、時効の問題は生じるのか?
解雇予告手当について時効の問題が生じるかどうかについては、法解釈が分かれています。
行政通達においては、解雇の意思表示に際して支払わなければ効力を生じないため、解雇予告手当に関する債権債務関係は発生せず、時効の問題は生じないと解されています(昭和27年5月17日基収1906号)。
これに対して、解雇の予告をしない場合や、予告期間が30日に満たない場合には、労働者が使用者に対して解雇予告手当請求権を取得すると解する説も存在します。
この説によれば、解雇予告手当請求権は、行使することができる時から2年間行使しないと時効によって消滅します(労働基準法115条)。
解雇予告手当を支払わないとどうなる?
支払うべき解雇予告手当を支払わずに労働者を解雇した場合に、その解雇が有効であるかどうかについても諸説あります。
最高裁昭和35年3月11日判決では、解雇予告手当を支払わずに即時解雇をした事案が問題になりました。
最高裁は、即時解雇としては効力を生じないものの、使用者が即時解雇を固執する趣旨でないかぎり、通知後30日を経過するか、または解雇予告手当を支払った時に解雇の効力が生ずると判示しました。
上記最高裁判例の解釈によれば、遅くとも解雇日までに解雇予告手当を支払えば、予定どおりに労働者を解雇できます。
また、解雇予告手当の支払いが遅れたとしても、支払った時点で解雇の効力が生じることになります。
ただし、解雇予告手当の支払いを拒否したり、支払いがあまりにも遅れたりすると、労働基準監督官による是正勧告や刑事罰を受けるおそれがあるので注意が必要です。
解雇に関するルールは厳格|安易な解雇は避けるべき
解雇予告手当を支払えば、どんなときでも即日解雇ができるというわけではありません。
日本の労働法では、解雇に関して厳しい規制が設けられています。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、無効と判断されてしまいます(=解雇権濫用の法理。労働契約法16条)。
解雇権濫用の法理は極めて厳格に運用されており、使用者の一方的な都合による解雇は認められません。
労働者の重大な非違行為を理由に行う懲戒解雇や、極度の経営不振によってやむを得ず行う整理解雇など、解雇が認められるケースは限られています。
企業としては、安易に労働者を解雇するのではなく、目的に応じた代替手段を検討するのが賢明です。
例えば人件費を削減したい場合は、役員報酬のカットや希望退職者の募集、業務の効率化などの代替手段が考えられます。
特定の労働者に辞めてもらいたい場合は、解雇する前に退職勧奨を試みると、穏便に退職してもらえる可能性があります。
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