不競法における商品形態の模倣とは?
禁止行為・保護期間・模倣行為への対応などを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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不競法2条1項3号では、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争として規定しており、差止請求や損害賠償請求等の対象としています。
もっとも、不競法上、他人の商品の形態を模倣しても不正競争とならない場合が規定されており、特に、日本国内で最初に販売された日から3年を経過した商品を模倣しても不正競争とならない点は注意が必要です。
この記事では、商品形態の模倣行為について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年4月4日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・不競法…不正競争防止法
目次
不競法における商品形態の模倣とは
不競法では、他人の商品の形態(デザイン)を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争として規定しています(不競法2条1項3号)。
昨今の複製技術等の進展もあり、他人の商品の形態を模倣することは極めて容易になっており、コストも抑えることができます。また、他人の人気のある商品のみを模倣すれば、製造した商品が売れないといったリスクを回避することもできます。
一方、模倣者に先行して商品を販売した者からすれば、個性的な商品を開発するために、資金や労力を投入していますし、必ずしも開発した全ての商品がよく売れることにもなりません。
このように、仮に商品の形態の模倣に対し何らの保護も与えられていない場合には、模倣者はコストやリスクを抑えてビジネスができる一方、先行者は大きなコストやリスクを負担していることになりますので、両者の競争環境が著しく不公正になってしまいますし、最終的には、資金や労力を投入して新しい商品を開発しようという意欲を減退させることになってしまいます。
そこで、不競法2条1項3号では、先行者が投下資本を回収できるようにするために、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為を不正競争とし、被侵害者に差止請求権や損害賠償請求権を与えています。
過去の裁判例では、例えば、以下のような商品間において、不競法2条1項3号が適用されています。
- 不競法2条1項3号が適用された例
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① タオルセット
(原告の商品)(商品の形態の模倣が認められた例)
引用元|大阪地判平成10年9月10日(平成7(ワ)10247)中の「添付文書1」
② サロペット(左は商品の形態の模倣が認められた例・右は原告の商品)
引用元|東京地判平成30年4月26日(平成27(ワ)36405)中の「添付文書1」
③ 婦人用コート(原告の商品)
(商品の形態の模倣が認められた例)
商品形態の模倣の要件
ここでは、どのような行為を行うと、不競法2条1項3号の不正競争となるのか、その要件について、説明します。
商品の形態とは
1つ目の要件が、模倣される対象が「商品の形態」であることです。
「商品の形態」については、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう」と定義されています(不競法2条4項)。
もっとも、商品の形態に当たりそうなものであっても、「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」は、「商品の形態」に当たらないとされています(不競法2条1項3号かっこ書)。
当該商品の機能を確保するために不可欠な形態であるということは、その形態をとらない限り、ある商品を作り上げ市場に参入することもできないということとなりますので、そのような形態について不競法2条1項3号による保護を認めると、むしろ健全な競争環境を損なってしまう可能性があり、不競法2条1項3号の保護対象から除外されています。
また、裁判例上、以下のように、ありふれた形態についても、これを保護することは、先行者の投下資本の回収という不競法2条1項3号の趣旨が妥当しないため、同号の保護対象にはならないと考えられています。
「……不競法2条1項3号の趣旨に照らすならば、同号によって保護される「商品の形態」とは、商品全体の形態をいい、その形態は必ずしも独創的なものであることを要しないが、他方で、商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には、特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから、このようなありふれた形態は、同号により保護される「商品の形態」に該当しない……。そして、商品の形態が、不競法2条1項3号による保護の及ばないありふれた形態であるか否かは、商品を全体として観察して判断すべきであり、全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出してそれぞれがありふれたものであるかどうかを判断し、その上で、ありふれたものとされた各形状を組み合わせることが容易かどうかによって判断することは相当ではない。」
東京地判平成24年12月25日判時2192号122頁
模倣とは
2つ目の要件が、他人の商品の形態を「模倣」することです。
「模倣」については、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」と定義されています(不競法2条5項)。
この定義から、「模倣」といえるためには、①依拠性と、②実質的同一性が必要と理解されています。
まず、①依拠性の要件があるため、独自に商品を創作したところ、たまたま他人の商品に似たものになってしまったといった場合には、不正競争にはなりません。
また、②実質的同一性については、裁判例では、以下のように、総合的に判断するものと考えられています。
「商品の形態を比較した場合、問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分があるとしても、当該相違部分についての改変の内容・程度、改変の着想の難易、改変が商品全体に与える効果等を総合的に判断した上で、その相違がわずかな改変に基づくものであって、商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見て些細な相違にとどまると評価されるときには、当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべきである。」
知財高判平成26年2月26日(平成25年(ネ)10075、平成25年(ネ)10077)
商品の譲渡等
3つ目の要件が他人の商品の形態を模倣した商品を「譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する」ことです。
不競法2条1項3号が適用されるためには、他人の商品の形態を模倣した商品を作るだけでは足りず、模倣した結果出来上がった商品を譲渡等することが必要です。
なお、2023年3月に閣議決定された「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」では、以上の行為に加え、「電気通信回線を通じて提供する行為」も不正競争の対象とされています。これは、メタバース等、デジタル空間における模倣行為を不正競争の対象とすることを目的とする改正案とされています。今後の動向が注目されます。
商品形態の模倣に関する保護期間
以上の不競法2条1項3号による商品の形態の保護は、「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」については及びません(不競法19条1項5号イ)。
「不競法における商品形態の模倣とは」に記載のとおり、不競法2条1項3号の趣旨は、先行者の投下資本の回収を図るためといえます。この点からすれば、先行者に、不競法2条1項3号による保護が与えられるべき期間は、投下資本回収のために必要な期間に限られることになります。
そこで、(先行者の投下資本回収のための期間を一律に設定することは本来困難なことですが、)「日本国内において最初に販売された日から起算して3年」を保護期間として設定したのです。
なお、「最初に販売された日」については、一般的には商品の譲渡を開始した日をいいますが、以下のとおり少し前倒しをしたとも考えられる裁判例もあります。不競法2条1項3号の活用にあたり、保護期間内にあるか否かはとても重要なポイントになりますので、この裁判例にも十分留意が必要です。
「保護期間の終期が定められた趣旨にかんがみると、保護期間の始期は、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時であると認めるのが相当である。なぜなら、この時から、先行開発者は、投下資本回収を開始することができ得るからである。」……
知財高判平成28年11月30日判時2338号96頁
「控訴人らは、不競法19条1項5号イの「最初に販売された日」とは、商品として市場に出された日をいうから、保護期間の終期は、控訴人加湿器3の販売が開始された平成27年1月5日から3年が経過した日であると主張する。
しかしながら、上記「最初に販売された日」は、規定の趣旨からみて、実際に商品として販売された場合のみならず、見本市に出す等の宣伝広告活動を開始した時を含むことは、立法者意思から明らかであるから、商品の販売が可能となった状態が外見的に明らかとなった時をも含むと解するのが相当である。」
商品形態の模倣行為の適用除外
他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する場合であっても、他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者については、譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることについて善意・無重過失である場合は、その商品を譲渡等しても、差止請求等の対象にはなりません(不競法19条1項5号ロ)。
自社の商品の形態を模倣されたときの対応
不競法2条1項3号の不正競争によって、営業上の利益を侵害され、またはそのおそれがある者(被侵害者)は以下のような対応をとることができます。
民事上の請求 | 差止請求権 | 被侵害者は、侵害の停止・予防の請求をすることができます(不競法3条1項)。 また、差止請求をするに際し、侵害の行為を構成した物や侵害の行為により生じた物の廃棄等、侵害の予防に必要な行為を請求することもできます(不競法3条2項)。 |
損害賠償請求権 | 被侵害者は、侵害者の故意・過失による不競法2条1項3号の不正競争によって、損害を被った場合には、損害賠償請求をすることができます(不競法4条)。 なお、被侵害者は、侵害者に対し、損害賠償請求をするに当たっては、損害賠償額の算定規定を活用することができます(不競法5条1項~3項)。 ※なお、2023年3月に閣議決定された「不正競争防止法等の一部を改正する法律案」では、損害賠償額の算定規定についても、その改正案が示されています。 | |
信用回復措置請求権 | 被侵害者は、故意・過失により不競法2条1項3号の不正競争を行って他人の営業上の信用を害した者に対し、営業上の信用を回復するために必要な措置を請求することができます(不競法14条)。 | |
行政上の対応(水際差止) | 不競法2条1項3号の不正競争を組成する物品は関税法上、輸出入してはいけない物品とされています(関税法69条の2第1項4号・69条の11第1項10号)。 このため、不競法2条1項3号の不正競争によって営業上の利益を侵害されるなどする者は、不競法2条1項3号の不正競争を組成する物品が輸出入されている場合、関税法上の手続を経ることで、これらの行為を水際で差し止めることができます。 | |
刑事罰 | 不正の利益を得る目的で不競法2条1項3号の不正競争を行った者には、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方が科せられます(不競法21条2項3号)。 このため、侵害者による不競法2条1項3号の不正競争により営業上の利益を侵害された者は、警察等に刑事告訴(刑事訴訟法230条)や被害相談等をすることができます。 |
意匠法との比較
不競法2条1項3号は、商品の形態、すなわち商品のデザインを保護するための規定ですが、商品のデザインを保護する法律としては、意匠法が代表的な法律ともいえます(これらのほか、商標法や著作権法、不競法2条1項1号・2号が、商品のデザインを保護するために活用されることもあります)。
そこで、意匠法と不競法2条1項3号とを比較すると、以下のように整理できます。
意匠法 | 不競法2条1項3号 | |
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保護対象 | 「意匠」=物品(部分を含む)の形状、模様・色彩もしくはこれらの結合(形状等)、建築物(部分を含む)の形状等または画像(機器の操作の用に供されるものまたは機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、部分を含む)であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの(意匠法2条1項) | 「商品の形態」=需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部および内部の形状ならびにその形状に結合した模様、色彩、光沢および質感(不競法2条4項) |
登録の要否 | 必要 | 不要 |
保護範囲 | 同一・類似の意匠の実施からの保護(意匠法23条) | 模倣(他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと)からの保護(不競法2条5項) |
保護期間 | 意匠出願日から25年(意匠法21条1項) | 日本国内で最初に販売された日から3年(不競法19条1項5号イ) |
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