【2024年4月施行】
事業者による合理的配慮の提供の義務化とは?
障害者差別解消法と具体的対応について
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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障害者差別解消法では、事業者の義務として、主に、不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供について規定しています。
このうち、事業者による合理的配慮の提供は、従前努力義務にとどまっていましたが、2024年4月1日から、事業者の法的義務とされることとなりました。
この記事では、障害者差別解消法の概要と2021年改正のポイントについてわかりやすく解説します。
※この記事は、2023年12月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 改正障害者差別解消法…2021年6⽉公布の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」による改正後の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
- 障害者差別解消法…2021年6⽉公布の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」による改正前の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
目次
障害者差別解消法とは
2021年5月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、障害者差別解消法が改正されました。同改正は、2024年4月1日から施行されることとされています。
本記事では、障害者差別解消法に馴染みのない方も多いと思いますので、まずは、障害者差別解消法の概要について解説したうえで、2021年改正の内容である「事業者による合理的配慮の提供の義務化」について詳細に解説します。
目的
障害者差別解消法の目的は、「障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」です(障害者差別解消法1条)。
この目的の達成のために、障害者差別解消法では、
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項
- 行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置
等について規定しています。
本記事では、このうち、「事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置」の内容について見ていきます。
障害者とは
障害者差別解消法上、重要な概念である、「障害者」と「事業者」の定義について見ていきます。
まず、「障害者」とは、障害者差別解消法上、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」をいうと定義されています(障害者差別解消法2条1号)。「障害者」に当たるかは、状況等に応じて個別に判断されると考えられており、いわゆる障害者手帳の所持者には限られません。
事業者とは
次に、「事業者」とは、障害者差別解消法上、「商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)」をいうと定義されています(障害者差別解消法2条7号)。営利性や非営利性、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者を指すと考えられています。
不当な差別的取扱いの禁止とは
障害者差別解消法では、障害者に対する差別を解消するために、事業者との関係で、不当な差別的取扱いの禁止、合理的配慮の提供について規定しています。
まず、不当な差別的取扱いとは、事業者が、事業を行うに当たり、障害者に対し障害を理由に障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならないことをいいます(障害者差別解消法8条1項)。
具体的には、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否したり、場所・時間帯などの制限、障害者でない者に対しては付さない条件を付けるなどすることにより、障害者の権利利益を侵害する行為をいいます。
正当な理由は、障害者に対する取扱いが、客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと認められる場合に認められ、この判断は、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。
不当な差別的取扱いに当たるかの検討プロセスは、以下のとおりです。
内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進相談対応ケーススタディ集」2023年3月
合理的配慮の提供とは
次に、合理的配慮の提供とは、事業者が、事業を行うに当たり、障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときに、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮を行うことをいいます(障害者差別解消法8条2項)。
日常生活・社会生活において提供されている設備やサービス等で、障害のない人は簡単に利用できても、障害のある人にとっては利用が難しく、結果として障害のある人の活動などが制限されてしまう場合があります。このような場合に、障害のある人の活動などを制限しているバリアを取り除くために、事業者に対し、障害のある人に対する合理的配慮の提供を求めるのが本規定です。
合理的配慮の提供は、事業者にとってその実施に伴う負担が過重でないときに求められますが、過重な負担に当たるかは、以下の事情を考慮して検討すべきとされています。
- 事業への影響の程度
- 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
- 費用・負担の程度
- 事務・事業規模
- 財政・財務状況
- また、合理的配慮の提供とは、必要かつ合理的な配慮を行うことですが、必要かつ合理的な配慮とは、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、以下の3つの要件を満たすものをいいます。
① 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること
② 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること
③ 事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと
合理的配慮の提供が必要かについての検討プロセスは以下のとおりです。
内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進相談対応ケーススタディ集」2023年3月
2021年改正の内容(事業者による合理的配慮の提供の義務化)
【2021年6月公布】障害者差別解消法改正の内容
「合理的配慮の提供とは」に記載のとおり、障害者差別解消法では、事業者による合理的配慮の提供について規定していますが、2021年改正までは、事業者による合理的配慮の提供は、努力義務にとどまることとされていました。しかし、2021年改正により、事業者による合理的配慮の提供が事業者の法的義務とされることとなりました(改正障害者差別解消法8条2項)。
(改正前障害者差別解消法8条2項)
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
(改正障害者差別解消法8条2項)
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
必要な対応の具体例
例1|試験でのデジタル機器の使用
例えば、障害者から、ある試験を受ける際に筆記が困難なため、デジタル機器の使用を求める申出があったとします。この場合に、事業者が、デジタル機器の持込みを認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ることは、合理的配慮の提供義務に違反することになると考えられます。
このような場合、障害者から意思の表明を受けた事業者としては、前例がないことを理由に一律な対応をするのではなく、障害者と対話したうえで、他の受験者との不公正が生じないよう、事業者側でインターネットに接続できないパソコンを用意して対応することなどが考えられます。
例2|セミナー受講の座席確保
他にも、自由席での開催を予定しているセミナーにおいて、弱視の障害者からスクリーンや板書等がよく見える席でのセミナー受講を希望する申出があった場合に、事前の座席確保などの対応を検討せずに「特別扱いはできない」という理由で対応を断ることは、合理的配慮の提供義務に違反することになると考えられます。
このような場合、障害者から意思の表明を受けた事業者としては、「特別扱いはできない」と一律な対応をするのではなく、障害者と対話をしたうえで、例えば、スクリーン等を見やすい席を事前に確保して対応することなどが考えられます。
合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例
一方、障害者差別解消法上、合理的配慮の提供が求められる場合に当たらないため、合理的配慮の提供義務に違反しないと考えられる例としては、例えば、以下のような場合が考えられます。
店舗等での買物の付き添い・補助の例
店舗等において、混雑時に視覚障害のある者から店員に対し、店内を付き添って買物の補助を求められた場合に、混雑時のため付添いはできないが、店員が買物リストを書き留めて商品を準備することができる旨を提案すること。
「合理的配慮の提供とは」に記載のとおり、合理的配慮の提供が求められるのは、事業者にとって障害者から要求された対応の実施に伴う負担が過重でないときに限られるところ、この事案では、店舗が混雑しているため、障害者から申し出があった付添いでの買物の補助は過重な負担に当たると考えられます。
このような場合に、過重な負担に当たる買物の補助は断ったうえで、過重な負担とならない買物リストを書き留めて商品を準備するという代替策をとっても合理的配慮の提供義務に違反しないと考えられます。
飲食店における食事介助の例
飲食店において食事介助を求められた場合に、その飲食店は食事介助を事業の一環として行っていないことから、介助を断ること。
「合理的配慮の提供とは」に記載のとおり、必要かつ合理的な配慮といえるためには、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、①必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることが必要です。この飲食店では、本来の業務としても食事介助を行っていないことから、障害者に対して食事介助を断っても合理的配慮の提供義務に違反しないと考えられます。
罰則等
事業者が、合理的配慮の提供義務に違反した取扱いを繰り返しているときは、主務大臣は、報告要求、助言、指導、勧告をすることができるとされています(障害者差別解消法12条。不当な差別的取扱いを繰り返しているときも同様)。
そして、主務大臣から報告要求を受けたにもかかわらず、求められた報告をせず、または虚偽の報告をしたときは、20万円以下の罰金に処せられます(障害者差別解消法26条)。
対応指針
例えば、経済産業省が定める「経済産業省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」では、以下のように記載されています。
事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、経済産業大臣は、特に必要があると認められるときは、法第 12 条の規定により、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
経済産業省「経済産業省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」
なお、経済産業省が定める「対応指針」は、経済産業省が所管する事業分野における対応指針となっていますが、他の省庁も当該省庁が所管する事業分野における対応指針を定めています。
事業者が検討すべき対応
以上、合理的配慮の提供の内容や2021年改正による事業者による合理的配慮の提供の義務化について見てきました。
以下では、事業者は社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の提供を的確に行うために必要な環境の整備に努めなければならないとされていることを踏まえ(障害者差別解消法5条)、事業者において、検討することが望ましい対応(環境の整備)について簡単に見ていきます。
環境の整備とは
合理的配慮の提供は、特定の障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、個別の状況に応じて講じられる措置をいいますが、環境の整備とは、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮の提供が的確に行われるために、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置のことをいいます。
合理的配慮の提供は、既に講じられている環境の整備を基礎として行われることになるため、講じられている環境の整備の状況により、実施されることとなる合理的配慮の内容も異なることになります。このため、的確な合理的配慮の提供を行うために、(障害者差別解消法上は、努力義務にとどまるものの、)必要な環境の整備を行うことも重要なポイントとなります。
具体的内容
環境の整備の具体的な内容を列挙すると、例えば、以下が挙げられます。
- 環境の整備の具体例
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① 施設・設備のバリアフリー化
② 情報・ウェブアクセシビリティの向上
③ 介助者等の人的支援
④ マニュアルの見直し
⑤ 社内研修・啓発
⑥ 相談窓口の整備
合理的配慮の提供と環境の整備の関係については、例えば、以下の例を挙げることができます。
障害者から申込書類への代筆を求められた場合に円滑に対応できるよう、あらかじめ申込手続における適切な代筆の仕方について店員研修を行う(環境の整備)とともに、障害者から代筆を求められた場合には、研修内容を踏まえ、本人の意向を確認しながら店員が代筆する(合理的配慮の提供)
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参考文献
内閣府リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」
内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進相談対応ケーススタディ集」(2023年3月)