従業員代表(労働者代表)とは?
役割・選出方法・注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「従業員代表(労働者代表)」とは、事業場等における労働者の過半数を代表する者をいいます。
従業員代表を選出する必要があるのは、労使協定を締結する場合や、就業規則を作成・変更する場合などです。これらのケースにおいて、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には、労働者に従業員代表を選出させる必要があります。
従業員代表は、選出の目的を明らかにした上で、投票・挙手などの民主的な手続きによって選出されなければなりません。また、管理監督者や使用者の意向に基づいて選出された者は、適法な従業員代表として認められません。
従業員代表であることや、従業員代表として正当な行為をしたことを理由に、会社が従業員代表に対して不利益な取り扱いをすることは禁止されます。また、会社は従業員代表が円滑に事務を遂行できるように、必要な配慮を行うことが義務付けられています。
従業員代表の選出方法や取り扱いなどに不適切な点があると、労働者側との間でトラブルに発展するおそれがあります。労使協定の締結時や就業規則の作成・変更時には、労働基準法や関連法令の規定を踏まえて適切にご対応ください。
この記事では、「従業員代表(労働者代表)」について、役割・選出方法・注意点などを分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年5月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
従業員代表(労働者代表)とは
「従業員代表(労働者代表)」とは、事業場等における労働者の過半数を代表する者をいいます。
労働基準法などの法令により、一定の場合には従業員代表との間で合意を締結し、または従業員代表の意見を聴くことが求められています。
従業員代表と労働組合の違い
従業員代表と同様に、会社と対峙して交渉などを行う主体として「労働組合」があります。
ただし従業員代表と労働組合は、主に以下の各点において異なります。
- 従業員代表は個人であるのに対して、労働組合は組合員によって構成される団体です。
- 団体交渉などの団体行動権は、労働組合のみに認められています。
- 従業員代表は常に、事業場等の労働者の過半数を代表する者です。これに対して労働組合は、必ずしも事業場の労働者の過半数が所属しているとは限りません。
従業員代表の主な役割
従業員代表の役割は、事業場等における労働者の意見を取りまとめた上で、会社との間で折衝を行うことです。
後述するように従業員代表は、会社との間で労使協定を締結し、または会社が就業規則や寄宿舎規則を作成・変更する場合に選出されます。
労使協定・就業規則・寄宿舎規則は、いずれも事業場等における労働条件を定めるものです。従業員代表には、会社の主張に対して労働者側の要求を提示し、労働条件の合理化を目指して交渉することが求められます。
従業員代表を選出すべき場合
従業員代表を選出する必要があるのは、以下のいずれかに該当する場合です。
① 労使協定を締結する場合
事業場において、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には、従業員代表が労使協定の締結当事者となります。
<労使協定を締結すべき場合の例>
・使用者が委託を受けて労働者の貯蓄金を管理する場合(労働基準法18条2項)
・1年単位の変形労働時間制を導入する場合(就業規則に定めた場合は届け出不要。同法32条の4第1項)
・常時使用する労働者が30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店の事業において、労働者を1日10時間まで労働させる場合(同法32条の5第1項)
・労働者に時間外労働または休日労働をさせる場合(=36協定。同法36条1項)
・事業場外みなし労働時間制について、所定労働時間以外のみなし労働時間を定める場合(みなし労働時間が法定労働時間以内の場合は届け出不要。同法38条の2第2項)
・専門業務型裁量労働制を導入する場合(同法38条の3第1項)
・賃金の一部を控除して支払う場合(法定控除を除く。同法24条1項)
・1か月単位の変形労働時間制を導入する場合(同法32条の2第1項)
・フレックスタイム制を導入する場合(同法32条の3第1項)
・休憩を分散して付与する場合(同法34条2項)
・代替休暇制度を導入する場合(同法37条3項)
・時間単位の有給休暇を付与する場合(同法39条4項)
・有給休暇の計画的付与を行う場合(同条6項)
・有給休暇中の賃金を標準報酬日額で支払う場合(同条9項)
・育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇を取得できない労働者の範囲を定める場合(育児介護休業法6条1項、12条2項、16条の3第2項、16条の6第2項)
・時間外免除、短時間勤務を適用しない労働者の範囲を定める場合(同法16条の8第1項、23条1項)
など
② 就業規則を作成・変更する場合
常時10人以上の労働者を使用する事業場において、就業規則を作成または変更する際には、労働者側の意見を聴かなければなりません。労働者の過半数で組織する労働組合がない場合には、従業員代表の意見を聴く必要があります(労働基準法90条1項)。
なお、就業規則の作成・変更を労働基準監督署へ届け出る際には、従業員代表(または労働者の過半数で組織する労働組合)の意見書の添付が必要です(同条2項)。
③ 寄宿舎規則を作成・変更する場合
事業の附属寄宿舎に労働者を寄宿させている場合において、会社が寄宿舎規則のうち以下の事項を新たに定め、または変更する際には、従業員代表の同意を得なければなりません(同法95条2項)。
・起床、就寝、外出および外泊に関する事項
・行事に関する事項
・食事に関する事項
・安全および衛生に関する事項
従業員代表の選出方法
従業員代表は、労使協定を締結する者を選出することなど目的を明らかにした上で、投票・挙手などの方法による手続きで選出しなければなりません(労働基準法施行規則6条の2第1項第2号)。
事業場の労働者の過半数を代表する者という性質上、従業員代表は民主的な手続きに従って選出する必要がある点に留意しましょう。
従業員代表になれない者
以下のいずれかに該当する者は、従業員代表になることができません。
① 監督または管理の地位にある者(管理監督者)
② 使用者の意向に基づき選出された者
監督または管理の地位にある者(管理監督者)
労働基準法では、監督または管理の地位にある労働者(=管理監督者)につき、労働時間・休憩・休日に関する規定を適用除外としています(同法41条2号)。
管理監督者は、従業員代表になることが認められていません(労働基準法施行規則6条の2第1項第1号)。経営者と一体的な地位にあるため、事業場の労働者を代表するのにふさわしくないからです。
管理監督者に該当するかどうかは、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 職務内容
- 責任と権限(特に部下の人事権の有無)
- 労働時間に関する裁量
- 管理監督者にふさわしい賃金等の待遇の有無
使用者の意向に基づき選出された者
使用者の意向に基づき選出された者は、従業員代表として認められません(労働基準法施行規則6条の2第1項第2号)。
従業員代表は、事業場の労働者を代表して、会社と対等に交渉すべき立場にあります。会社の意向に基づいて選出された者は、会社の意向を忖度するなど対等な交渉が期待できないため、従業員代表の資格がないとされています。
従業員代表の取り扱いに関する使用者の義務
労働基準法施行規則では、従業員代表の取り扱いにつき、使用者に以下の義務を課しています。
① 従業員代表であること等を理由とする不利益な取り扱いの禁止
② 従業員代表としての事務を円滑に遂行できるように配慮する義務
従業員代表であること等を理由とする不利益な取り扱いの禁止
使用者は、労働者が従業員代表であること、従業員代表になろうとしたこと、または従業員代表として正当な行為をしたことを理由として、当該労働者に対して不利益な取り扱いをしてはいけません(労働基準法施行規則6条の2第3項)。
- 従業員代表に対する不利益な取り扱いの例
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・解雇
・降格
・出勤停止
・減給
・閑職への配置転換
・賞与の減額
など
従業員代表としての事務を円滑に遂行できるように配慮する義務
使用者は、従業員代表がその事務を円滑に遂行できるように、必要な配慮を行わなければなりません(労働基準法施行規則6条の2第4項)。
- 使用者が行うべき配慮の例
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・労働者の意見を集約するために必要な事務機器(イントラネットや社内メールなど)の提供
・事務を行うスペース(会議室など)の提供
など
従業員代表に関する会社の注意点
会社が従業員代表を選出させ、労使協定等に関する交渉を行うに当たっては、特に以下の各点につきご注意ください。
① 従業員代表は事業場ごとに選出する
② 従業員代表は労働者側主導で選ばせる
従業員代表は事業場ごとに選出する
従業員代表は、事業場ごとに選出する必要があります。
「事業場」とは、1個の事業を行っている場所のことです。原則として同一の場所にある事業所等(店舗やオフィスなど)が1つの事業場とされますが、出張所や支所などで規模が著しく小さいものについては、直近上位の機構と一括して1つの事業場と取り扱われることがあります。
例えば全国各地に事業場を有する会社が、会社全体で統一的に適用される労使協定を締結するとします。この場合、事業場ごとに従業員代表を選出した上で、各従業員代表との間で個別に労使協定を締結しなければなりません。
就業規則の作成・変更については、常時10人以上の労働者を使用する事業場においてのみ、従業員代表の意見を聴くことが義務付けられています。
したがって、常時使用する労働者の数が10人以上の事業場と9人以下の事業場が混在している場合には、10人以上の事業場においてのみ従業員代表を選出すれば足ります。
なお、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があれば、労使協定の相手方はその労働組合となりますが、過半数の判定は事業場ごとに行います。
したがって、労働者の半数以上が労働組合に所属していない事業場では、従業員代表との間で労使協定を締結する必要がある点にご注意ください。
従業員代表は労働者側主導で選ばせる
使用者の意向に基づいて選出された者は、従業員代表として認められません。そのため、会社は従業員代表の選出手続きに関与せず、労働者側主導で従業員代表を選出させましょう。
不適切な選出をすると、労使協定が無効になるおそれあり
特に従業員代表との間で労使協定を締結する場合、従業員代表が管理監督者であるか、または会社の意向によって選出された事情が認められると、労使協定が無効となってしまいます。
労使協定が無効になると、労使協定に基づく労働条件が違法となり、会社は労働基準監督官による行政指導を受ける可能性が高いです。また、悪質なケースでは刑事罰が科される可能性もあります。
さらに、労働者側から会社の民事責任を追及されたり、会社に対する信頼を失った労働者が相次いで離職したりする事態にもなりかねません。
選出方法などに関する記録を残すべき
従業員代表が適切な方法によって選出されたことを示すためには、選出方法などに関する記録を残しておくべきです。
例えば、従業員代表を選出した会議などの議事録を労働者側に作成させた上で、会社に提出させることが考えられます。また、実際に従業員代表として選出された労働者については、その当時の労働条件などを立証できるようにしておきましょう(管理監督者に該当しないことを示すため)。
従業員代表の選出方法は、労働基準監督官の調査における指摘や、労働者側とのトラブルのリスクが高いポイントといえます。会社が労務トラブルに巻き込まれるリスクを適切にコントロールするため、労働基準法や関連法令を踏まえた適切な対応を心がけましょう。
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