意思表示とは?
民法のルール・具体例・無効となる場合・
取り消せる場合などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「意思表示」とは、一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に対して表示する行為です。契約の締結や解除、取り消しや追認、相殺などについて意思表示が行われます。
意思表示は、相手方に到達した時点で効力が発生します。例えば契約については、当事者の意思表示が合致した時点で成立し、それ以降は原則として、相手方の承諾なく契約を終了させることはできません。
ただし、一定の場合には意思表示が無効となり、または取り消すことができます。契約等の効力が予期せず覆されることがないように、意思表示の無効事由や取消事由が存在しないことを確認しましょう。
この記事では意思表示について、具体例・無効となる場合・取り消せる場合などを解説します。
※この記事は、2024年2月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 特定商取引法…特定商取引に関する法律
目次
意思表示とは
「意思表示」とは、一定の法律効果の発生を欲する意思を外部に対して表示する行為です。
意思表示の要素|効果意思と表示行為
意思表示には、「効果意思」と「表示行為」という2つの要素があると解されています。
- 意思表示の要素
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① 効果意思
法律効果の発生を欲する内心の意思です。
(例)「不動産Xを買いたい」という内心の意思② 表示行為
効果意思を具体的な形にして表示する行為です。
(例)実際に不動産Xの購入を申し込む行為
効果意思と表示行為が異なっている場合は、心裡留保・虚偽表示・錯誤などが問題となります(後述)。
意思表示による法律行為の種類|単独行為・契約・合同行為
意思表示によって成立する法律行為には、「単独行為」「契約」「合同行為」の3種類があります。
- 意思表示によって成立する法律行為の種類
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① 単独行為
単独の意思表示によって法律効果を発生させる行為です。
(例)遺言、契約の解除・取り消し・追認、相殺など② 契約
当事者の相対する意思表示の合致によって法律効果を発生させる行為です。
(例)売買、賃貸借、請負、雇用、委任など③ 合同行為
当事者の同一方向の意思表示が集合することによって法律効果を発生させる行為です。
(例)会社の設立など
意思表示の方法
意思表示は原則として、相手方に対して通知する方法によって行う必要があります(民法97条)。
ただし例外的に、表意者が相手方を誰だか知ることができず、またはその所在を知ることができないときは、公示送達によって意思表示を行うことが認められています(民法98条)。
公示送達は原則として、裁判所の掲示場に掲示し、その掲示があったことを官報に掲載する方法で行われます。ただし、裁判所が相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所・区役所・町村役場またはこれらに準ずる施設の掲示場への掲示を命ずることができます。
意思表示の効力発生時期
意思表示の効力は、通知が相手方に到達した時からその効力が生じます(民法97条1項)。
ただし、相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます(同条2項)。
なお、公示送達による意思表示は原則として、最後に官報に掲載した日またはその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなされます(民法98条3項)。
意思表示の例
意思表示は、契約の締結や解除、取り消しや追認、相殺などについて行われます。
契約締結の意思表示
契約は、当事者双方の「申込み」と「承諾」の意思表示が合致した際に成立します(民法522条1項)。
① 申込み
契約の内容を示して、その締結を申し入れる意思表示です。
② 承諾
申込みによって示された内容による契約の締結を承諾する意思表示です。
申込みと承諾の方法には原則として制限がなく、口頭でも契約は成立します(同条2項)。ただし、契約内容を明確化する観点から、合意内容をまとめた契約書を作成することが望ましいでしょう。
契約解除の意思表示
契約または法律の規定によって契約を解除する際には、相手方に対して解除の意思表示を行う必要があります(民法540条1項)。
解除の意思表示についても方法に制限はなく、口頭で契約を解除することもできます。ただし、解除の事実および時期を明確化する観点から、内容証明郵便など証拠が残る方法で解除通知を発するのが一般的です。
取り消し・追認の意思表示
契約の取り消しまたは追認の意思表示も、相手方に対する意思表示によって行うものとされています(民法123条)。
契約を取り消すと、その契約は当初に遡って無効であったものとみなされます(民法121条)。一方、契約を追認すると、その契約を取り消すことはできなくなります(民法122条)。
契約の取り消しまたは追認の意思表示についても、契約解除の意思表示と同様に、内容証明郵便など証拠が残る方法で行うことが望ましいです。
相殺の意思表示
相殺とは、双方とも弁済期にある同種の債務を互いに打ち消し合って免れる法律行為です。
相殺も、相手方に対する意思表示によって行うものとされています。相殺の意思表示には、条件または期限を付することができません(民法506条1項)。
相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時(=双方ともに弁済期が到来した時)に遡って効力を生じます(同条2項)。
相殺の意思表示についても、内容証明郵便など証拠が残る方法で行うのがよいでしょう。
意思表示が無効となるケース
意思表示が無効である場合には、その意思表示に従った法律効果は発生しません。
一例として、以下のいずれかに該当する場合には、意思表示が無効となります。
① 当事者が意思能力を有しなかったとき
② 意思表示の内容が公序良俗に反するとき
③ 心裡留保について、相手方が悪意または有過失のとき
④ 虚偽表示であるとき
⑤ 不法条件・不能条件・随意条件が付されたとき
当事者が意思能力を有しなかったとき
「意思能力」とは、法律上有効な意思表示をする能力をいいます。
意思能力を有するか否かは、自分自身の行為の結果を判断し得る精神状態・精神能力があるか否かによって判断されます。例えば、重度の認知症に罹った人などは、意思能力がないと判断される可能性が高いです。
意思能力がない状態でなされた法律行為は無効です(民法3条の2)。したがって、意思能力がない人が単独で契約を締結することはできません。
意思能力がない人が契約を締結する際には、成年後見人等が代理で意思表示をする必要があります。
意思表示の内容が公序良俗に反するとき
「公序良俗」とは、「公の秩序」と「善良の風俗」をまとめた総称(略称)です。社会的妥当性を指す表現として用いられています。
公序良俗に反する法律行為は無効です(民法90条)。一例として、以下のような法律行為は公序良俗違反によって無効となります。
- 公序良俗違反となる行為
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① 暴利行為(高利貸しなど)
② 一方の当事者にとってあまりにも不利益な内容の契約
③ 愛人契約(妾契約)
④ 差別的な内容の契約
⑤ 自由を極度に制限する契約
⑥ 犯罪を内容とする契約
⑦ 取締規定に違反する契約
心裡留保について、相手方が悪意または有過失のとき
「心裡留保」とは、真意とは異なる内容の意思表示であって、本人がそれを自覚しているものをいいます。例えば、買うつもりがないのに冗談で「買います」と言う場合などが心裡留保の典型例です。
心裡留保に当たる意思表示は原則として有効ですが、相手方が心裡留保であることを知ることができたときは、例外的に無効となります(民法93条1項但し書き)。
ただし、心裡留保による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗できません(同条2項)。
虚偽表示であるとき
「虚偽表示」とは、相手方と通謀してした真意ではない意思表示をいいます。例えば差押えを免れる目的で、不動産の譲渡を仮装するために登記名義を他人へ移すようなケースが虚偽表示の典型例です。
虚偽表示に当たる意思表示は、当事者間において無効です(民法94条1項)。ただし、虚偽表示による意思表示の無効も、善意の第三者には対抗できません(同条2項)。
不法条件・不能条件・随意条件が付されたとき
意思表示には原則として、停止条件または解除条件を付すこともできます(ただし相殺のように、条件を付すことが認められていない意思表示もあります)。
停止条件:その条件が成就した場合に、契約等の効力を発生させるもの
解除条件:その条件が成就した場合に、契約等の効力を失わせるもの
ただし、意思表示に付された条件が「不法条件」「不能条件」「随意条件」のいずれかに該当する場合、その意思表示は無効です。
① 不法条件(民法132条)
違法な行為をすること、またはしないことを条件とする意思表示は無効となります。
(例)Aを殴ってけがをさせたら10万円を贈与する
② 不能条件(民法133条)
絶対に成就しない停止条件が付された意思表示は無効となります。
(例)亡くなったBを生き返らせたら1000万円を贈与する
③ 随意条件(民法134条)
単に債務者の意思のみに係る停止条件が付された意思表示は無効となります。
(例)私の気が向いたら100万円を贈与する
意思表示を取り消せるケース
意思表示が当初から無効でなくとも、後から意思表示を取り消すことができるケースもあります。取り消された意思表示は、当初に遡って無効であったものとみなされます。
一例として、以下のいずれかに該当する場合には意思表示を取り消すことが可能です。
① 錯誤によるとき
② 詐欺によるとき
③ 強迫によるとき
④ 事業者の消費者に対する不適切な勧誘が行われたとき
錯誤によるとき|2020年施行の民法改正で変更
「錯誤」とは、表意者の真意とは異なる意思表示であって、表意者がその齟齬を自覚していないものをいいます。
錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、表意者はその意思表示を取り消すことができます(民法95条1項)。ただし、動機に関する錯誤を理由に意思表示を取り消すには、その動機が相手方に表示されていなければなりません(同条2項)。
また、錯誤が表意者の重大な過失によるときは、以下のいずれかに該当する場合を除き、錯誤による取り消しが認められません(同条3項)
(a) 相手方が表意者の錯誤を知り、または重大な過失によって知らなかったとき
(b) 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
錯誤による意思表示は、2020年3月以前に適用されていた改正前の民法では無効とされていました。
しかし、判例によって錯誤無効の効果が取り消しに等しいものと解釈されていたため、2020年4月から施行された改正民法によって取り消しに改められました。
詐欺によるとき
「詐欺」とは、人を騙して錯誤に陥らせる行為をいいます。詐欺により錯誤に陥った状態で行った意思表示は、表意者が取り消すことができます(民法96条1項)。
ただし、詐欺による意思表示の取り消しは、善意かつ過失がない第三者に対抗できません(同条3項)。
また、詐欺をしたのが第三者である場合、詐欺による意思表示の取り消しが認められるのは、相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができたときに限られます(同条2項)。
強迫によるとき
「強迫」とは、人を畏怖させて意思表示をさせる行為をいいます。強迫により畏怖した状態で行った意思表示は、表意者が取り消すことができます(民法96条1項)。
詐欺とは異なり、強迫による意思表示の取り消しは、常に第三者に対抗できます。
事業者の消費者に対する不適切な勧誘が行われたとき
事業者が消費者に対して不適切な勧誘を行い、それに応じて消費者が行った意思表示は、消費者契約法や特定商取引法に基づいて取り消せる場合があります。
一例として、以下の場合には消費者契約を締結する意思表示の取り消しが認められます。
- 重要事項について事実と異なることを告げた場合(不実告知)
- 将来における変動が不確実な事項について、確実であると告げた場合(断定的判断の提供)
- 消費者の不利益となる重要な事実を故意に告げなかった場合(不利益事実の不告知)
- 消費者が退去を求めたにもかかわらず、居座り続けた場合(不退去)
- 退去しようとする消費者を妨害した場合(退去妨害)
- 消費者の不安をあおるような勧誘をした場合
- 消費者の恋愛感情等につけ込んで勧誘をした場合(デート商法)
- 加齢等によって判断能力が低下した消費者に対し、生活の維持に関する不安をあおるような勧誘をした場合
- 霊感等の特別な能力を根拠に、不安をあおるような勧誘をした場合(霊感商法)
- 契約締結前にサービスを提供し、原状回復を困難にさせた場合
- 契約締結前にサービスを提供し、正当な理由がないのに、契約を締結しなければ損失補償を請求する旨を告げた場合
- 消費者にとって必要な量を著しく超えていることを知りながら勧誘した場合(過量契約)
消費者契約法と特定商取引法の詳細については、以下の記事を併せてご参照ください。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ [法務必携!]ポケット契約用語集~基本編~ |