発明とは?
定義・アイデアとの関係・具体例・実施など
特許法のルールを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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特許法における「発明」とは、一言で言うと、技術的なアイデアです。では、どのような発明(アイデア)であっても、特許を取得することができるのでしょうか? 「発明」が保護されるためには、特許法で定義された「発明」の要件を満たして、特許権を取得する必要があります。
また、特許法では、発明の「実施」について、発明を3つのカテゴリーに分けて定義しています。発明のカテゴリーによって、特許権者が専有するとされる発明の「実施をする権利」の範囲が異なります。
この記事では、「発明」について、定義、アイデアとの関係、具体例、実施など特許法のルールについて分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年9月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
発明とは
「発明」は、特許法において、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています(特許法2条1項)。この「発明」の要件を満たすものが、特許法の保護対象になります。
「発明」の定義は、一般的に、次の4つの要件に分節して理解することができます。
- 「発明」の定義
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① 自然法則の利用
② 技術的思想
③ 創作
④ 高度のもの
以下では、各要件について詳しく説明します。
①自然法則の利用
発明は、「自然法則」を「利用」している必要があります。ここで、「自然法則」とは、自然界において経験的に見出される科学的な法則をいいます。自然法則を利用していないものは、技術水準の向上を通じて産業発達を図る旨の特許法の制度趣旨に沿わないからです。
- 「自然法則の利用」に該当しないものの例
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× 自然法則そのもの(例:エネルギー保存の法則、万有引力の法則など)
× 自然法則に反するアイデア(例:永久機関 ※エネルギー保存の法則に反している)
× 単なる事業のアイデア(例:15分以内に配達できなければ割引するフードデリバリーサービス)
× 人為的取決め(例:ゲームのルール)
発明のうち一部分で自然法則を利用していても、発明が全体として自然法則を利用していないと判断される場合は、自然法則を利用していないものになります。
したがって、以下のような発明は、自然法則を利用していないものと判断されます。
- 「全体として自然法則を利用していない」と判断される例
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× 原油が高価で飲料水が安価な地域から飲料水入りコンテナを船倉内に多数積載して出航し、飲料 水が高価で原油が安価な地域へ輸送し、コンテナの陸揚げ後船倉内に原油を積み込み、出航地へ帰航するようにしたコンテナ船の運航方法
(※自然法則を利用してコンテナ船を運航していても、発明全体としては自然法則を利用していない)× 遠隔地にいる対局者間で将棋を行う方法であって、自分の手番の際に自分の手をチャットシステムを用いて相手に伝達するステップと、対局者の手番の際に対局者の手をチャットシステムを用いて対局者から受け取るステップとを交互に繰り返すことを特徴とする方法
(※チャットシステムを用いているが、全体としては、自然法則を利用していない)
②技術的思想
発明は、「技術的思想」である必要があります。「技術」とは、一定の目的を達成する具体的手段のことをいい、実際に利用でき、知識として客観的に伝達できることを要します。
- 「技術的思想」に該当しないものの例
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× 個人の技能(例:フォークボールの投球方法)
× 情報の単なる提示(例:機械の操作方法のマニュアル)
× 単なる美的創作物(例:絵画、彫刻)
ただし、情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法等)に技術的特徴があるものは、「情報の単なる提示」には当たりません。
- 情報の提示に技術的特徴があるもの(「情報の単なる提示」に該当しないもの)の例
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〇 テレビ受像機用のテストチャート(※テストチャートそれ自体に技術的特徴がある)
〇 文字、数字、記号からなる情報を凸状に記録したプラスチックカード(※エンボス加工によりプラスチックカードに刻印された情報を型押しすることで転写することができ、情報の提示手段に技術的特徴がある)
③創作
発明は、人為的に作り出された「創作」である必要があります。
- 「創作」に該当しないものの例
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× 天然物、自然現象の単なる発見(例:鉱石の発見、エックス線の発見)
ただし、天然物から人為的に単離した化学物質、微生物等は、人為的に作り出されたものであるため、「創作」に当たります。
また、すでに知られたものであっても、それがもつある性質が別の新たな用途へ利用できることを見出した場合は、「創作」に該当します。このような新たな用途に基づく発明を、「用途発明」といいます。
- 「用途発明」の例
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〇 「二日酔い防止用」という新たな用途への利用に基づく発明
④高度のもの
「高度のもの」は、実用新案法の保護対象である「考案」と区別するために設けられています。
「発明」に該当するか否かの判断に当たって、「高度」でないという理由で「発明」に該当しないとされることは、実務上はありません。
発明とアイデアの関係
上記のように、「発明」は特許法で定義(特許法2条1項)されており、特許法によって保護されるものです。発明を、簡単に一言で表すのなら、「技術的なアイデア」といってもよいでしょう。
一方、アイデアとは抽象的な概念であって、例えば、「〇〇を解決したい」、「〇〇ができる」のような漠然とした発想も含みます。あるアイデアについて特許を取得するためには、アイデアを具体的な装置などの構成にまで落とし込み、特許法上の「発明」の要件を満たす必要があります。
アイデアを思い付いたとしても、漠然とした発想だけでは、特許を取得することは難しいです。しかし、具体的な構成まで特定することができていれば、試作品などの実物がなくても、「発明」として特許出願することは可能です。
特許庁「知的財産権制度の概要」2023年知的財産権制度説明会(初心者向け)
特許を受けようとする「発明」についての記載
特許権を取得するためには、特許庁に対し、「特許出願」をし(特許法36条)、出願された発明が保護に値するかどうかの審査(特許法47条)にパスする必要があります。
特許出願の際は、申請書である願書(発明者、出願人の氏名、住所等を記載)に、明細書、特許請求の範囲、図面、要約書を添付します。
特許を受けようとする発明は、特許請求の範囲に記載します。特許請求の範囲は、「クレーム」とも呼ばれます。また、特許請求の範囲の各請求項を、「クレーム」と呼ぶこともあります。
特許請求の範囲は、特許権の権利範囲を確定する大変重要な部分です。発明のどんな点について特許を受けようとするのか、発明を特定するために必要と認める事項について記載します(特許法36条5項)。特許請求の範囲に記載されていない発明は、明細書に記載されていても権利範囲には含まれません。審査官は、特許請求の範囲に記載された発明について、特許要件(特許法29条など)を満たすか審査します。
発明の3つのカテゴリー
特許法では、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」(特許法68条)とされ、「実施」について、発明を以下の3つのカテゴリーに分けて定義しています(特許法2条3項)。
- 物の発明
- 方法の発明
- 物を生産する方法の発明
カテゴリーによって、どのような行為が発明の「実施」に該当するかが異なります。したがって、発明がどのカテゴリーに区分されるかで、特許権者が専有する発明の「実施をする権利」の範囲が異なってきます。
物の発明
「物の発明」とは、物の形式で技術的思想を具体化したものをいいます。なお、プログラムは、情報という無体物ですが、「物」の発明として取り扱われます(特許法2条3項1号・4項)。
「物の発明」の例 | |
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✅ 機械、装置、化学物質、部品、容器など ✅ コンピュータ・プログラムなど(ただし、ソフトウェアに関する発明を「手順」〔時系列につながった一連の処理または操作〕として表現できる場合は、その「手順」を特定することにより「方法の発明」として記載することもできます) | |
産業用ロボット(特許第4888582号) | ソフトウェア(特許第4153220号) |
方法の発明
「方法の発明」とは、時間的な流れに従って、複数の行為等が組み合わされることによって、技術的思想が実現されたものをいいます。
「方法の発明」の例 | |
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✅ 操作方法、制御方法、表示方法、伝送方法、変換方法など | |
製本方法(特許第5743362号) | 洗浄方法(特許第3141287号) |
物を生産する方法の発明
「物を生産する方法の発明」とは、時間的な流れに従って、複数の行為等が組み合わされることによって、技術的思想が実現されたものである点で「方法の発明」と同じですが、さらに、その方法を用いた結果として一定の成果物が得られるものをいいます。
「物を生産する方法の発明」の例 | |
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✅ 医薬品や化学物質を製造する方法、半導体の製造プロセスなど | |
冷菓の製造方法(特許第1537351号) | 造形方法(特許第5470635号) |
発明の実施とは
上記の「発明の3つのカテゴリー」で説明したように、「実施」の概念によって、特許権者が行うことができる独占的な行為の範囲が定められます(特許法2条3項各号)。
カテゴリー | 「実施」の内容 |
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物の発明(1号) | その物の生産、使用、譲渡および貸渡し、輸出、輸入、譲渡等の申し出 プログラム等の発明の場合は、電気通信回線(インターネットなど)を通じた提供も含む |
方法の発明(2号) | 方法の使用 |
物を生産する方法の発明(3号) | 方法の使用、その方法によって得られたもの(生産物)の使用、譲渡および貸渡し、輸出、輸入、譲渡等の申し出 |
「方法の発明」も「物を生産する方法の発明」も、経時的な要素の組み合わせからなる「方法」の形式で技術的思想が具体化されている点では共通しています。
しかし、「方法の発明」は、「その方法の使用をする行為」のみが「実施」とされており(特許法2条3項2号)、「方法の発明」の形式で記載されている特許権については、その方法の使用をする行為にしか、権利が及びません。
一方、「物を生産する方法の発明」は、「その方法を使用する行為」に加えて、「その方法によって得られた生産物の使用、譲渡等、輸出、輸入、譲渡等の申し出をする行為」も「実施」とされている(特許法2条3項3号)ため、「物を生産する方法の発明」の形式で記載されている特許権については、「方法の発明」の場合よりも、広い範囲で権利を行使することができます。
さらに、「物を生産する方法の発明」については、「物を生産する方法の発明について特許がされている場合において、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する」(特許法104条)という規定により、特許権者による生産方法の立証の負担が軽減されています。
このように、「方法の発明」と「物を生産する方法の発明」とでは、特許権の権利行使の場面において、大きな違いがあります。
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参考文献
特許庁「知的財産権制度の概要」2023年知的財産権制度説明会(初心者向け)
特許庁「コンピュータソフトウエア関連技術の審査基準等について」
日本弁理士会「ヒット商品はこうして生まれた![改訂版]」日本弁理士会、2019年